2017年10月21日(土) 世界遺産:米国のユネスコ脱退
ユネスコと言えば、当ブログでも、この所、世界遺産のことで何度も御馴染である。
言うまでもなく、ユネスコは、
UNESCO : United Nations Educational , Scientific and Cultural Organization
国連教育科学文化機構
のことで、日本を含め、現在は、195カ国が加盟している。
先日の12日、米国のトランプ大統領が、ユネスコを脱退すると表明し、大きなニュースとなった。実際の脱退は、来年12月となるようだ。
◇ パレスチナのヘブロン
この7月の世界遺産委員会(WHC)で、中東のパレスチナ地域内にあるヘブロンが、パレスチナの世界遺産に登録されたことに反発して、アメリカは、脱退を決めたようだ。ヘブロンの登録には、イスラエルが強く反対したようで、米はこれに同調した形で、脱退を表明している。
米国の脱退理由:
・分担金滞納の増大(後述)
・組織改革の必要性
・反イスラエル的で中立性を欠いていること
(アメリカの「ユネスコ脱退」が物議に…日本が最大の分担金拠出国へ より)
このヘブロンは、ユダヤ教、イスラム教共通の聖地(キリスト教も含めて、3宗教の聖地とも)と言われるようだ。ニュースでは、大統領の娘婿であるクシュナー上級顧問が敬虔なユダヤ教徒で、娘のイバンカさんもユダヤ教に改宗したという。
ユネスコとアメリカ・イスラエルとの対立には歴史があり、2011年にパレスチナ自治政府がユネスコに加盟したことに、和平交渉を阻害するものだと反発し、以降、アメリカ(当時は、オバマ大統領)は、ユネスコの分担金の納入を拒否し続けている。
イスラエルも分担金の納付は行っておらず、既に、この夏、米に先んじて、ユネスコを脱退しているようだ。
◇ パレスチナと国連
パレスチナ(Palestina)とは、元来は、中東の死海西岸の地域の名称だが、ここで、パレスチナについて、簡単に触れることとしたい。
アラブ人が住んでいたパレスチナ地域に、ユダヤ人国家であるイスラエルが、1948年建国されたことに抗して、イスラエルとアラブ勢力間で、数次に亘って中東戦争が続き、パレスチナ人によるパレスチナ解放機構(PLO)も結成された。
1993年のオスロ合意で、なんとか、イスラエル、PLO双方が互いに認め合うこととなった。でも、これも一時的なもので、その後、イスラエルとアラブの紛争があり、イスラエルのパレスチナへの入植等が続いている。
PLOは、パレスチナ自治政府(Palestinian National Authority:PNA)となり、国連への加入も認められた。呼称のパレスチナは、パレスチナ国を意味する場合もある。
でも、パレスチナの国際的な地位は、現在も不安定で、193カ国の国連加盟国の中で、パレスチナを国家として承認しているのが、136か国、承認していない国が57カ国という。
2012年12月の国連総会で、パレスチナを、オブザーバー国家として格上げする決議が審議され、賛成多数で採択されたのだが、国家として承認していない国の対応は以下のように、分かれたようだ。(パレスチナ自治政府 - Wikipedia 参照)
反対 8 (イスラエル 米 カナダ など)
棄権 欠席 14 (イギリス 韓国 など)
賛成 24 (日本も)
下図は、イスラエル国とパレス ナ国(ヨルダン川西岸地区、ガザ地区)を示している。
◇ パレスチナの世界遺産
2011年に、上記国連総会に先んじてユネスコ加入を認められたパレスチナは、以降、世界遺産への登録をすすめ、今回のヘブロンを含めて、以下の3件となっている。(世界遺産の一覧 (アジア) - Wikipedia 参照)
・2012年 イエス生誕の地:ベツレヘムの聖誕教会と巡礼路
・2014年 パレスチナ:オリーブとワインの地-エルサレム南部バティールの文化的景観
・2017年 ヘブロン(アル=ハリール旧市街)
(ベツレヘム、ヘブロンは前出の図で、緑○で表示。 バティールは、エルサレム近郊の農村のようだ。)
でも、これらの世界遺産への登録では、3件とも、通常行われる諮問機関であるイコモスの審査が無く(イコモスが審査拒否)、直接WHCで決議されたようで、地域の政情不安を受け、即、危機遺産に指定されるという、変則的な措置だったようだ。
ユネスコの世界遺産に登録することで、パレスチナ自治政府の存在を世界にアピールするという、強い狙いがあるようだが、これに対して、イスラエルと米国は、偏った政治利用だ、と反発している構図だ。
因みにイスラエルは、世界遺産に9件登録しているが、パレスチナ自治政府が支配している地域は含まれていないようだ。
中東地域のパレスチナ問題が、世界遺産にも陰を落としている問題と言えるが、今後どのように展開するのだろうか。
◇ ユネスコ分担金
ユネスコ分担金の最大の支払い国であるアメリカが、2011年以降納付しておらず、巨額の滞納金があることは、ユネスコ活動にとっても、由々しきことである。結果的に、当面は、日本が、ユネスコ分担金の最大の拠出国である。
各国のユネスコ分担金の分担率は、下図のようだ。(図はネット画像)
(2016-2018)
現在の日本のユネスコ分担金は、年間40億円程で、アメリカは日本の2倍強になる。日本も、2015年、南京事件に関する中国の記憶遺産登録に反発して、ユネスコ分担金の納入拒否をちらつかせたことがあるが、結局、納入拒否はしなかったという経過がある。
国連全体に対する分担金(ユネスコも含めた)の見直しが、2019-2021年について行われているようで、2018年末に決まるようだ。 情報によれば、中国の存在が増し、米国に次いで2位になると言われており、日本の地位が3位に低下する見通しだ。これに伴い、ユネスコの各国の分担率も変わることとなろう。 (東京新聞:国連分担金、日本3位に 19~21年試算 中国2位 )
◇ 世界のユダヤ人人口
ユネスコ関連で話題となったユダヤ人問題について、自分なりに、大まかに整理してみたい。 (以下は、図録▽世界のユダヤ人人口 等を参照、引用)
ユダヤ人は、世界中で1400万人程と言われるが、下図のように、その約8割の人口が、ユダヤ人の国として戦後建国されたイスラエルと、それとほぼ同数が、米国に集中しているようだ。
イスラエルに多いのは当然として、米国に多いというのは、筆者には、やや、驚きだ。アメリカが、イスラエルを強力に支援してきた理由でもあろう。米国内では、ユダヤ人の人口比は1.7%程でも、ユダヤ人組織の活動は活発のようで、大統領との繋がりも深いという。
ユダヤ人は、長い歴史の中で、多くの困難を経てきている。 極めて有能である一方で、商売上手の守銭奴(ベニスの商人など)といったイメージもある。 特に、記憶に残るのは、ナチスによるユダヤ人の大量虐殺(ホロコースト)だろうか。
下図はユダヤ人の人口の推移を示しているが、1900の頃は、旧ソ連地域に多かったが、以降、ロシアにおけるポグロム(ユダヤ人に対する集団暴力行為)が1881‐84年、1903‐06年、1917‐21年と3波にわたって多発したようだ。
推移図では1939年にかけて旧ソ連のユダヤ人人口は減少し、東欧・バルカン諸国が増えている。
そして、1933年にドイツに現れたナチス政権の、東欧・バルカン諸国への侵攻とユダヤ人政策で、ユダヤ人迫害や残酷なホロコーストが行われ、東欧バルカン諸国や西洋で、ユダヤ人が激減した(△600万人とも)。
代わって北米が急増している。 北米は、住処の無くなったユダヤ人にとって、安住の地と映ったのだろうか?
1948年のイスラエル建国後、北米はほぼ変わらずで、イスラエルに世界からユダヤ人が集まり、ユダヤ人が漸増して現在に至っているという、、ユダヤ人にとって、目まぐるしい変化である。
◇ パレスチナ問題の存在
世界は、いまや、北朝鮮問題や、シリアでのIS拠点のラッカ陥落など、シリアスな話題が中心で、パレスチナ問題の影は薄くなっている感じだが、今回の米のユネスコ脱退表明で、改めて、問題の所在を自覚させられた次第だ。
先月の9月に、ニューヨークの国連本部で、各国閣僚級が出席したパレスチナ支援会議があったようで、日本の河野外相が、難民キャンプなどを対象とした、2000万ドルの支援を表明している。(【河野外相】 パレスチナ支援に2000万ドル - zduizd’s diary など)
中東問題に関しては、アメリカに追随するのではなく、日本だから出来る独自の外交を展開することを期待したいところだ。