2020年1月31日(金) Brexit実行へ
イギリスのEU離脱問題(Brexit)に関しては、当ブログで取り上げた以下の記事、
Brexit 1~4 (2016/7/2、7/9、7/13、10/10)
Brexit その後、その後続 (2019/1/16、2/1)
に示すように、2016年の国民投票で、離脱賛成が多数を占めて以降、保守党のメイ首相が苦闘し、国内の意見がまとまらぬ混迷が続き、昨年6月、辞任する結果となった。
その後昨年7月、保守党党首がジョンソン氏に交代して首相に就任し、瞬く間に、EU離脱期限が10月31日だったのを、EUと交渉して、今年の1月末まで延長することに成功、稼ぎ出した時間内に総選挙が行われるという、マジックを実現したのである。
保守党の選挙スローガンは、❛GET BREXIT DONE❜で、「BREXITを成し遂げる」という意味だ。
総選挙の結果については、当ブログで、久々に、Brexitについて取り上げ、
イギリスの総選挙とEU離脱 (2019/12/21)
で触れたように、政権を担う保守党が快勝する結果となり、良し悪しはともかくとして、迷走を続けたイギリスの今後の方向が見えてきて、イギリスのEU離脱が、実行段階に入ることとなった。
今回の記事は、上記の続編で、最近のイギリス情勢を取り上げている。
◎ EU離脱に向けてのタイムスケジュール
離脱に関するタイムリミットは、前述のように、本日2020年1月末となっている。
離脱に関する関係法案が、イギリス議会下院に上程され、この1月10日に可決され、引き続いて、上院で審議・修正可決され、1月23日にエリザベス女王の裁可によって、イギリスのEU離脱に関する基本法が成立するという、スピード振りである。
引き続き、1月23日にEU議会の憲法問題委員会で、審議採決され、賛成23反対3棄権0で承認されたようだ。
そして最終的には、一昨日1月29日のEU議会の本会議の採決で
賛成 621
反対 49
で可決され、イギリスのEU離脱が正式に承認されたようだ。
EU(旧EC)の長い歴史の中で、イギリスが加盟したのが、1973年で、以来、今回の離脱まで、47年にも及ぶ長~い付き合いである。
議決の後、名残を惜しむ各国の代表たちは、スコットランドの民謡である離別の唄(蛍の光)を、憐れみの気持も込めて合唱したという。(EU議会 イギリスの離脱協定案承認 31日に離脱へ NHKニュース.url )
EU議場内で蛍の光を合唱
73名もいるイギリス代表議員たちは、ブラッセルにあるEU議会の事務所を引き払う準備に余念がない様子も報道されていた。
可決承認された合意文書は、見ていないが、マスコミ報道から推測される主要次項は以下のようだ。
- 離脱日時
GMT(イギリス:グリニッチ標準時) 1月31日 23:00
UTC 0
CET(EU:EU中央標準時) 1月31日 24:00(2月1日 0:00)
UTC-1
JST(日本:日本標準時) 2月1日 8:00
UTC-8
UTC:協定世界時 Universal Time、Coordinated
- 移行期間
上記の離脱日時以降から始まる、2020年12月31日までの移行期間内は、イギリスーEU間は、これまでの条件が適用される。この移行期間内に、貿易協定などの移行条件を具体化することとなる。
EU側は、混乱を回避するため、移行期間の延長を提案したようだが、イギリスの政権側は、今年末の11か月で良い、としたようだ。通常の貿易交渉などでは数年かかることから、考えられない短期間である。果たして交渉はまとまるだろうか。
- 交渉事項
モノの移動
EU域外となるイギリスと、EUとの間の貿易のルール(FTA)を、新たに定める必要がある。
EUと域外とのFTAにはいろんなケースがあるようだ。
欧州地域で未加入のスエーデン方式のFTAや、北米カナダとの間のFTAや、アジアの日本との間で2018年に締結したFTAもある。(下図)
FTA合意で握手
ユンケル委員長* 安部総理 トウスク大統領**
*現在 フォンデアライエン氏 **現在 ミシェル氏
イギリス側は、カナダ+++(カナダ方式に幾つかの条項を付加+)を希望しているが、EU側は、カナダ並みを主張しているようだ。
人の移動
イギリスは、域外となり、自由な移動が制限される。
通貨
イギリスの通過は、ユーロから、元のポンドに戻る。
その他
- 北アイルランドーアイルランド間の国境問題
イングランドからアイルランドが独立する時に、北アイルランドが、イギリスの一部として残ったが、以来、これを巡って根深い闘争が絶えず、今回のEU離脱でも、この国境問題はきわどい問題だ。
厳格な出入国チェックや税関業務は、双方とも、行いたくないのが本音だろうが、かといって、この国境が抜け道になって、不公正や、いいとこどりが行われるのは、防がなければならない。
野球等で、
バックストップ(backstop)
という用語が使われていて、ボールが場外に出ていかないようにする防護ネットのことで、日本ではバックネットともいわれる。
この用語を、Brexitでは、イギリスーEU間での交渉が、期限内にまとまらない時のための安全策を指すようだ。意味するところは、交渉が纏まるまで、現行の関税ルールを継続する案という。
この案は、EU側からみれば、最悪、合意なき離脱となっても、イギリスが関税同盟に留まることになり、支障はない。
一方、イギリス側から見れば、アイリッシュ海を境にして、北アイルランドがイギリス本国から離れ、アイルランドに併合されるような方向になる。
EUの運営には口出しはできなくなる中で、関税同盟の縛りで自国の自由な貿易が制限されることから、なんとしても避けたい事態といえる。
イギリスが、EU離脱で、往時の大英帝国時代のパワーが戻ってくる方向になるのか、それとも、じり貧の道に進む方向なのか、いずれにしても、今年末までの交渉劇が見ものだ。
一方、Brexitが実行されると、各国内にある、反EUの動きが活発になる懸念もあり、注目したい。
多様化、分断化、自国化が世界の趨勢の中で、統合化を目指すEUは、ユニークな動きと言われる。
加盟各国の議会、政府、司法、税制や軍・警察はそのまま残しながら、経済面では、EUとして、あたかも国家のように関税同盟と統一通貨がある。
でも、屋上屋を重ねるように、欧州議会があり、欧州政府があり、欧州裁判所がある。何ともややこしい、無駄の多い二重構造にも見える。
自由な関税同盟の名のもと、力のある国や世界企業が、EU内で支配力を強め、EU加盟国間の経済格差が大きくなっているようにも見える。各国の経済力に見合った分担金(一種の税金)を徴収し、これを弱い国に配分することで、格差の平準化が図られていると言えるのだろうか?
筆者には、どのような共同体を目指すのか、EUの終着駅が、見えないところだ。