朝日新聞ブログ「ベルばらkidsぷらざ」で連載中の「世界史レッスン」、第98回目の今日は「人間公衆トイレ?」⇒ http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2008/01/post_5a32.html#more
パリ・ロンドンの18,19世紀公衆トイレ状況について書きました。
でも今日は本の話。
「マリー・アントワネット」(角川文庫)ですばらしい解説(「物語の富の奪還」!!)を書いてくださった、菊池良生・明治大学教授による新刊「ハプスブルク帝国の情報メディア革命ーー近代郵便制度の誕生」(集英社新書)について。
この本を書くきっかけとなったというエピソードが面白いのだが、著者が数年前ヴィーンに長期滞在していたとき、(以下、引用)
「ヨーロッパは鍵社会だから、我々夫婦が借りていたアパートにも入り口に鍵がついていて、住人以外は勝手に入れない仕組みになっていた。おかげでセールスマンの応対に悩まされることは全くなかった。プライバシーはこんな風に保証されているのだ。
ところが、である。郵便配達人は受け持ち地域のすべてのアパートの入り口の鍵のマスターキーを持っていて、いつなんどきでも堂々とアパートの中に入ってこれるのだ。考えてみれば、これは莫大な特権を握っているようなものである。だからこそヴィーンの郵便配達人はアパートの住人のプライバシーを侵さないように、自分が配達する郵便の宛名を決して見ないのである。彼らが見るのはひたすら所、番地だけである。所、番地があれば宛名に関係なく何でもかんでも郵便受けに突っ込んでゆく」
かくして外国生活だというのに、著者のポストは常に満杯になったのだという。このあたりから俄然、ヨーロッパの郵便制度への興味がわいてきての研究成果がこの本へ結実した由。
「16世紀、神聖ローマ帝国マクシミリアン1世によって整備されたヨーロッパ郵便網は、ハプスブルク家の世界帝国志向がもたらした情報伝達メディアであった」
「ヨーロッパは郵便を駆使して最初の世界経済システムを築き上げてゆくことになる」
ハプスブルク家の郵便事業を請け負ったタクシス家なるものの存在を、この本で初めて知った。しかもこのタクシス・ファミリーは現在まで続く大富豪で、世界中に50以上もの企業を持ち、居住している城はバッキンガム宮殿より大きい!のだとか(ヨーロッパ貴族の凄さは、なかなか日本人にはぴんとこない)。
グーテンベルクの活版印刷の影響力についてはよく語られるが、伝達メディアである郵便制度もまた、社会を激変させたという意味では、まさしく現代のインターネットと同じであり、ヨーロッパを緊密にしたという意味からは、現・欧州共同体の源だったのだ。いろいろ勉強になって面白かった! 歴史好き、ハプスブルク家好きには必読の書です。
☆『怖い絵』、28日の産経新聞で「話題の本」として紹介されました♪
☆マリーもお忘れなく!(ツヴァイク「マリー・アントワネット」(角川文庫、中野京子訳)
パリ・ロンドンの18,19世紀公衆トイレ状況について書きました。
でも今日は本の話。
「マリー・アントワネット」(角川文庫)ですばらしい解説(「物語の富の奪還」!!)を書いてくださった、菊池良生・明治大学教授による新刊「ハプスブルク帝国の情報メディア革命ーー近代郵便制度の誕生」(集英社新書)について。
この本を書くきっかけとなったというエピソードが面白いのだが、著者が数年前ヴィーンに長期滞在していたとき、(以下、引用)
「ヨーロッパは鍵社会だから、我々夫婦が借りていたアパートにも入り口に鍵がついていて、住人以外は勝手に入れない仕組みになっていた。おかげでセールスマンの応対に悩まされることは全くなかった。プライバシーはこんな風に保証されているのだ。
ところが、である。郵便配達人は受け持ち地域のすべてのアパートの入り口の鍵のマスターキーを持っていて、いつなんどきでも堂々とアパートの中に入ってこれるのだ。考えてみれば、これは莫大な特権を握っているようなものである。だからこそヴィーンの郵便配達人はアパートの住人のプライバシーを侵さないように、自分が配達する郵便の宛名を決して見ないのである。彼らが見るのはひたすら所、番地だけである。所、番地があれば宛名に関係なく何でもかんでも郵便受けに突っ込んでゆく」
かくして外国生活だというのに、著者のポストは常に満杯になったのだという。このあたりから俄然、ヨーロッパの郵便制度への興味がわいてきての研究成果がこの本へ結実した由。
「16世紀、神聖ローマ帝国マクシミリアン1世によって整備されたヨーロッパ郵便網は、ハプスブルク家の世界帝国志向がもたらした情報伝達メディアであった」
「ヨーロッパは郵便を駆使して最初の世界経済システムを築き上げてゆくことになる」
ハプスブルク家の郵便事業を請け負ったタクシス家なるものの存在を、この本で初めて知った。しかもこのタクシス・ファミリーは現在まで続く大富豪で、世界中に50以上もの企業を持ち、居住している城はバッキンガム宮殿より大きい!のだとか(ヨーロッパ貴族の凄さは、なかなか日本人にはぴんとこない)。
グーテンベルクの活版印刷の影響力についてはよく語られるが、伝達メディアである郵便制度もまた、社会を激変させたという意味では、まさしく現代のインターネットと同じであり、ヨーロッパを緊密にしたという意味からは、現・欧州共同体の源だったのだ。いろいろ勉強になって面白かった! 歴史好き、ハプスブルク家好きには必読の書です。
☆『怖い絵』、28日の産経新聞で「話題の本」として紹介されました♪
☆マリーもお忘れなく!(ツヴァイク「マリー・アントワネット」(角川文庫、中野京子訳)