経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

資金繰りゴリゴリ

2008-03-11 | 企業経営と知的財産
 新銀行東京のずさんな融資の件がいろいろ賑やかですが、かつて中小・ベンチャー企業の資金繰りの話をゴリゴリと詰めていたことを思い出すと、報道されているような融資の話にはちょっとびっくりしてしまいます。やってる当時はさほど特別なことという意識はなかったのですが、融資というのもやっぱりプロフェッショナルの仕事なんですね。
 ところで、融資担当だった頃、銀行員と中小・ベンチャーの社長の話題となると資金繰りが中心になることが多かったのですが、知財担保融資を始めた頃に意外なことに気付きました。担保をとるという、ある意味がめつい系の話をしているにも関わらず、技術系の企業の社長には結構受けがいいのです。「資金繰りばっかりうるさい銀行員が、うち自慢の技術のことを聞いてくるのはちょっと嬉しい。」みたいなことを何度か言われた記憶があります。
 翻って特許屋の弁理士。特許(技術)の話をするのは当然ですが、社長と経営絡みの話がちょっと盛り上がったりすると、「弁理士さんとこんな話ができるとは。」と喜ばれることがあるようです。全く逆の現象(「経営=資金繰り」というわけではないですが)が起こっていて興味深いですが、はてさて社長は実のところ技術の話と経営の話のどっちが嬉しいんでしょうか???
 この現象は要するに、銀行員が資金繰り(経営状態)の話を、弁理士が特許の話をするのはそれが仕事なのだから当たり前。でも、銀行員が技術(特許)の話を、弁理士が経営の話をするということは、「会社の全体像にも目を配った上で、自分プロとしての領域での判断をしている」、そこが社長に喜ばれている部分なのではないでしょうか。たぶん。断片的に見てあれこれ言われるのは、誰だって気分悪いですからね。




よくわかる知的財産権担保融資
土生 哲也
金融財政事情研究会

このアイテムの詳細を見る

大阪

2008-03-10 | その他
 一昨日の「知財戦略コンサルティングシンポジウム 2008」は、関東経済産業局/地域知財戦略支援人材育成事業という事業の成果報告として行われたもので、その前身となったのが2004~2006年度の特許庁/地域中小企業知的財産戦略支援事業なのですが、どちらも「地域」が政策上のテーマとなっています。これまでは正直なところ、「地域経済」と「知財」を結び付けるというのはちょっと強引かなぁと思っていたのですが、先月にお手伝いをさせていただいた和歌山、高知、福岡のイベントを通して、実はこの2つを結び付けて何かができるのではないかということを感じています(もちろん「地域団体商標・地域ブランドで地域を活性化!」みたいな巷によくある話のことではありません)。まだ頭がまとまりきってない部分があるので、詳しくは追って書いていきたいと思っています。

 それはそれとして、元気がないといわれているといえば大阪です。大阪は中・高時代(あのiPS細胞の山中教授・大先輩と同じ校舎で過ごした時期があるとわかったことが最近のプチ自慢なのですが)を過ごした地元なので、何とも複雑な思いです。でも、大阪が元気がないといっても、東京で活躍している企業には、元々は大阪の企業が多かったりする。そのあたりが、東京からもトヨタが人を引き寄せてしまう名古屋、京セラ・任天堂・村田・ロームなど優良企業がどっかり腰を据えている京都なんかと違うところで、そういえば神戸だって神戸製鋼やワールドがありますすが、どこが違うのだろうか。と考えてみると、大阪が‘商都’であり、大阪発の大企業の多くは商業やサービス業であること(伊藤忠、住友商事、高島屋、大丸、日本生命、旧三和銀行、旧住友銀行etc.)に気付きます。商業・サービス業は人のいるところでそれこそ‘商売’をしなければらなないから、会社が発展しようとすると一番人の多いところに移っていかざるを得ないのは、ある意味必然なのではないか。そこが、製造業であれば必ずしも消費地に近い必要はないこととの違いかと思います。
 とすると、そんな大阪を「知財で活性化」というシナリオがあるならば、オーソドックスに特許戦略等による製造業の収益力強化か、切り口を変えるとすれば、大阪発の商業・サービス業がビジネスのあり方を変えるような第三次産業のための全く新しい知財戦略か。とかいいながら、後者は言葉を並べただけの何とも抽象的な話、具体的にはまだノーアイデアです。悪しからず。

4番,サード,特許クン?

2008-03-08 | 企業経営と知的財産
 先ほどまで「知財戦略コンサルティングシンポジウム 2008」に参加してきました。知財系のイベントとしてはこれまでとはかなり毛色の違ったものになり、まだまだ未完成な部分が多いですが面白い企画だったと思います。
 さて、パネルディスカッションの中で十分にお話しきれなかった部分を一点。昨日も書きましたが、従来の知財実務と異なる知財コンサルのポイント、コンサルタントとしての力量を問われる最も重要なポイントは、「その企業にとっての知財の意味を考える」ということにあると思います。本日のパネルディスカッションで事前アンケートで出されたテーマとして、「経営トップの考え方を知財重視に変革させるにはどうしたらよいか」という話がありましたが、私はこの点についてはそもそも命題の設定が‘上から目線’になっていて適切ではないのではないかと思います。私はベンチャーキャピタリスト時代に数多くの経営者と接してきましたが、経営者ほど会社のことを真剣に考えている人はいません。少なくとも我々よりたくさんのパラメータに目を配り、真剣勝負で日々戦っているわけで、そこんとこは誤解しちゃいけない、「知財の重要性がわかってない」とか杓子定規に判断してはいけないと思います。知財に関してはボーッとして何も考えていないとかいうわけではなく、知財業務に力を入れることの効果が具体的に見出せず、そこにプライオリティを置く意味がわからないから結果的に‘軽視’になっているわけです。それに対して、その会社の置かれた固有の環境や持っているリソースを考慮しながら、「こういう考え方で知財業務に取り組んでいけば事業を進める上でプラスになる」という方針を示さないことには、「知財は重要ですよ」と一般論を語るだけでピンとくるわけがありません。逆に、「こうやって成果に結び付けられる、事業の推進に役に立つ」というシナリオを示せれば、会社のことを一番真剣に考えている経営者に響かないわけがないのです。必要なことは‘啓蒙’ではなく、その会社にとって特許(その他の知的財産権)が役に立つものかどうかを、経営者の目線にあわせていろんな可能性から考えていくことです。そこまでやってはじめて、経営者の知財意識云々を語れるのではないでしょうか。
 経営者は、野球でいえば監督で、チームのことを一番真剣に考えている存在です。そこに‘特許クン’というメンバーを加えるときに、杓子定規に「特許クンは優秀ですから4番サードで使ってください(=知財は重要だから知財重視の経営をしてください)」とだけ言って受け入れられるわけがありません。監督の話をよく聞いて、チーム構成の中で必要な要素を検討していくと、ひょっとすると「優秀な1番バッターはいるのだから、バントもできる特許クンを2番に入れると1番バッターのよさが活きますよ」とか、「このチームはいつも終盤で左バッターに打たれて逆転されているから、左投げの特許クンをワンポイントリリーフで使えばもっと勝ちを拾えるはずですよ」とかいったシナリオが見えてくるかもしれない(このチームの場合は特許クンの出番は全くない、という結論になる可能性も含めて)。特許クンが機能するイメージができれば、監督は「是非入団してください」となるわけで、働き場所を見極めることがポイントになるんだと思います。
 パネルの最後で唐突に持ち出させていただいた‘たかが特許、されど特許’も、こうした感覚で知財の役割を客観的に考えよう、という趣旨です。何となくおわかりいただけると嬉しいところですが。

「経営者の知財意識の向上」から始める知財コンサルは、たぶん正しくない。

2008-03-07 | イベント・セミナー
知財戦略コンサルティングシンポジウム 2008
~企業価値を高める知財戦略コンサルティングの全貌と、コンサルタントの目指すべき人材像~

が、明日開催されます。知財業界で‘コンサル’を謳ったシンポジウムは例がないとのことで、地域知財戦略支援人材育成事業の実施研修参加者によるプレゼンなど多くのメンバーが登壇しますので、ちょっとしたお祭りになりそうな感じで楽しみです。
 私は、パネルディスカッションに実施研修のコメンテーター的な立場で参加させていただきますが、今の段階で考える知財コンサルのポイントとは何か、を考えてみました。いくつかある中で、最も重要だと思うのは「その企業にとっての知財の意味を考える」ということではないかと思います。知財戦略を実践するための課題として、「経営者の知財意識の向上」から始める必要があるとか言われることがありますが、こういったアプローチがそもそもの間違いの元ではないでしょうか。このアプローチでは、「知財(知的財産権)は重要」というのが大前提に置かれていますが、その前提条件が正しいかどうかを個別の企業について検証した上で経営者が納得しないことには、知財意識の向上もヘチマもありあません。実際のところさして重要でない場合もあれば、重要だけどどういう風に重要かがポイントになる場合もあるわけです。スタートラインは「経営者の知財意識の向上」ではなく、「その企業にとって知財(知的財産権)はどのような位置づけにあるのか、どのように貢献し得るのかを、経営環境やその企業の経営資源からよく考えること」です。‘レジュメの丸暗記’では事例問題が解けないのと同じで、「知財は重要」と杓子定規に定型のセリフを述べたところで、経営責任を負って日々厳しいところで戦っている経営者には響くはずがありません。そこのところをすっ飛ばされいることも少なくないように感じるので、明日はしっかり説明したいと思います。

大丈夫か、年金。

2008-03-04 | 新聞・雑誌記事を読む
 愛読していた日経金融新聞の<スクランブル>が、Webに移行しています。本日の記事は「年金、日本株離れの兆し」とのことで、昨今の日本株の下落で年金基金が痛手を被っており(というように株価下落は誰にとっても他人事ではないはずなのですが)、日本株離れを起こし始めているとのことです。
 で、その資金はどこに向かうのか。この記事によると、なんと松下電器企業年金基金では代替投資(株式や債券以外)の比率を段階的に増やすとのことで、
「日本株や国内債の持ち高を落とし、すでに海外のプライベート・エクイティ(未公開株)や知的財産権を中心に新たな投資先の選定を始めた」
そうです。
 最初は「知的財産権に着目して企業を選別する」という意味かとも思ったのですが、それでは代替投資にならないので、知的財産権に直接投資するということのようです。映画ファンドとかに投資するのか、はたまた特許権に直接投資するのか。ということは、映画やアイドルの目利きが年金を運用するのか。20年以上先に受け取る年金を存続期間に限りのある特許権で運用するのか(債券のように最投資していくということでしょうが、債券みたいに同質のものを回転させていけるのか)。もしアンチパテント政策に舵を切ると年金資産が大きく痛んでしまうので、これでプロパテント政策は長期的に不変となるのか。無効審判や非侵害の判決で運用成績が悪化したら、運用者は年金基金になんて説明するのか。いやぁ、何ともよくわからない話です。

ビジネスパーソンのための「知財発想法」

2008-03-02 | お知らせ
 弊所にて作成した小冊子「ビジネスパーソンのための知財発想法」を販売します。価格は1冊500円(+振込手数料,三菱東京UFJ銀行の個人口座からのお振込であれば振込手数料はたぶん無料)となります。
 本誌は、雑誌「ビジネス法務」に6回にわたって連載した記事を加筆・修正したもので、本文が38ページ(「はじめに」を含む)の小冊子です。おそらく10分そこそこで読めるペラペラのものなので(内容はペラペラにならないよう努めたつもりですが)、はっきり言って500円はかなり割高ですが、印刷代+送料の原価相当ということで・・・。高値掴みでも構わん、と覚悟いただけた方がいらっしゃれば、お名前と送付先を明記の上、ipvinfo●ipv.jp(スパム対策のため、お手数ですが●を@に変更してご送信ください)まで、Eメールにてお申込みいただきますようお願い申し上げます。誠に申し訳ありませんが、発送には1週間~10日程度要することになると思います。
 以下、本誌の「はじめに」を引用します。

*************************************************************

 近年、「『知財』を理解することが重要になっている。」という意識がビジネスパーソンの間に広がっています。一方で、「知財」が重要とはわかっているものの、日常的なビジネスのどのような場面で知財が重要になるのかピンとこない、ビジネスの現場と知財の必要性をうまく結びつけて考えることができない、と感じられている方が少なくないのではないでしょうか。ビジネスパーソンにも「知財センス」が必要であるとはいっても、特許制度や個別の事件に関する「知識」が求められているわけではなく、ビジネス上の発想法として役立つような「知財センス」を身につけたいところです。一方で、知財分野の専門家にも「ビジネスセンス」が求められる時代となってきましたが、何も知財の専門家にMBAレベルの経営知識を駆使することが求められているわけではありません。自らの得意とする「知財」を切り口にして、「知財」が「ビジネス」の中でどのように活きるのかをビジネスパーソンの視点で見ることができる「センス」こそが、今まさに必要とされているものなのです。
 このような問題意識から、ビジネスパーソンの「知財センス」、知財人の「ビジネスセンス」に活かせるような「発想法」について、本稿ではいくつかの切り口を提示していきたいと考えています。