「グロッサリー担当者、10番まで」
副店長のお呼びである。
「鈴木さん、グロッサリー担当者だって。朝礼みたいよ!」
岸辺さんにも声を掛けられ、空になったダンボールを抱えてバックへ急いだ。
インフルエンザから見事、復活し、職場復帰した矢木さんの他、末永さん、ハマグリ君、岸辺さんが集まった。
「まず、これなんだけど・・・」
副店長から一人ひとりに渡されたのは、『お特なカード』
何でも、これがあると、グループ企業のホテルや遊園地で割引を受けられるという。
「チャチャタウンの観覧車に、タダで乗れます!」
幼稚園児のお子様がいる副店長には、これが一番魅力のようだ。
「小さい子が居る人は、いいけどねえ・・・。私達は・・・」
矢木さんが、そういいながら『ご利用可能な施設、一覧表』を扇のように広げた。
「あっ。矢木さん、これなんか、あなたに、ど~お?? **旅館だって!温泉があるんじゃない?」
岸辺さんのお勧めに、矢木さんの目も光った。
「そうねえ・・・」
ハマグリ君は、夜中のアルバイトと掛け持ちの為、
ただ、ひたすら眠そうだが お姉さま方は、一気に目覚めたようだ。
「え~っと・・・」 (ゴホン)
副店長は、ここからが本題とばかりに、一同に声をかけた。
「それで・・・ですね。それは、もういいから、しまって・・・」
「 ペチャクチャペチャクチャ***」
「・・・・・」
「 棚卸しが!3月10日です」
「し~~~~ん!」
ここでは略すが、副店長が棚卸しの説明をした。
当然だが、皆、真剣に聞いている。
「それから、もう一つ・・・。日曜日は何をする日?ハイ、矢木さん!」
何故だか、副店長は矢木さんを指名した。
「清掃の日です」
「ハイ、正解。ご存知のとおり、ワオンは新店舗で、あっちは
ピカピカ光ってるけど・・・。ウチは、老朽化が進んで・・・まあ、3年も経てばね。そこで、日曜日は、クリーンネスの日ですから、皆さん掃除の方をお願いします」
スタッフ全員に向かって語りかけた後、副店長は、ちらっとこちらを見て、自分自身に言い聞かせるように、言った。
「俺も初心に戻って・・・」
最後の方は、よく聞こえなかったが、初心 と聞いて、思い出した!
あれは、7月の暑い夏の日。
まだ、ここで働き始めて2~3週間が過ぎた頃のことだった。
補充をしていると、棚に埃が舞っているのだ。
とにかく、ほこりっぽい。
かといって、まだ入りたての私に、「棚が汚いから掃除したい」と、でしゃばるのも どうか・・・と、思われた。
しかし、日曜日は商品も入荷されない。
比較的、暇である。
その頃、日曜日は、私は午後出勤だったから、余計に、これといって仕事がない。
そこで、遂に、かねてから気になっていた事を副店長にお願いした。
「棚の掃除をしたいのですが、雑巾はありますか?」
すると、副店長は、「ちょと待って下さい」といったまま、店長室の中へ入り、扉をバタン!と閉めた。
まるで、扉の向こう側を私に見られたら困るかのように・・・??
再び現れた副店長が手にしていたものは・・・。
「ありがとうごさいます・・・」 (ん??これ、どう見ても雑巾というよりは、
新品のタオル)
私に雑巾・・・というよりは、タオルを手渡したあと、副店長は、身体の向きを変え、
「バケツは、あそこに・・・」
大型冷蔵庫の横を副店長が指差したので、その場に居た西村チーフ、カトちゃんも、いっせいにバケツを見た。
確かに、バケツはあるには、あったのだが・・・・。
なんと、そのバケツには花が活けてあったのだ
これって・・・店長の趣味!?
「・・・・」
絶句の副店長。
にやりと笑った西村チーフ。
吹き出しそうになるのをやっと堪えた私。
私にとって、とあるスーパー最初の「クリーンネス」は、こうして始まった!
(初心・・・ね、初心・・・)
副店長には、なんと、笑いの小道具まで用意されている。
これって、まさか、三谷幸喜さんの演出じゃあないですよね!?
2007年3月 別ブログ、「とある街のとあるスーパー」に初登場記事です。新店舗オープンに携わってきたミナミちゃんこと、南副店長は まじめにお掃除のお話をしていましたが、わたくし、すずは話を聞きながらも色々と思い出して苦笑。 掃除一つも楽しく愉快な日々でした。
次回のお話はミナミ副店長目線でお伝えしますっていうか、2つ下の記事に先に書きましたっけ・・・・。ということは、次回はその続編ですね。