中野京子の「花つむひとの部屋」

本と映画と音楽と。絵画の中の歴史と。

高畑勲さんインタビューin「母の友12月号」

2007年10月30日 | 紹介
 いま書店に出ている「母の友12月号」にはアニメーション映画監督の高畑勲さんのロングインタビューが載っており、これがとても示唆に富んでいて面白い。

 一部を紹介するとーー

 「(絵本「おしいれのぼうけん」のアニメ化を相談され)やらないほうがいい、と言いました。せっかく子どもが想像力を働かせて絵本を楽しんでいるのに、アニメにしてもいいことは何もないんじゃないか、と思った。「想像力の余地」というようなものが、非常に大きく子どもの気持ちを動かしているわけだから」

 「映画というのは舞台と違って、どんどん誘導してやって、作品のなかに没入させ、観客の鼻面をひきずり回すことができる。で、今や鼻面を引きずり回されたがっている観客がたくさんいて、作り手の方もそれを見事にやってのける人が中心となり、そういう傾向のものばかりになってしまっている」

 「(客観的な視点にたたせようとしないものばかりになった)結果、映画というものはべったり感情移入して見るものだと思い込んで、それができなくなったとたんにもう「引けちゃった」とか言う。(・・・)だけど少し引いて見ることも面白いはずなんです。考えたり想像力を働かせたり、将来の人生にとって役に立つことはむしろそちらの方が多いんですから」

 「昔話でも残酷なところのあるお話は、人生はままならない、偶然や運不運があって、いろいろな条件に支配されてしまうものだということを教えてくれると思うんです。今はそういう免疫を全く作ろうとせず、夢を抱いて突き進めば実現すると子どもに思わせています。でも、いろんな他人の挫折を本や何かで当然のように知っているほうがいいんですよ。何か甘いようなことを言っておいて、実は人生、苦かった、というんじゃたまらないでしょう」

 ーーけっきょく「想像力を働かせる余地」は、小さなころの絵本であり、長じての書物であるはずなのに、最近はほんとうに驚くほどそうしたものに接していない若者が多い。親から与えられていないのだ。

 以前も書いたが、学生たちがアンデルセンを知らないことに絶句してからもうずいぶんたつ。とうぜん日本の昔話も知らない、シンデレラも知らない。豊かな物語で想像力をはぐくんできていない。

 これだから他人を苛めたり、小さな挫折にすぐ絶望したり、殺したり自殺したりと、びっくりするほど短絡的な結論にゆきつくのかもしれないなあ・・・

☆今週の「世界史レッスン第86回」は、「もしこのふたりが結婚していたら」⇒
http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2007/10/post_e833.html#more
 実際に縁談話が持ち上がったことのある、エリザベス1世とイワン雷帝&フリードリヒ大王とマリア・テレジア&アン女王とジョージ1世について書きました。

☆「怖い絵」、4刷が決まりました!

☆日経新聞夕刊(10月17日)の井上章一氏による書評です♪
「人間の暗部や歴史の裏を描く」
 グリム童話は、いま子ども向きの読みものとなっている。しかし、もとはけっこう恐ろしい話を集めていた。とても子どもには読ませられないような、人間の暗部がえぐられた話を。
 実は、いわゆる泰西名画にも、暗い背景をもつものがけっこうある。むごい逸話をひめた作品が、いくつも描かれてきた。この本は、そんな絵を集めて、それぞれに解剖学的な絵解きをほどこした本である。
 まあ、ゴヤの「我が子を喰らうサトゥルヌス」なんかは、見るからにおそろしい。だが、その背後には、もっとむごい歴史がある。ドガの「踊り子」あたりは、きれいな絵だなと思われようか。しかしそこには、いやらしい社会史も、描きだされている。いや、いやらしさという点なら、ジェンティレスキの「ユーディト」も負けてはいない。
 色や形、あるいは絵柄だけを見ていても、なかなかこうは読み解けないだろう。歴史の裏に通じているからこそ、こういう秘話をほりおこせるのだと思う。
 文章もよくねれており、たいへん読みやすく書かれている。美術愛好家のみならず、歴史好きにはひろく一読をすすめたい。星5つ)

怖い絵
怖い絵
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中野京子 朝日出版社 (2007/07/18)


☆マリーもお忘れなく!(ツヴァイク「マリー・アントワネット」(角川文庫、中野京子訳)

マリー・アントワネット 上 (1) マリー・アントワネット 下 (3)
     

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家康の観相学(世界史レッスン第85回)

2007年10月23日 | 朝日ベルばらkidsぷらざ
朝日新聞ブログ「ベルばらkidsぷらざ」で連載中の「世界史レッスン」第85回目の今日は、「醜貌を親に疎まれて」⇒ http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2007/10/post_d23c.html#more
 家康の子に生まれながら追放された忠輝と、フランス人でありながらオーストリアの猛将となったオイゲン公、ともに醜貌だったふたりの運命の明暗について書きました。

 家康は観相学を信じていたとの説があり、忠輝を極端に嫌ったのも、単に醜かったからというより、自分に害をなす悪相と思い込み、嫌悪感を募らせたのかもしれない。

 それに周りでいろいろ言う者もあったのだろう。(江戸時代の国学者、平田篤胤も、占い師から「兄弟を殺し、家を奪う相」などと言われ、親から疎まれている)

 忠輝については松本清張の好短編『湖畔の人』がある。
 初老の主人公である新聞記者が諏訪へ左遷され、そこに骨を埋めている忠輝について調べてゆくという物語だ。知れば知るほど、互いによく似ていると思い知らされる辛さ・・・(「生まれながらにして、人の愛を得ることが出来ないという自覚ほど寂びゅうはない」)

 読者はつい、この主人公と書き手の清張氏とを重ねて読まずにいられない。
 とはいえラストには、一種の悟りのようなものが感じられて救われる。

☆「怖い絵」、4刷が決まりました!

☆日経新聞夕刊(10月17日)の井上章一氏による書評です♪
「人間の暗部や歴史の裏を描く」
 グリム童話は、いま子ども向きの読みものとなっている。しかし、もとはけっこう恐ろしい話を集めていた。とても子どもには読ませられないような、人間の暗部がえぐられた話を。
 実は、いわゆる泰西名画にも、暗い背景をもつものがけっこうある。むごい逸話をひめた作品が、いくつも描かれてきた。この本は、そんな絵を集めて、それぞれに解剖学的な絵解きをほどこした本である。
 まあ、ゴヤの「我が子を喰らうサトゥルヌス」なんかは、見るからにおそろしい。だが、その背後には、もっとむごい歴史がある。ドガの「踊り子」あたりは、きれいな絵だなと思われようか。しかしそこには、いやらしい社会史も、描きだされている。いや、いやらしさという点なら、ジェンティレスキの「ユーディト」も負けてはいない。
 色や形、あるいは絵柄だけを見ていても、なかなかこうは読み解けないだろう。歴史の裏に通じているからこそ、こういう秘話をほりおこせるのだと思う。
 文章もよくねれており、たいへん読みやすく書かれている。美術愛好家のみならず、歴史好きにはひろく一読をすすめたい。星5つ)

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☆マリーもお忘れなく!(ツヴァイク「マリー・アントワネット」(角川文庫、中野京子訳)

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カリブの海賊と女ガンマン(世界史レッスン第84回)

2007年10月16日 | 朝日ベルばらkidsぷらざ
 朝日新聞ブログ「ベルばらkidsぷらざ」で連載中の「世界史レッスン」第84回目の今日は、「パイレーツ・オブ・カリビアンーー女性版」⇒ http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2007/10/post_79cd.html
 カリブの海賊だったふたりの女性、アン・ボニーとメアリ・リードについて書きました。

 彼女たちが「伝説の女海賊」と呼ばれるようになったのは、皮肉にも逮捕されたからであり、しかもそのとき妊娠していたからだ! そうでなければ女性ということがわからないまま、歴史に埋もれてしまっていただろう。

 ということは、あんがい海賊船には男装の女性が多くいたかもしれない。船長にだってなっていたかもしれない(そう考えたらちょっと楽しい)。

 時代は150年ほど後になるが、男の世界だったアメリカ西部においてさえ、有名な女ガンマンがけっこういた。

 「女青髭」と異名をとった(夫を5人も殺している)博労サリー・スカル(彼女についてはいつか世界史レッスンで取り上げたい)、夫の処刑を阻止するため武装団を率いたマリア・スレード、家畜泥棒団の頭領ベル・スター、そして「スペードのクィーン」ことカラミティ・ジェーンなど。

 カラミティ・ジェーンは写真が残っている。テンガロン・ハットをかぶって馬にまたがっていたり、大きな銃を持っていたりする写真だ。存外、平凡な顔をしているが、手の小ささにはっとする。やはり女性なのだなあ、と。。。

☆「怖い絵」、おかげさまで3刷りになりました。ありがとうございます♪
☆☆「エクラ」の他、「婦人公論」「ミセス」などの11月号に書評がのりました♪
☆☆☆日経新聞夕刊(10月17日)にも井上章一氏による書評がのりました。るんるん♪

怖い絵
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☆マリーもお忘れなく!(ツヴァイク「マリー・アントワネット」(角川文庫、中野京子訳)

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グラフィックデザイナー・奥定泰之氏の作品

2007年10月09日 | 朝日ベルばらkidsぷらざ
 最新刊『編集会議』11月号の「特集;書店で目立つ!」には、グラフィックデザイナー奥定泰之氏が近年手がけた7冊の本の装丁が紹介されています。ぜひお読みください。

 どの装丁もすばらしいですが、とりわけ斬新なのは『わたくし率イン歯ー、または世界』(川上未映子著)。もともとタイトルが「え?」なのですが、さらに表紙がそれを強調しています。7度左に傾いた大きな文字が、まるで叫んでいるかのようでインパクトがあり、しかも「世界」の「界」の字が帯に少し隠れて不安感を漂わす。まさに「書店で目立つ」本になっています。

 『石の葬式』(パノス・カルネジス著)の字体もすばらしい。これは「中国の墓石に刻まれた文字をもとに」、奥定氏自らが書き起こしたのだそうです。「タイトルに用いた金色をところどころ剥がすことで「ゴツゴツ感」を出し、石を想起させるという凝りよう」がみごとな効果を上げています。

 毎日200冊の新刊が出るという凄まじい出版事情ですから、本好きでさえ書店でどれを選んでいいか迷ってしまいます。そんな本の洪水のなかオーラを発するには、装丁の重要度がますます高まっていくでしょう。

 『怖い絵』の装丁も、奥定氏が手がけてくださいました。ラ・トゥールの絵画「いかさま師」の一部を使い、タイトルは「怖い」と「絵」の間を大きくあけることで独特の余韻と怖さをかもし出しています。字体はA1明朝体で、これは「この字体の持つデジタルフォントらしからぬ人間っぽさ、口から出た言葉っぽさが、本の雰囲気にぴったりだった」からとのこと。

 画期的なのは帯の使い方で、これは本の3分の2の太さを持ち、ラ・トゥールの女性の横目のすぐ下まできています。白い透けた紙を使用しているので、邪悪な横目の下がどうなっているかぼんやり見え、それがまたいっそう謎を深めます。この本はいろんな反響をいただいていますが、「装丁がすばらしい」という声がとても多いのです。

 2刷以降の帯は、太さが通常のものに変わりました。今度は帯の「絵」という文字の下に、真っ赤な血しぶきのような塊が散り、女性の白い胸、背後の黒い闇、文字の鮮やかな赤と、実に美しい!

 著者というものは、たいていそうだと思いますが、自分の本がいったいどんな表紙にくるまれるのか、出来上がるまでとても不安なものなのです(装丁が悪いから売れなかった、と文句を言う作家は少なくありません)。ですから自分のイメージどおりの、いえ、それ以上の装丁で自作が完成したとき、つまりこの『怖い絵』のようなとき、「わお!!」と嬉しくて飛び上がってしまうのです♪

 今後の日本のグラフィック界を引っぱってゆくであろう奥定氏の、今後ますますのご活躍を期待しています。


☆朝日新聞ブログ「ベルばらkidsぷらざ」で連載中の「世界史レッスン」第83回目の今日は、「アル中&ゲキ太り女王アン」⇒ http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2007/10/a_2d9f.html#more

☆「怖い絵」、おかげさまで3刷りになりました。ありがとうございます♪

☆☆女性誌「eclatエクラ」11月号228ぺージに、斉藤美奈子さんによる書評が載りましたのでごらんください。

怖い絵
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☆マリーもお忘れなく!(ツヴァイク「マリー・アントワネット」(角川文庫、中野京子訳)

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ノストラダムスの予言、アンリ2世に的中!(世界史レッスン第82回)

2007年10月02日 | 朝日ベルばらkidsぷらざ
 朝日新聞ブログ「ベルばらkidsぷらざ」で連載中の「世界史レッスン」第82回目の今日は、「兄弟3人、みんな王にはなったけれど・・・」⇒ http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2007/10/post_14f7.html
 ルイ15世の孫である三兄弟が全員、王になった--ルイ16世、ルイ18世、シャルル10世--エピソードについて書きました。

 社会が安定して、王位継承者もちゃんと生まれていれば、めったなことでは弟へ王冠がわたることはないのだが、なかなかそうもゆかないのが世の常。フランスではさかのぼること16世紀にも、3兄弟が王になった例がある。アンリ2世とカトリーヌ・ド・メディチの間に生まれた息子たちだ。

 父の死後、まず長男がフランソワ2世となるが17歳で、次いで次男がシャルル9世となるが24歳で病死。ふたりは母カトリーヌによる毒殺だったとの説もある。理由は、彼女が溺愛していた三男に王位を譲りたかったからだとか(怖ろしい・・・)。しかしこの三男アンリ3世も37歳で暗殺される(このあたりの歴史はめちゃくちゃ面白いので、よく小説や映画に取り上げられる)。

 さて、父であるアンリ2世だが、こちらもノストラダムスの予言で有名だ。

 当時ノストラダムスは、魔術を信じていたカトリーヌのお抱え占い師だった。彼の予言はどれも抽象的で解釈が難しいのだが、このときばかりはあまりに凄い的中ぶりなのだ!曰く、

 「若き獅子は老人に打ち勝たん
  戦さの庭にて一騎討ちのすえ
  黄金の檻の眼をえぐり抜かん
  傷はふたつ、さらに酷き死を死なん」

 アンリ2世は40歳。当時でいえば「老人」である。彼は祝宴の席で「若い」近衛隊長に野試合(「庭」)を臨んだ。「戦さ」のさいちゅう、隊長の槍の先が裂け、アンリの「黄金」の兜を貫き、「眼」に突き刺さる。王は9日間も苦しんだあげく「酷き死」を遂げた!!


☆「怖い絵」、おかげさまで3刷りになりました。ありがとうございます♪

☆☆9月16日「毎日新聞」書評ーー
 「わかりやすくいうと「西洋絵画を読む」である。しかしタイトルのつけかたが心憎い。思わず手にとってみたくなる。そしてその気持ちを裏切らない書だ。ブリューゲルやドガやゴヤなど、よく知られている名作も含め、二〇点の作品が詳細に読まれて行く。『怖い絵』とあるが、一見怖くない絵もある。例えばドガの『エトワール、または舞台の踊り子』だ。美しい独特の絵である。しかしその背後には、「オペラ座は上流階級の男たちのための娼館」と言われた事情が潜んでおり、バレリーナはほとんどが労働者階級出身のつまり娼婦のようなものであり、舞台にはパトロンが平然と立っていることを指摘している。絵画を通して西欧社会の舞台裏が見えるのだ。むろん本当に怖い絵もたっぷり味わえる。(優)」

怖い絵
怖い絵
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中野京子 朝日出版社 (2007/07/18)


☆マリーもお忘れなく!(ツヴァイク「マリー・アントワネット」(角川文庫、中野京子訳)

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