2012年3月30日(金) 放射能に関する食品の新安全基準
昨年3月11日の大地震による、福島第一原発の事故は、東日本を中心に、国内に未曾有の放射能汚染問題を引き起こしたが、それ以来、1年以上が経過した現在も、深刻な状況は、殆ど、変わっていない。
放射能汚染に対する、食品の安全性に関しては、事故直後の、昨年3月17日に、厚労省から、暫定措置として、取り急ぎ出された、
放射能汚染された食品の取り扱いについて 食安発0317第3号
で示された暫定基準値が、その後の指針として、規制が行われて来た。
当ブログでも、下記記事
原発事故―死の灰の恐怖 (2011/3/24)
原発事故 風評被害 (2011/4/2)
などで、触れて来たところである。
その後の、詳細な経過は、フォローしていないが、稲の作付けに向けての田んぼの土壌の基準、牛肉と牛舎の稲藁の問題、茶葉と加工品への適用等が、その都度、話題となった。
この暫定基準値を、見直す作業が進められ、厚労省の、薬事・食品衛生審議会の放射性物質対策部会で、昨年12月に、新たな基準値が了承され、放射線審議会に諮問された報告書が、公表されている。(食品中の放射性物質に係る基準値の設定に関する放射線審議会への諮問について)
放射線審議会では、この2月に、この案件が、コメント付きで了承されており、予定通り、この4月1日から、新たな基準として、施行する予定となっている。
昨年春は、緊急措置として、暫定的な数値を使ったのだが、その後、全体的な原発事故の状況や放射能汚染の状況が明らかになり、事故原発自身も、曲がりなりにも、冷温停止状態が、保持できるようになり、落ち着いてきたことから、見直したものと考えられる。
今回の新基準の特徴としては、以下の様な事があげられよう。
・核種が放射性セシウム(137、134)に限定されたこと
暫定基準にあった、半減期が短い、ヨウ素については、もはや、考慮しなくても良く、その他の核種も、殆ど検出されていない。
・年間被曝量の規制値を、1mSvに変えたこと
従来の暫定的な5mSvから、事故が安定した時点でのICRP値である、 1mSvに変えたことに伴い、食品の規制値が厳しくなった。
・子供・乳児関連を分離して、規制値をより明確に規定したこと
従来は、注記の形で表示。今回は、子供用の規制値を、大人用の1/2にしているが、放射線審議会では、この、1/2の根拠についてコメントしているようだ。
・一般食品の細分を止めて一本化
従来は、野菜類、穀類、肉・卵・魚・その他に区分
・加工・乾燥食品について明確にしたこと
乾燥食品(茶、海藻、魚、野菜)、米ぬか、油脂原料等について、細かく規定
これらを踏まえ、新たな基準値は以下のようになっている。 ここで、Bq/kgは、1kg当たりの食品中に含まれる、放射性物質(セシウム137、134)の放射能で、 単位はBq(ベクレル)である。
食品 暫定Bq/kg 今回Bq/kg
飲料水 200 → 10
牛乳・乳製品 200 → 50
乳児用食品 (100) → 50
一般食品 500 → 100
これまでの、暫定基準値と比較すると、放射性セシウムに関して、
飲料水は1/20、
牛乳・乳製品は1/4、
乳幼児食品は1/2、
一般食品は1/5
にと、大幅に、規制が厳しくなり、それだけ、安全性が向上している、と言える。
食品の放射能汚染に関する安全基準は、毎日、摂取する食品だけに、内部被曝の関連で、消費者の関心は、極めて高いのは当然だ。
“暫定基準値でも、安全だと言って来たではないか、あれは、嘘だったのか!”
との意見もある訳だが、今回の報告書でも、従来の暫定基準値でも、“十分安全は確保されていると考えられる”と述べている。従来値でも、すぐに危険になる訳ではなく、今回で、より安全性が向上し、安心できるレベルになったと、考えるべきだろう。
報告書では、旧→新への移行に当たっては、経過措置期間を設定出来る、としている。だが、一般食品についての新たな基準値の適用を前にして、各地の農協や漁協では、風評被害を避けるべく、更に安全を見込み、規制値の1/2の、50Bq/kgを、出荷制限や、自粛の目安としているところが多いようだ。
新基準では不合格でも、従来の基準に入っていれば、安全性に問題は無い、と言われても、人心の赴くところ、安心は出来ないのが自然で、生産者側は、風評被害を見越して、却って厳しい経過措置をとっている、と言えよう。こんなことから、従来の基準では、流通出来ていた産米でも、新基準を満たしていない物は、政府が買い取って、処分すると言うような話もでている。消費側の安全性が向上する分、供給側としては、より厳しく規制されることとなる。
放射性セシウム134の半減期は、2年と短いが、137は、30年と、大変に長いために、小手先の対策では対応できないことから、食品に含まれる放射性物質を如何に小さくするかは、放射能汚染地域での、今後の農業・漁業にとっては、極めて重要な課題だ。
そして、定常的な検査を行い、規制値を超える食品は、市場に流通させない仕組みとセットにした取り組みが、重要となる。
今回の報告書でも、縷々述べられているのだが、TV報道等も含めて、以下の様な諸点については、残念ながら、専門家の間でも、まだまだ、はっきりしていないように見受けられるし、自分も含めた、一般消費者・一般国民から見て、極めて、曖昧で、難解なのである。
①許容被曝総量の考え方と、外部被曝と内部被曝の関連
許容被曝総量の考え方と被曝量の配分
特に、1~20mSv~100mSvの、低レベルの範囲
外部被曝と内部被曝のへの配分
食品等による内部被曝の危険度についての医学的知見
外部被曝の危険度に対する医学的知見
被曝量と身体の異常(甲状腺ガン、白血病等)との関連
年齢や性差による影響(乳幼児、子供、妊婦、大人)
②食品中の放射性物質の基準値と摂食パターンとの関連
生活習慣と摂取する種類と期間
③水や土壌などの環境中の放射性物質の基準値の考え方
環境から食品に取り込まれるメカニズムと量
日本について論じる場合、ICRP等での、国際的な知見と規制値の状況の把握は必須だが、事故国の、米、露や、欧州諸国では、どのように規定しているのかも、改めて調べて見る必要がある。
今や日本は、他に学ぶだけでなく、放射能事故の当事国として、問題の解決策を編み出しながら、日々の経験やデータを、率先して世界に示していく、責務があろう。