経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

この企業にとって特許とは何なのか?

2007-10-21 | 知財発想法
 昨日、あるところで知財コンサルティングのいくつかのプランのプレゼンテーションを聞かせていただく機会があり、そこで感じたことなのですが、
「特許に関する問題を解決すること」
を考える前の段階として、
この企業にとって特許とは何なのか?
この企業が抱える問題は特許で解決できることなのか?
ということを詰めておくことが、とても重要になってくると思います(「知財戦略のスタートライン」もほぼ同旨)。特許の件数を増やすことや特許訴訟に勝つことが企業経営の目的ではないので、あたり前といえばあたり前なのですが、「知財」という日常的に専門的な業務に携わっていると自己の情報を過大に評価してしまうおそれがあるので要注意です。大事な原則というのは意識的にクセをつけておくことが必要ですので、覚書として書き留めておきたいと思います。

原点回帰

2007-10-20 | 書籍を読む
 「経営パワーの危機」は、読みやすいストーリーの中に経営の本質が散りばめられた良書中の良書です。ベンチャーファイナンスを仕事にしていた頃に夢中になって何度も読み返したバイブルで、私にとっては「経営」に興味をもった原点みたいな本です。最近ある方にこの本を紹介したこともあって、久しぶりに紐解いてみました。
 以前とは違う「知財」という側面から企業に関わる立場になってこの本を読んでみると、もし自分がこのストーリーの中に存在していたとするならば、それぞれの場面で果たしてどのような貢献ができるのだろうということが気になってきます。知財の側面だけから企業を見ようとするのではなく、こういう経営のリアリティの中でどういった貢献の仕方があるのかを考えてみることは、抽象的な「知財経営」を論ずる本を読むこと以上に有益なことなのではないでしょうか。

経営パワーの危機―熱き心を失っていないか (ビジネス戦略ストーリー)
三枝 匡
日本経済新聞社

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ライフスタイルを変える企業

2007-10-19 | 新聞・雑誌記事を読む
 本日の日経金融新聞から、昨日ご紹介したランキング上位企業の紹介記事が掲載されるそうで、初回の今日は1位の任天堂が紹介されています。その見出しは、「もはやゲームではない」です。
 任天堂の株価が急騰した時期はこの20年で2回あり、1回目は「ゲームボーイ」と「スーパーファミコン」が牽引し、2回目は言わずもがなの「DS」と「Wii」です。「DS」と「Wii」のヒットで、任天堂はもはやゲーム業界の枠を超え、アップルやグーグルのような「ライフスタイルを変える企業」として評価されているとのことです(かつてのインターネットバブルなどを思い出すと、こういう評価のされ方というのは危ないといえば危ないのですが・・・そのあたりは記事でも警告されています)。
 それにしても、「ライフスタイル」に影響するレベルになってくると、知財についての考え方も同レベルでの競合間との話とはちょっと違ったものになってくるのかもしれません。技術的に抵触する云々を攻めて何らかの機能的な部分で巻き返そうとしたところで、DSやWiiはライフスタイルですから、それでシェアを奪うというシナリオにはなかなか結び付かない(むしろ消費者の反感を買うおそれすらある)のではないか、といった気がします。

任天堂、イビデン、キヤノン、タムロン・・・

2007-10-18 | 新聞・雑誌記事を読む
 本日の日経金融のトップ記事に、過去20年の株価上昇率のランキングが掲載されています。1位の任天堂以下、イビデン、キヤノン、タムロンと技術系の企業が続いていて、長期的にみるとやはり技術力で差別化できる企業は強い、ということがよくわかります。
 その技術がどのように守られてきたかですが、「特許」についてはキヤノンがランクインしてくれていてなんとか面目躍如といった感じですが、その他は匠系、練り物系など、どちらかというとノウハウの要素が強そうな企業が多そうです。トップの任天堂に関しては、特許の貢献についてはよくわかりませんが、何となく特許云々を超越した独創性でビジネスの決着がついてしまっているような印象も受けます。
 世界的には、近年は技術より一次産品の希少性が高まっている傾向が強くなっていますが、資源の乏しい日本の競争力は、やはり技術力をおいて他にない、ということを改めて思い知らされます。

センサー

2007-10-17 | プロフェッショナル
「同じ練習をしていても、何を感じながらやっているかで、ぜんぜん結果は違ってくるわけです。」
 (「イチロー262のメッセージ」No.100より)

 知財人材の条件云々を耳にすることが多くなっていますが、よく言われる「何を知っているか」ということ以上に、「何を感じとるか」というセンサー機能が実は大切なのではないでしょうか。知財の実務はとてもマニアックで込入った知識も要求されるため、普通に仕事をしているとある部分のセンサーばかりが進化し、一ビジネスマンとしてもっておくべきセンサーが錆付いてしまいやすいように思います。センサーの効き方の違いは、企業の他部門からの「何か違う」という印象を生む原因になってしまいます。自分としてもここが一番怖い部分であり、知財の実務をこなしながらも多様なセンサーを磨くことにはできるだけ意識を向けておきたいところです。

 ‘MOT’や‘MBA’などの知識をインストールしたところで、それをどのような場面で動作させるかはセンサー次第であり、変な場面で動作させても浮き上がってしまうだけです。逆に、センサーがしっかり働いていれば、もっと平凡なプログラム、知財人としてはあたり前の基本動作であったとしても、「ビジネス」的な要請に応えることは十分に可能であると思います。

イチロー 262のメッセージ
『夢をつかむイチロー262のメッセージ』編集委員会
ぴあ

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商品の強さを支える財務戦略

2007-10-16 | 新聞・雑誌記事を読む
 本日の日経金融で解説されている「キャッシュ化速度比率」に関する記事が興味深いです。ゴールドマンサックス証券・電機担当アナリストの藤森裕司氏のリポートで分析されているそうですが(図の出所は同証券)、日本の電機メーカーの課題の一つとして、運転資本の管理が求められるのではないか、というご意見です。
 図では、縦軸にキャッシュ化速度(売上の回収期間と原材料等の支払期間の差、要するに売上をどれだけ早く現金化できているかというスピード)、横軸に投下資本利益率(要するに投下したお金に対してどれだけ儲かったか)をとったグラフに主要企業の数値をマッピングしてみたところ、任天堂、アップルなど独自性の高いヒット商品を生み出しているメーカーは右上側にあり、苦戦している電機メーカーは左下側に集中している、という顕著な結果が出ています。つまり、運転資本の管理がしっかりなされている(売上を早く回収し、支払を長期化し、在庫を圧縮する)企業ほど、潤沢なキャッシュが激しい競争を生き抜く源となっているとのことです。ヒット商品があるからキャッシュポジションもよくなるという言い方もできるので、どちらが卵か鶏かというところもありますが、運転資本と強い商品が密接に関連しているということは間違いなさそうです。
 ファイナンスそのものが目的化してしまうのではなく、ファイナンスが商品の強さを、ひいては企業の競争力を支えるという、本来あるべき姿の好例であると思います。

まろやか

2007-10-14 | 知財一般
 近年では最もわかりやすい知財の成功モデル「ヘルシア緑茶」の新製品、「ヘルシア緑茶まろやか」が登場したので、さっそく飲んでみました。茶葉の甘みをひきだした後味スッキリが特徴とのことですが、確かに「ヘルシア緑茶」と違って普通の茶飲料の味になっています。ただ、「ヘルシアウォーター」のときとは違って「ヘルシア緑茶」と同種の新製品なので、カニバライゼーションを起こさないかどうかが問題になりそうです。
 3日ほど続けて「まろやか」を飲んでみた印象ですが、すっきり飲めるものの「ヘルシア緑茶」のようなパンチがない。個人的には「ヘルシア緑茶」を夜間労働の眠気覚ましに愛飲しているので、「まろやか」では物足りない気がします。ところが、今日は「ヘルシア緑茶」に戻してみたところ、「まろやか」の味を知った後だとちょっと苦すぎて飲みにくい感じがして、どうもこれからは「まろやか」にシフトしてしまいそうです。ということは、カニバライゼーションが起こっているということですが、私のように眠気覚ましという用途でない消費者にとっては、「ヘルシア緑茶」は苦すぎて飲めなかったけど、「まろやか」ならOKというケースも結構出てきそうであり、全体の顧客層を広げる効果が結構期待できるのかもしれません。いずれにしても、「まろやか」へのシフトが相当程度起こりそうなので、知財面では「まろやか」固有の技術もこれまで同様に堅い守りが求められるところですが、おそらく今回もガッチリ固めてきているのでしょうね。

知財戦略のスタートライン

2007-10-11 | 知財発想法
 知財戦略を論じ、検討する場面において、「知財は重要な経営資源である」ということが大前提にされていることが多いのではないでしょうか。実はこのように「大前提」を置いてしまっていることが、ビジネスパーソンに何か知財への違和感を与える原因になってしまっているということはないでしょうか。
 知財戦略を考える場合に最初に重要なことは、その企業にとっての知財の重みを大雑把でもよいので把握すること(定量的でなくてもよい)なのではないかと思います。
 企業活動を支える様々な要素(資産)のうち、知的資産はその一部であり、知的財産はさらにその一部です。ある企業(例えば製薬会社)にとっては、知的資産、その中でも知的財産が全体に占める重みは相当なものであることが多いでしょうが、同じ技術系でも他の企業(例えばインターネット系サービスを提供する企業)であれば、知的資産はそこそこの重みを占めるものの、知的財産はそのほんの一部ということがありがちなのではないかと思います。
 これを把握した上で、前者であれば「知的財産の保護は経営上の重要課題」ということで進めていけばよいですが、後者の場合は「では、知的財産を保護することで何ができるか?」「他の資産にどのような貢献ができるのか?」といったことから考えていかなければならないと思いますし、そこの検討が詰まっていないと「知財は重要な経営資源・・・」と唱えてもホンマかいな、という話になってきてしまいます。
 これは、金融セクターが知財を評価する場合も同じことで、まず必要なことはその企業にとって知的財産がどの程度の重みを持つかを把握するということであり、それもなしに個別の知財を評価したところで、それが企業全体に与える影響を正確に捉えることはできません(例えば、知財の重みが10%の企業が80点の知財を持つのと、知財の重みが80%の企業が50点の知財を持つのと、どっちが価値があるのかという話です)。
 因みに、企業を評価する場合には、当然ながら知的資産のさらに外にある資産にも意識を振り向けないと、企業の正しい姿は見えてきません。例えば、山を買ったことが効いている信越化学は技術だけを見ていてもその強さはわからないし、日本の製造業の強さの一つには動産(特殊な製造装置)が効いていたり、巨大プラントの投資を決断できる資金力が効いていることは重要な要素であると思います。

タクシー料金と代理人報酬

2007-10-10 | 新聞・雑誌記事を読む
 本日の日経の大機・小機のコラムに、「タクシー値上げへの疑問」という記事が掲載されています。先日、都内のタクシーが値上げになるというニュースが報じられていました。燃料価格の上昇や安全性確保のためにも運転手の待遇改善が必要、というのが大義名分らしいのですが、価格とは需要と供給で決まるものであり、コストを基に価格を決めるというのは社会主義計画経済のやり方である、供給に対して需要が不足しているデフレ業種において値上げをすれば、客足が遠のいて状況はさらに悪化するだけ(クリスマスの翌朝にケーキを値上げするようなもの)、とバッサリ斬っています。「銀座のコーヒーが高いのは出店コストのせいではなく、1000円でも飲む人がいるからだ。値段は市場が決める。」とは、まさに仰るとおりです。
 需給バランスの悪化によるデフレという意味では弁理士業も他人事ではありませんが、これに対して「そんなに安くては質の高い仕事はできない。ちゃんとした明細書を書こうと思えば○十万円はどうしても必要だ。」ということがよく言われます。一見すると正論のようにも思えるのですが、よく考えてみればこれもコストを基に価格の正当性を主張する社会主義計画経済的なアプローチです。「銀座のコーヒーは1000円でも飲む人がいるから1000円である」という理屈に照らして考えると、「ここで出願することに○十万円の価値があるから代理人報酬は○十万円である。」と納得が得られるような仕事の仕方を目指すということが、市場経済下における正しいアプローチということになりそうです。

粗利率 その3

2007-10-09 | 知財発想法
 このブログでは、なぜか「粗利率」へのアクセス数が多いということを以前に書きましたが、Googleで「粗利率」と検索してみると、なんと4位に挙がってくることがその理由であるようです(SEO対策を導入してるわけでも何でもないのですが・・・)。となると、1位はどんなページかが気になるところですが、「経営シミュレーション研修による人材養成プログラム」というサイトの「売上総利益(粗利、荒利益、粗利率)とは」という解説ページでした。このページには、単なる用語解説ではなく具体例を挙げた詳しい説明がされているのですが、ちょっと驚いたことに、「特許」の視点からも採り上げられることの多い企業がいくつか並んでいます。
 日亜化学の例は言うに及ばず、医薬品業界の粗利が高いというのは、「特許の効果は本来的には粗利に表れる」ということの典型例でしょう。ヘルシア緑茶に代表される特許の成功モデル(「知的財産のしくみ」p.134~135)を擁する花王が採り上げられているのも興味深いところです。この中で、特許の効果から説明しにくいのが飲料業界の粗利率の高さですが、どの会社も粗利水準が高いことや、小売店での激しい値下げ競争を考えると、特許が効いて価格競争が緩和された結果とはちょっと考えにくいところです。このページでも少し触れられていますが、単価の安い商品であるために包装や流通コストの占める比率が高くなってしまい、このくらいの粗利率がないとそもそも事業として成り立たないということが、表面的な粗利率の水準が高くなる理由なのではないでしょうか。あたりまえの話ではありますが、特許の効果を粗利率からみる場合には、絶対水準ではなく同業で比較した場合の相対水準で測るべきということでしょう。