「副店長、副店長、外線1番まで」
きっと俺がお問い合わせしておいたミツ豆食品からの電話だろう。
俺は急いで受話器を耳に当てた。
「はい、南です」
「お疲れ様です。鈴木ですが・・・南副店長ですか?」
「・・・・・・?」
鈴木すず子には、一度、「7月1日から とあるスーパーへ来て下さい」という用件の どきまぎ電話をしたことがある。
しかし、すず子からの電話を受け取ることは、今回が実は初めてなのである。
一体、どうしたのであろーか?
すず子は ほんの一時間半ほど前に退社したばかりだったのだ。
俺は遅番だった為、直接すず子に会ってはいないが、すず子と岸辺さん矢木さんの三人がお喋りしながら退社していく後ろ姿は見ていた。
何だか嫌な予感・・・
電話の向こうの 「間」 に 胸騒ぎがする俺。
「副店長が、絶対欠品させないように・・・・といっていた生活良好の小麦粉があるでしょう。あれ、今日も未入荷だったんです。今回は絶対に2ケースも発注を上げたのに。おかしいなあ、と思って売場へ行って確かめたら、プライスカードが違っていてですね・・・。
それで西村チーフに報告したら、他店舗に電話して下さって、正しいJanコードを聞いて発注上げてありますから」
すず子は これだけ一気に喋った。
実は棚卸しの日に、米を積んでいた俺の元へすず子はやってきて、こう言ったのだ。
「副店長、私が欠品させたときは、遠慮せずに怒ってもいいですよ。エンドの海苔、すっからかんになっていたでしょう? 9月の新学期になって、突然売れて・・・お弁当と行楽シーズンと運動会が理由? とにかく、南副店長は他のスタッフには厳しいって聞いています。でも、副店長、私には何も言わないから・・・・」
「モニターリストを見てみたら、木曜日にちゃんとエンドの海苔の発注上がっていたから・・・いいと思って・・・」
俺は途中で口ごもった。
「何も言われないと、諦められているような気がしてしまうんです。遠慮せずに怒ってください」
「・・・・・・・」
俺は ちょっと変わった申し出に、瞬きしたが・・・
そうかっ!
其処まで言うのなら!!
欠品させたら、叱ってやるかぁ~
遠慮せずに!!!
俄然 張り切る俺。
とても素直な俺、ミナミちゃん。
数日後、生活良好小麦粉が欠品しているのを発見した俺は、オープン前に早速すず子を呼び出したのである!
「鈴木さん、ちょっといい?」
俺は、朝の荷出しをほぼ終えたすず子を呼びに行くと、小麦粉売場まで誘導した。
・・・・・・・ ミナミちゃん、すず子を小麦粉売場まで誘導中の図
俺は1オクターブ、低い声で言った。
「鈴木さん、これ、欠品してるんだけど」
素直に謝るかと思いきや・・・すず子は反論した。
なしてやぁ~
「私が発注したときは、たくさんあったのです。急に一番安い小麦粉を誰かが買い占めたのかもしれません。学園祭か何かで お好み焼きでも大量に作るのに追加で小麦粉が必要だったんじゃないですか?」
俺はパンチを食らったように面食らったが、
「そっ・・・それも有り得る。しかし・・・
こんなのを欠品させたら、いかん!」
と、怒っても良いと許可を得ている上司らしく振舞った。
「いつもは、こっちしか売れないのに、隣のこちらも売れてしまって・・・」
「あ、それは、そっちがないから、こっちも売れた訳ですよ」
「じゃあ、今日の発注は2ケース上げておきます」
・・・・・とまあ、そういうわけだ。
2ケース発注上げた筈の小麦粉が未入荷だったが、西村に頼んで正しいJanコードで発注を上げているから・・・という連絡の電話だったのだな、つまりは。
よ~く分かった! では、これで・・・と電話を切ろうとしたとき、すず子は言った。
「生パン粉も私が発注を上げた時点では充分な在庫があったのですが、仕事を終えたあと、少なくなっていました。追加で発注を上げて頂けますか?」
「了解♪ 小麦粉の方は発注上がっているのですね?」
念のために確認すると、すず子は、はい、と返答した。
・・・・・と、ここまでは普段、売場で目にする鈴木すず子の話し方だったのだが・・・。
つばめ君と同じく、丁寧語である。
「いやぁ・・・ね。荷出しをしよったら、発注した筈の小麦粉が無くてね。プラットホームへ行ったら、あの小麦粉の隣に並んでいるハート小麦粉が2ケースも届いててさぁ。
なんで、こんなんが入荷されるん!? 2ケースもっ! って思ったわ~。生活良好の小麦粉、発注しても はいってこんのよぉ~って副店長に言わないけんって思って」
ここで ズテン! とすず子が自宅のソファに寝転ぶ音? が聴こえた。
はっ・・・はははっ・・・入ってこんのよぉ~!?
なっなんちゅう言葉使い?
「ぶっわははははは- !」
俺は場所も忘れて大笑いしたっ!
「・・・・・・ そっ・・・それでは、失礼致します」
すず子は急に我にかえったかのように、再び敬語になったかと思うと、慌てたように早口になった。
「・・・・・」
失礼致します、と言われて、黙り込む俺。
ガチャン!! とすさまじい音を立てて、電話は切れた・・・・。
ツーーーーーーーーッ!
良い子の皆さんは、相手が受話器を置いた後に、静かに電話を切りましょう~
翌日の朝。
今度は海苔が入荷されない、と俺に言う鈴木すず子に俺は花園バイヤーの電話番号を渡しながら言った。あぁ、この乗りは終売だと思うが俺はすず子と乾物の花園バイヤーを引き合わせたく、こう言った。
「発注しても未入荷の場合は、花園課長に電話をして、
これさぁ。発注しても、入ってこんのよぉって言えばいいから」
俺は勿論、冗談で言ったのだが、俺に負けず劣らず何でも真に受けるすず子は言った。
「本当に、入ってこんのよぉ~なんて、言ってもいいのですか!?」
俺は、先日の すず子、すなわち自宅のソファに腰掛けた途端、くつろぎすぎて?俺、南ちゃんに対しても友だち言葉になまる電話を思い出し、吹き出しそうになるのを堪えながら言った。
「花園バイヤーも、 ん・・・? と思うだろうね!(爆)」
ミナミ