中野京子の「花つむひとの部屋」

本と映画と音楽と。絵画の中の歴史と。

「ブロークバックマウンテン」が描くホモ・フォビアの衝撃

2006年04月07日 | 映画
 アメリカ西部のカウボーイどうしが、1960年代から20年間にわたって秘めた恋を貫いたという、異種恋愛映画。

 同性どうしの恋愛を絶対に許さないとする、ホモ・フォビアの存在が日本人の目から見ると衝撃的だ。この時代でリンチして殺害にまで至るのだ。しかもごくふつうの生活者がーー

 フォビア(phobia)という言葉は「嫌悪症」というより「恐怖症」に近い。眉をひそめる程度では我慢できず、叩き潰して抹殺しないと安心できないという次第。

  ホモセクシュアルに対して異常なまでに反応する人間の無意識裡に、本人も気づかない同性愛嗜好を見るという立場も、必ずしも荒唐無稽ではないだろう。人は時として、自分と似たものを許しがたく感じるものだから。

 パンフレットを読むと、主演のふたりはインタビューで「(ホモ役を演じるのは)勇気がありますね」と妙な誉め方をされたり、「ご自身はどうですか」と質問されたりして、これではおちおちカミングアウトもできやしない。

 映画のラストに出てくるクローゼットの扱いが、さりげなくて良かった。

 ついでながら「クローゼットの認識論」(イヴ・コゾフスキー・セジウィック)はお勧め。「同性愛を異質化し、周縁へと追いやる異性愛主義は、十九世紀末に始まったものにすぎない」との観点から、広く論じていて読み応えある。


☆新著「怖い絵」(朝日出版社)
☆☆アマゾンの読者評で、この本のグリューネヴァルトの章を読んで「泣いてしまいました」というのがありました。著者としては嬉しいことです♪

怖い絵
怖い絵
posted with amazlet on 07.07.14
中野京子 朝日出版社 (2007/07/18)


①ドガ「エトワール、または舞台の踊り子」
②ティントレット「受胎告知」
③ムンク「思春期」
④クノップフ「見捨てられた街」
⑤ブロンツィーノ「愛の寓意」
⑥ブリューゲル「絞首台の上のかささぎ」
⑦ルドン「キュクロプス」
⑧ボッティチェリ「ナスタジオ・デリ・オネスティの物語」
⑨ゴヤ「我が子を喰らうサトゥルヌス」
⑩アルテミジア・ジェンティレスキ「ホロフェルネスの首を斬るユーディト」
⑪ホルバイン「ヘンリー8世像」
⑫ベーコン「ベラスケス<教皇インノケンティウス10世像>による習作」
⑬ホガース「グラハム家の子どもたち」
⑭ダヴィッド「マリー・アントワネット最後の肖像」
⑮グリューネヴァルト「イーゼンハイムの祭壇画」
⑯ジョルジョーネ「老婆の肖像」
⑰レーピン「イワン雷帝とその息子」
⑱コレッジョ「ガニュメデスの誘拐」
⑲ジェリコー「メデュース号の筏」
⑳ラ・トゥール「いかさま師」

☆ツヴァイク『マリー・アントワネット』、なかなか重版分が書店に入らずご迷惑をおかけしました。今週からは大丈夫のはずです。「ベルばら」アントワネットの帯がかわゆいですよ♪
☆☆画像をクリックすると、アマゾンへ飛べます。

マリー・アントワネット 上 (1) マリー・アントワネット 下 (3)
「マリー・アントワネット」(上)(下)
 シュテファン・ツヴァイク
 中野京子=訳
 定価 上下各590円(税込620円)
 角川文庫より1月17日発売
 ISBN(上)978-4-04-208207-1 (下)978-4-04-208708-8


 







コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする