2011年8月31日(水) 原発の全面停止
現在、日本国内には、54機の原発があり、おおむね、25%程の電力が、原子力により供給されている、と言われてきた。この春までは、運転と定期検査を繰り返しながら稼働してきており、今後の建設計画も多く、着工間近のものもあった。それが、3月11日の東日本大震災を境に、大きく変わってしまっている。今や、わが国の原発は、危機的状況にある。
事故に関係した福島第一原発や、隣接した福島第二原発は、勿論停止しているが、大地震の先読みで、強制的に停止している原発や、定期検査で止めた多くの原発があり、定期検査が終了しても多くの原発の再稼働は、殆ど行われていない。
原発設備の実際の耐用年数は、30年~40年(減価償却上は16年)などと言われているが、この間、これまでは、毎年、定期検査(3か月程)が行われ、再稼働してきている訳だ。
北海道 泊原発では、大震災後に定期検査に入っていた3号機が、検査を終了し、地元知事の了解を得て、先日の17日、大震災後で初めて、再稼働が認められた、と言うニュースがあった。
先日8月22日の、NHKの朝のニュースで、国内原発の現状と、今後の見通しについて、整理して報道された。それによれば、概略の状況と見通しは、以下である。
8月22日時点の国内原発状況 全54機
停止中 40機 事故停止 10機 福島第1・第2
強制停止 3機 浜岡
定期検査等 27機 検査中・検査終了後の再稼働見合せ
稼働中 14機 ⇒⇒⇒今後、次項の定期検査へ
今後の定期検査で停止予定 14機
8月26日停止 1機(泊2号機)
秋まで停止 5機
冬まで停止 6機
来年春まで停止 2機
下図は、TVの画面から借用し、デジカメで撮影したものだが、残念ながら、余り、クリアではない。図中の表示で、青印は運転中、赤印は停止中、である。
8月26日時点(13機運転中)
来年春時点(運転中無し)
このように、現在運転中の全ての原発が、来年春までには定期検査に入ることとなるので、それまでの間、現在停止しているものなどの、再稼働が1機も無いとすると、国内の全ての原発の稼働が停まる、と言う、極めて異常な事態になり、分っていることではあるが、やはり、ショッキングである。
片や、この夏、東電管内、東北電管内で実施された、15%の節電規制を、繰り上げて解除する話が、この所持ち上っているが、一体全体、電力需給は、どのような見通しになっているのだろうか。
今回の、深刻な原発事故の経験から、国として、長期的な、エネルギー政策の方向を明らかにする必要がある。これについては、改めて触れたい。
一方、短期的には、当面の電力需要を賄うために、少なくとも、現存する原発と、どのように共存していくか、という事がある。
この短期的な課題の中で、最優先なのが、現状の原発は果たして安全か、を、緊急に点検することだ。即ち、福島第一の様な、深刻な原発事故を、二度と起こさないために、現在の原発の、大災害に対する備えを、見直す必要があるのだ。
ヨーロッパのEU内では、日本の原発事故を受けて、現在、原発のストレステストを、行っているようだ。先の、6月21日、ウイーンで開かれた、IAEA閣僚会議(日本が原発事故の報告書提出 海江田経産大臣出席)で、このEUのストレステストを、各国でも、実施するよう、提言されたようだ。(残念ながら、自分は、把握していなかったが)
ストレステストとは、元々は、経済用語のようだ。原発に適用する場合は、地震や津波等(ストレス)に襲われたと想定し、地震の大きさや、津波の高さを変えた時に、原発の設備やシステムが、どのレベルまで耐えられるか、どのレベルで駄目になるか、を、机上(コンピュータ上)で、シュミレーションすることにより、ストレスへの耐力を明らかにする、安全性の評価作業という。
この、ストレステストという言葉が、国内では、定期検査で停止していた、玄海原発の再稼働を巡る動きの中で、唐突に、表舞台に出てきた感がある。
再稼働を急ぎたい経産大臣と、安全重視の国民感情を代弁したような首相との間での、食い違いが表面化した。結局、以下の様な、
定期点検中の原発には、簡易版のストレステストを適用して、それにパスしたものの再稼働は許可する。ただし、その後、本格的なストレステストを稼働中の原発すべてに適用し、必要に応じて停止命令を出す
との、二段構えのストレステストを行うという、政府としての統一見解を出すことで決着したようだ。従来の定期検査に加えて、簡易版のストレステストを行うとなると、これまでよりも、厳しくなるのは当然だろう。 ましてや、全原発対象の、本格的なストレステストに至っては、実施内容やスケジュールが、まだまだ、固まっていないのだろうか。 このことから、定期検査終了後の、再稼働の見通しも、殆ど、見えていない。
でも、シビア事故を引き起こした当事国の日本である。IAEAに言われて、ストレステストなどと、横文字で云々するまでも無く、原発の安全性について、抜本的な見直しを行うのは当然のことで、むしろ、日本は、テストの模範となるべきであろうか。以下は、全原発設備の安全性の見直しに当たっての、地震や津波の規模に対する、自分としての意見である。
○想定する地震の規模
・今回の東北地方太平洋沖地震(M9.0)による、福島第一での震度(6強)まで
は、どの原発でも起こりうる とする。
・各原発の立地時は、どのような地震や、震度まで、OKとしているだろうか
⇒地震による振動等で、破損する設備を明らかにし、対策を検討する
対策を実施するか否か、所要のコストと、リスクとを明らかにする
○想定する津波の大きさ
・今回の東北地方太平洋沖地震(M9.0)による、福島第一での津波の大きさ(高さ
10m以上)迄は、どの原発でも襲ってくる とする。(福島第一原発では、今回の地震の震源地、規模、津波の大きさは、設計時も、その後も、全く想定されていなかった!)
・各原発の立地時は、どのような高さの津波までOKとしているだろうか
⇒地震による津波の来襲で、破損する設備を明らかにし、対策を検討する
対策を実施するか否か、所要のコストと、リスクとを明らかにする。
今回の巨大地震と巨大津波は、生起する確率が、かなり小さいケースと言えるが、一方で、その場合に備えた対策を実施することは、大変なコストを要することとなる。でも、いわゆる、安全神話として、災害やそれに伴う事故は絶対起こらない、と言った誤解を与えることは問題である。自然現象には、絶対起こらない、はあり得ない。上述のように、対策を実施するか否か、実施する場合の所要のコストと、実施しない場合のリスクを明らかにし、選択出来るようにする事が、重要である。
今回の原発事故の初期、NHKの解説番組等で、そんなにコストアップにはならない、素人的にも、現在でも可能と思われる、各種対策が言われていたのが、印象に残っているが、現時点で改めて整理すると、以下の様なものになるだろうか。
○商用電源系統の多ルート化
一般的な多ルート化は当然だが、原発が複数機ある場合、受電後に、複数機間で横に
廻すルートの確保(今回、事故後に実施された)
○非常用電源設備の配置場所
設置場所を、敷地内の同じ高さでなく、少し高い所に移す(コンクリートの高台、山
側)
○非常用電源設備用の燃料の保管場所
最も海側にあった⇒陸側に移し津波から遠ざける
○建屋の入り口等の防水
津波が来ても、建屋内に水が入らない様に防水対策を講ずる
また、全電源喪失という非常事態が発生してしまった時の
○措置手順の徹底(非常用炉心冷却装置の習熟、建屋水素爆発の危険性の明記と防止策
など)
等も、重要だろう。
原発の立地を、海から少し離れた高台にするとか、一か所に集中(福島浜通り、敦賀湾など)しないで、危険分散を図る、なども、中期的な措置として考えられる。
現在、全体的な、原発の安全基準の見直しも行われているようだが、その話と、
・首相指示による浜岡原発の運転停止
・玄海原発関連でのストレステスト騒動
・退陣条件の一つになった再生可能エネルギー特別措置法の成立
など、管総理の考えは、ポイントを突いてはいるのだが(本人は、よくやったと思っているだろう)、思い付き的で、説得力に欠け、全体が見えず、困ったものであった。
原発事故関連で、以前から精力的に動いてきた、細野大臣が、野田新内閣で、そのまま留任することが、国民に対する最低限の誠意の一つ、に思えるのだが、果たしてどうなるだろうか。