玄文社主人の書斎

玄文社主人日々の雑感もしくは読後ノート

ベス・ハート、ライブ(12)

2018年12月29日 | 日記

 最後の2曲は7枚目のオリジナル・アルバムBetter Than Home(2015)から1曲と、5枚目のオリジナル・アルバムMy California(2011)から1曲という選曲であった。


アルバムBetter THan Home

 私にとってこの選曲はそれほど嬉しいものではなかった。Better Than HomeもMy Californiaも私にとって重要なアルバムではないからだ。バラード調の曲ばかりが多くて、ベス・ハートらしい重厚なブルースの曲が少ないからだ。
 Better Than Homeで素晴らしいと思うのは、てっきりスタンダードのカバー曲かと思うくらい出来のいいブルースTell Her You Belong To Meくらいだし、My Californiaではボーナス・トラックで入っているアレサ・フランクリンのカバー曲Oh Me Oh Myしか認めないなどという人もいるくらいなのだ。
 コンサートの最後にこのようなバラード調の曲を持ってくるのは、最近の彼女の傾向にあるのかも知れない。今年最初のライブ・アルバムFront and Centerで最後の曲はNo Place Like Homeだし、今年2枚目のライブ・アルバムLive at Royal Albert Hallでの最後の曲はPicture in a Flameだった(アンコール曲を除く)。
 こうした傾向はオリジナル・アルバムFire On the Floorでの曲の配列から来ているのかも知れない。Fire On the Floorでは最後に静かな曲を二つも並べているからである。Picture in a FlameとNo Place Like Homeがそれである。
 Fire On the Floorでは最初、こんな曲の並べ方でいいんだろうかと思ったが、しかし何回も聴いているうちに馴れて来るというか、これしかないと思うようになるから不思議だ。まあ、最後をきれいな曲で締めくくって、アンコールで重厚な曲をたっぷり聴かせようという意図がそこには窺える。
ということで15曲目はBetter Than Home から Mama This One's for You。ひたすら母親への感謝の気持ちを歌ったもので、さんざん母親の悲惨な人生をテーマにして、公衆の眼に晒してきたことへの謝罪の気持ちもあるのかな。
 こういう素直な曲は本来好きではないが、しかしまあ、この曲の美しさはどうだろう。特に

 Oh mama I saw the world
And it was good
And full of kindness

のサビの部分は、美しい曲をたくさん書いてきた彼女の曲の中でもとりわけ美しい部分ではないか。
 16曲目のTake It Easy On Meは歌詞をきちんと読むまで好きな曲ではなかったが、神様に対して手加減を求める歌詞が切実で、思わず好きになってしまった。もちろん彼女の辛い人生体験を背景にした歌で、神に対する恨みとも取れる歌詞である。
 ということでステージ上に誰もいなくなるが、アンコールの拍手に応えて登場したベス・ハート・バンドはまたもやBetter Than Homeの中からTroubleの演奏を始めるのであった。
 完全にロック調の曲で元気も調子もいい曲である。歌詞も何か意味深な感じがするがよく分からない。この曲も結構あちこちでアンコール曲として使われているが、適当なところだろう。最後にすっきり、さっぱりという感じかな。
 しかし、私には密かに期待していることがあった。恐らくだめであろうがアンコールとして私はCaught Out In the Rainを聴きたかったのだ。彼女の曲の中で最高の曲とも言えるこの曲、重厚なブルースを最後の最後に聴きたかった。
 この曲はヨーロッパ人が特に好きなようで、スイスやフランスでも過去にアンコール曲としている。このような重苦しい曲はアンコールには向いていないのかも知れないが、彼女のヴォーカルの様々な形を一曲で堪能できる曲でもあり、その長さもベス・ハートとのお別れの曲に相応しいものがあるからだ。
 しかしそうはいかなかった。でも12月に入って発売になったライブ・アルバムLive at Royal Albert Hallで、これまでの最高の出来とも言えるヴァージョンでこの曲が聴けることで良しとしよう。ロンドンの観客が羨ましくもあったが。
 ということで、1時間半のコンサートはあっという間に終わってしまった。長々と書いたのは後で考えたことであり、その時には緊張のあまり、ものを考えられる状態ではなかったことを告白しておこう。
(この項おわり)