経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

力のある言葉

2008-02-10 | イベント・セミナー
 先日の中小企業のための知財戦略活用セミナーですが、和歌山では昭和の高安社長に、高知ではしのはらプレスサービスの篠原社長にご講演いただきました。いずれもとても説得力があり、迫力のあるお話でしたが、両社長ともに人材・モチベーションの問題として知財戦略を語られていたことが印象的でした。

 知財戦略というと、我々知財人は当然ながら「技術」「ブランド」といった要素に対する効果に目がいきます。勿論、知的財産権とはそういう制度なので、そこを外しては考えられないのですが、中小企業の現実に照らした問題として考えると、実はそれだけでは不十分なようです。
 くしくも両社長は「人の定着」「モチベーションの向上」といった同じ経営課題を挙げて、その経営課題との関係で知財に言及されました。高安社長のお話によると、会社の向かう方向・未来像を形にして示す上で、特許という手段が有効であるということ。そこに時間や費用を投下することは、社内外に‘本気度’を示す効果もある、とされています。篠原社長からは、特許ということだけでなく、社員の行っている作業手順をマニュアル化したり、顧客データを管理したりすること(いわゆるナレッジマネージメント)が、全て会社の‘知的財産’として蓄積されており、それが社員の知的満足度を高める効果を生んでいる、といったお話がありました。これらの取組みを始めてから社内の雰囲気が変化し、経常利益が倍々で伸びているとのことです。
 どうしても我々知財人は、「特許をとったことで、収益に~の効果があった」という側面にばかり目が行きがちですが、モチベーションが高まって社内が活性化した場合の収益に与える効果に比べると、特許権が収益に直接的に与える効果など、おそらくしれていると思います。知財活動に力を入れるといった場合にも、
 それが社内のモチベーションを高める活動か?
という視点も、とても大切なのではないかと考えさせられました。ここでいうモチベーションとは、技術者が自分で特許調査をするようになった、発明提案書を書くようになった、とかいうような知財人の基準からみた‘知財マインドの向上’みたいな話ではありません。個々の社員が会社に誇りを持ち、会社の目標に向かってそれぞれの持ち場で最大限の力を発揮していけるようになるか。そのためには、知財の常識を形式的に当て嵌めようとするのではなく、社長の示す方向性・未来像を引き立てることができるような知財活動にしていくことが大切なのではないかと思います。

 2人の社長の講演をお聞きしてもう一つ感じたこと。多くの経験の中で悩み、深く考えられた上で発せられる言葉には‘力がある’ということです。プレゼンの方法云々の問題ではなく、言葉に力があることが両社長の魅力なのだろうと感じました。


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4 コメント

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全く同感です (久野)
2008-02-10 07:01:13
創意工夫に人間は喜びを感じるものです。喜びを感じることをするとモチベーションがあがり、成果も出てきます。創意工夫の成果を特許出願という形で表現することで目に見えるようにすることは大切だと思います。その際に気をつけねばならないことは、件数ではなくできるだけ中身の素晴らしさに着目することです。件数だけに着目して取り扱われると、人はモチベーションを下げます。創意工夫の成果を件数としてのみ取り扱われたり、金銭価値のみで論じられると、創意工夫の内容や創意工夫をした人に対する尊敬が感じられず、単なる資産や資源としてしか見られていないように感じるからです。作品として扱う必要がありますし、作者として扱う必要があります。ここに、知的資産経営の落とし穴があります。
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Unknown (土生)
2008-02-10 19:31:00
久野様
コメントありがとうございます。
たしかに‘件数’基準では意味がありませんね。一方で、中小企業は一つ一つの発明やノウハウの意味合いが経営者の目に届きやすいですが、大企業の場合はその点が難しく、‘件数’という客観性の高い基準に向かってしまいがちなのだと思います。しかしながら、それでは本来の意味を失ってしまいますので、どうやってモチベーションに結び付ける仕組みを作るかが難しいところなのでしょう。
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大企業病の原因 (久野)
2008-02-14 06:23:03
土生さま
ご指摘の点は、大企業病というような組織の病理の原因を説明されていると思いました。
組織が大きくなりすぎたり、構成員の間の共通の価値観や認識の基盤が崩れてくると、どうしても件数とか数値という表層レベルの情報のみが、構成員の共通基盤となるのではないかと思います。志とか美意識というような深層レベルの基盤が組織からなくなると、組織の構成員の行動も単なる金銭的な自己利益や、活動時間短縮というような表層レベルの価値を中心に行動するようになると考えます。それは、大企業病や官僚主義という組織の崩壊現象の原因だと思いました。
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Unknown (土生)
2008-02-15 08:49:38
久野様
コメントありがとうございます。
そういう意味では、日本最大の企業であるトヨタがそんな風に痛んでいない(少なくとも外からはそう見える)のは、凄いことだと思います。地元、社風など、ルーツを見失わないところが強みなのでしょう。
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