経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

静的な知財権の効果ではなく、動的な知財活動の効果

2010-06-25 | 7つの知財力
 前回のエントリで‘中小企業の実態’としてなすび様にいただいたコメントですが、まさに私自身もここ数年来意識的に考えてきているのはこの部分(=各々の企業にとっての知財活動の目的・位置づけを詰めて考えているか)です。
 この部分にフォーカスする理由の一つは、コメントでご指摘いただいたような「特許は重要!経営の武器になる!」という根拠の不明確な一般論がいまだに幅をきかせている事実がある、ということです。
 もう一つは、私自身が従来より「特許は参入障壁として用いる道具であり、その道具を効果的に使って価格決定力を強化するのが『経営に資する知財戦略』だ」といった原則論を主張してきたのですが、こうした原則論が適用できるケースはかなり限定されており、この原則論だけでは事実上説得力をもたない、ということです。

 こうした問題意識に対して、今の時点での個人的な整理は以下のとおりです。
 まず、知財活動の目的・位置づけについては、知的財産権が独占権であるといった法律論ではなく、実際に知財活動が経営に有効に機能している企業の事例、事実から積上げていく必要があります(でないと、リアルな経済社会で戦っている経営者には何の説得力ももちません)。
 そして、その積上げた事実から、知財活動の役割を整理することが必要です。その際には、知財権という成果物だけを静的に捉えるのではなく、知財活動という動的な活動の果たす役割から、もう一度知財活動のもつ意味を整理してみるべきと考えます。

 知財活動を動的に捉えなおしてみると、大きく2つの工程に分けることができます。
 一つは、特許を出願するにせよ、営業秘密を管理するにせよ、曖昧な状態にある知的財産を文章化等することによって明確に切り出すという第1の工程です(図の①)。
 もう一つは、切り出した知的財産に認められる法律的な効力を活かして、外部に何らかのはたらきかけを行うという第2の工程です(図の②)。

 知財活動がどのように役に立つかというと、特許権等の知的財産権の排他的効力を活かして、参入障壁としてはたらかせることで他者を市場から排除して自社のポジションを有利にする、と説明されることが多くなっています。もちろん、こうした典型的なパターンもあり得るのですが、これは第2の工程の活かし方の一部に過ぎません。
 では、知財活動には、他にどのような経営上の成果が期待できるのでしょうか。

 第1の工程で考えられるのは、(私の知っている事例から積上げた限りでは)次の3つの効果です。
(1) 知的財産の見える化
 対象を特定し、他の技術と対比する過程で、自社のもつ技術を客観的に把握できるということです。受注生産型→提案型への転換を進める際に、提案のベースとなる技術を客観的に把握するのに有益な場合があると考えられます。
(2) 知的財産の財産化
 企業内に生まれた知的財産がそのままの状態だ誰のものなのかが明らかではありませんが(∴人材とともに知的財産が流出するおそれがある)、企業の名義で特許を出願したり企業の営業秘密として管理することによって、企業の財産であることが明確になります。
(3) 創意工夫の促進・社内の活性化
 知的財産を明確化する過程で、それが誰の成果であるのかが明らかになり、創意工夫を促進し、ヤル気を引き出す仕組みとして活用することが考えられます。

 第2の工程で考えられるのは、(私の知っている事例から積上げた限りでは)次の4つ(第1の工程とあわせて計7つ)の効果です。
(4) 競合者間における競争力を強化する
 これが先ほど説明した参入障壁を効かせる典型的なケースです。
(5) 取引者間における主導権を確保する
 簡単には説明しにくいのですが、知的財産権の排他的効力を、競合者=横の力関係ではなく、取引者=縦の力関係に活かす、取引のコアになる技術等に関する権利を自社の側で抑えることによって、価格交渉等のイニシアチブを握ろうというケースが該当します。
(6) 自社の強みを外部に伝える
 自社の強みをPRするのに、当社だけの技術というより特許権者というほうが客観的な説得力がある、当社が元祖というのも商標権者であればより客観性がある、といった意味で、オリジナリティを客観的にPRするのに活かすことが可能です。
(7) 協力関係をつなぐ
 ここは中小企業の知的活動を考えるうえで結構ポイントになってくる部分で、書き出すと長くなってしまう(すでにかなり長くなっていますが)ので止めておきますが、そもそも中小企業は経営戦略として他社と連携しながらどういう位置取りをしていくかということが重要な要素となることが多く、‘他者を排除する’という方向はそれとは相反するものです。ライセンス、共同開発などの形で知的財産を協力関係に活かす、ということも忘れてはならない発想のように思います。

 とまぁ、こうやって書いていくと何か可能性が盛り沢山でバラ色のように見えたりするかもしれませんが、(1)~(7)のどれも当てはまらない、あるいは効果に比して費用がかかりすぎる、というケースも多々あろうかと思いますので、多くのケースをあげて「知財活動は必ず中小企業の役に立つ」と主張するものではありません。
「知財活動を実践すれば→経営の役に立つ」
ではなく、
(その企業にとって)経営の役に立つならば → 知財活動を実践すればよい
という順序で考える際に、知財活動のもつ可能性を潰してしまうことがないように、というのが、このまとめの狙っているところです。

※ 宣伝ですが、本日の話を中心にした書籍を8月頃に出版する予定で現在準備を進めています。(1)~(7)の意味を事例も交えながら説明しているので、詳しくはそちらで、ということで。


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