2015年7月25日(土) ギリシャの国民投票 4
ギリシャを巡る情勢については、以下の当ブログ記事、
ギリシャの国民投票 1 (2015/7/12)
ギリシャの国民投票 2 (2015/7/18)
ギリシャの国民投票 3 (2015/7/22)
で、話題としてきた。
直近の前稿では、国の財政赤字等に関して、EUや世界の状況について取り上げている。
本稿では、ギリシャを他山の石としながら、日本の財政赤字等に関して触れ、シリーズを締めくくることとしたい。
◇総債務残高の経過と現状
日本の政府総債務残高について、1980年以降の対GDP比の推移は、下図の様である。(日本の政府債務残高の推移 - 世界経済のネタ帳)
図で見るように、1980年以降、急激な変化は見られず、一時的に僅かに減少した時期もあるが、ほぼ、漸増傾向が続いてきている。数値が、120%を越えたのは、1998年からで、時々の政府が声高に債務削減を唱えるものの、思うように改善されておらず、世界に冠たる借金大国となってしまっている。結局、問題と向き会わず、ズルズルと、安易に借金に頼って来た、無責任な政治の結果、と言うほかは無いであろう。
直近の債務の状況を、今年度の予算で見てみると、以下のようだ。
平成27年度当初予算(2015年)
総歳入 96.3兆
内公債 36.8兆(内 30.8兆が赤字国債)
総歳出 96.3兆
内国債費 23.4兆
総債務残高 1232兆
即ち、総債務残高の実際額は、2015年は2014年より、30兆程増えて、1232兆円となっていて、2014年の総債務残高は、GDP比で、前出の246.14%となる。(財務省サイト 等から引用)
資産の裏付けがある、建設国債の額に比して、財政上の赤字の穴埋めに発行される赤字国債が圧倒的に多い。その中には、歳出の国債費として、国債の元本・利息の返済に使われる分もある訳で、サラ金での借金地獄と同じ構造であろうか。
◇プライマリーバランス
プライマリーバランス(基礎的財政収支)という指標が、時々、出てくる。これは、財政健全化の一つの指標で、
公債の発行で調達した借金分を除いた収入(税収)
と、
過去の債務に関わる元利支払い以外の支出
との差(収支差)のことのようで、借金関連を除いた収支ということだ。
Primary Balance(略PB)という用語に対応して、実際の財政収支を表す用語は、やや不明だが、Fiscal Balance だろうか。
PBが成り立っているということは、本来なら、無借金で国の運営ができる、ということだろうか。
上述の27年度予算で、PBを求めて見ると、
A:公債を除く歳入 =96.3-36.8=59.5兆
B:国債費を除く歳出=96.3-23.4=72.9兆
だから、単純に計算すると、
PB=A-B=-13.4兆
と、マイナスとなり、決して、健全な状況では無い。
PBというのは、絵に描いた餅ではあるが、現実の国の身の丈に合った収入と、それに相応しい支出との、バランスと捉えると、上記のアンバランスの主要因は何か、解明する必要があろう。考えられるのは、人口減・少子高齢化の流れに伴う構造的な収支の悪化に加え、旧来のままの大きな政府、災害対策増、諸外国との付き合いの経費(防衛、援助)、等だろうか。
日本の現政府は、2020年迄に、PBを達成すると公言しているが、果たして可能だろうか。日本経済は、最近は好転しつつあるとも言われ、税収増が期待でき、又、2017年4月から、消費税が、8%→10%にアップし税収が増える予定で、他方で、経費削減も行われれば、可能かもしれないが、難しいという専門家もおり、掛け声だけに終わるのだろうか。(プライマリーバランスとは? 「黒字化」はたして実現可能なの?)
PBの達成と、総債務残高の削減とを、目標としてどの様に取り組むべきか、はよく分らないが、後者については、GDP比120%程度に先ず押さえ込むことが考えられる。 これを、100%以下にすることなどは、当面、望むべくもない目標だ。
ギリシャと日本とでは、両国の経済状況は大きく異なるが、ギリシャでも、2009年には、PBは大幅なマイナスとなったが、ここ2年程は、PBが達成され、プラスになっていると言う、信じ難いニュースもある!(昨年のギリシャのプライマリーバランス、GDP比0.4%の黒字 | Reuters)
◇経常収支
債務残高が巨額なのにも拘わらず、日本がギリシャの様な財政危機と言われないのには、幾つかの理由があるようだ。門外漢である筆者の、にわか仕込みの情報では、以下のようだ。
①第1の理由は、
「経常収支が黒字のため、金まわりがいい」
ことがあるようだ。
ここで、「経常収支」だが、外国との間の富の移動を示す、国際収支の一部で、
a 貿易収支
b サービス収支
c 所得収支(第一次所得収支とも)
d 経常移転収支(第二次所得収支とも)
から構成されるという。(経常収支(けいじょうしゅうし)とは - コトバンク)
aは、通常の物の輸出入のことで、bは、人の移動等にかかわるサービスのことで、この2項目は理解しやすい。cは、日本の企業が外国で得た所得と、外国の企業が日本で得た所得の差といい(投資の差)、又、dは、政府の無償援助等と言い、これらは、可なり難解である。
世界の各国の経常収支のランキング(2014)をみると、以下のようだ。(世界の経常収支ランキング - 世界経済のネタ帳 より)
大幅黒字グループ 独1位、中国2位
中間グループ :中間プラス 露9位 伊14位 日16位
:中間マイナス
大幅赤字グループ 南ア176位、インド180位
仏181位、加182位、
ブラジル185位、英186位、米187位
主要国であるG7を見ると、独は流石だが、伊、日はそこそこで、残りの仏、加、英、米の4国は、最後尾の大幅赤字グループなのは、何故だろうか。
BRICS諸国では、中国は立派で、ロシアも、9位と健闘。でも、南ア、インドは可なりの赤字で、期待のブラジルは、大幅な赤字で、英の1つ手前の185位である。
国際的な経済は、常に、大きく動いているようだ。
日本の経常収支(GDP比)の、近年の推移を示したのが下図である。(日本の経常収支の推移 - 世界経済のネタ帳)
貿易立国を標榜して来た我が国の経常収支は、長年黒字だったのだが、特に、3.11以降、火力発電用燃料の輸入増等や、為替の変動等で、貿易収支は急速に悪化して大幅なマイナスとなり、全体の黒字が激減しているという。でも、堅調な所得収支に支えられて、2014年までは、黒字を保っているようだ。
経常収支が、まだ黒字の現在は、日本国債の信用は高いと言われ、国債の格付け(ムーディ社 Aa3で、利回りも1%以下)も何とか維持しているようだ。(政治経済:オピニオン:教育×WASEDA ONLINE)
日本の経済環境が悪化し、経常収支が赤字になれば、国債の評価も大きく変わるかもしれない。
◇国債の引き受け手
②理由の2つ目は、
「国債の引き受け手の殆どが国内である」
ことと言われる。
先述のように、1200兆円を越える、総債務残高だが、その内、880兆円程が国債で、この引き受け手の殆どが国内という、日本の特殊事情がある。
下図に示すように、国債の外国の引き受け手は、たった4.9%と、極めて少なく、残りは国内である。(日本の国債の保有者内訳をグラフ化してみる(2015年)(最新) - ガベージニュース )
民間銀行や、保険・年金基金など、機関投資家が多い。勿論、この中には、元国営の、郵貯、簡保も含まれている。
民間銀行や機関投資家とすれば、監督主体でもある、国の発行する国債は、引き受けないわけには行かないだろう。
外国投資家の国債購入を制限している訳ではないようだが、国債を、殆ど国内で引き受けて貰う、日本型のシステムは、マーケットが、国際的に活性化しないきらいはある。
一方、外国から借金するよりも、内輪の借金の方が目立たないし、デフォルトなどと大ごとにならず、迷惑度が小さいだろうか。
個人投資家は、証券会社や銀行等から、国債を買う事になる。少し以前になるが、証券会社の中国ファンド(中期国債ファンド)なる商品を買って楽しんだことがあるが、今は、この商品は、ほぼ、姿を消していると言う。
日銀の金融政策として、この所、銀行が保有している国債を、日銀が買い取る形で、市中に資金供給しているようだ。上図では、日銀は、その他金融機関に入っているようだが、この4月で、国債の26%強を、日銀が保有していると言う、素人目には、奇妙な構図になっている。 日銀は、金(日本円)の発行元なのだ。(日銀の国債保有269兆円 14年度末、最大を更新 :日本経済新聞)
国債には、短期、中期、長期の期間別の種類があるが、いずれにしても、国は、償還期限が来れば、利息を付けて、この借金を、税金で返済しなければならない。 結局、時間を遅らせて、国民(次世代の子供達)が負担する事となる。親の世代に作った借金を、子の世代が負担する構図だ。 金の使い道で、子供達の選択の自由度が大幅に少なくなる。
◇貯蓄率の激減
③理由の3つ目は、②とも関連するが、
「国内の貯蓄が大きい」
ことと言われる。
実体は良くは知らないが、日本では、企業の内部留保が大きく、家計部門での貯蓄も大きいと言われる。これが物を言うようで、②での、国債を引き受ける元手ともなっている訳だ。
家計部門での、世帯平均貯蓄額は、最近は、1200万円弱とも言われる。これは平均値での論議で、大金持ちがいると、平均値は大きくなるため、庶民感覚とはかなりかけ離れた数値となっている。 一方、中央値でみると、400万円程で、こちらの数字が、やや、実体と実感に近いだろうか。(みんないくら貯めている?平均貯蓄額は?、総務省 家計調査報告 H26 より)
家計部門での、貯蓄率について、主要先進国の状況をみると、下図に示すように、ドイツ(フランスも)は最近も高率を維持しているようだ。一方、日本は、コツコツ貯めて、貯蓄率が高かったのは、今は昔の話で、2000年頃から、家計が緊迫して余力が無くなり、大きく落ち込んでいるようだ。 (家計貯蓄率の国際比較 1994~2013年 )
◇ 終わりに
債務残高がさら巨額になると、最後の奥の奥の手として、借金証書である国債ではなく、金そのものである紙幣を増発して、意図的に、インフレにし、貨幣価値を減らす方法があるという。こうなったら、国家はおしまいである!
ギリシャ問題を他山の石として、振り返って我が国の状況を見る時、素人目には、厳しい先行きばかりが見えて来て、明るい未来が浮かんで来ないのは困ったものだ。ドイツばかりが、超優等生として目立っているがーーー。
これからの子供達をどの様に育て、また彼らに、何を残すのだろうか、世界の中で、日本はどの方向に進めばいいのだろうか、などと思い悩む。
これらを巡って、ゆっくりとだが、重大な選択が迫られつつあるように思えることだ。