ケイの読書日記

個人が書く書評

岸本葉子 「ひとり上手」

2017-06-25 16:32:15 | 岸本葉子
 久々に岸本さんのエッセイを読む。やっぱりいいなぁ。ホームグラウンドに帰ってきた気分。

 学生時代に、同じゼミの女の子が「学食で一人で昼ご飯を食べる事ができない」と言っていたの聞いて、すごく驚いた覚えがある。もう40年以上前の話だけど。もちろん、そういう病気がある訳じゃなくて、ひとりぽっちで昼ご飯を食べてると「あの人、友達いないのかしら?」と周囲の人に思われるのがイヤだという心理が働くからだろう。

 私は、どちらかといえば一人で行動するのが平気なタイプだ。妄想にふけってボーっとしていたいので、地下鉄の中で知った人に会うと困る。一応「お久しぶり。お元気?」と声を掛けなきゃならないから。気づかないふりをすることが多い。だって、たいした話題がないんだもの。

 大学1年の夏休み、親友と言っていいほど仲の良い人と二人で、10日間北海道旅行をした。行きは二人で飛行機、帰りは予算の関係で、私だけ鈍行列車で帰ってきた。その時の解放感は…素晴らしかったなぁ。万能感というか、自分は何でも一人でできるんだっていう沸き立つ気持ち。一人旅は初めてだったから。

 そんな私だけど、やっぱり一人だと気になる時がある。例えば、カフェに入ったら、知り合いが何人かいて、その人たちが楽しそうにおしゃべりしている。友人だったら「ねぇねぇ何の集まり?」と寄っていくが、顔見知り程度だから、離れて一人で座る。文庫本を開いて読み始めるが、時々聞こえる笑い声や歓声が妙に気になって、読書に集中できない。

 誰も知らない中で、自分一人でボーっとしているのはゆったりできるが、何人かの知人が自分の隣で楽しそうにしているのには、心を乱される。自分がどう思われているか気になって。

 何とも思われてないって!! 自意識過剰! 自分は、そんな人の注意を引けるほどの目立った人間ではない。考えてみれば、何事も「人から良く思われたい」という気持ちが自分を苦しくさせる。

 岸本さんは一人暮らしが長いせいか、こういった自分と他者との距離の取り方が、とても上手な人なんだ。人と楽しく付き合いたいがベッタリしない。過度に相手に踏み込まないし、踏み込ませない。「つかず離れず」これが大切。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 津村記久子 「浮遊霊ブラジ... | トップ | 村田沙耶香 「コンビニ人間」 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

岸本葉子」カテゴリの最新記事