中野京子の「花つむひとの部屋」

本と映画と音楽と。絵画の中の歴史と。

対決・巨匠たちの日本美術展

2008年07月22日 | 音楽&美術
 朝日新聞ブログ「ベルばらkidsぷらざ」で連載中の「世界史レッスン」第121回目の今日は「母VS息子VS孫バトル」⇒ http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2008/07/vsvs_8f6b.html#more
 先週に続き、ロシア宮廷での骨肉の争いについて書きました。

 今日の話題は、上野・東京博物館・平成館で開催中の展覧会「対決・巨匠たちの日本美術」について。

 先週見に行ってきたのですが、いやあ、すばらしいの、なんの!見ごたえたっぷり!! 
 昨今は目玉作品1,2点、あとは小品ばかり、という美術展が増えていて物足りなさを感じることが多かったので、これはとっても充実していました。よくまあ、こんなに集めたな、と驚きます。あまりに凄いので、終了前にもう一回見に行かねば、と思っているくらい。

 何より展示力の勝利といえるでしょう。山水画ばかり見せられれば飽きますが、こんなふうに、ほぼ同時代のライヴァル同志、師弟同志の作品を「対決」という形で示されれば、力量の違い、発想の違い、魅力の違いが際立って、日本画ってこんなに面白いんだ!と改めて認識させられます。

 日本美術に疎いわたしには、どれも驚きの連続でしたが、幽霊画家という程度にしか知らなかった円山応挙の巧さには唖然・・・
「猛虎図屏風」の虎の毛並みなど、ほんものを貼り付けたかと思うほどです。彼は生きた虎は見たことがなく、毛皮の実物から類推して描いたとのことで、姿体はどことなく奇妙(それがまた面白い)なのは当然として、その毛皮の質感は、王侯貴族たちを飾る毛皮のガウンをリアルに描いたロココのどの画家たちより優れているように感じられました。

 長谷川等伯「松林図屏風」は画集で何度も見ていましたが、実物を目にすると「あ、ターナーよりすばらしい」と思ってしまうし、伊藤若冲が点描画を描いていたのも初めて知りました。スーラより100年も前に!

 長沢芦雪「虎図襖」は画集だと可愛い虎のように錯覚してしまいますが、3メートルの襖を前にすると迫力満点で、これがかつては薄暗い部屋の行灯のゆらめきの中にあったわけですから、まるで絵から飛び出てくるような怖さがあったに違いないのです。

 「スペイン人は母の胎内から踊りながら出てきた」「オランダ人は生まれたときから画家」などと言われますが、日本人も「眼の人」なのは間違いないですね。

 大興奮のこの展覧会は8月17日まで開催しています。ぜひご覧になってください♪
 ちなみに対決するのはーー
 運慶VS快慶、雪舟VS雪村、永徳VS等伯、長次郎VS光悦、仁清VS乾山、円空VS木喰、大雅VS蕪村、若冲VSしょう白、応挙VS芦雪、歌麿VS写楽、鉄斎VS大観。


☆最新刊「危険な世界史」(角川書店)
「本の旅人8月号」(角川)で、山之口洋氏が「怖ろしうて、やがて哀しき<偉人>たちの業」のタイトルで紹介してくださっています♪

危険な世界史

☆「怖い絵2」、紀伊国屋新宿南口店のレジ付近に、大きさ16倍という巨大な「怖い絵2」が飾ってありますので、見てくださいね!

怖い絵2


☆『怖い絵』、8刷になりました。ありがとうございます♪

怖い絵
怖い絵
posted with amazlet on 07.07.14
中野京子 朝日出版社 (2007/07/18)


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夏休みこそ「この一冊」

2008年07月15日 | 
 朝日新聞ブログ「ベルばらkidsぷらざ」で連載中の「世界史レッスン」第120回の今日は、「死んだ父が見たい」⇒ http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2008/07/post_6c45.html#more
 父ピョートル大帝の不興を買って殺されたアレクセイについて書きました。ほんと、ピョートルって山ほどのエピソードの持ち主だなあ。。。

 光文社の小雑誌「本が好き!」はご存知でしょうか?今出ている8月号の特集<夏休みこその「この一冊」>に、わたしも書きましたのでお読みください。

 夏ならやはりホラーでしょう、との単純さでわたしが選んだのは、3巻本『日本怪奇小説傑作集』。日本はイギリスと並んで怪奇小説の宝庫ですから、どれも怖いです。
 
 思うに、書き手本人が怪奇を信じている方が怖い。漱石なんか凄いものです。反面、三島は(彼の文章は大好きですが)理性的に?怖がらせを狙っているようであまりぞっとしないんですね。そういうところ面白いです♪

 また話題変わって。

 先週書きましたが、「東京人8月号」に「怖い絵2」の書評が載りました。書いてくださったのは小池昌代さん。一部、お読みください。

 ーー「怖い絵」というものが、最初からあるのではない。著者の文章が怖さを創る(中略)各章、著者がたんたんと、絵の細部を説明していくところがある。それだけのことがすでに怖い。

 「何が起こっているのだろう?
  何が起こっているにせよ、それは怖ろしいことに違いない。張りつめた表情、緊張感漂う肉体の動き。とりわけ夏空に雷雲が盛り上がるように、凄まじい勢いで沸き立つ髪の毛。そのありえない髪の乱舞は、ほとんど彼女の上半身を翳らせるほどだ」(ハント「シャロットの乙女」)

 こうしてわたしたちは、言葉によって少しずつ深く、絵の中におびき寄せられてゆく。(中略)

 それにしても、無言で佇む一枚の絵が何と多くの言葉をしまいこんでいることか。そして「怖い」という思いの、何と初心なこと。それは絵の中から、言葉の介助を得て、今まさに、生まれたばかりの感情。羊水をまとい濡れているように瑞々しい。ーー

☆最新刊「危険な世界史」(角川書店)

危険な世界史

☆「怖い絵2」、紀伊国屋新宿南口店のレジ付近に、大きさ16倍という巨大な「怖い絵2」が飾ってありますので、見てくださいね!

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☆『怖い絵』、8刷になりました。ありがとうございます♪

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中野京子 朝日出版社 (2007/07/18)


☆マリーもお忘れなく!(ツヴァイク「マリー・アントワネット」(角川文庫、中野京子訳)

マリー・アントワネット 上 (1) マリー・アントワネット 下 (3)



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危険な世界史(世界史レッスン第119回)

2008年07月08日 | 朝日ベルばらkidsぷらざ
 朝日新聞ブログ「ベルばらkidsぷらざ」で連載中の「世界史レッスン」第119回の今日は「ユゴーの娘アデル」⇒ http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2008/07/post_6418.html#more
 まさに狂恋と呼ぶにふさわしい恋の虜となったアデルについて書きました。トリュフォーの映画のラストでは、あれほど恋した相手とすれ違っても気がつかないまでになってしまい、泣けましたが・・・

 ところでだいぶ出版が遅れ、申し訳ありません。世界史レッスンを100コ分集めた「危険な世界史」がいよいよ今月、角川書店から発売されます♪⇒
http://www.kadokawa.co.jp/book/bk_detail.php?pcd=200802000600

 そして今日は、画家岡野亮介氏(7月19日発売の「美術の窓」という美術雑誌に、氏の水彩画の技法が4ページくらいにわたって紹介される予定とのことですので、是非お読みください!)が、HP(⇒ http://www.page.sannet.ne.jp/rokano28/)でご紹介くださった「怖い絵2」の一部を紹介させてください。

 「前作のレビューでは「無理に怖い絵にしている」とか、著者の論述を当然の常識として、読者の驚きを認識不足に帰し、「美術教育の貧困化」と一刀両断的な予断を下す方もいました。しかしこれらは極々少数派で、多くの反響からはその視点の斬新さと、絵に隠された謎解きの興味深さに引き込まれたことを、容易に察することができます。日常的で何でもないような視点をして、新鮮な観方と化せることが出来るのはコロンブスの卵と同じで、それ故に「目から鱗」のように、多くの共感者を得ることができたのでしょう。このスタンスは、一方では批判も容易くしてしまうのでしょうが、しかし一部分をあげつらっての「そんなことは解っているよ」的な感情の発露は、とても批判とはなりえないものです。全く興味の無い方は例外としても、少しでも絵画に興味のある人が美術書を読んで、全篇の事項を初めて知ったなどということは、まず在り得ないのですから。

(略)

 著作中、直接絵が怖いと表現されたものは、「これほど怖い絵はない」(ブレイク)、「この絵の怖さがあるのだろう」(カルパッチョ)、「『キリスト』の洗礼は怖い絵だ」(ヴェロッキオ)、「だからこの絵は怖いのだ」(ビアズリー)くらいでしょうか。主題からすれば、驚くほど少ない数に気付かされます。

(略)

 これらを踏まえますと、大変僭越な発言になってしまいますが、著者が「恐」と「怖」を使い別けているのが良くわかります。更にボッティチェリでは「薄気味悪さ」、ドラローシュでは「この絵は美しく戦慄的」と、またブリューゲルでは「身の毛もよだつのは」と、「怖い」という形容を安易に用いるのを避けるようにして、作品の怖さを分析しています。ミレーの「晩鐘」にも「怖い」という形容詞は無く(「死と樵」は別として)、ピカソの章で述べられた「芸術家は怖い」も、「泣く女」への直接的な形容ではないと思えます。総じて言える事は、著者が「怖い」という言葉をなるべく使わないようにして、「怖さ」を表出しようとしていることが伺われるのです。

 重箱の隅をつつく様な文章を連ねましたが、実はこれは「無理に怖い絵に仕立て上げている」という意見への、私なりの疑問なのです。「怖い絵」というタイトルの語感は、前作ではゴヤの「我が子を喰らうサトゥルヌス」や、今回の著作では、「直接的に怖い」と言わしめたギーガの「死の島」を反射的に思い浮かべる事はた易いことでしょう。しかし、前著でドガの「エトワール」を「怖い」と論じたその「怖さ」の解釈に、作者と読者のなかで意識のずれが出ているのではないかと思えたのです。「歴史的にみればそんなことは常識のことだ」と解釈する人、「そんな背景があったのか」と驚く人、「怖さへのこじつけではないの」と疑問を呈する人・・・様々に解釈する方がいて当然でしょう。私も歌麿の例を挙げたように、夫々の視点がありますから、そこに異論が出てきて何ら不思議はありません。批判を封じるものではありませんが、しかし、中野さんが前作の前書きに書いたことが、この著作の大前提となるものであり、決して蔑ろにはできない重要な位置を占めているのに、今回あらためて気付きました。幾つかの意見が、その「怖い」という語彙の中に著者が込めた思いを無視して、あるいは忘れられてはいないかということが、私が今回指摘して置きたい事なのです。」


☆「怖い絵2」、現在発売中の雑誌「クロワッサン」著者紹介欄(115ページ)に載っていますのでごらんくださいネ♪
☆「ブルータス」「voce」「東京人」にも紹介されました。

怖い絵2

☆『怖い絵』、8刷になりました。ありがとうございます♪

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☆マリーもお忘れなく!(ツヴァイク「マリー・アントワネット」(角川文庫、中野京子訳)

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「貧困大国アメリカ」

2008年07月01日 | 
 朝日新聞ブログ「ベルばらkidsぷらざ」で連載中の世界史レッスン第118回目の今日は、「『メデュース号の筏』以前に」⇒ http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2008/07/post_3686.html
 恐怖政治後に起きた奇妙な殺人事件について書きました。被害者は首を切られただけでなく、全身の血を抜き取られていたとの説もあり、ほんとうならかなり猟奇的といえるでしょう。それとジェリコーに何の関係が?--それは読んでのお楽しみ。

 さて今日は本の話題。
 『貧困大国アメリカ』(堤未果、岩波新書)です。

 弱者を食いものにする「貧困ビジネス」の恐るべき実態がルポされています。医療に関しては去年、映画『シッコ』が話題となりましたが、こちらは民営化された「戦争ビジネス」の巧妙さに背筋が寒くなります。

 多重債務者(必ずしも遊興費に使った人ばかりではなく、ふつうに働いていても子どもが病気になり、高額の薬代が払えず借金を重ねた人などがいて胸が痛む)名簿を手に入れた民間人材会社が、借金を肩代わりするかわりにと、どんどん彼らを戦争の前線へ送り込んでいるのです。 

 アンデルセンの父親を思い出しました。
 彼もまたナポレオン戦争で一働きし、極貧生活から抜け出そうとしたのですが、けっきょくもらった前金は戦時インフレで雀の涙に下落、敗戦で残りの金はもらえず、心身を病んで帰郷。以前よりずっと境遇が悪化したあげく、狂死してしまったのです。

 全く今のアメリカと同じです。いえ、これは傭兵制度の昔から変わらないというべきかも。人材派遣などという耳ざわりの良い言葉を使っていますが、弱者を半強制的に傭兵にして--人類最古の職業は「売春」、2番目に古いのは「傭兵」と言われています--一握りの富裕層だけがますます肥えるという憎むべきシステム。

 日本はアメリカを反面教師として、格差社会になりつつある現状を変えてゆかなければ!

☆「怖い絵2」、現在発売中の雑誌「クロワッサン」著者紹介欄(115ページ)に載っていますのでごらんくださいネ♪
☆「ブルータス」「voce」「東京人」にも紹介されました。

怖い絵2

☆『怖い絵』、8刷になりました。ありがとうございます♪

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☆マリーもお忘れなく!(ツヴァイク「マリー・アントワネット」(角川文庫、中野京子訳)

マリー・アントワネット 上 (1) マリー・アントワネット 下 (3)

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