中野京子の「花つむひとの部屋」

本と映画と音楽と。絵画の中の歴史と。

「ヴォーグ5月号」とウルビーノのヴィーナス

2008年03月29日 | 音楽&美術
 いま発売中のファッション誌「ヴォーグ(Vogue Nippon)」5月号に、エッセーを書きましたのでお読みください!
 
 105ページにわたしの紹介が、417ページにエッセー「いつだって、どこだって、世界は白肌に恋してきた」があります。
 このステキなタイトルは、担当編集者の「Ms.プラダを着た悪魔」(?!)がつけてくれました♪

 内容は、ルネサンスから19世紀に至る、女性の白肌願望を名画と映画からひもといたものです。

 絵は「ウルビーノのヴィーナス」(ティツィアーノ)、「貴婦人像」(ヴァン・ダイク)、「皇妃ジョゼフィーヌ」(プリュードン)の3点。
 映画は「エリザベス」(カプール)と「バリー・リンドン」(キューブリック)です。

 ちょうど今、上野に「ウルビーノのヴィーナス」が来ています。ヴェネチアの幸せな画家ティツィアーノらしい、実にのびやかな筆と明るい色づかいが楽しめます。満ち足りた人生、健康な心身、長命、生前も死後も揺るぎない名声、富・・・ルーベンスと同じで、そういう人の絵は好き嫌いを越えた幸福感を見る者に与えてくれますね。

 ゴヤは常々、自分も「ティツィアーノみたいに100歳まで生きるんだ」と言っていました。ところが実際はティツィアーノは年齢をごまかしていたみたい。それも若くではなく、年を多めに。

 パトロンだったフェリペ2世に、「もう95歳の高齢になったので、年金は息子に委譲させていただきたい」と手紙を書いているのだが、どうもこの段階で15歳ほどサバを読み、ほんとうは80歳だったのではないかと言われている。そういうところも何となくおかしい。

 ただし死因は老衰ではなく、当時猛威をふるったベスト(ヴェネチアの人口の6分の1にあたる5万人を殺した)だった。99歳だったと思われる。


☆『怖い絵』、6刷になりました♪
☆☆パート2の発売も近づいています♪

怖い絵
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中野京子 朝日出版社 (2007/07/18)


☆マリーもお忘れなく!(ツヴァイク「マリー・アントワネット」(角川文庫、中野京子訳)

マリー・アントワネット 上 (1) マリー・アントワネット 下 (3)
     












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マニアの選ぶ歴史美男

2008年03月25日 | 雑記
 朝日新聞ブログ「ベルばらkidsぷらざ」で連載中の「世界史レッスン」第105回目の今日は、「ついに世継ぎを残せず」⇒ http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2008/03/post_e05d.html
 イギリスのウィリアム4世の妻アデレードについてのエピソードを書きました。

 でも今日は別のトピック。

 この「花つむ」にもときどきコメントをくださるレーヌスさんのブログで、楽しい投票がありまして(わたしも1票投じました)、その結果がでました。

 3種あって、まず歴史上もっとも美人は?
 これは意外にも(?)1位がマリア・テレジアでした。

 次は歴史美男。
 圧倒的多数でアウグストゥスが選ばれています。

 笑ってしまうのは「根拠なく美形化される歴史的人物」選び。
 1位の源義経は納得できますが、なんとなんと、8位に小泉純一郎元首相の名が・・・これって、あまりといえばあまりでは・・・「美形」かどうかの問題より、も「歴史的人物」っていうのが・・・

 というように、かなり偏った、したがってものすごく面白いランキングですので、是非ごらんください。⇒ http://blog.goo.ne.jp/breisgau/e/6f1d394dbaffa9f659825e15793af605

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☆マリーもお忘れなく!(ツヴァイク「マリー・アントワネット」(角川文庫、中野京子訳)

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人気ゼロのマリー・ルイーズ(世界史レッスン第104回)

2008年03月18日 | 朝日ベルばらkidsぷらざ
 朝日新聞ブログ「ベルばらkidsぷらざ」で連載中の「世界史レッスン」第104回目の今日は、「オーストリアの高貴な囚人」⇒ http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2008/03/post_d9fd.html#more
 先週のクイズの答えは、「ナポレオン2世」でした。できましたか?

 さて、歴史上数多ある王妃、皇妃、プリンセスたちの中で、「最大の美女」は誰かというアンケートが数年前ヨーロッパで行なわれたところ、ナンバーワンはやはりエリザベート皇后ということになりました。「悲劇の王妃」はといえば、これはもうアントワネットが断トツでしょう。不人気は・・・たぶんマリー・ルイーズでは?

 誇り高いハプスブルク皇帝の娘として生まれた彼女は、ナポレオンがジョゼフィーヌを離縁したと聞いたとき、「次に妃になる人はなんてお気の毒な」と言ったという。まさか自分に白羽の矢が立つとは、想像もしていなかったのだ。

 「コルシカ出身の貧乏貴族」で「成り上がり者」で、おまけに40歳の中年太りのナポレオン。ジョゼフィーヌを愛していながら、もう世継ぎが産めないので仕方なく別れたナポレオン。妃はただただその彼の息子を産むことだけが求められている。確かに「お気の毒」である。

 そんなナポレオンのもとへ、しかも自分の大叔母であるマリー・アントワネットをギロチンにかけた敵国フランスへ、18歳の身で嫁がなければならないマリー・ルイーズ。ふつうなら同情から人気が沸騰しそうなものだが、ついに誰からもそんな声が上がらないのは、不美人だったせいばかりではないだろう。

 この人のキーワードは「鈍感」なのかもしれないーーそう思わせるものが、全ての行動に出ているのだ(詳しくは別の機会に)。ツヴァイクも『マリー・アントワネット』でこう書いている、

 「そして再び時の砂時計は流れ落ち、血が血を浴び、革命は失政政府に呑み込まれ、ボナパルトが登場し、彼はすぐナポレオンと名乗り、次いで皇帝ナポレオンと名乗り、ハプスブルク家から別の大公女を連れ出して、新たな宿命の結婚へと導く。
 だが彼女マリー・ルイーズもまた、同じ血で結ばれているというのにーーわれわれには不可解なことだがーー鈍感な心情のせいなのか、自分の前に同じチュイルリーの同じ部屋で暮らして苦悩していた女性(アントワネット)が、今どこで苦々しい眠りを眠っているのか(墓所)、ただの一度も訊ねてみさえしない」
 

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エリザベートと華岡青洲の妻ーー嫁姑バトル(世界史レッスン第103回)

2008年03月11日 | 朝日ベルばらkidsぷらざ
 朝日新聞ブログ「ベルばらkidsぷらざ」で連載中の「世界史レッスン」第103回目の今日は、「エリザベートの鬼の姑」⇒ http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2008/03/post_6709.html
 フランツ・ヨーゼフの母ゾフィの若き日のエピソードについて書きました。今回はクイズもあるので、当ててくださいね!

 さて、嫁姑といえば、古来から敵同士と決まっているらしくて、古代ローマかどこかの古文書には、「姑が生きている限り、ああ、その限り、心の平和よ、さようなら」という歌があるそうだ。

 またマレーシアには、何と「姑殺しKill-your-mother-in-law-bird」という俗名の鳥がいて「チョップ、チョップ(首をちょっきんという意味)、ワハハハ」と啼くらしい。

 日本における嫁姑テーマの傑作は、有吉佐和子「華岡青洲の妻」であろう。ここに描かれた嫁姑バトルは、どちらが夫(=息子)の医学の実験台として有能か、命を賭けて争う壮絶なものだ。

 青洲は江戸時代に実在した外科医。日本で始めて全身麻酔の乳癌手術をしたことで知られる。

 物語は、彼が蘭学を究めに長崎へ行って留守のところから始まる。当時の名家のしきたりにそって、母親は自分のメガネにかなった娘を嫁に決め、主不在のまま同居する。ふたりは青洲が帰郷するまで、実の母娘より仲睦まじく暮らすのだ。

 ところが2年後、青洲がもどったその日から、関係はあっという間にほころびる。いや、もっと正確に言えば、これまでの関係の嘘が顕になる。つまり姑は嫁その人を可愛がっていたのではなかった。熱愛する自慢の息子について、いっしょに語り合う相手がほしかっただけなのだ、まるで不在の恋人の穴埋めのように。だから本人が登場した途端、嫁は蹴落とすべきライバルでしかなくなる。

 いやあ、恐ろしいですね、怖いですね。

 何度か映画化されており、67年度版(増村保造監督、新藤兼人脚本)が面白い。姑を演じた高峰秀子の美しさと、そしてまだ十分に残っている若さが、嫁を妬まずにおれない母(というより女)の地獄を、説得力あるものにしていた。必見。

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ホームレス中学生

2008年03月03日 | 
 先日、知人女性から、中学生のときの家出体験を聞いた。30年前の、それも地方の田舎町なので、見知らぬ人たちが皆とても親切だった由。

 それで思い出したが、年末に「ホームレス中学生」という本を読んだのだった。ベストセラー本はほとんど読まないのだけれど、これはかなり面白かった、というか、驚いた。

 キリンというお笑いの人気コンビがいて、その片方の実体験である。

 彼が中学2年の夏、学校から帰ると家が差し押さえにあって入れない。大学生の兄と高校生の姉の3人で茫然としていると、父親が遅くにもどってきて曰く、「これからは各々頑張って生きてください。解散!」。

 この「解散!」という言葉ひとつで本書は多くの読者を獲得したのでは、と思うほどの凄みだ。要するに遺棄である。

 母親はとうに亡くなっており、親戚づきあいもない。父親はお金をくれるでなく、そのまま後ろも見ずに消えてしまう。3人のきょうだいは放り出されてしまった。そして彼は兄姉と別れ、団地の児童公園で一ヵ月ホームレス生活をするようになる。そのサバイバル体験がこの本だ。

 なまじ日本が豊かなだけに、友人や教師に救いを求めることができないという彼の気持が痛いほど伝わるし、兄や姉に迷惑はかけたくない、との優しい心もいじらしい。必死に日々を生きるけれど、しかしまだ半分子どもだから、いろいろ頭もまわらない。

 胸に響いたのは、彼が一貫して父親への恨みを示していないこと。むしろあれこれ弁護してやっていること。

 子どもというのは、こんなにもこんなにも親を愛しているのだなあ・・・読んでいるこちらの方が、この父親の胸ぐらをつかんで「責任を果たせ!」と怒鳴りたくなってしまった。

☆今日の「世界史レッスン」は、「ジェシー・ジェイムスVSピンカートン社」⇒ http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2008/03/vs_66eb.html
 記事をアップするまでには映画「ジェシー・ジェイムスの暗殺」を見ておこうと思っていたのですが、忙しくて見ないまま上演終了となりそうです。DVDが出るまで待とう、ホトトギス。

☆☆いま書店に出ている「サンデー毎日3/9号)の123ページをごらんください。南伸坊さんが「怖い絵」の書評を書いてくださっています♪
 少しだけ抜粋するとーー「・・・これを知ってから見れば絵は、いままでと違う見え方をするし、面白がり方ができる。わたしはこの本を読んで、そうした新しいアングルをたくさん教えられた。こういう切り口で編集された絵の本というのは今までなかったのではないか。もっと読んでみたい」

☆「表紙からして怖すぎる『怖い絵』は、古今東西の呪われた名画とその慟哭の背景を紹介する恐怖の一冊」--これは年始の「週刊現代」で、桜庭一樹さんが書評してくださった文章の導入部です♪

怖い絵
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☆マリーもお忘れなく!(ツヴァイク「マリー・アントワネット」(角川文庫、中野京子訳)

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