3曲目はLifts You Up。ベス・ハートの3枚目のオリジナル・アルバムLeave the Light On(2003)のトップを飾る曲である。ピュアなロックの曲で、彼女は最近こういう曲を作らなくなった。Lifts You Upを始めるとすぐに、ベスは観客に立ち上がるように促す。前の観客から立ち上がっていく。後ろの方は遅れて立ち上がるが、頑として立ち上がろうとしない人もいる。恥ずかしいのだ。アメリカ人なら立たない人はいないだろうが。
アルバムLeave the Light On
前が見えないので私も立ち上がって彼女の様子を窺う。調子のいい曲でテンポも速く、明るくて前向きな雰囲気を持っている。この曲で客との一体感を図ろうとしているのがよく分かる。
2005年のParadisoでも、Pink Popコンサートでも、彼女はキーボードを弾きながら歌っているが、最近はこの曲を立って歌う。キーボードの前に座っていては客に立つことを促すことはできないから。
この曲のライブで一番好きなのはPink Popの録音である。Paradisoではどの曲も全力疾走という感じで、テンポもオリジナルに比べて速くなっている。Pink Popでは若干テンポを遅くして、余裕を持たせているのがいい。
なによりもこの曲にはFunky Soul Versionというのがあって、たまらなく良い。いずれにしてもこんな曲にドレスにハイヒールは似合わないから、やめるといい。曲の方でなくて、ドレスとハイヒールの方を。ところで今日のステージはどうだったのだろう。そんなことを顧みる余裕もなく、Lifts You Upは終わって次の曲へ。
4曲目はI'll Take Care of You。これもジョー・ボナマッサとの共演で有名になった曲で、最初のカバーアルバムDon't Explain(2011)の8曲目の曲だ。私はI'd Rather Go Blindに勝るとも劣らない曲だと思う。
I'll Take Care of Youを演奏するベス・ハート・バンド(これが私の見たステージ)
ベスのヴォーカルはソウルフルでドスが利いている。ボナマッサは確かにギターは超絶技巧的に巧いが、歌が全然だめなのでベス・ハートがいて初めて聴くに値する曲となる。二人の共演でベスは大きなものを得たが、本当に得をしたのはボナマッサの方だろう。Live in Amsterdam(2014)はベスのおかげで完璧なライブアルバムとなったのだから。
Live in Amsterdam
ところでこの曲、3分の2を過ぎたところで、一瞬終わったのかなと思わせる部分がある。知らない人はここで拍手をしてしまう。デュマ劇場でもかなりの人がここで拍手をしていた。しかし、ここからヴォーカルも山場を迎え、ジョン・ニコルズの間奏も入ってくるので、聴きどころである。
ボナマッサと比較されるだろう4曲の中で、この曲でのジョンのギターが一番良かったと思う。ボナマッサほど手は早くないし、超絶技巧というわけにはいかないが、ベス・ハートのヴォーカルとはぴったりと波長が合っている。
決して巧くはないのかも知れないが、ベス・ハートにとって欠かせないギタリストは、ボナマッサではないし、ジョン・ニコルズであることに間違いはない。でなければ20年もの間、一緒にプレイを続けられるわけがないし、いつも彼女がジョンに示す感謝の姿勢が社交辞令だなどということもあり得ない。
最近の録音でジョンのギターの素晴らしさを感じたのは、ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールでのCaught Out in the Rainにおいてである。この曲は6枚目のオリジナル・アルバムBang Bang Boom Boomの4曲目の曲で、ベス・ハートの最高傑作の一つである。
アルバムBang Bang Boom Boom
とてもライブ栄えする曲で、多くのステージが録画されているが、今まで好きだったのはスイス・バーゼルのBaloise Sessionでアンコールで歌ったものだ。ゲスト・ギタリストとしてPJ・バースが参加している。PJが入るとジョンはすっかり陰に回って、リード・ギタリストではなくなってしまうのだが、PJがいなくてもこの曲は偉大である。
ロイヤル・アルバート・ホールのライブはDVDでも発売された。ジョンのギターはこのスローなブルースに合わせて、必要最小限の音を紡いでいく。山場にさしかかると、ドラムと共振する力強いリズムを刻んでいく。間奏も独自の切れ味があるし、終わりの方でボヨヨーンといった感じの音を出すところも、鬼気迫るこの曲を盛り上げる一助となっている。
ベースの胸ぐらを掴んでこの日のベスは凶暴である(Caught out in the Rain)