玄文社主人の書斎

玄文社主人日々の雑感もしくは読後ノート

地震が産んだ絶品干物

2008年02月28日 | 日記
 先日、東京からお客があった時、二次会用に地元でつくられているおいしい酒の肴がないかと探し回ったが、結局適当なものがなかった。味噌漬けや塩辛などの名産品はあるが、酒の肴にするには、ちょっとしょっぱすぎるのだ。仕方なく、地元産でないものを買うことにした。残念だった。
 ところで、昨年暮れ、地震見舞いのお返しに干物セットが届けられた。サバ、アジ、スルメイカ、カレイ、メダイの干物が入っていた。どれも大変おいしかったが、初めて食べたメダイの干物が脂がのっていて特においしかった。
 最初、それが地元柏崎でつくられているものだとは思わなかった。掛け紙がしゃれていて田舎臭さがなく、高級感が漂っていたからだ。製造者を見ると、東の輪の「新澤」とある。びっくりした。柏崎で天日干しの干物がつくられているとは、まったく知らなかったからだ。
 そんなことで、新澤さんを取材させてもらった。新澤さんと話していると、御婦人が孫の男の子を連れて店内に入ってきた。そのイントネーションで群馬の人とすぐ分かった。案の定、前橋の人で、「この間のサバがとてもおいしかったんよー」と言っている。常連さんのようだ。
 男の子が「ボク、これがいい」と言って、イワシの干物を指差している。頭はとってあるが丸干しのイワシである。今時の子供にしては珍しい嗜好だなと思ったが、前に食べてよほどおいしかったのだろう。イワシを食べて骨太の体に成長してほしい。
 新澤さんの仕事は徹底していて、タイの干物をつくる時には、小骨までひとつひとつピンセットで抜くのだそうだ。お客さんに「安全に食べてもらいたい」気持ちからだという。頭や骨を取ってしまうのも、“お客さんが食べやすいように”という心配りからなのだ。
 それよりも、あまり干物にするようなものでない魚まで干物に加工しようという新澤さんの意欲がうれしかった。あの超高級魚、タイより高いノドグロを干物にしてしまうのだ。春が近い。新澤さんはこれから旬を迎えるサクラマスを干物にしたいと、楽しそうに話す。出来上がったら連絡をもらうことになっている。とても楽しみだ。

越後タイムス2月15日「週末点描」より)


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鏡なしに自画像を

2008年02月27日 | 日記
 今月二日、NHK教育テレビ「アートのちから」に画家・木下晋さんが出演するというので、朝七時からテレビのスイッチを入れた。子供向けの番組で、木下さんが出演するには不向きではないかと思っていたが、決してそうではなかった。
 木下さんは子供たちに「一番身近なものを描け」という。子供たちは、「家族? 友だち?……」と迷うが、木下さんはそうではなく「自分だ」と言い、しかも「鏡を見ないで自画像を描け」と言うのだった。子供たちには無理難題と思ったが、結果はどうだったか。鏡を見て描くよりも、鏡を見ないで描く方が“正確”というか、自分の“本質”をより的確に掴まえて描くことができたのだった。
 この実験にはびっくりしてしまった。モデルの心の奥まで覗き込んで描いたような木下さんの作品を思い起こす。最も深くまで覗き込むことができるのは、自分の心の中に他ならず、“鏡を見ないで自分を描く”というのは理にかなっているし、木下さんの人物画の基礎になっていたのだと理解できた。
 十七日のNHK新日曜美術館にも出るというので、それも見せてもらった。特集「よみがえる大正の鬼才、洋画家・河野通勢」の中で、ほんの二~三分の出演だったが、岸田劉生の同時代人という長野の画家・河野通勢を初めて知り、その微細な線が無限に増殖していくようなカワヤナギの絵に感銘を受けた。
 三月二日には、新日曜美術館の「絶対孤独の表現者たち││アウトサイダーアートの世界││」に出演するという。木下さんにすれば、こちらの方が本命だろう。また新しい世界を見せてくれることを期待している。

越後タイムス2月22日「週末点描」より)


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文化協会に異議あり

2008年02月15日 | 日記
 「柏崎文化協会」というものが、今年度末を目標に設立されようとしている。現在会員を募集中であるが、どう展開されていくのだろう。設立趣意書には、『風のいろ』発行を通し、「多くの文化団体と情報を共有し、意思の疎通を図り、文化の町づくりに貢献できることを確信した」とあり、「行政との連携の重要性」を強調しているが、そこのところがよく理解できない。
 “文化”というものを団体単位で考える発想自体が分からないし、「行政との連携」がなぜ必要なのかも分からない。“文化”というものは、個人の営為そのものであって、集団的に発揚させていくようなものではないと考えるからだ。
 現在進行形の“文化”と、“伝統文化継承”や“文化財保存”などという時の“文化”とは分けて考えなければいけない。文化創造は行政ではなく、あくまでも自立した主体によって担われるものでなければならない。また“文化”は行政と対峙する部分をもっているから、行政の支援を受けたり、行政によって育成されるようなものではもともとないとも考える。
 お互いに「お前のやっていることは文化活動なんかじゃない」と言ってしまえばそれまでだ。“文化”という目標を不特定多数で共有することは至難の業であり、共通の目標とすることが本当に正しいのかどうかについて疑問がある。どう考えても共通認識としての“文化”という概念が成立するとは思えない。
 元県議の西川勉さんが柏崎民謡保存会の新年会で、四十九年前に「文化団体連絡協議会」というものを組織したが、あっという間に空中分解してしまった経緯について話していた。“文化”というものの範疇が広すぎて、押さえがきかなかったからということだ。西川さんは文化協会の今後について「果たしてどうなるのか?」と言われたが、本当に「果たしてどうなるのか?」と、思っている。

越後タイムス2月8日「週末点描」より)


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夏が来れば思い出す

2008年02月07日 | 日記
 いきなり昨年十二月の有効求人倍率が一・三九倍(パートを除く常用)、一・二八倍(パートを含む全数)となり、ハローワーク柏崎によれば「調べたわけではないが、ここ十年来なかった高水準」とのことで、びっくりしてしまった。
 有効求人倍率は景気の指標として重要なものであり、この数字だけを見ていると、昨年末にかけて柏崎の景気は“急上昇”という風に見えなくもない。柏崎管内の有効求人倍率は、原発建設時に異常にはね上がり、建設終了と同時にどんどん落ちていって、平成十三年~十五年には〇・五倍のあたりで低迷していた。
 その後、景気の回復とともに少しずつ上昇して、ようやく平成十八年には一倍台に戻した。昨年の中越沖地震によるプラント5の撤退や、飲食・宿泊業の受けた大きな被害で、倍率は下がるのではないかと懸念されたが、そうはならなかった。
 しかし、パートを含めた新規求人、求職状況を見ると、求人数は横ばいだが、求職者数が激減していることが分かる。有効求人倍率の上昇はこのことに起因していて、必ずしも活発な景気を反映しているわけでもないようだ。地震の影響で求職どころでないという実情もありそうだ。
 一方、飲食・宿泊業の求人が昨年に比べて倍増している。これは、東京電力が社員を積極的に観光客として柏崎に送り込んでいることも一因のようで、内藤観光協会会長によれば、「宿泊は戻った。満員で断っているところもある」くらい好調という。
 しかし、内藤会長は「東電客もいつまでも続くわけではない。今年の夏が勝負だ」と話している。内藤会長は「夏が来れば思い出す」の歌の文句を引いて、中越沖地震時、原発から上がった黒煙のイメージが、観光客の心に甦ってくることを心配しているのだ。

越後タイムス2月1日「週末点描」より)


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青島みかんの話

2008年02月05日 | 日記
 “ああ、あの青い箱の”とすぐに気が付いた。「青島みかん」が市民に届けられるというので、一個食べてみたいと思って取材に行った。生来のものぐさで、皮を剥くためにナイフを使わなければならない果物はあまり好きではないが、手で皮を剥ける果物は好きだ。
 バナナが一番皮を剥きやすくて大好きだ。柑橘類も好きで、特に伊予柑やデコポンを好む。冬みかんも皮を剥きやすいので好きな果物のひとつである。しかし「青島みかん」がどんなみかんなのか認識していなかったので、試食を兼ねての取材だった。
 「青島」を“地名”と思い込んでいたが、そうではなかった。静岡県の青島平十という人が、五十年以上前に枝がわりを発見し、有望品種として育て特産品となったみかんなのだという。産地名でなく人の名前のついた品種名など、そうあるものではない。青島さんはきっと立派な人だったのだろう。
 物欲しそうな顔をしていたせいか、市の復興支援室の職員が一個渡してくれた。「味見をしないと記事が書けませんからね」と聞かれもしないのに言い訳をした。まさか、仮設住宅入居者にもらいに行くわけにもいかないので、作戦成功であった。
 さっそく取材後、車の中で試食してみた。やや大ぶりで扁平、皮は非常に剥きやすい。何といっても浮皮が少なく、ほとんど気にせず口にほおり込める。濃厚な甘味がある。すっぱい柑橘類も好きだが、冬みかんは糖度の高い方がいい。
 「これはいける」と思い、スーパーで買って食べた。残念ながら鮮度が落ちていて皮も剥きづらく、甘味も薄かった。やはり静岡から直接届けられた産地直送品にかなうものではない。

越後タイムス1月25日「週末点描」より)


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