2013年1月31日(木) 原発の立地と周辺地域
先日の1.17の阪神淡路大震災の記念日を機に、思いを新たにしたところだが、3.11の東日本大震災から、もうじき、2年になる。 被災地の復旧・復興が思うように進んでいない中で、最も、重たい原発事故に関するニュースが、この所、かなり小さくなっており、原発事故はどこへ行ったのだろうか? と、大いに、気になっているところだ。
このブログで、原発や原発事故について取り上げるのも久しぶりだが、最近の幾つかの話題について、2回に分けて触れることとしたい。
○原発の立地と活断層
昨年の7月以降、国内で唯一、関西電力の大飯原発3、4号機の2機が再稼働したのだが、これに関連して、敷地内の断層が大きな話題となっている。原子炉が、現在稼働中だけに、ことは重大である。
原発の施設の中で、とりわけ原子炉や重要施設は、安全上、活断層の上には建設しない、となっている、と言われるが、それが、現時点で改めて問題となっているのだ。
大飯原発敷地内の原子炉と断層の状況は、下図のようになっているという(ネット画像より)。 中央の赤線で示されている、F-6破砕帯が活断層か否か、が問題の様だ。
3、4号炉に、冷却用海水を送る重要施設である、「非常用取水路」が、この断層の真上を通っているという。
大飯原発が建設され、最初に1、2号機が竣工したのは、1979年という。その後、3,4号機が増設され、それぞれ、1991年、1993年に竣工していて、比較的、新しいものなのだ。
先日の1月16日には、原子力規制委員会の、活断層に関する調査団の評価会合があり、活断層か否かで意見が対立して、結論を持ち越したという。
今後は、この2月中旬に、事業者である関電から報告書が出されるようだが、結論が出る時期は不透明という。
原発建設後に、周辺で、大きな地震等があった(中越沖地震での柏崎刈羽原発など)、というのであれば、改めて問題にする事もあろうが、大飯原発では、そのような事実はなかったようなので、地盤の状況は、建設当時から変化していない、ということだろう。それなのに、今、問題になるのは何故か。
・理由の一つは、地盤の状況は変わっていないのだが、地質等の学術的な調査研究が進み、危険性の見方や想定が、当時と現在とでは変わって来ている、と言うことが考えられる。 又、福島第一原発の事故で、施設の安全性に対する考え方が、より厳しくなったともいえよう。
・もう一つは、敷地内の地盤状況について、建設当時から、専門家や関係者の間に、意見の相違があったのだが、国や事業者側の主張に押し切られた、と言うことが考えられる。
会社側の主張を支持した(反対しなかった)専門家は、汚い言い方をすれば、御用学者になる訳だ。このような経過が、原発事故を契機に蒸し返された、と言うことがあろう。
これまで、政府や事業者のデータや主張に、積極的に、事実を隠ぺいしたり、誤魔化しがあった、とは思いたくはないが、多少、良い方向に解釈してきた、ということはあるだろうか。
原発立地での、地盤の安全性に関する、この種の、根っことなる事案では、専門家の立場からすれば、100%大丈夫と言うことは、どんな場合でも言い切るのは困難で、あるレベルで、危険性(リスク)があることは当然のことで、それを承知の上で、許容されて来たということだろう。この場合、リスクの程度を定量化するのは、困難だろう。
ましてや、現在の様な世上の注目の中で、改めて実地に調査したとしても、“活断層ではない”と言い切るのは、極めて難しいだろう。専門家でも、言質を取られたくはないだろうから、どうしても、フェールセーフになり、純粋に、学術的な見地だけから、安全性を肯定するのは不可能ではないか。
本件を扱う会議の、まとめ役である、規制委員会の島崎委員長代理の立場には、同情を禁じ得ない。どのような結論になるのか、はよくは分からないが、国や事業者側と、住民や国民一般側とでは、かなりの隔たりがある訳で、間に立つ専門家集団の皆さんの苦悩が、思いやられるところだ。
総論的に言えば、地震国である日本国内では、活断層が関係しない土地を探し、理想的な原発立地とするのは不可能に近い、と言うことだろうか。
原発銀座とも言われる福井県若狭湾での、各原発の立地位置と活断層を示したものが、ネットに多く出ており、その一つが下図だ。
大飯原発と同様に、現在停止中だが、同じ若狭湾の敦賀原発も問題になっており、これに関しては、今月29日の有識者会合で、報告書案が纏まった、とのニュースがあった。こちらは、意見の対立が見られず、無難に、“活断層である可能性が高い”となっているという。他にも、下北半島の東通原発でも、活断層ではないか、との疑問が出ているようだ。
既設原発での活断層関連の安全性については、組織的に、再チェックする必要があろう。
そもそも、「活断層」とは何だろうか? 類似の呼称で、火山には
活火山、休火山、死火山
とあり、自分でも、一応、理解できているのだが、断層についても、同様の区別があり、活断層でない断層もあるのだろうか。
「破砕帯」という言葉は、活断層と同義語と思われる。また、「地滑り」という言葉もあり、これは、活断層よりも、安全性は高い、ようだ。
原発立地の時に考慮すべき活断層だが、その定義に関して、従来は、
13万~12万年前以降
に、地盤の動きが無い事、とされて来たようだ。
今回の地質調査のTV映像でも、9万5000年前に地盤が移動した跡、などと出て来ている。
これが、規制委員会の1/29の会合では、これを
40万年前以降
こ変更することが了承されたと言う。40万年前以降、地盤の動きが無い事、と言うことで、従来よりも、更に厳しい立地条件となる訳だ。
この変更により、従来の定義では問題ではなかった、
柏崎刈羽原発、泊原発
などが、新たに問題となる可能性があるようだ。 今後の、既設原発の再稼働や、新設に当たっては、この基準が適用される、という。
所で、過去の地盤のズレは、どんな意味を持つのだろうか。一旦、ズレた所が、再びズレる、と考えるのは何故か、素人なりに推測して見た。
地下のマグマの動きの経路等は、ほぼ決まっていて、このことから、地表近くの同じ様な場所で、恒常的に、地盤の歪は起こっている、と考えれば、地盤の中に歪のエネルギーが次第に貯まり、貯まったエネルギーが、大きな地盤のズレとなって、ある周期で放出される(地震)、と言えるだろうか。こう考えれば、同じ様な場所で、再び、大きなズレが起こる可能性が高い、と言えるのだろう。
しかし、一方で、新たな場所に、断層が出来る可能性は、最早、無いのだろうか。
以前、当ブログの記事で
オンカロ建設の驚き (2012/7/15)
として、フィンランドでの、放射性廃棄物の永久保存施設「オンカロ」について、触れたことがある。あの地域(ユーラロキ)は、過去10万年前以降、地盤が安定していると言われたことにも驚いたのだが、それに比べれば、今回の40万年前以降、というのは、大変な数字である。
原発をどうするかは、我が国にとって大きな課題なのだが、将来のエネルギーの展望から言って、今後は、大飯原発以外の再稼働も、新設も行わないと言うのは、考えられないことで、少なくとも、現存する原発を、如何に安全に運転していくか、は重要な課題である。
前述のように、活断層の見方が一層厳しくなる中で、今後の原発の方向は、どうなるのだろうか。
戦後になって、地震国日本でも、超高層ビルを実現したように、たとえ活断層があっても、安全性が確保できるような原子炉施設は作れないものだろうか。
○原発事故の避難計画
福島第一原発事故の教訓を踏まえ、万が一、原発で重大事故が発生した場合の周辺住民の避難が問題になっている。
これまでは、原発から、半径10km圏内が、避難対象となっていたが、福島第一原発事故の経験から、これでは、全く不十分で、それを、30kmまで、拡大することとなった。
これを受けて、各自治体では、この3月までに、自主的に、避難計画を作成することとなっているのだが、先日1/26のNHKニュースでは、原発の30km圏内に自治体がある、対象となる道府県は、19のようだが、避難計画の策定状況は
具体的に避難先を指定 6県
市町村名まで指定 2道県
まだ決めず 11府県
の様で、余り進んでいないようだ。避難対象者が多い地域では、福島の例から分かるように、住民を避難させる場所や交通手段、必要となる資材等を確保するのは並大抵のことではない。こんな中で、国内最大数の13基もの原発が建設されている福井県が、具体的に避難先を指定している、と言うのは、流石である。
(http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130126/k10015080951000.html)
そして、具体的に避難先まで指定している島根県が、つい先日、島根原発の周辺での事故を想定して、実際の避難訓練を行った、と言うニュースがあったが、敬意を表したい。
重大な原発事故は、想定したくはないのだが、万全の備えが、安全の基本だろう。