玄文社主人の書斎

玄文社主人日々の雑感もしくは読後ノート

ベス・ハート、ライブ(7)

2018年12月21日 | 日記

 5曲目はChocolate Jesus。この曲もジョー・ボナマッサとの共作カバー・アルバムDon't Explainの3番目の曲で、軽快で歯切れのいい曲である。歌詞を読むと「日曜ごとに教会に行かなくてもいい。お祈りで跪かなくてもいい。……チョコレート・ジーザスがあれば気分はいいし、満足だ。」というような不謹慎な歌だ。Chocolate JesusというのはChocolate Jesus Coffeeというのがあるそうだから、チョコレート飲料の名前ですかね。まさか麻薬の隠語ではないよね。
 この曲もジョン・ニコルズのギターで聴くのは初めてだが、とても短い曲で間奏もあるかないかくらいなので、取り立てて言うこともない。あっという間に終わってしまう。でもこういう軽快なブルースもいいものだ。
 次の6曲目はAs Good As It Gets。4枚目のオリジナル・アルバム37Daysのトップを飾る曲で、この曲も軽快で、威勢のいいナンバーである。さほどの名曲とは言えないが、一度聴いたら忘れられなくなるようなインパクトがある。

アルバム 37Days

 このアルバムの中では3曲目のOne Eyed Chickenが一番好きでライブでもよく演奏されていたが、最近のコンサートではあまりやっていないようだ。次のような自虐的な歌詞で、彼女はこういう曲もたくさん書いている。

I'm like a one-eyed chicken and a two-legged dog
Shrinking heads in the kitchen then I piss on the lawn
I'm not the kind of woman that you want to take home
Only heaven knows the devil's pain
I just can't change

 こんな救いのない歌が37Daysの中には他にもあって、At the BottomやCrashing Downなどがそうだ。このような曲は彼女の悲惨な過去(詳しくは書かないが、薬物中毒もその一つ)の体験から来ている。ただし、ベス・ハートはこんな自虐的な曲をパワフルに、実に攻撃的に歌う。聴くものにとってはそれが救いなのかも知れない。
 37Daysというアルバムの基調はそういう彼女の暗い部分にあるのだが、時に今日聴いたAs Good As Good It Getsのような軽快で力強い曲もある。アルバムの1曲目にも相応しいが、ライブのオープニングにも向いている曲だと思う。
 7曲目はアルバムFire on the Floorのトップの曲Jazz Manである。タイトルからしてそうだが、彼女がこれまで書いてきた曲の中で最もジャズっぽい曲だろう。しかも古き良き時代の酒場の雰囲気を漂わせている。
 ジャズ好きにはこういう曲はたまらないだろう。スキャットもふんだんに聴けるし、彼女のオリジナルではなく、どこかで聴いたスタンダード・ナンバーかと思うような風格がある。酒場の雰囲気だが、彼女のヴォーカルは頽廃に向かわない。自虐的な歌や暗い人生体験そのままの歌でさえパワフルに歌うように、彼女の歌は衰弱や頽廃とは無縁である。
 8曲目は私の大好きなLay Your Hands on Me。この曲もずっと有名なシンガーのカバー曲だと思っていたが、実はジョン・ニコルズとベス・ハートの共作によるものなのだ。カバー曲と思いこんでしまうような曲は他にもたくさんあって、Tell Her You Belong to Meなどはその代表と言える曲だ。このことは彼女の曲の完成度の高さを示していて、彼女の曲にほとんど駄作がないことの裏付けになっている。
 Lay Your Hands on Meは繰り返しの多い単純な曲と言えば言えるが、そこがヴォーカルの技術の見せどころ。ベス・ハートは同じフレーズを様々な歌い方でこなしていく。低音から高音に至る音域の広い曲で、歌い手にとっては難曲かも知れない。
 ベスが高音を出し切って、これ以上は? と思うところをさらに乗り越えていくところが聴きどころである。こういう曲のベス・ハートのヴォーカルを聴くと、本当に天賦の才能があって、とほうもなく巧いと思う。これだけの声量、声域の持ち主はどこを探してもいないのではないか。
 2015年にミラノで録ったジョンがピアノを弾くヴァージョンがある。ジョンのピアノは下手だが、伴奏がピアノだけなのでヴォーカルがクリアに聞こえる。とてもいい。最後にベスが間違えて「John Nicols on the Guitar」と言っている。

ピアノを弾いているのはジョン・ニコルズ 


 

コメント
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