玄文社主人の書斎

玄文社主人日々の雑感もしくは読後ノート

ベス・ハート、ライヴ(1)

2018年12月11日 | 日記

 以上のようにして私は妻と二人でパリへ出かけ、ベス・ハートのライヴ当日15日の朝を、オペラ座近く、地下鉄のグラン・ブールヴァール駅から歩いて3分という絶好のロケーションにある、ホテル34bアストテルで迎えたのである。
 パリ滞在は飛行機での移動時間を除いて、12日から19日までの8日間であり、その間主要な観光地はたいがい訪れた。13日にはヴェルサイユ宮殿も見学したが、この日は少なくとも4時間は歩いた。ヴェルサイユは宝物や美術品、豪華な建物をこれでもかという感じで見せつけるので、腹一杯になる。こんなことしていたらギロチンで処刑されるのも当然というべきか。
 パリは東京と違って範囲が狭いので、たいていのところは歩いていける。ということで15日も相当に長い距離を歩くことになった。以下は15日のベス・ハートのコンサートまでの全記録である。
 朝はホテル近くのパン屋で朝食を摂る。朝7時頃から開いていて食べるスペースも確保されている。たいていクロワッサンとコーヒーで済ませる。クロワッサンはばかでかくて日本のものの倍はあるから、一個と少しあれば済む。コーヒーは基本的にエスプレッソで、きついときはカフェ・アメリカンを注文する。これが日本のコーヒーに該当する。
 15日は友人のS夫妻と現地サン=ジェルマン=アン=レーの駅で午後3時の待ち合わせだから、充分観光に費やす時間はある。しかし、予定をきちんと決めていなかったので行き当たりばったりの行動を取ることになる。

マドレーヌ寺院正面

 前日ノートル・ダム寺院を訪れて深い感動を憶えたので、教会を観たいと思い、まず地下鉄でマドレーヌ駅に向かい、マドレーヌ寺院を見学することにした。マドレーヌ寺院はまるでギリシャ建築のような建物で、「これでも教会か?」と思ったが、内部は教会そのもので、巨大なパイプオルガンが設置されているのに驚いた。
 入り口付近にはいろいろなコンサートのチラシやポスターが貼ってあり、ここはパリ市民のクラシック・コンサート会場として利用されていると分かる。正面の扉に十戒をテーマにしたレリーフがあって、気に入ったので写真に撮ったはずだが、ない。
 マドレーヌ寺院は街の雑踏の中にある。正面から通り越しにコンコルド広場の塔が見える。後で聞くところによると、50年ほど前にはこの通りの両側には、観光客目当ての街娼がずらりと並んでいたそうで、彼女らは当時公娼であったらしい。それにしても寺院の前で客引きとは罰当たりな。

マドレーヌ寺院からコンコルド広場を望む

コンコルド広場の噴水

 コンコルド広場までは歩いて15分くらいかな。ここはフランス革命時にルイ16世とマリー・アントワネットがギロチンで処刑された場所で、しかしそんなことを偲ばせるものは何もなく、エジプトのルクソール神殿から運んできたという「クレオパトラの針」と、どこかオリエンタルな雰囲気の噴水がそれを挟んで一対あるのみ。
 殺風景なのと、中国人の団体に寄付を強要されて不愉快だったので、早々に切り上げて隣のチュイルリー公園に。ここも11月の寒空に木々の葉も落ちて殺風景きわまりない。公園の向こうに前日訪れたルーブル美術館が見える。
 園内には、オランジュリー美術館がある。妻はせっかく来たんだから観ようと言うが、私はモネが好きではないのでパス。パリに来てモネを観ずに帰る日本人も少ないだろう。出口で騎馬の警官隊に出くわす。今時馬で、と思うと同時に、糞はどうしているんだろうと思う。案の定近くに馬糞がボツボツと落ちている。誰が始末するんだろう。
 私は少年時代、まだ荷馬車が往来を通っていた頃、道の真ん中に点々と馬糞が落ちていたことを思い出した。パリもまた馬車しか交通手段がなかった時代には、道路に大量の馬糞が落ちていたことだろう。そんなことは18・19世紀の小説を読んでもどこにも書いてないが、それが当たり前の風景であり、意識するようなことではなかったということなのだろう。
 サン=ジェルマン=アン=レーに向かうために凱旋門の下にあるシャルル・ドゴール・エトワール駅からRER(郊外高速鉄道)に乗ることにしていたが、まだ時間がたっぷりあるのでもう一か所行こうということで、地下鉄でアンヴァリッド駅に向かう。

アンヴァリッド

 アンヴァリッドがなんなのか調べていなかったので、遠目にドームが見えたときには、これも由緒ある教会なんだろうと思った。歩いて近づいていくとドームの前に大きな建物が横たわっている。Musée de l'Arméeと書いてある。教会でなく、軍事博物館かと思ったが、建物の向こうにあるドームが気になる。博物館は観ないでドームの方へ。
 ここは全体がアンヴァリッド(廃兵院)で、そこにナポレオンの柩を収めたドーム教会があり、軍事博物館も併設しているということなのだ。後で調べたらそこにはレジスタンス記念館もあったらしい。見学してもよかったな。

ナポレオンの柩が収められたドーム教会