つれづれの記

日々の生活での印象

障子の張り替え

2014年08月29日 23時44分37秒 | 日記

2014年8月29日(金)  障子の張り替え 

 

 

○ 障子を張り替えよう!

  四畳半の自宅の和室には、道路に面したガラス窓の内側に、2枚の障子が入っている。

入居以来、これまで、この障子の張り替えは何度かやってきた。が、ここ、暫くは、面倒なことでもあり、張り替えをやっていなかったのだ。

このため、特に、夜間、道路側から見ると、あちこちに破れが目立っている、とワイフKが、気にしていたところだ。

 この障子が、破れるのは、うっかり物をぶっつけたり、強い風の日に、隙間から入ってくる風で、ハタハタと煽られる事などが原因である。

夏休みの宿題ではないが、この夏、重い腰をあげて、障子の張り替えをやることとしたのである。

  

○ 障子に関する難儀な名称!

  改めて、障子を形作っている各部の名称について、ネットで調べると、下図のようである。決して若くはない筆者だが、意外に知らなかったようだ。(障子の各部の名称から引用)

    

 外側の四角形の枠組みだが、タテ方向の左右の2本は竪框(たてがまち)、ヨコ方向の2本は、上桟(かみざん)、下桟(しもざん)と呼ぶようだ。

 タテ方向だが、 竪(たて)の字は、竪穴式住居遺跡、ビルマの竪琴、竪笛、などと使われるが、タテ・ヨコの意では、通常は、縦となるだろうか。

又、框(かまち)とは、余り見掛けない文字だが、玄関先の上がり框、床の間の床框などと使われ、ヨコ方向で使われる木が多いようだ。

 

  ヨコ方向は、横框(よこがまち)でも良いのだろうが、桟(さん)の字が使われ、上桟、下桟と区別して呼んでいる。桟は、桟橋のように、木を横にわたしたもの、の意という。

 

 枠組みの中に入る、細い格子状の木組のことを、組子(くみこ)(竪子、横子)と呼ぶようだ。

でも、この組子の事を、桟と呼んでいるサイトもあり、筆者自身も、これを、桟や格子と覚えてきたことで、やや混乱した。 

 いつものように、手持ちの「広辞苑」に登場願うと、

    框: ②戸・障子などの周囲の枠 

    桟: ②戸・障子の骨

  組子: ②障子などに組み合わせた細い木

とあり、桟については、やや、曖昧である。

 

 各部の名称については、余り気にしないこととし、以下では、上記の、正しいと思われる名称を使っている。

 

 

○ 面倒な障子貼り替え法!

 障子貼り替えのやり方は、以下の様な、日本の伝統的な方法で、自分でも、見よう見まねで覚えたものだ。 

①障子の外枠(框、桟)と組子に沿って、霧吹きで水を含ませ、暫くしてから古紙を剥がす。その後、濡れ雑巾で丁寧に拭いて、糊や埃を拭き取る。

 自宅の障子は、組子は、タテ(竪子)に3本、ヨコ(横子)に4本入っており、4×5の格子状になっている。腰板はついていない。

 以前、他の住いでの事だが、この工程で、障子を外に持ちだして、水道の水をかけてやったことがある。古紙を剥がすまではよかったのだが、格子が乾くにつれて、あちこちに歪みが出来て、往生したことがある。以来、水洗いは、禁止事項としている。 

②障子紙は、巻紙状になっており、幅は28cm程の美濃判というサイズのようだ。

 障子紙を、障子のヨコ方向に貼るが、先ず、組子全体のヨコ方向の長さに合わせて、この巻紙を長さの方向で切る。

一方、障子紙の幅と、横子間の幅が違うので、横子の上で重ねて張るようにするため、横子の幅に合わせて、巻紙の幅を狭くするように切る。 

 この様にして切り揃えた障子紙を、障子1枚当たり、5枚用意する必要があり、全体では、倍の10枚となり、神経を使うこの作業が、結構、面倒なのだ。 

③次は、接着用の糊の準備だ。この糊を作るのは、さ程難しくはなく、台所にある小麦粉を水で溶いて、弱火で加熱しながらゆっくりかき回していると糊が出来る。 糊の柔らかさ加減は、水の量で調節する。 勿論、市販されている、チューブ入りの糊を使っても良い。

 また、外枠の内側の のりしろや組子に、糊を塗る、毛の柔らかい刷毛(はけ)も必要だ。通常の筆でも可能だが、出来れば、効率の上からは、平らで巾のある刷毛がいい。 

④出来上がった糊を、皿等の平面上で伸ばしながら、糊を刷毛に含ませる。この刷毛で、組子の上に糊を付けて行くが、余分な糊が組子からはみ出さないようにしなければならない。糊を付けた上から、寸法を合わせた紙を、一枚づつ貼って行く。 

 紙同士は、横子の上で重ね貼りする(横子の無い部分で貼り合わせるのは面倒)のだが、この場合、組子の最下部から上方に向かって重ね貼りしていくのが生活の知恵のようで、こうすることで、貼り合わせた継ぎ目に埃が溜まりにくくなる。 

⑤紙を貼って暫くすると、糊が乾いて来るが、微妙なずれ等から、あちこちに、小さなしわや たるみが出来る。

 此処で威力を発揮するのが霧吹きだ。障子面に霧を吹きかけて暫くすると、なんと、見事に、しわや たるみが無くなるのだ。手品のようだが、人間の顔面でも、こうできればいいだろうかーー? 

 

 これで、貼り替え作業は、完了となる。

  

 

○ アイロン貼りの簡単なこと!

 今回の張り替えも、これまでと同じ方法でやるべく、先ず、古い障子紙を剥がす、①を行った。今回は、この工程を、初めて、ワイフKがやってくれたが、紙の貼っていない、綺麗な格子戸に仕上がった。 

 次に、障子紙を裁断する、②の段階に進む訳だが、ここで、今回は、一枚貼りのアイロン貼り用障子紙を使うと言う、大きな変化があったのである。 以下は、その経過だ。 

  ここ暫くの間は、貼り替え頻度も少なく、買わずに間に合わせてきた障子紙だが、在庫も少なくなり、品質も劣化していると想定されるので、新品を仕入れることとし、早速、100円ショップに行ってみた。生憎、障子紙は扱っていなかったので、糊を付ける、幅広い刷毛だけ手に入れた。 

  日を改めて、今度は、ホームセンターに行ってみた。障子紙は何処に? と店員に聞いたところ、案内された障子紙のコーナーに、驚かされた。

そこには、従来使用してきた、伝統的な巾の狭い巻紙状の障子紙も、何種かあったのだが、殆どが、子供の背丈ほどの大きさの障子紙が、棒のように立てて、沢山並べてあるのである。

 これらは、一枚貼り用の障子紙で、障子全体に、一気に貼り付けるもののようだ。このような障子紙があるとは聞いたことはあったが、実際に見るのは初めてである。

貼る方法としては、伝統的な糊貼りも出来るが、現代風に、組子に両面テープを貼ってから障子紙を貼る方法もあり、更に、驚いたことに、アイロンを当てて熱で接着する、アイロン貼り用もあるではないか!

 

 最も手軽に出来る、一枚貼りでアイロン貼りが、面白そうで興味をそそられた。幸いにも、説明してくれた店員が、自宅で実際にやった経験談を踏まえて話してくれたので、好奇心も手伝って、すっかりその気になったのである。

 かくして、アイロン一枚貼り用の障子紙を手に入れた。

 この障子紙の幅と長さを見ると、自宅の障子2枚分は十分に採れる。障子紙の模様には、無地/雲竜/真竹 等があり、伝統的な雲竜にした。

 この紙の成分は、表示をよく見たら、主原料はパルプ50%で、それに、和風の風合いを出すための、麻の繊維20%、各種化繊30%とある。和紙の原料である、楮(こうぞ)が入っている商品もあるようだ。

値段は、1000円+消費税と手頃である。 

メーカーは、ペンキで著名なA社であるが、同社は、手広く、インテリア関連でも商品を提供しているようだ。 

 

  帰宅後、早速、物は試しと、障子紙を小さく切り取って、アイロンで試し貼りをやってみた。アイロンを押し当てて少しゆっくり目に動かすと、見た目や触っても何でもない障子紙が、表面がやや粗い木製の外枠や組子に、チャンと接着するではないか! 熱の作用でくっつくようになるとは、不思議でもある。

貼り付けた障子紙を、再びアイロンで熱してみると、今度は、簡単に剥がれ、組子側には糊のようなものは、残らない。

 ズボンの裾を折り返してテープを貼りつけ、これをアイロンを使って熱で定着させる方法があり、世の主婦達には周知の事のようだがーー。 

 このように一枚貼りにすれば、寸法を合わせて、何枚も障子紙を用意する必要が無くなり、②の工程が極めて簡単になる。残るのは、障子全体のサイズに合わせて、障子紙を切る作業だけとなる。

この場合も、予め、障子の寸法を測り、これに合わせて障子紙を切り出して、それをアイロンで障子に貼り付けるのが一般的だろう。が、紙が大判で、紙の巻き癖もあることから、寸法を計りにくいので、以下の様な方法にした。 

 先ず、障子紙を、外枠の上(上桟)と左ヨコ(竪框)の2辺だけ、アイロンで貼り付けてしまう。その後に、下(下桟)と右ヨコ(竪框)で切り取るが、ここで、長い物差しの代わりとして、一方の障子自体を、最も確実なメジャーとして使ったのである。

繁雑になるので、詳細は略すが、この方法で、外枠に合わせて、綺麗に障子紙を切ることが出来たのである。

 この場面で、店員の勧めで、半信半疑で手に入れた専用のカッターが活躍した。(250円程)。

自宅には、通常の立派なカッターがあり、このカッターは、紙を折り曲げて、袋状になった部分に刃を当てて切るのには好都合だ。

 一方、専用カッターは、外枠の上に置いた紙を、定規代わりに当てた別の障子の枠に沿って、木目通りに切って行くのには、極めて具合が良かったのである。刃を支える部分の厚みが薄くなっていて、しかも、短い刃先が丸味を帯びているためである。

 

 このようにして、障子紙の大きさが決まると、後は、外枠と組子全体に丁寧にアイロンを当てて行くだけである。 

このように今回は、②~④の工程を、纏めてやってしまったと言えるだろうか。

         ④作業風景 

最後の⑤の工程だが、今回は、アイロン貼り後、目立った しわやたるみが無かったので、不要であった。 

以上で、アイロン一枚貼りによる、障子の張り替えは完了である。

         出来上がり 

 

○ その後は大丈夫?

  貼り替えてから今日までで、1週間以上経過したが、障子をよく見ると、左下隅あたりが、剥がれている。

原因は、どうやら、しわが寄るのを恐れて、アイロンをじっくり当てなかったことで、十分に接着していなかった事のようだ。再度アイロンを掛けて、修理した。

 また、外からの太陽熱で、接着面が剥がれないかと少し心配したが、特に問題はないようで、この夏の猛暑も山を越している。

一方、糊を塗っている面が、暑さで融け出して、虫取り紙のようにベタベタにならないか、も、やや気になるところだ。

 今後、季節が一回りすれば、接着面の強度、障子紙自身の耐久性、糊面の状態等について、より明らかになることだろう。 

 

○ 張り替えビジネスは?

 かなり以前のことだが、学生アルバイトで、襖や障子の張り替えというのが、人気を呼んで盛んに行われたものだ。昨今は、地域のシルバーサービスに申し込むのかな?

 障子の張り替えに関しては、今回やった感じでは、古紙を剥がすまでは大変だが、アイロン貼りになると、簡単過ぎて、手間賃取りとしては、成り立たないのではないだろうか。

更に次の機会になると、張り替えは、アイロンで剥がし、アイロンで貼ることとなり、手間は殆どゼロとなろう。

 

 ネットには、各種張り替えをビジネスとするサイトが幾つもあり、某サイトA/B/Cでは、1枚当たりの料金が、以下のように、

               サイトA        サイトB     サイトC(激安)

  障子の張り替え  1500~2800円  2500円~   1450円

  襖の張り替え   2700~3900円  2500円~   1450円

  畳の表替え    4200~8640円  3500円~   2200円

  網戸の張り替え       6200円  2500円~   1450円

となっていて、判断に迷うのだが、サイトAあたりが、リーゾナブルなところだろうか? 

 これらの業者に、実際に張り替えを頼むとなると、所在地や、交通費や、作業場所や、数量などによる、料金のバリエーションは大きいだろう。

これらの張り替え作業は、何処まで自分でやるかも含めて、ハウスメンテナンス上の、悩ましい問題の一つではある。 

 

○ 障子の先行きは?

 障子は、日本式の建築物では、壁や板や襖等と異なるパーティションとして、

     光採り 目隠し 風通し(通気性)

を兼ねた代表的な工夫と言えるだろう。

 歴史的な建造物の和室では、組子の各種の形状が、障子のある空間の味わいを、一段と深めてくれる、と言えるだろうか。

 

 障子紙としては、往時は和紙しかなかった訳で、現在の障子紙も、楮等が主と思っていたが、先述のように、パルプが主原料で、従来の和紙の原料はごく一部という。

 又、障子と言えば、指先を舐めて、障子に穴を開けて覗き見して遊んだ幼小時が、懐かしく思い出されるが、最近の障子紙は、丈夫で、この穴は開かないかもしれない。

 

 障子は、現代の家屋では、アクセサリー的に和室の雰囲気を保つ、数少ない仕掛けの一つだが、電気もままならなかった往時は、省エネのために、天然の光を生かす、必要不可欠な手段だったろう。

採光と防寒・防音機能にすぐれるガラス戸や、カーテンやブラインドなどに押されて、今や、障子の醸し出す幽玄な雰囲気が、危機に瀕していると言えるようだ。

 今後、障子のある空間が、文化遺産としてだけではなく、一般生活の中で、果たしてどの位、存続できることだろうか。

 

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電気ポットーーお湯を巡る進化

2014年08月25日 15時54分29秒 | 日記

2014年8月25日(月)  電気ポットーーお湯を巡る進化 

 

 

 先日、当ブログに

     電気ポットが使えない! (2014/8/14)

の記事を載せたが、本稿は、その続編である。 

 

○電気ケトルと電気ポット

 ここで、湯沸かし器具の呼称について、整理しておきたい。

飲料用の湯を沸かす器具には、火(ガス)を使う、伝統的な薬缶(やかん)がある。そして、電気で湯を沸かす器具だが、本シリーズでは、これを、便宜的に、

     ・電気ケトル系列(kettle) 

     ・電気ポット系列(pot)

の、2系列に分類している。

 英語の語源的な違い等については、ここでは、詮索しない。 以下の図は、Z社のHPから引用している。(電動ポット│電気ポット|商品情報|象印 )  

      

 電気ケトルは、薬缶型で、容量は、通常、0.5ℓ 程度と小さく、必要な時に電源を入れると湯が湧く器具で、横向きに出ている給湯口(注ぎ口)が特徴で、把手を持って、手動で給湯する。

保温機能等の高級な機能は付いていないが、やや軽量で不安定なことから、子供や高齢者には要注意な面があり、転倒防止等の安全性も工夫されているようだ。 

 メーカーの商品によっては、把手と注ぎ口が洒落た感じの各種デザインもある。部屋のインテリアとしても魅力的だろうか、一人暮らしの女性等に、かなり人気があることを、改めて知ったことだ。

 

 一方の電気ポットは、円筒型で、安定性が良く、存在感がある。 実用的な機能に重点があり、湯を多量に利用できる、中~大容量(1~4ℓ)で、常時、通電して湯が沸いていて、保温機能があるのが一般的だ。

下向きの給湯口から、ボタン操作で電動給湯するが、給湯時は、注意しないと火傷する不安もある。 

 デザイン的には、電気ケトル系列と比べると、ずんどう型で余り冴えない、と言えるだろうか。 

 

 

○湯沸かし器具の自家の歴史

 ここで、筆者の身辺での変化を中心に、湯沸かし器具の歴史について、簡単に振り返って見たい。

 

●遠い昔の独身時代は、小さな電気湯沸かし器(電気ポットと呼んでいたと思う)で湯を沸かして利用した。単純な機能しかないのだが、何と、近くの電器店に修理に出して、直して貰った事もある。

 この小容量の湯沸かし器具は、上記分類では、ケトル系列になる。 この系列は、旅行先のホテルの部屋等に備えられているので、現在も、自分でお茶を飲むなどに利用する事がある。 

 

●結婚して家庭を持ってからは、台所のガスで、薬缶で湯を沸かし、その湯をマホービンに入れて、一定時間、保温して使うのが一般的となった。

 マホービンの上蓋には、押し込む大きなボタンが付いていて、物理的な空気圧で給湯する仕掛けだった。近隣の集会所等での集まりでも、よく利用した。 

 このタイプから一歩進んで、電気で湯を沸かし、給湯は、マホービン式に手動になっているものが、出てきた。このタイプは、今でも新品で売られているようで、電気エアーポットというネーミングが面白い。

これらは、次の電気ポットタイプへ移行する過渡的な形だろうか。

 

●そして、電気で湯を沸かすのは勿論だが、給湯も電気式になった電気ポットの時代になった。更には、温度が下がると、自動的に再沸騰して、一定温度を保つ保温機能が付いたり、長時間通電する事から、節電のエコ機能が付加されたり、カルキ対策も重要となるなどして、現在に至っているだろうか。

 

●前稿で述べたように、常用してきた電気ポットが故障して、修理が難しそうなので取りあえず諦め、原点に戻って、必要の都度、台所のガスで、薬缶を使って湯を沸かして利用するパターンが、ここしばらく続いている訳である。(薬缶の写真は、前稿に)

 

 

 

○湯沸かしの進化

 生活を巡る文明の進展の中で、水道、ガス、電気の、所謂、都市型の生活ライフラインが身近にあることは、極めて重要だ。

     何時でも使える水  ――水道   栓を捻るとすぐ水が出る

     何時でも使えるガス ――グリル  ボタンを押すとすぐ点火

     何時でも使える電気 ――電熱   ボタンを押すとすぐ加熱

身近に災害が起こると、普段当たり前になっているライフラインが、止まってしまった時の、生活の不自由さを実感させられることだ。

 

 これらを実現するまでには、長い長い歴史があるのは、言うまでも無いが、便利な生活を追求する人間の欲求は高まるばかりで、次々と、コンビニさが増してきている、と言えるだろうか。

この一つとして、必要な時に、手軽にお湯が飲める暮らしが、最近は、一つの目標になっているようで、この流れの中で、湯沸かし用の器具を考えることができる。

 

 “何時でも使える、水道やガスが身近にあるというのに、何でお湯もなのか”、という自戒的な疑問も湧くところだ。

そんなに忙しくしている訳でもないのだが、要は、“その都度、水から湯を沸かすのが面倒くさい”のであり、“沸くまで時間がかかるのが待ちきれずかったるい”のだ。

いつでも、手軽に、温かいお茶やコーヒーが飲めるようにしたいのだ。

 

 世の中全体が、待ち時間を極力短縮する、インスタント化、ファスト化、即時化、リアルタイム化に向かっており、このことから、時間に制約されない、店舗やサービスの24時間化の流れにもなっている。

これらの傾向が、ごく小さな、湯沸かし器具にも表れていると言えるだろうか。

 

 ここで思い浮かぶ事だが、インスタント麺の先駆となった、N製粉の「カップヌードル」は、いまも愛用している食品だが、このキャッチフレーズは、

       「お湯さえあれば、いつでも、どこでも」

である。

 湯を注ぐだけで、美味しい麺が手軽に食べられるようになったインスタント食品群は、今や、国内外で、日常食として利用されるのに加えて、携帯食として作業場や旅先で利用され、災害時の非常食としても、大変に貴重なものになっている。

お湯に着目した先人(安藤百福氏)の先見性が、今にして理解でき、驚くばかりなのである。(愛されて200億食 | 日清食品グループ) 

 

 

○湯沸かしのコストとパフォーマンス

 ここで、飲用の湯沸かし方法について、ガスを使った薬缶と、電気ケトル、電気ポットを使った場合の、それぞれのコストとパフォーマンスについて、以下に大雑把に比較して見る。 

●コスト

・イニシアルコスト(器具代)

  湯沸かし器具のラインアップの価格は多様だが、

     電気ケトル      8000~ 10000円

     電気エアーポット      ~ 10000円 

     電気ポット      13000~ 23000円

位だろうか。(価格.com - 電気ポット・電気ケトル | 通販・価格比較・製品情報

 

 一方、今般故障した電気ポットと類似の機種でも、大雑把だが、

     メーカーのサイト        20000円位

     ネットショップ   10000~15000円位

    近くの安売り屋    7000~10000円位

と、かなりの幅があるようだ。

 

 器具代についは、詳細は省略するが、傾向としては 

       薬缶<電気ケトル<電気ポット  

だろう。

  

・ランニングコスト

 エネルギー消費の面からみると、比較するまでも無く、保温機能がある電気ポットよりも、必要な時にだけ湯をわかす、ガスの薬缶や電気ケトルに軍配が上がるだろう。

 湯を沸かす事では、電気ポットと電気ケトルのエネルギー的な差は無いだろうが、保温機能の有無は大きい。 消費電力で見ると、沸騰時は、905Wで、保温時(90度)は、16Wなどとなっていて、当然ながら、大幅に異なっている。

電動ポットの場合、器具のメーカーとしては、省エネモード・節約タイマー機能など、節電・省エネの工夫が、商品の売りの一つとなっていて、この面での競争が熾烈である。

 ネットには、利用モデルを想定した、電気式湯沸かし器のランニングコストの計算例や、これにガス式を加えた、より面倒なコスト比較例も出ているので、これらの詳細については、ここでは省略したい。

電気ケトル・電気ポットの知識 | 消費電力・電気代と省エネ・保温機能・安全対策

 

 ランニングコストでは、湯の単位カロリー当たりのコストの傾向としては、定性的には、 

        薬缶<電気ケトル<電気ポット

だろうか。 

 

●パフォーマンス

 使う湯沸かし器具によって、得られる便利さ、使いやすさ、安全性、生活のクオリティといったものが異なってくる訳で、これらをひっくるめて、ここでは、パフォーマンスと呼ぶこととする。

パフォーマンスの幾つかの項目について、器具別に、自己流に整理したものが下表である。 

 

薬缶

電気ケトル

電気ポット(保温付き)

便利

沸かす手間

水を入れて沸かす手間

沸かす手間要らず

沸かす時間 

沸くまでの待ち時間

待ち時間 ゼロ

沸かす量

   都度の必要量

何時も一杯に 湯に無駄が出る

給湯

給湯口を近づける

給湯口に近づける(火傷の不安)

火気安全性

ガスの火気不安

電気の安全性(特に高齢者 IHはより安全)

周辺暑さ

ガスの火で暑い

電気ヒーターの熱は小

湯の衛生面

必要量を都度沸かすので衛生的

残り湯の不衛生(消毒薬消失)

カルキ蓄積

蓄積量は少ない

常時通電で蓄積量多い

デザイン

 

室内インテリア

実用性

安定性

形状がやや不安定(転倒防止機能)

安定

             

  

●経済比較を超えて

 得られる便利さの程度を尺度化するなどして、全体としてのコストパフォーマンスを経済比較し評価することは、至難の技だろう。

 このことから、経済比較の結果に基づいてと言うのではなく、新たなパフォーマンスの向上を求めて、より多く金を掛けるのが、文明の方向なのかも知れない。

 

 

 

○VE余談

今回故障した電気ポットを改めて調べたら、商品の表示の中に

 VE構造 VE電気まほうびん

などとあり、この「VE」とはなんだろうと思った。てっきり

   Value Engineering

のVEで、経済的な保温機能をどの様に実現するか、といった高度な工夫があるのだろうか、と思ったのだ。

 

が、これは、早とちりで、よくよく調べて見たら、

Vacuum Erectric

の略のようだ。電気ポットで、前身であるマホービンの真空技術を生かしながら、消費電力を押さえながら保温したりするということで、これも大変な工夫だろう。

 

この商標、Z社だけのものと思ったら、何と、同じ大阪の同業ライバルであるT社との、共有商標と言うのだから、驚きである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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電気ポットが使えない !

2014年08月14日 22時50分54秒 | 日記

2014年8月14日(木)  電気ポットが使えない!  

 

○長年愛用して来た、Z社製の3リッター入り電気ポットが、先日、急に給湯が出来なくなった。

水を入れて、コードを繋ぐと、自動的にお湯が沸いて保温状態になるまではいいが、ロックを解除して、給湯ボタンを押しても、湯は、一滴も出てこないのだ。

     

             電気ポット                               操作面 

  取扱い説明書を探し出して調べたところ、内蔵の電動ポンプで湯を汲み出し給湯しているようだ。説明書のトラブルの項で給湯不良を見ると、通常の操作ミスの類(たぐい)だけで、今回のケースに該当する記述は無かった。

 

  でも、他の項に小さい字で、水道水中のカルキ成分で、ポンプが目詰まりする可能性もあるように書いてあるので、然らばと、一旦ポットの湯を空っぽにして乾かし、調べて見た。

 内容器の底部に、湯をポンプへ引き込むための、小さな穴があり、そこに、金網製の容器ネットが付いている。これを外してよく診ると、薄茶色のカルキが、金網の半分程にびっしりと付いている。でも、湯が通らないような状態ではないがーー。 

このカルキは、たわしやブラシでは、到底取れるものではなく、千枚通しで、金網の目ごとに、根気よく突っついて、あらかたのカルキを剥がした。  この状態で、改めて水を入れて再度湯を沸かして見ると、沸くまでは正常だが、やはり、給湯ボタンは作動せず、湯は出ない。

 これまで、全く知らなかったのだが、電源コードをポットに繋ぐ横に、長方形の窪みがあり、良く見たら、乾電池式の給湯機能であることを、今にして発見。 もしやと思って、電源コードを外して、乾電池だけで給湯してみたが、残念ながら、状況は変わらなかった。 

 

 電気ポットを使うようになって久しく、現機種を手に入れたのは、少し前になるだろうか。これまでの故障歴としては、昨年だが、「上ぶた」が良く閉まらず蒸気が漏れる状態になったことがある。ネットで調べたら、部品として、上ぶたの内側に付ける、「内ぶたパッキン」なる消耗品があり、近くの電気店で取り寄せてもらい取り替えたら、綺麗に修理出来ている。 でも、今回のような故障は初めてである。

 

①故障の原因は不明だが、先ず考えられるのは、指定の薬剤を使って、クエン酸洗浄をこまめにやらなかったことで、給湯ポンプにカルキが詰まってしまったのかもしれない。が、改めて、380円程のこの薬剤を取り寄せて洗浄するのも面倒だ。

 と思っていたら、自宅に、日本薬局方の立派なクエン酸があったのである! ワイフKが、紫蘇の葉から、香りのいい鮮かな赤いジュースを造るのに使っているようだ。 

 早速、説明書の通りに、秤で30gを計量し水に溶かし、ポット一杯の水に混ぜて湯を沸かし洗浄を行った。約、1時間30分も掛かる。洗浄完了の合図で、緊張しながら、ロックを解除して、給湯ボタンを押して見たが、残念なことに、湯は出てこなかった。 しつこく、同じ事を、もう一度繰り返して見たが、結果は変わらなかった。

 

② 再沸騰が完了して保温状態になる前に、待ち切れずに給湯ボタンを押すと、湯に蒸気が混ざって出が悪いことが、これまで、時々あったのだが(説明書にも、再沸騰中は湯が出にくいとある)、今回の故障も、この操作直後に起こっていて、急に湯の出が良くなったと思ったら、完全に止まってしまったようだ。このような、変則的な使い方をしたことが、もう一つ考えられる、故障の原因になったのかもしれない。

 昔、手押しポンプで、暫く使わなかった時などに、汲み上げが出来なくなることがあったものだ。この時は、「呼び水」と称して、水を加えながらハンドルを動かすと、水が汲み上がって来る経験を何度かしている。

この理屈は、水を入れることで、隙間が塞がって、ポンプ内と大気圧との圧力差で、地下水が汲み上げられるということだろうか。 ポットの中の給湯ポンプにも、同じ様なメカニズムがあるだろうか。

 

 給湯機能が駄目なこの電気ポットだが、正常な湯沸かし機能を生かして使おうとすると、沸いた湯は、ポットを傾けて注ぎ出す必要があり、極めて使いづらい。また、ポットを立てたままだと、湯を柄杓(ひしゃく)等で掬う必要があり、これも又、厄介だ。 

 メーカーのサービスセンターに電話しても、全く繋がらなかったし、生憎、お盆休みでもある。

 こんなことで、次項にあるように、電気ポットの代替手段で対応すれば、大きな支障はないことでもあり、当分、修理は見合わせることとした。  

 

○わが家では、朝のサイフォンコーヒーは、長年の習慣だ。これまでは、前の晩、寝る前に、電気ポットの湯の残量を確認して、省エネにしておけば、翌朝起きた時は、湯が湧いていて、コーヒーが淹れられる仕掛けである。

 又、時々、日本茶や紅茶を飲んだり、インスタント食品を食べる時の給湯にも、電気ポットを便利に使って来ている。

 

 電気ポットが使えなくなった応急の対応として、台所のガスレンジで、薬缶で湯を沸かすコンベンショナルな方法でやってみることとした。最近は、ほとんど使っていなかった薬缶だが、台所の奥から、久々の出番となった。

サイフォンや、カップ麺用に必要な湯量は、2人分で、精々、1リットルもあれば良い。薬缶に1リットルの水を入れて、ガスで沸かすのには、10分もかからないのだが、でも、沸くまでじっと待っている時の長いこと!     

     出番が来た薬缶 

 湯を沸かす手間では、電気ポットは手間要らずだが、薬缶は、少し面倒になる。

一方、給湯のやりやすさを比べると、薬缶は、シンボルでもある長い注ぎ口があることで、ポットに比べて、湯がかかって火傷する心配がなく、格別に注ぎやすいことを、改めて実感した次第(特に口の小さいサイホン等へは)。

 暑い夏場では、薬缶の世話になるのは、火を使うことで、やや辛いのだが、この季節は全体としては、余り湯を使わないことは幸いでもある。

 

 暫くは、以前に逆戻りする、電気ポットの無い生活をして見ることで、大げさに言えば、便利さに慣れている現代のライフスタイルを、或る意味、見直す機会になるかも知れない! 

 

 次稿では、身近かな生活の中での、お湯を巡る変化について、眺めて見ることとしたい。

 

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原発の安全審査  4

2014年08月07日 17時38分00秒 | 日記

2014年8月7日(木)  原発の安全審査  4  

 

  本稿は、当ブログの下記記事

       原発の安全審査  1  (2014/7/29)

       原発の安全審査  2  (2014/7/30)

       原発の安全審査  3  (2014/8/04) 

と続いた、安全性の適合性審査に係るシリーズの続編である。

 本稿では、原発の安全性の特殊性と、再稼働に向けての課題等について述べ、シリーズを締めくくることとしたい。 

なお、本稿でも、今回の川内原発の安全審査に関する資料は、前稿までと同じ略称のまま引用している。 

 

 

◎ 原発の安全性の特殊性ーー通常業務と非常事態と

○ 原発の運転では、システム全体の正常性を確認し、放射能に対する作業者の安全を確認しながら、通常業務(ルーチンワーク)として発電が行われる訳だ。

 その間、システムとしては、各種準正常状態として、小さなトラブルや、アラームが検出される事もあり、機器や部品の劣化等による部分的な故障もあり、放射能漏れもある訳で、これらへの対処が必要だ。

 慎重な取り扱いが求められる、燃料棒の出し入れも、重要なルーチンワークの一つだろう。又、定期検査時の、運転の停止や再開も、その延長上の、重要な作業となる。 

 関係する作業従事者には、これらの事象・事態に、的確に対処することが求められ、基本的な通常の作業をこなすだけでも、並大抵のことではないだろう。

 

 一方、原発の運転では、周囲環境に深刻な影響をもたらす、シビアクシデントの様な重大事故を起こさないことが至上命題である。 そのために、非常事態に備えて、予め自然災害等のリスクに対する諸対策が行われ、防止のための措置・操作の訓練に加え、非常時が起こった場合に対処する訓練も必須な訳で、作業従事者には、高度なスキルが要求される、極めて厳しい職場環境と言えるだろう。

 

○ 比較出来るものではないが、最近、無事地球に帰還した、若田宇宙飛行士の話は印象深い。氏が初めての船長の任務に就くに当たって、宇宙船内で発生する非常事態(火災や重大なトラブルなど)に対処するための、厳しい訓練をクリアしなければならなかった、という。 地上の管制センターと連携しながらの対処となるが、かなり大変なものだったようだ。

 言うまでも無いが、船内では、盛りだくさんのルーチンワークや、目的業務があり、船内の「和」を保つ中で、これらをこなしていく必要がある。

 

○ 又、この所相次いでいる航空機事故だが、航空機の運航でも同様の事が言えようか。航空機でも、安全航行は最重要テーマだが、操縦士はじめ、乗り組んだクルーにとっては、ルーチン的な通常業務をこなすことは勿論だが、これに加えて、気象条件の悪化や機体の不具合への対処、火災やハイジャックへの対処、さらには、緊急着陸時の対処等も、重要な任務であろうし、このための訓練も必須だ。

 

⇒ 原発の安全運転には、宇宙船や航空機の安全運航と、同等/それ以上に、危険と隣り合わせた環境での、厳しい条件が課せられている、と言えようか。

 

 

◎ 再稼働に向けて

・ 前稿でも触れたが、規制委員会の田中委員長は、先日の記者会見で、“規制委員会としては、あくまでも、技術的な事項について、安全上の規制基準をクリアしているか否かを判断したもので、100%安全だとは言っていない”、とコメントしている。(<川内原発>田中規制委員長「安全だとは私は言わない」) 

 これは、逃げを打っているようにも聞こえるが、想定する自然災害等のリスクと、これへの人間側の対応・対策に関するリスクは、ともに、“0”には出来ず、「絶対安全だ」、と言えないのは、当然のことだ。

 日本の安全規制基準は、世界で最も厳しいものだ、などと喧伝されているが、規制基準自体が、一定の範囲までのリスクしか想定していないため、これに適合していても、100%の安全性を保障したものではないのだ。

 

・ 現在は、8月15日までに、審査書案に対する、パブリックコメントを聴取している最中で、それを受けて、審査書の最終版を纏めるようだ。 順調に行けば、再稼働はこの秋と言われる。

 

今後の再稼働等に向けての、幾つかの重要な課題について、以下で触れることとしたい。 

 

◇必要性

 当初、九電としては、川内原発を稼働して、この夏場を乗り切る予定だったようだが、間に合わなくなった。 そこで、この所、当たり前となって来ている、節電の効果も見込んだ上で、電力業界内で電力の融通を受けることで、管内での

           予備率: (供給力―需要)/供給力

で、安定供給の限界と言われる、3%を、辛うじて確保したようだ。 関電も同様である。(下図 電力供給サービス:今夏の予備力を電力会社6社が積み増し)   

 

 川内の2基の原発が稼働すれば、供給力が増し、上表にある、九州電力管内の電力需要の1割程度が賄える訳で、他力本願で綱渡りの安全率が、改善されるようだ。  

今回、川内原発の安全面の追加工事では、1300億円も投資しているようで、事業者としては、社運を懸けているとも言えよう(津波、竜巻対策を公開 九電「月末完成目指す」 川内原発を考える

 

 全原発が稼働していなくても、国内は十分に活動しているではないか、という見方がある。

 でも、陰に隠れて良く見えず具体的な数字は把握していないが、古くなった施設も含めて、火力発電が目いっぱい稼働しているようで、燃料費も大変なようだ。一方では、電気事業者は、電気料金の値上げで経営上の苦境に対処している。

 国内での、安価で安定した電力の供給は、産業の国際競争力の基本でもあるが、明確なエネルギー政策が無い中で、我が国の基礎体力が、じわりじわりと、低下してきているように思える。

 

 原発のコストは、これまでは、重大事故は考えないことで、意図的に安く見込まれていたのは事実だろう。 今回の原発事故を通して、大変なコストが掛かることも経験したところだ。

 原発のコストを、今後どの様に評価するかは、重大事故の防止対策と事故処理にかかるコストと、重大事故の生起確率との関係になる訳だが、専門家の出番だろう。

 今後のエネルギー政策の方向については、リスクの少ない再生可能エネルギーへの移行等も含めて、改めて取り組むべき重要課題である。

 

 

◇避難計画と周辺自治体

 原発から30km圏内に住む周辺住民の避難計画を、関係する自治体が策定することになっているが、この3月時点での、朝日新聞社の避難計画についてのアンケート調査では、全国134市町村の内、約4割の自治体が未整備と言う。川内原発では、一応、出来ているようだがーー。 (避難計画、4割が未整備 原発30キロ圏首長アンケート) 

      

 避難計画を含めて、安全性に関する周辺住民の了解を得た上で、再稼働には、関係する自治体の同意が必要とされる。

 これらの手続きに関する法的な根拠は、どの位明確なのだろうか。

 

 川内原発では、規制委員会の指導に沿って、鹿児島県と薩摩川内市は、先日の7月末に、原発が立地する5km圏内の希望する住民約2400人に、下図の様なヨウ素剤(甲状腺被爆に有効)を配布したようだ。薬剤の有効期限は、3年という。(東京新聞:ヨウ素剤 初の住民配布 

       ヨウ素剤 

 以前御世話になった、富山の置き薬ではないが、自己責任で保管するのは面倒で、いざと言う時に行方不明となる可能性は大きい。でも、住民にとっては、大きな安心材料であることは間違いない。

 “これは懐柔策で、金の無駄遣いだ、再稼働は止めるべきだ”、といった主張はどうだろうか。 

 

◇誰が判断し責任を負うのか

 原発の再稼働について、一体、誰が判断し責任を負うのだろうか?

一昨年の関電大飯原発の再稼働時は、当時の民主党政権下で、国(総理+3関係閣僚の合議)が主体的に判断している。(その後、大飯原発では、稼働差し止めの地裁判決が出ている慌しさだがーー。)

 法的な建前では、再稼働は、事業者の判断で行うこととなっているようだ。

 

 規制委員会の田中委員長の、先だってのコメントにあるように、判断と責任を規制委員会に押し付ける訳にもいかず、一方、全て、事業者の責任で行う事にも無理があろう。 

 ここは、少なくとも、新体制での再稼働第一号となる川内原発に関しては、国が責任を負う形で、判断・決定するのが妥当であろう。

 

 川内原発に関係する自治体の一つと自任する、鹿児島県知事は、先日、再稼働の必要性を、国として文書化して関係する自治体に出して欲しい、と言っているようだ。

これは、国として責任を負う一つの形であろう。(鹿児島知事「再稼働の必要性、文書化を」 川内原発

 

 

◇検察審査会

  この時期に、又も、関係深いニュースである。

 福島事故の責任を問う裁判が続いているが、当時の東電幹部を検察が不起訴としたことに対し、先日、検察審査会が、3名は起訴すべきと判断したようだ。そして今後、再度、検察が起訴を見送った場合、審査会がそれも不服として起訴すべきとの裁決が行われると、強制捜査・裁判が行われるという。

少し前の、小沢氏の疑惑を巡っての、不毛とも言えるごたごたが、思い出される。

 

 今回の検察審査会の審議では、大事故の3年前、今回の3人の東電幹部も出席した社内会議で、福島第一原発に、高さ14mの津波が来襲する可能性が示されていたと言う。しかし、会議では、何の対策も講じられなかった、ということから、責任の所在は明白としている。(東京新聞:大津波の恐れ報告 東電元会長出席の会議

 津波の大きさだが、施設設計上の想定値は、5.7mで、事故時に実際に襲った津波は、14~15mといわれる。(福島第一原子力発電所事故 - Wikipedia

 

 国内では、福島事故以前までの長い間、重大事故が無かったことで、自然災害等のリスクに対して「鈍感」になっていた、と言えるようで、人心の赴くところ、でもあろう。

福島事故を経験した今なら、関係者は勿論、国民全体が、津波の恐ろしさや、原発事故の深刻さは身にしみている訳だ。

 東電の肩を持つ訳ではないが、でも、上記の社内会議当時としては、安全神話の虚構の下、意図的に無視した訳ではなく、“まあ、確率は小さいだろう”、と恃んで、何の対策も講じなかった、と言うのが実態のように思える。

後出しジャンケンのように、現時点での結果論で、責任を追及することは、そんなに難しいことではない。

 

 原発の安全神話の復活と言った声もあるが、福島事故の教訓を踏まえながら、常にリスクはある、との覚悟を決めて、原発と向き合い、必要性を見極めながら、再稼働も行うこととなるだろうか。

 

 

◎環境への放射性物質放出の抑制   

 新規制基準の中では、最悪のシビアアクシデントが発生した場合に、発電所外への放射性物質の拡散抑制のための対策が要求されている。

当原発では、下記の様な対策(資料3)

    ・移動式大容量ポンプ車を追加配備(1台を、放射性物質拡散抑制対策に専用化)

    ・上記ポンプ車と放水砲による原子炉建屋への放水(プルーム防止?)

    ・放射性物質吸着剤の追加配備

    ・シルトフェンス(海中カーテン)の配備(放水での放射性物質の海中拡散を抑制)

が取られるようだ。

 

 今回の審査結果として、驚いたのは、なんと、万が一、重大事故が起こった場合を想定して、放射性物質の飛散量を計算し公表しているということだ。 こんな数字を公表することは、これまでなかったことと思われる。

 シュミレーションで、格納容器破損モードを想定し、この事態で、上記の各拡散抑制策を行うことで、放射性物質の拡散・飛散を押さえ、環境汚染を、極力、抑制するとしている。

 

 位置づけはやや不明だが、安全目標として、Cs-137の飛散放出量が、100TBq以下であることを確認すること、としているようだ。 

                                                                  TBq:テラ(1012)ベクレル 

川内原発の実際の審査では、1~2号機合計で、5.6TBq(7日間)であったという。(資料1)      

これらの数字は、どの位、危険な(安全な)値なのか、説明があったのだろうか?

                          

 福島第一原発事故では、Cs-137の放出量については、当ブログの

       原発事故 レベル7に  (2011/4/14)

でも触れているが、1~3号機合計で、      

       10000~15000TBq    (10~15PBq P:ペタ 1015

程と言われている。  (チェルノブイリ事故との比較 - Wikipedia

 

 福島事故の実際値と比べて、川内の数値が極めて小さいのが気になるところだ。

 川内原発での事故シュミレーションが、どの様な前提条件で行われたのかは不明だが、福島の場合に比べると、前稿に述べたような、

    ・シビアアクシデントを防止する各種安全対策等が、あるレベルまで利いた後、事故になっている、

と言う想定に加え、

    ・上述の、事故後の各種拡散抑制策が効を奏している

ということだろうか。

 

 シュミレーションで重大事態を想定し、具体的な数字を公表することには、両面性があるだけに、慎重さも求められる所だ。

先述のように、科学的・客観的な立場からは、原発は絶対安全だ、とは言い切れない以上、

    “重大事故が起こったとしても、この程度ですよ”

と言う事を示したとも思えるが、自然界に対する謙虚さを失っているような印象も受ける。 

 一方で、机上の空論では、どの様な想定も可能なだけに、意図的に数字を小さくして安全性をアピールし、人心を惑わせているのでは、といった疑念も禁じえないところだ。 

 

  

◎ 「せんだい」余話

 今回登場した鹿児島県の川内市は、これまで、一度通過したことがある位なのだが、筆者の第2の故郷とも言える宮城県仙台市と、同じ地名なので、かなり前から気にはなっていた。おまけに、仙台市内には、広瀬川沿いに、川内(かわうち)という地域もある。

 この川内市の名称が、10年前に、近隣自治体との再編で、薩摩川内市に変わったようだが、今回の川内原発の安全審査の話題で、初めて、その事実を知ったところだ。

 以前は、同一地名を区別するために、下記のように、一方に、旧国名を付ける例は、多かったようだ。

   (秋田県)湯沢市                 越後湯沢町

   (新潟県)高田市(今は、上越市)       陸前高田市

   (静岡県)清水市(今は、静岡市清水区)  土佐清水市

    (新潟県)長岡市                 伊豆長岡市

   (群馬県)太田市                 常陸大田市

   

 

 

 

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原発の安全審査  3

2014年08月04日 14時50分23秒 | 日記

2014年8月4日(月)  原発の安全審査  3 

 

 

 本稿は、当ブログの下記記事

      原発の安全審査  1  (2014/7/29)

      原発の安全審査  2  (2014/7/30)

と続いた安全性の適合性審査に係るシリーズの続編である。

 ここでは、原発の安全対策の基本を整理した後、川内原発での設備上等の具体的な対策について、触れることとする。   

 

   なお、本稿では、今回の川内原発の安全審査に関する資料として、前稿での、以下の資料1~3は、同じ略称のまま引用している。 

          資料1:記者会見プレゼン資料(H26/7/16)

          資料2:事業者申請書    (H25/7/16)

        資料3:事業者補正申請書  (H26/6/30) 

 

◎ 安全対策の基本

 新規制基準を改めて見て見ると、原発の安全対策の基本的考え方は、

     ・自然災害のリスクを、科学的客観的に、厳しく想定・評価し(前稿)、

     ・自然災害があっても、防災に加えて、減災の発想も入れて、SBO対策を行って、

     ・シビアアクシデントだけは、極力起こさない、

こととしている。しかも、これまでになかったことだが、万が一

     ・シビアアクシデントが起きた場合の対策も考慮している

ことである。

 

 ここで、SBO、シビアアクシデント という、用語について整理する。

 

 SBO:Station Black Out の略 

     日本語:全交流動力電源喪失  

 広義では、施設の停電状態を意味するが、原発では、外部から供給される通常の交流電源が全て止まった上に、予備である内部交流電源(自家発電機)も、全て、使えない状態を言うようだ。(資料1等)

SBOを、全電源喪失の意とする使い方もあるが、やや、曖昧なことから、ここでは、全交流動力電源喪失としている。

 この様なSBOの事態では、外部電源で常時充電しているバッテリや、車両タイプの各種電源車が動員され、必要不可欠な設備機器等に、部分的に給電を行うこととなり、次の、シビアクシデントに進まないための対策・措置が取られる。

 今回の関連資料では、自然災害等の共通要因による、安全機能の一斉喪失を防止する対策が必要とされているが、明確には記述されていないが、SBO対策とほぼ同じと思われる。 

 

 シビアアクシデント:Severe Accident 過酷事故   (シビアアクシデント - Wikipedia

  原発運転事故での最悪の状態で、

   炉心損傷(炉心溶融 メルトダウン)が起こり、

  ⇒更には/或いは

   格納容器損傷

となる事態で、水素爆発等で、放射性物質が、施設外に飛散することとなる。

福島第一原発事故では、この最後の段階まで進んだと言われている。

 

 

◎川内原発での各種安全対策  

●安全機能の一斉喪失を防止(資料3、1等)

 自然災害等の共通原因によって、安全機能が一斉に失われてしまう事態を防ぐ、という事は、従来から行われてきた対策だが、福島第一原発事故の反省から、

  ⇒対策は極めて不十分であった

という認識に立っている。

 このことから、

  ⇒地震・津波等(共通要因)の想定手法を見直し

  ⇒大規模な自然災害等への対応と対策を強化(前稿で触れた)

  ⇒停電・火災・内部溢水などへの耐久力向上

  ⇒特に、最も重要な原子炉冷却の動力源を確保するために、停電対策を抜本的に強化

   ⇒地震・津波での非常時でも電源を確保:全交流動力電源喪失(SBO)対策

   ・通常の外部電源の信頼性向上

    2系統化された外部電源、変電所系統分散、受配電盤の分散

    外部電源の各系統は、ロードシェア的に常用するので、常時、点検も行われている。 

   ・外部電源停止時の対応:内部予備交流電源(非常用ディーゼル発電機)の設置 

    外部電源断時に、内部予備交流電源が、タイミング良く使える事が一つのポイントだが、

     ・必要な時にどの様に起動されるのか?(常時、一部動いている?)

     ・発電容量はサイト全体の基本電力を賄える?

     ・定期的な保守点検と要員のスキルの維持

     ・燃料の保管量と場所(7日間連続運転OKとあるが)

   などは、どうなるのだろうか。

   

    これらの電源が、全て駄目になると、SBOとなる。

    ⇒このSBOの場合でも、原子炉の冷却等を継続し、シビアアクシデントになる事態を防ぐことが最優先だ。

  このため、以下のように、照明や計装機器類の電源を確保して、従事者がパニックに陥ることなく動ける環境を整えながら、手動/電 動の幾つかの緊急の措置・操作を行うこととなる。

 

●従事者が動ける環境の確保(資料1)

 福島の事故では、SBOになって、制御室等、サイト内が真っ暗となり、計測機器類も動作しなかったことで、従事者がパニックに陥ってしまった事が、大きな反省点の一つである。このため、以下の可搬型の電源車を整備している。

  高圧発電機車(可搬)―――――各種ファン・通信設備・照明設備用(中央制御室等)   

    直流電源用発電機(可搬)―――計装用電源装置へ給電(計測機器等の動作・表示)

 

 当然のことだが、これらの電源車に関しても、以下の諸点がポイントとなろう。

      ・必要になった時、どの様に使うのか?(配備場所、給電接続点 等)

    ・発電容量と継続時間  

     ・燃料の保管量と場所

     ・定期的な点検訓練と要員のスキルの維持 

 

●炉心損傷を防ぐ対策 (資料3、1)

 SBO状態に陥った場合でも、シビアアクシデントである炉心損傷を防止する、以下の手だてを、緊急に行う必要がある。

 

原子炉を停止させる対策(止める)

  原子炉を緊急停止させる制御棒が使えない事態の時

     →主蒸気隔離(蒸気タービンの自動停止)

     →電動補助給水ポンプを自動起動

   →原子炉へのホウ酸注入 

                 

 制御棒を使って原子炉を停止させる操作は、定期検査対応等があるので、ルーチン的なものだろう。

福島の事故では、運転中の1~3号機では、地震を検出して、自動的に制御棒が作動している。

 制御棒が使えない異常状態では、そのままでは危険なので、炉心損傷を防ぎ、原子炉を未臨界に移行させる、上記の措置・操作が用意されている訳だ。

 これらの措置・操作は、詳細は把握しておらず、どの位の難度かは分らないが、どの範囲の従事者に必要なスキルとなるのだろうか。あるいは、マニュアル等の整備で、誰でも対応できるレベルにできるのだろうか。

 

・原子炉を冷やすための対策(冷やす)等

     ●蒸気発生器による原子炉冷却(蒸気を発生させて炉の温度を下げる)

       ・タービン動補助給水ポンプを起動→蒸気発生器による原子炉冷却

       ・電動補助給水ポンプを起動(中容量発電機車(可搬)給電)

                                      →蒸気発生器による原子炉冷却       

       ・補助給水ポンプへの海水直接給水ラインを設置   

     ●原子炉への注水による原子炉冷却手段の多様化(異常時)

       ・可搬型電動低圧注入ポンプによる炉心注水

       ・可搬型ディーゼル注入ポンプによる炉心注水

       ・常設電動注入ポンプ(大容量空冷式発電機(常設)で給電)による炉心注水

            常時接続して使っている?

       ・格納容器スプレイポンプを使用した炉心注水

     ●格納容器の減圧

       ・加圧器逃がし弁による原子炉の減圧

       ・加圧器逃がし弁用窒素マニホールドの現場配備 

       ・加圧器逃がし弁用可搬型バッテリの現場設置

     ●原子炉の熱を海に輸送する手段の多様化(通常の海水ポンプ使用不可時)

       ・移動式大容量ポンプ車を配備 

       ・最終的な熱の逃がし場―原子炉補機冷却水設備への給水 

 

 これらの措置・操作では、例えば、電動補助給水ポンプに発電機車を接続したり、手動で加圧器逃がし弁を操作する等、ケースバイケースで、多様なスキルが要求され、マニュアル類の整備も必要だろう。当然だが、予備的に設置されている機器等の正常性の定期的な点検や、操作訓練も重要だろう。

これらについては、原子炉の型式(PWR/BWR)による違いもあるだろう。

 

 緊急時の措置・操作で思い出されるのは、福島原発事故時の、IC:Isolation Condensor 略称イソコン 非常用復水器)のことだ。

このICは、SBO状態になって、原子炉の冷却が出来なくなった時でも、無電源で動作して水を循環させ、原子炉の温度を下げるという非常用設備のようだ。

 詳細は省略するが、非常時には、この設備の弁を開閉する操作が重要なようだ。

が、作業員は、それまで、“訓練で一度もこの装置に触った事が無かった”、と言うのは驚きであった。

訓練で体験していればOKとは、必ずしも言える訳ではないがーーー。 

 この件については、当ブログの下記記事で触れている。

     原発事故の検証  (2012/1/Ⅰ4)

 

 言うまでもないが、可搬型の電源車等では、以下の様な点が要注意だろうか。

    ・必要になった時にどの様に起動されるのか?

    ・給電系への接続:必要時接続/常時接続と、接続点

    ・定期的な点検と要員のスキルの維持

    ・簡明なマニュアル類の整備(マニュアルだらけの防止)

    ・燃料の保管量と場所

  

格納容器破損を防ぐ対策(閉じ込める) (資料1、3)

 前項の対策を行っても、炉心損傷が起こってしまった場合は、次の段階の、格納容器破損を防ぐ、以下の様な対策が要求される。     

     ・溶融炉心の冷却(MCCI防止)

     ・格納容器スプレイ 

     ・水素爆発対策   

     ・格納容器再循環ユニットへの海水供給

 これらの措置・操作を行うには、専門的な高度のスキルが要求されると想定され、作業従事者をクラス分けした訓練等が必要だろう。 いずれにしても、これらについては、筆者の理解を越えているので、詳細は省略したい。

 

●ソフト対策(資料3) 

  ◇緊急時を想定した訓練(重大事故体制)の実施―頻度や内容は?      

  ◇要員配置 所内等に常時52名確保(重大事故対策要員 36名を含む)

           重大事故に対応できる要員の社内資格を設ける? 

  ◇指揮命令系統

  ◇外部との連絡設備等の整備  

  ◇事故対応の拠点として代替緊急時対策所を設置

       海抜25m以上の高台・耐震・コンクリート造り  

       事故発生時の司令塔の機能

       作業員の放射能防護 実効線量:約34mSv 

                      被暴量は、7日間で100mSv以下

                        (これらの数値の算出根拠は不明)

   ⇒平成27年度内に、免震重要棟を建設し、この棟内に、指揮機能を向上させた、緊急時対策所を整備する。

 

●サイトの平面配置図  図の上が海側 (資料3)

 緊急時対策所、可搬型電源車 等は、津波対策で、高台(図 ピンク色)に配置  

             

●主要施設の配置高低図  図の左が海側  (資料3) 

 

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