2014年8月29日(金) 障子の張り替え
○ 障子を張り替えよう!
四畳半の自宅の和室には、道路に面したガラス窓の内側に、2枚の障子が入っている。
入居以来、これまで、この障子の張り替えは何度かやってきた。が、ここ、暫くは、面倒なことでもあり、張り替えをやっていなかったのだ。
このため、特に、夜間、道路側から見ると、あちこちに破れが目立っている、とワイフKが、気にしていたところだ。
この障子が、破れるのは、うっかり物をぶっつけたり、強い風の日に、隙間から入ってくる風で、ハタハタと煽られる事などが原因である。
夏休みの宿題ではないが、この夏、重い腰をあげて、障子の張り替えをやることとしたのである。
○ 障子に関する難儀な名称!
改めて、障子を形作っている各部の名称について、ネットで調べると、下図のようである。決して若くはない筆者だが、意外に知らなかったようだ。(障子の各部の名称から引用)
外側の四角形の枠組みだが、タテ方向の左右の2本は竪框(たてがまち)、ヨコ方向の2本は、上桟(かみざん)、下桟(しもざん)と呼ぶようだ。
タテ方向だが、 竪(たて)の字は、竪穴式住居遺跡、ビルマの竪琴、竪笛、などと使われるが、タテ・ヨコの意では、通常は、縦となるだろうか。
又、框(かまち)とは、余り見掛けない文字だが、玄関先の上がり框、床の間の床框などと使われ、ヨコ方向で使われる木が多いようだ。
ヨコ方向は、横框(よこがまち)でも良いのだろうが、桟(さん)の字が使われ、上桟、下桟と区別して呼んでいる。桟は、桟橋のように、木を横にわたしたもの、の意という。
枠組みの中に入る、細い格子状の木組のことを、組子(くみこ)(竪子、横子)と呼ぶようだ。
でも、この組子の事を、桟と呼んでいるサイトもあり、筆者自身も、これを、桟や格子と覚えてきたことで、やや混乱した。
いつものように、手持ちの「広辞苑」に登場願うと、
框: ②戸・障子などの周囲の枠
桟: ②戸・障子の骨
組子: ②障子などに組み合わせた細い木
とあり、桟については、やや、曖昧である。
各部の名称については、余り気にしないこととし、以下では、上記の、正しいと思われる名称を使っている。
○ 面倒な障子貼り替え法!
障子貼り替えのやり方は、以下の様な、日本の伝統的な方法で、自分でも、見よう見まねで覚えたものだ。
①障子の外枠(框、桟)と組子に沿って、霧吹きで水を含ませ、暫くしてから古紙を剥がす。その後、濡れ雑巾で丁寧に拭いて、糊や埃を拭き取る。
自宅の障子は、組子は、タテ(竪子)に3本、ヨコ(横子)に4本入っており、4×5の格子状になっている。腰板はついていない。
以前、他の住いでの事だが、この工程で、障子を外に持ちだして、水道の水をかけてやったことがある。古紙を剥がすまではよかったのだが、格子が乾くにつれて、あちこちに歪みが出来て、往生したことがある。以来、水洗いは、禁止事項としている。
②障子紙は、巻紙状になっており、幅は28cm程の美濃判というサイズのようだ。
障子紙を、障子のヨコ方向に貼るが、先ず、組子全体のヨコ方向の長さに合わせて、この巻紙を長さの方向で切る。
一方、障子紙の幅と、横子間の幅が違うので、横子の上で重ねて張るようにするため、横子の幅に合わせて、巻紙の幅を狭くするように切る。
この様にして切り揃えた障子紙を、障子1枚当たり、5枚用意する必要があり、全体では、倍の10枚となり、神経を使うこの作業が、結構、面倒なのだ。
③次は、接着用の糊の準備だ。この糊を作るのは、さ程難しくはなく、台所にある小麦粉を水で溶いて、弱火で加熱しながらゆっくりかき回していると糊が出来る。 糊の柔らかさ加減は、水の量で調節する。 勿論、市販されている、チューブ入りの糊を使っても良い。
また、外枠の内側の のりしろや組子に、糊を塗る、毛の柔らかい刷毛(はけ)も必要だ。通常の筆でも可能だが、出来れば、効率の上からは、平らで巾のある刷毛がいい。
④出来上がった糊を、皿等の平面上で伸ばしながら、糊を刷毛に含ませる。この刷毛で、組子の上に糊を付けて行くが、余分な糊が組子からはみ出さないようにしなければならない。糊を付けた上から、寸法を合わせた紙を、一枚づつ貼って行く。
紙同士は、横子の上で重ね貼りする(横子の無い部分で貼り合わせるのは面倒)のだが、この場合、組子の最下部から上方に向かって重ね貼りしていくのが生活の知恵のようで、こうすることで、貼り合わせた継ぎ目に埃が溜まりにくくなる。
⑤紙を貼って暫くすると、糊が乾いて来るが、微妙なずれ等から、あちこちに、小さなしわや たるみが出来る。
此処で威力を発揮するのが霧吹きだ。障子面に霧を吹きかけて暫くすると、なんと、見事に、しわや たるみが無くなるのだ。手品のようだが、人間の顔面でも、こうできればいいだろうかーー?
これで、貼り替え作業は、完了となる。
○ アイロン貼りの簡単なこと!
今回の張り替えも、これまでと同じ方法でやるべく、先ず、古い障子紙を剥がす、①を行った。今回は、この工程を、初めて、ワイフKがやってくれたが、紙の貼っていない、綺麗な格子戸に仕上がった。
次に、障子紙を裁断する、②の段階に進む訳だが、ここで、今回は、一枚貼りのアイロン貼り用障子紙を使うと言う、大きな変化があったのである。 以下は、その経過だ。
ここ暫くの間は、貼り替え頻度も少なく、買わずに間に合わせてきた障子紙だが、在庫も少なくなり、品質も劣化していると想定されるので、新品を仕入れることとし、早速、100円ショップに行ってみた。生憎、障子紙は扱っていなかったので、糊を付ける、幅広い刷毛だけ手に入れた。
日を改めて、今度は、ホームセンターに行ってみた。障子紙は何処に? と店員に聞いたところ、案内された障子紙のコーナーに、驚かされた。
そこには、従来使用してきた、伝統的な巾の狭い巻紙状の障子紙も、何種かあったのだが、殆どが、子供の背丈ほどの大きさの障子紙が、棒のように立てて、沢山並べてあるのである。
これらは、一枚貼り用の障子紙で、障子全体に、一気に貼り付けるもののようだ。このような障子紙があるとは聞いたことはあったが、実際に見るのは初めてである。
貼る方法としては、伝統的な糊貼りも出来るが、現代風に、組子に両面テープを貼ってから障子紙を貼る方法もあり、更に、驚いたことに、アイロンを当てて熱で接着する、アイロン貼り用もあるではないか!
最も手軽に出来る、一枚貼りでアイロン貼りが、面白そうで興味をそそられた。幸いにも、説明してくれた店員が、自宅で実際にやった経験談を踏まえて話してくれたので、好奇心も手伝って、すっかりその気になったのである。
かくして、アイロン一枚貼り用の障子紙を手に入れた。
この障子紙の幅と長さを見ると、自宅の障子2枚分は十分に採れる。障子紙の模様には、無地/雲竜/真竹 等があり、伝統的な雲竜にした。
この紙の成分は、表示をよく見たら、主原料はパルプ50%で、それに、和風の風合いを出すための、麻の繊維20%、各種化繊30%とある。和紙の原料である、楮(こうぞ)が入っている商品もあるようだ。
値段は、1000円+消費税と手頃である。
メーカーは、ペンキで著名なA社であるが、同社は、手広く、インテリア関連でも商品を提供しているようだ。
帰宅後、早速、物は試しと、障子紙を小さく切り取って、アイロンで試し貼りをやってみた。アイロンを押し当てて少しゆっくり目に動かすと、見た目や触っても何でもない障子紙が、表面がやや粗い木製の外枠や組子に、チャンと接着するではないか! 熱の作用でくっつくようになるとは、不思議でもある。
貼り付けた障子紙を、再びアイロンで熱してみると、今度は、簡単に剥がれ、組子側には糊のようなものは、残らない。
ズボンの裾を折り返してテープを貼りつけ、これをアイロンを使って熱で定着させる方法があり、世の主婦達には周知の事のようだがーー。
このように一枚貼りにすれば、寸法を合わせて、何枚も障子紙を用意する必要が無くなり、②の工程が極めて簡単になる。残るのは、障子全体のサイズに合わせて、障子紙を切る作業だけとなる。
この場合も、予め、障子の寸法を測り、これに合わせて障子紙を切り出して、それをアイロンで障子に貼り付けるのが一般的だろう。が、紙が大判で、紙の巻き癖もあることから、寸法を計りにくいので、以下の様な方法にした。
先ず、障子紙を、外枠の上(上桟)と左ヨコ(竪框)の2辺だけ、アイロンで貼り付けてしまう。その後に、下(下桟)と右ヨコ(竪框)で切り取るが、ここで、長い物差しの代わりとして、一方の障子自体を、最も確実なメジャーとして使ったのである。
繁雑になるので、詳細は略すが、この方法で、外枠に合わせて、綺麗に障子紙を切ることが出来たのである。
この場面で、店員の勧めで、半信半疑で手に入れた専用のカッターが活躍した。(250円程)。
自宅には、通常の立派なカッターがあり、このカッターは、紙を折り曲げて、袋状になった部分に刃を当てて切るのには好都合だ。
一方、専用カッターは、外枠の上に置いた紙を、定規代わりに当てた別の障子の枠に沿って、木目通りに切って行くのには、極めて具合が良かったのである。刃を支える部分の厚みが薄くなっていて、しかも、短い刃先が丸味を帯びているためである。
このようにして、障子紙の大きさが決まると、後は、外枠と組子全体に丁寧にアイロンを当てて行くだけである。
このように今回は、②~④の工程を、纏めてやってしまったと言えるだろうか。
④作業風景
最後の⑤の工程だが、今回は、アイロン貼り後、目立った しわやたるみが無かったので、不要であった。
以上で、アイロン一枚貼りによる、障子の張り替えは完了である。
出来上がり
○ その後は大丈夫?
貼り替えてから今日までで、1週間以上経過したが、障子をよく見ると、左下隅あたりが、剥がれている。
原因は、どうやら、しわが寄るのを恐れて、アイロンをじっくり当てなかったことで、十分に接着していなかった事のようだ。再度アイロンを掛けて、修理した。
また、外からの太陽熱で、接着面が剥がれないかと少し心配したが、特に問題はないようで、この夏の猛暑も山を越している。
一方、糊を塗っている面が、暑さで融け出して、虫取り紙のようにベタベタにならないか、も、やや気になるところだ。
今後、季節が一回りすれば、接着面の強度、障子紙自身の耐久性、糊面の状態等について、より明らかになることだろう。
○ 張り替えビジネスは?
かなり以前のことだが、学生アルバイトで、襖や障子の張り替えというのが、人気を呼んで盛んに行われたものだ。昨今は、地域のシルバーサービスに申し込むのかな?
障子の張り替えに関しては、今回やった感じでは、古紙を剥がすまでは大変だが、アイロン貼りになると、簡単過ぎて、手間賃取りとしては、成り立たないのではないだろうか。
更に次の機会になると、張り替えは、アイロンで剥がし、アイロンで貼ることとなり、手間は殆どゼロとなろう。
ネットには、各種張り替えをビジネスとするサイトが幾つもあり、某サイトA/B/Cでは、1枚当たりの料金が、以下のように、
サイトA サイトB サイトC(激安)
障子の張り替え 1500~2800円 2500円~ 1450円
襖の張り替え 2700~3900円 2500円~ 1450円
畳の表替え 4200~8640円 3500円~ 2200円
網戸の張り替え 6200円 2500円~ 1450円
となっていて、判断に迷うのだが、サイトAあたりが、リーゾナブルなところだろうか?
これらの業者に、実際に張り替えを頼むとなると、所在地や、交通費や、作業場所や、数量などによる、料金のバリエーションは大きいだろう。
これらの張り替え作業は、何処まで自分でやるかも含めて、ハウスメンテナンス上の、悩ましい問題の一つではある。
○ 障子の先行きは?
障子は、日本式の建築物では、壁や板や襖等と異なるパーティションとして、
光採り 目隠し 風通し(通気性)
を兼ねた代表的な工夫と言えるだろう。
歴史的な建造物の和室では、組子の各種の形状が、障子のある空間の味わいを、一段と深めてくれる、と言えるだろうか。
障子紙としては、往時は和紙しかなかった訳で、現在の障子紙も、楮等が主と思っていたが、先述のように、パルプが主原料で、従来の和紙の原料はごく一部という。
又、障子と言えば、指先を舐めて、障子に穴を開けて覗き見して遊んだ幼小時が、懐かしく思い出されるが、最近の障子紙は、丈夫で、この穴は開かないかもしれない。
障子は、現代の家屋では、アクセサリー的に和室の雰囲気を保つ、数少ない仕掛けの一つだが、電気もままならなかった往時は、省エネのために、天然の光を生かす、必要不可欠な手段だったろう。
採光と防寒・防音機能にすぐれるガラス戸や、カーテンやブラインドなどに押されて、今や、障子の醸し出す幽玄な雰囲気が、危機に瀕していると言えるようだ。
今後、障子のある空間が、文化遺産としてだけではなく、一般生活の中で、果たしてどの位、存続できることだろうか。