2011年12月22日(木) ステップ2達成と事故全体の収束
政府は、12月16日、事故原発のステップ2が終了した、と野田総理が、記者会見で発表した。同日、恒例となっている「事故の収束に向けた道筋」の進捗状況について、ステップ2完了報告書として公表されたようで、東電のHPにもアップされた。
当初予定より、1か月繰り上げたステップ2完了の発表は、大分前から言われていたことで驚きは無く、自分としても、喜ぶべき事として静かに見守っていたのだが、世間の反応は、違っていた。“事故による放射能問題は、全然収束しておらず、故郷に戻れる訳ではない”、など、かなり、感情的な反発も多かったのである。
事故関係者は、事故原発そのものは、ほぼ、コントロールできる状態になり、以前の様に、予期せぬ、新たな爆発や、放射性物質の大量放出や環境汚染等が、再び起こる危険性は、ほぼ無くなった、と言えることを、確認したのであろう。事故原発という、一時、大暴れした、恐ろしいライオンを、何とか、檻の中に閉じ込め、おとなしくさせることに、成功した、のである。
事故直後の、何が何だか分からず、どうしていいかも分らず、慌てふためいた当事者や専門家集団や報道関係者としては、漸くにして、落ち着いて、全体を見渡せるようになった、と言えよう。
これまでは、冷温停止状態の実現という、ステップ2の達成に向けて、当事者・関係者で、厳しい作業が、営々と進められて来ており、頭の下がる思いだが、その都度、当ブログでも、
冷温停止状態実現! (2011/10/20)
などと、この4月以降、毎月、フォローして来た。
今回の最終報告についても、
・原子炉が冷温停止状態を維持していること
・放射性物質の新たな放出が減っていること
・高濃度汚染水の処理が進んでいること
等について、確認出来た次第である。いつもの、グラフ類の引用等は、今回は、省略する。
ただ、ステップ2の完了とは言え、当ブログで、これまでも何度も触れて来たのだが、現行の「循環注水冷却システム」の危うさは、そのまま残したままである。 熱交換器による原子炉の直接冷却や、高濃度汚染水の垂れ流しを止めるための、原子炉周辺の配管の補修等の、抜本的な措置は、中長期の課題として、残されたままなのである。
なお、報告では、今後の取り組み体制については、
政府・東京電力統合対策室を発展的に廃止し、新組織を設置する。この新組織により中長期のロードマップを決定し、廃炉に向けた現場作業や研究開発を行い、進捗状況は、定期的に公表する。
としている。
7月のステップ1達成を経て以降は、ステップ2ばかりが強調されてきたのだが、全体のステップがどうなっているのか、さっぱりわからないのは、大きな不満であった。
次の、ステップ3、ステップ4、などが、どう設定されるのか、誰にでもわかる、具体的な言葉で、ロードマップを示すべきであったのだ。
でも、示したくても示せない、手探りの状態の連続であった、というのが、本当のところだろう。それが示されていないのに、ステップ2だけ、異様に強調されて来たのである。
今後に向けては、下記の様な、多くの課題が考えられる。
Ⅰ事故原発自体の措置
a冷温停止状態の実現(ステップ2)
b周辺に対する各種環境対策(海も)
c廃炉に向けた処理(中長期的課題)
Ⅱ放出された放射性物質関連の処理
a地域の除染と放射性廃棄物の処理・焼却灰や汚泥の処理(一時、恒久)
b警戒区域等の解除と住民の帰還
c東日本一帯の放射能汚染問題(食の安全・住の安全等)の解決
d周辺住民の健康管理と追跡調査
e被災者・被害者の賠償問題
総理は、記者会見で、口頭で、今後に残された三つの課題として
・放射性物質の除染
・住民の健康管理
・被害者への損害賠償
を挙げたが、ポイントを突いてはいるものの、十分とは言えない。
全体のステップを、富士登山に譬えて見ると、現在の富士登山は、5合目までは、バスや車で行き、そこからが自分の足で登るのだが、今回のステップ2(Ⅰa)は、本格的な登山道の入り口である、5合目に立った、ぐらいだろう。
事故原発の廃炉工程の完了、除染等に伴う放射性廃棄物の恒久管理、住民の長期的な健康調査等は、今後、数十年、いや、数百年かかる、息の長い道のりなのである。
そこまでとは言わなくても、少なくとも、避難した住民が帰郷でき、何とか安全に生活できる環境が整うとともに、東日本一帯の放射能汚染問題(食の安全・住の安全等)が解決されること(Ⅱa、b、c)が、当面の目標で、富士登山では、ご来光を拝める、八合五勺位になるだろうか。これらに要する時間的な長さは、Ⅰ とも関連するが、早くても、2~3年、山林や農地が戻るまでには、長ければ、5~10年ぐらいはかかるだろうか。
先日の記者会見では、
“事故そのものは収束した”
といういい方が、強調されたが、極めて、誤解を招く表現なのだ。
“そのもの”、の意味合いが、曖昧で、言わんとしたことは、「事故原発が、今後悪さをする心配は無くなった」、という、Ⅰa だけの意味なのだが、ややもすると、Ⅱ の全て、原発事故に絡む、全体が収束した、と取られかねないのだ。これによって、放射能汚染に関する多くの問題が後回しにされ、手抜きされ、関心が薄れて忘れられる、と誤解されたのだ。福島県知事を含め、原発事故の被災当事者としては、全く許せない、腹立たしさだったであろう。
今回の発表は、国内では、このような誤解もあって、感情的な反発も強かったのだが、国際的には、事故原発はおとなしくなった、と比較的冷静に受け止められたのではないか。かといって、放射能汚染が広範囲に広がっている、日本に対する疑念は、何ら払拭された訳ではない。
なお、本稿では、
事故原発:事故になり、水素爆発を起こした原発(主に1~3号機)
原発事故:事故原発から周囲環境に放出された放射性物質による汚染全体
を、注意深く使い分けている。
今回の発表の少し前の報道によれば、事故原発の廃炉に向けた工程の概要が、非公式ながら、明らかになったようだ。12月には、公になると言うので、年内ぐらいに、正式に、公表されると思っていた。
それが、報道では全く気づかなかったのだが、昨21日、新組織の、「政府・東京電力中長期対策会議」が開催され、ここで、今後の、中長期のロードマップが決定されたという。この関係の資料が、公表されたようで、東電のHPにもアップされていて、今日の新聞にも、解説記事が載っている。
この新たな中長期ロードマップ関連と、先日18日のNHKスペシャル
シリーズ原発危機 メルトダウン ~福島第一原発 あのとき何が~
等について、近日中に、取り上げることとしたい。