いま書店に出ている「母の友12月号」にはアニメーション映画監督の高畑勲さんのロングインタビューが載っており、これがとても示唆に富んでいて面白い。
一部を紹介するとーー
「(絵本「おしいれのぼうけん」のアニメ化を相談され)やらないほうがいい、と言いました。せっかく子どもが想像力を働かせて絵本を楽しんでいるのに、アニメにしてもいいことは何もないんじゃないか、と思った。「想像力の余地」というようなものが、非常に大きく子どもの気持ちを動かしているわけだから」
「映画というのは舞台と違って、どんどん誘導してやって、作品のなかに没入させ、観客の鼻面をひきずり回すことができる。で、今や鼻面を引きずり回されたがっている観客がたくさんいて、作り手の方もそれを見事にやってのける人が中心となり、そういう傾向のものばかりになってしまっている」
「(客観的な視点にたたせようとしないものばかりになった)結果、映画というものはべったり感情移入して見るものだと思い込んで、それができなくなったとたんにもう「引けちゃった」とか言う。(・・・)だけど少し引いて見ることも面白いはずなんです。考えたり想像力を働かせたり、将来の人生にとって役に立つことはむしろそちらの方が多いんですから」
「昔話でも残酷なところのあるお話は、人生はままならない、偶然や運不運があって、いろいろな条件に支配されてしまうものだということを教えてくれると思うんです。今はそういう免疫を全く作ろうとせず、夢を抱いて突き進めば実現すると子どもに思わせています。でも、いろんな他人の挫折を本や何かで当然のように知っているほうがいいんですよ。何か甘いようなことを言っておいて、実は人生、苦かった、というんじゃたまらないでしょう」
ーーけっきょく「想像力を働かせる余地」は、小さなころの絵本であり、長じての書物であるはずなのに、最近はほんとうに驚くほどそうしたものに接していない若者が多い。親から与えられていないのだ。
以前も書いたが、学生たちがアンデルセンを知らないことに絶句してからもうずいぶんたつ。とうぜん日本の昔話も知らない、シンデレラも知らない。豊かな物語で想像力をはぐくんできていない。
これだから他人を苛めたり、小さな挫折にすぐ絶望したり、殺したり自殺したりと、びっくりするほど短絡的な結論にゆきつくのかもしれないなあ・・・
☆今週の「世界史レッスン第86回」は、「もしこのふたりが結婚していたら」⇒
http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2007/10/post_e833.html#more
実際に縁談話が持ち上がったことのある、エリザベス1世とイワン雷帝&フリードリヒ大王とマリア・テレジア&アン女王とジョージ1世について書きました。
☆「怖い絵」、4刷が決まりました!
☆日経新聞夕刊(10月17日)の井上章一氏による書評です♪
「人間の暗部や歴史の裏を描く」
グリム童話は、いま子ども向きの読みものとなっている。しかし、もとはけっこう恐ろしい話を集めていた。とても子どもには読ませられないような、人間の暗部がえぐられた話を。
実は、いわゆる泰西名画にも、暗い背景をもつものがけっこうある。むごい逸話をひめた作品が、いくつも描かれてきた。この本は、そんな絵を集めて、それぞれに解剖学的な絵解きをほどこした本である。
まあ、ゴヤの「我が子を喰らうサトゥルヌス」なんかは、見るからにおそろしい。だが、その背後には、もっとむごい歴史がある。ドガの「踊り子」あたりは、きれいな絵だなと思われようか。しかしそこには、いやらしい社会史も、描きだされている。いや、いやらしさという点なら、ジェンティレスキの「ユーディト」も負けてはいない。
色や形、あるいは絵柄だけを見ていても、なかなかこうは読み解けないだろう。歴史の裏に通じているからこそ、こういう秘話をほりおこせるのだと思う。
文章もよくねれており、たいへん読みやすく書かれている。美術愛好家のみならず、歴史好きにはひろく一読をすすめたい。星5つ)
☆マリーもお忘れなく!(ツヴァイク「マリー・アントワネット」(角川文庫、中野京子訳)
一部を紹介するとーー
「(絵本「おしいれのぼうけん」のアニメ化を相談され)やらないほうがいい、と言いました。せっかく子どもが想像力を働かせて絵本を楽しんでいるのに、アニメにしてもいいことは何もないんじゃないか、と思った。「想像力の余地」というようなものが、非常に大きく子どもの気持ちを動かしているわけだから」
「映画というのは舞台と違って、どんどん誘導してやって、作品のなかに没入させ、観客の鼻面をひきずり回すことができる。で、今や鼻面を引きずり回されたがっている観客がたくさんいて、作り手の方もそれを見事にやってのける人が中心となり、そういう傾向のものばかりになってしまっている」
「(客観的な視点にたたせようとしないものばかりになった)結果、映画というものはべったり感情移入して見るものだと思い込んで、それができなくなったとたんにもう「引けちゃった」とか言う。(・・・)だけど少し引いて見ることも面白いはずなんです。考えたり想像力を働かせたり、将来の人生にとって役に立つことはむしろそちらの方が多いんですから」
「昔話でも残酷なところのあるお話は、人生はままならない、偶然や運不運があって、いろいろな条件に支配されてしまうものだということを教えてくれると思うんです。今はそういう免疫を全く作ろうとせず、夢を抱いて突き進めば実現すると子どもに思わせています。でも、いろんな他人の挫折を本や何かで当然のように知っているほうがいいんですよ。何か甘いようなことを言っておいて、実は人生、苦かった、というんじゃたまらないでしょう」
ーーけっきょく「想像力を働かせる余地」は、小さなころの絵本であり、長じての書物であるはずなのに、最近はほんとうに驚くほどそうしたものに接していない若者が多い。親から与えられていないのだ。
以前も書いたが、学生たちがアンデルセンを知らないことに絶句してからもうずいぶんたつ。とうぜん日本の昔話も知らない、シンデレラも知らない。豊かな物語で想像力をはぐくんできていない。
これだから他人を苛めたり、小さな挫折にすぐ絶望したり、殺したり自殺したりと、びっくりするほど短絡的な結論にゆきつくのかもしれないなあ・・・
☆今週の「世界史レッスン第86回」は、「もしこのふたりが結婚していたら」⇒
http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2007/10/post_e833.html#more
実際に縁談話が持ち上がったことのある、エリザベス1世とイワン雷帝&フリードリヒ大王とマリア・テレジア&アン女王とジョージ1世について書きました。
☆「怖い絵」、4刷が決まりました!
☆日経新聞夕刊(10月17日)の井上章一氏による書評です♪
「人間の暗部や歴史の裏を描く」
グリム童話は、いま子ども向きの読みものとなっている。しかし、もとはけっこう恐ろしい話を集めていた。とても子どもには読ませられないような、人間の暗部がえぐられた話を。
実は、いわゆる泰西名画にも、暗い背景をもつものがけっこうある。むごい逸話をひめた作品が、いくつも描かれてきた。この本は、そんな絵を集めて、それぞれに解剖学的な絵解きをほどこした本である。
まあ、ゴヤの「我が子を喰らうサトゥルヌス」なんかは、見るからにおそろしい。だが、その背後には、もっとむごい歴史がある。ドガの「踊り子」あたりは、きれいな絵だなと思われようか。しかしそこには、いやらしい社会史も、描きだされている。いや、いやらしさという点なら、ジェンティレスキの「ユーディト」も負けてはいない。
色や形、あるいは絵柄だけを見ていても、なかなかこうは読み解けないだろう。歴史の裏に通じているからこそ、こういう秘話をほりおこせるのだと思う。
文章もよくねれており、たいへん読みやすく書かれている。美術愛好家のみならず、歴史好きにはひろく一読をすすめたい。星5つ)
☆マリーもお忘れなく!(ツヴァイク「マリー・アントワネット」(角川文庫、中野京子訳)