今回のパリ行きの最大の目的はそんな文学的なテーマではなく、アメリカのブルース・シンガー、ベス・ハートのヨーロッパツアーを追いかけて、11月15日にパリ郊外のサン=ジェルマン=アン=レーで彼女のコンサートを聴くことにあった。
そのための準備を私はパリ行きの計画を決めた今年初めからやっていた。フランスでは今年5月にパリのPalais des congrèsでコンサートを行っているが、本格的なツアーはフランスでは11月に入ってストラスブールから始まって、リヨンまで7カ所を回るというものだった。
パリに行くのだからパリから最も近いサン=ジェルマン=アン=レーがいいだろうとあたりをつけ、オフィシャルHPでチケットの売り出しを待ったが、いつまで待ってもbientôt disponibleの表示が出るだけで、サン=ジェルマン=アン=レーの直前のリールや直後のツールのチケットはとっくに売り出しになっているというのに、埒が明かない。
とにかく日課のように毎日オフィシャルHPを開いて、11月15日のところを覗いてみるのだがまったく変化がない。次第に不安になってくる。サン=ジェルマン=アン=レーがだめなら、13日のリールのチケットを確保しておかねばならない。
そうこうするうちに7月の入院前に、ついにチケットが売り出しになった。と思ってよく見ると、会場となるアレクサンドル・デュマ劇場の会員先行販売であって、一般売り出しは9月11日午後1時と書いてある。
さあどうする。会員販売で売り切れたらどうする。あるいは会員になって特典を受けるのもいいが、二度とサン=ジェルマン=アン=レーになど行くことはあるまい。ここはどうしてもリールのチケットを確保しておかなければならない。と考えて迷いつつもViagogoというチケット販売会社からオンラインでチケットを買った。
幸い、行けなくなったら買い戻しもしてくれるようなので、意を決したのである。オンラインでチケットを手に入れる場合、パソコンやスマホにコンサートの2~3日前に送られてくるということだが、ここにも大きな問題がある。居住地の近くならいいが、海外の場合、デスクトップのパソコンに2~3日前に送られてきたら、すでに目的地へ向けて出発した後ということだってあり得るではないか。これも困った。
リールの場合は幸い1週間前ということで、出発が11月10日でコンサートが13日だから間に合いそうである。しかしリールはパリから新幹線で1時間くらいのところにある都市で、帰りの新幹線はあるのだろうか。
調べてみると11時過ぎにはもうパリに戻る新幹線はない。安全を考えてリールに泊まった方がいいだろう。そんなことも考慮に入れて、入院前に旅行社に飛行機とホテルの手配をお願いに言った。準備万端怠りなし。
しかしリールはあくまでも保険であって、本命はサン=ジェルマン=アン=レーであることに変わりはない。今度は入院中のチケット手配ということになるから、病室にデスクトップを持ち込むわけにもいかないし、携帯をスマホに替えるしか方法がない。これも即座に決断してショップへ。
7月24日に入院して9月11日までは長かった。それまでスマホの操作に馴れておかなければならない。また時差があるから気をつけなければいけないと思いつつも、11日午後1時(パリ時間)には、鎮痛剤の催眠効果で寝てしまい、起きてもボーッとしていたため挑戦は12日に持ち越した。
アレクサンドル・デュマ劇場のHPを開いて、ベス・ハートのところを選択し、会場の見取り図の中から気に入った席を選ぶ。リールの場合は15,000円くらいのS席が取れたのだが、デュマ劇場は小さなホールで席数も少なく、よい席は予約済みだ。しかし中央後列に席を確保し、メールアドレスと暗証番号を打ち込み、クレジットカードの決済をすれば完了である。
チケットはQRコードつきですぐにスマホに送られてきた。2~3日前というのはどうした? とにかくこれで生まれて初めて海外のコンサートのチケットを買うことができた。
期待は膨らむばかり。もちろん退院後リールのチケットは売りに出した。
売れた。
(この項おわり)