中野京子の「花つむひとの部屋」

本と映画と音楽と。絵画の中の歴史と。

ナポレオンと同盟を結んだゴドイ(世界史レッスン第44回)

2006年12月26日 | 朝日ベルばらkidsぷらざ
 朝日新聞ブログ「ベルばらkidsぷらざ」に連載中の「世界史レッスン」第44回目の今日は「スペイン王妃の恋人、大いに長生きす」⇒http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2006/12/post_9603.html#more
強靭な生命力で84歳の長寿を全うした宰相ゴドイは、人生前半と後半の落差をどう感じていたのだろう?

 マリア・ルイサとマリー・アントワネットは同時代人でもあり、互いによく似た境遇だったことについては、以前「似たもの王妃」でも触れた。⇒http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2006/03/post_2a49.html

 だが曇りない目で見れば、ルイサはアントワネットほど軽薄でも愚かでもなかった。何を着ても似合わないのに最新流行ファッションを追う、という過ちを犯したのは確かだが、厳しい舅(カルロス3世)のもとで、王太子妃のころから王妃代理をそつなく務め、時には彼のやり方に堂々と反論したほど頭は良かった。3世亡き後ゴドイを異例のスピードで出世させたのも、愛情からばかりでなく、実力もみこんでのことだ。

 事実ゴドイは手腕を見せ、「平和公」の称を得たり、ナポレオンと同盟を結んで、動乱のスペインを守るべく奮闘した。時代の潮流が革命へと雪崩をうっていたので、けっきょくは亡命を余儀なくされたにせよ、ゴドイがいなければ無能なカルロス4世は、ルイ16世と同じく処刑されていたかもしれない。

 このゴドイの肖像もゴヤによって描かれている。軍服を着てしどけなく寝椅子に寄りかかるゴドイは、歌舞伎の二枚目風の甘い顔立ちながら、闘牛のようなエネルギーを放出している。いかにもラテンの男である。アントワネットの恋人フェルゼンが北欧の冷たい美貌だったのに比べて、うーん、だいぶ違いますね!

♪マリア・ルイサのことは「恋に死す」にも書きました⇒http://www5.hokkaido-np.co.jp/books/20040111/visit.html -->
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王妃マチルダとクロンボー城(世界史レッスン第43回)

2006年12月19日 | 朝日ベルばらkidsぷらざ
 朝日新聞ブログ「ベルばらkidsぷらざ」で連載中の「世界史レッスン」第43回目の今日は「死へ直結した不倫」⇒http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2006/12/1772_5bb5.html#more
デンマーク王妃マチルダとドイツ人医師ストルーエンゼの悲恋について書きました。
 
 マチルダはいっときクロンボー城に幽閉されるが、この荒々しい北の海に面した城についてはだいぶ前ブログに書いたことがある。以下。

 --シェークスピアはハムレットをデンマーク王子に設定した。エアスン海峡最狭部にあるヘルシングーアという小さな町(すぐ向こう岸にスウェーデンのヘルシンボリが見える。5キロしか離れていない)にあるクロンボー城。かつてここに居住していたAmleth王子の名前を借りたのだ。語尾のhを語頭へ移動させ、HAMLET王子というわけ。

 4,5年前の晩秋、この城を訪れた。青空から時おりアラレがぱらぱら降ってくる寒い日で、見物客はまばら。岬の突端ということもあり、風がごうごうと吹きすさんで、荒涼たるものである。

 「こんなところに住んでいたら、性格も悪くなるだろうなあ」

 同行者が思わずもらした言葉に大いに共感を覚えた。
 それにヨーロッパの中世の城はどこもそうだが、何世紀にもわたる血がこびりつき、昼日中であろうと幽霊が出そうな雰囲気というか・・・(実際には何度か建てかえているのだけれど) --

 この建てかえの最中に工事の人々が何人も死に、その後幽霊が出て窓から突き落とすという噂が拡がったらしい。幽霊に押されなくとも、突風で海へ落っこちそうな感じではあった。


♪あるまんどさんが拙著「メンデルスゾーンとアンデルセン」についてご紹介してくださいました。⇒http://allemande.blog69.fc2.com/

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クックと森鴎外と拒食症(世界史レッスン第41回)

2006年12月12日 | 朝日ベルばらkidsぷらざ
 朝日新聞ブログ「ベルばらkidsぷらざ」で連載中の「世界史レッスン」第41回目の今日は、「キャプテン・クックと鞭打ちの関係」⇒http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2006/12/post_54a4.html#more
クックは最後の航海でハワイに立ち寄ったとき、島民たちから最初は神と崇められたのに、やがて憎まれ、惨殺される。

 断頭台にあがる少し前、マリー・アントワネットが監獄で読みふけったのはクックについて書かれた航海記だったが、自分の人生と重ねていたのだろうか?オーストリアからフランスへ輿入れしてきたとき、民衆は自分を女神のように崇めていたのに、今は憎み、首をはねようとしている、と・・・

 さて、クックは乗組員に果物を強制して壊血病を防ぐという、航海上の貢献をしている。一方、陸軍の軍医だった森鴎外は、その正反対を行なったことで知られる。やはり当時ビタミン不足から脚気が軍隊における大きな悩みだったのだが、鴎外は自説に固執しすぎ(細菌説をとったのだ)兵隊の栄養状態を無視した。そのせいで陸軍の脚気発生率は、海軍(食事説をとった)の数倍にのぼった。なんと迷惑な・・・

☆新著「怖い絵」(朝日出版社)
☆☆アマゾンの読者評で、この本のグリューネヴァルトの章を読んで「泣いてしまいました」というのがありました。著者としては嬉しいことです♪

怖い絵
怖い絵
posted with amazlet on 07.07.14
中野京子 朝日出版社 (2007/07/18)


①ドガ「エトワール、または舞台の踊り子」
②ティントレット「受胎告知」
③ムンク「思春期」
④クノップフ「見捨てられた街」
⑤ブロンツィーノ「愛の寓意」
⑥ブリューゲル「絞首台の上のかささぎ」
⑦ルドン「キュクロプス」
⑧ボッティチェリ「ナスタジオ・デリ・オネスティの物語」
⑨ゴヤ「我が子を喰らうサトゥルヌス」
⑩アルテミジア・ジェンティレスキ「ホロフェルネスの首を斬るユーディト」
⑪ホルバイン「ヘンリー8世像」
⑫ベーコン「ベラスケス<教皇インノケンティウス10世像>による習作」
⑬ホガース「グラハム家の子どもたち」
⑭ダヴィッド「マリー・アントワネット最後の肖像」
⑮グリューネヴァルト「イーゼンハイムの祭壇画」
⑯ジョルジョーネ「老婆の肖像」
⑰レーピン「イワン雷帝とその息子」
⑱コレッジョ「ガニュメデスの誘拐」
⑲ジェリコー「メデュース号の筏」
⑳ラ・トゥール「いかさま師」

続いて拒食症の話。
 ずいぶん前に翻訳した「ビターチョコレート」(プレスラー作)でしたが、これを読んで、立ち直るひとつのきっかけになったと書いてくださっていた「ねーむーみん」さんのブログです。⇒http://d.hatena.ne.jp/yuuuuuuuumin/20061208#c 
訳してよかった、と思えたことでした♪
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死の床のハイドン(世界史レッスン第41回)

2006年12月05日 | 朝日ベルばらkidsぷらざ
 朝日新聞ブログ「ベルばらkidsぷらざ」で連載中の「世界史レッスン」第41回目の今日は、「さまよえるハイドンの頭蓋骨」⇒http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2006/12/post_ee8c.html#more
 ハイドンの頭蓋骨が、当時少なくなかった墓盗掘人によって持ち去られ、150年もさまよったエピソードを書きました。有名人は死んだあとも、おちおち棺でゆっくり眠っていられないらしい(そういえばイブ・モンタンの遺体も実子判定のためDNA鑑定するからと、掘り返されましたっけね。死体に拒否権はないのかな?)。

 さてハイドンが77歳で今まさに老衰死しようとするとき、ナポレオン軍がヴィーンを包囲してドンパチやり始めたのだけれど、2種の言い伝えが残っている。

 その1。激しい銃撃戦に怯える家族に対し、ハイドンはこう言った、「心配はいらない。ハイドンのいるところ、不幸は起こらない」 

 その2。ナポレオンはハイドンの邸前を行進するとき、死の床にいる天才作曲家に敬意を表すため、「いっさい音を出すな」と命じた。

 う~む。どちらも嘘っぽいのでまいりましたね。

 閑話休題。ツヴァイク「マリー・アントワネット」(拙訳。角川文庫)の出版が早まりました。上巻だけ先に来年1月10日に書店に並びそうです。お楽しみに!


♪摂食障害の少女の苦しみと再生を描いたプレスラー「ビターチョコレート」(拙訳)の紹介をネットで見つけました。⇒http://www.hico.jp/sakuhinn/6ha/bita-.htmhttp://www.hico.jp/sakuhinn/6ha/bita-.htm



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