2017年9月12日(火) 日本人初、100m走で9秒98
○嬉しい快挙!
先日の9月9日だが、久々に明るいニュースが国内を流れた。読売新聞は、何と、北朝鮮問題等の記事を抑えて、一面トップの扱いである。
それは、福井市で開催された、陸上競技の日本学生対校選手権の100m走の決勝で、東洋大4年の桐生祥秀選手が、9秒98のタイム(追い風 1.8m)をマークしたというもの。
日本人選手で、10秒を切ったのは、史上初の快挙である!(下図はネット画像)
これまでの日本記録は、伊東浩司選手の10秒00(1998年)で、又、世界記録は、ジャマイカ ウサインボルト選手の、9秒58(2009年)である。
桐生選手自身は、高校3年時の2013年と、昨2016年に、10秒01を2度マークし、注目されたが、期待されたようには伸びていない。サニブラウン、ケンブリッジ飛鳥 多田修平など、他の何人かの選手も、9秒台に迫る記録を出しながら、突破できなかった。
世界では、9秒台を出した選手は、桐生選手を含めて、現在、126人もいるという。(9/10 読売) 今回の快挙が大きな刺激となって、日本でも、近いうちに、次の9秒台が記録されるだろうか。
○ 2017世界陸上
この8月にロンドンで開催された、世界陸上では、いくつかの競技で、日本選手はそれなりに活躍したが、大きな話題とはならなかった。
その中、短距離競走の結果は、以下のようで、注目された。
派遣・エントリー選手
100m サニブラウン ケンブリッジ飛鳥 多田修平 (桐生は外れ)
200m サニブラウン 飯塚翔太 (桐生は外れ)
4×100m 多田修平 サニブラウン 飯塚翔太 桐生祥秀
ケンブリッジ飛鳥 北川貴理 (補欠)藤光謙司
下線は最終メンバー(ケンブリッジ飛鳥から藤光に急遽交代)
競技結果
100m 準決勝敗退(サニブラウン ケンブリッジ飛鳥 多田修平)
200m 準決勝敗退(サニブラウン)
4×100m 最終メンバーは、上記の下線
銅メダル:世界陸上短距離で初のメダル
世界記録を持つジャマイカチームだが、ボルトの故障で途中棄権
この種目、昨年のリオ五輪では、堂々の銀メダル
4×100m 日本チーム
多田 飯塚 桐生 藤光
○時間と距離と速度
陸上や水泳など、多くの競技種目で、時間と距離の関係がポイントとなるが、中でも、最もシビアなのが、100m走だ。勝者には世界最速という称号が与えられる。
100mの距離を、10秒で走るとすると、単純計算で、
10秒で100m ⇒1秒で10m⇒0.1秒で1m⇒ 0.01秒で10cm
となり、時間を0.01秒改善するには、たった10cm稼げばよい、となる。
桐生選手の場合、上述の以前の自己ベストと10秒台の壁を破るまでの差は
10.01秒-9.99秒=0.02秒⇒20cm
となる。これは言ってみれば、たった20cm改善するのに、これまで苦闘してきた、ということで、今回、これが、30cm程改善された、ことになる。
速度にすると、平均的には、
100/10=10 m/s=36000m/時=36km/時
となるが、静止状態から始まるスタートの速度は遅く、途中や後半で伸びることとなる。 短距離走の場合、記録を出すには、歩幅とピッチと最高速度が重要なようだ。 9秒台のタイムを出すためには、秒速11.60m台の最高速度が、後半に必要と言われる。
速度が遅い水泳では、1秒の差は、1m~2mほどの差になる。また、競馬では、速度が速いため、ゴール近くでは、きわどい鼻(20cm)や首(80㎝)の差で、写真判定で決着がつくことも多い。
○ 風の影響
短距離走では、走行時の風の影響は大きく、公式記録規定では、追い風2mまでが許容されている。追い風が2mを超えると、公式記録としては認められず、追い風参考記録となる。(風速は平均値 向かい風の規定は見当たらない)
追い風(向かい風)の強さが、走行時間にどの位の変化をもたらすのかをネットで調べたら、競技選手のレベルでは、追い風とタイムとの関係は、
追い風1m ⇒時間0.1秒短縮
という記事が見つかった(陸上競技の100mで、追い風はどのくらいタイムに影響するのですか... - Yahoo!知恵袋 )
向かい風とタイムとの関係についても、同様に、
向かい風1m ⇒時間0.1秒増加
という関係になると思われる。
今回の桐生選手の場合、追い風1.8mはかなりラッキーな状況だったと言える。これが、仮に、追い風1.0mだと
(1.8-1.0)×0.1=0.08
で、
9.98+0.08=10.06
という数値になる。風の向きや強さ次第で、記録は大きく変わると言う事のようだ。
昨夜のNHKのテレビ番組では、福井市営競技場で長年スターターをやっている人の話では、競技規定内の公式記録になるように、吹き流しの動きを見定めながら、ピストルを撃っていると言う事だった。
○バトンタッチ
上述のように、8月のロンドンでの世界陸上で、4×100m決勝で、日本勢は、銅メダルを獲得しているが、一昨年のリオ・オリンピックでは、同種目で、何と、銀メダルを獲得している。
どちらの大会でも、日本チームのメンバーには、9秒台の選手は0人だが、他国チームには、9秒台の選手が、沢山、含まれている。
よく言われているように、日本チームは、バトンリレーでのチームワークが極めてよい。対する他国チームは、1人1人は優れたランナーでも、バトンの引き継ぎの不手際が、散見される。
リレーの引き継ぎエリアで、ゾーンを越える違反をして失格となったのは、この8月のロンドン世界陸上でのアメリカチームである。
又、大会名は忘れたが、先を走るチームで、バトンを落とす不手際があって大きく遅れ、日本チームがメダルを手にしたこともある。
一昨日9月9日の早朝、なんとなくNHK-TVを視ていたら、目撃日本! という番組で、かなり重い知的障害者である、川上春奈さんが、石川県能登半島の先端に近い珠洲市にある、七尾特別支援学校珠洲分校に在籍し、先生の指導を得ながら、短距離走に取り組む様子が放映された。
走る事にかけては、ずば抜けた特別な才能を持つ彼女だが、人見知りが激しく、すぐ固まって、心を開こうとしない彼女が、少しずつ打ち解け、理解を深め、短距離走に集中するようになっていく物語が、極めて感動的であり、最後まで、魅せられてしまった。
抜群の走る能力(男子のような、体を揺らすダイナミックな走法)を買われて、4×100mの日本代表に選ばれ、バトンを受け取るだけでいい最終ランナーを任された。
でも彼女は、バトンを受け渡しするリレー競技の仕組みが、なかなか呑み込めない。
前の走者が近くに来た時に、どの時点で自分も走りはじめるか、決められた引き継ぎゾーンの中で、如何にスムーズにバトンタッチするか、は極めて重要な事項だ。
指導する先生が、短い言葉を工夫し、先ず、“にげろ”という言葉を見つけた。にげろという言葉を先生が叫んだタイミングで動き始めるのだ。
そして、具体的に動きだす地点で、“ピュー”という言葉。これを、自分の心の中で叫ぶ。
新たに、専属のコーチも付いたが、なかなか馴染めない。十分にマスターできない状況で、時間切れとなり、先生やコーチが同行しない中で上京し、リレーの仲間と練習に励み、少しづつ、チームワークが上達していった。
そして、6月に開催されたバンコクでの国際大会の結果は、堂々の銀メダル獲得となり、日本新記録も達成した。(写真は 卒業生川上さん、銀メダルおめでとう! - 石川県立七尾特別支援学校珠洲分校 より)
右端 川上春奈さん
2020年のパラリンピックを前にして、出場しようと思っている選手諸君とそれを支える皆さんには、一段の努力をお願いしたいが、国民側としても、外国選手達も含めて、受け入れ態勢の整備に万全を期したいところだ。