「四月一日」と書いて何と読むか? “しがつついたち”ではなく“わたぬぎ”と読むのである。もちろん人の名字として読んだ場合のことだが、四月一日になると春が来て、冬の間着ていた綿着を脱ぐことから、こう読むのだという。
世の中には珍妙な名字がたくさんあって、そんなものをテーマにした本を読んだので、少し紹介したい。常識では考えられない奇怪な名字がある。名無(ななし)だの、悪霊(あくりょう)だの、馬鹿(ばか)だの、腰巻(こしまき)だのものすごい。
日本人の名字は三十万種あるとも言われていて、韓国の約二百五十、中国の約五百に比べ、桁違いに多い。ほとんど何でもありなのだ。以前「色摩」と書かれた名刺をもらってビックリしたことがあった。その人の姓は“しきま”ではなく“しかま”と読むのであったが……。
こんな奇怪な名字は明治の「苗字必称令」によってつくられたものに違いないが、結婚して改姓でもしないかぎり、一生おかしな名字につき合わなければならない人は気の毒だ。“名無権兵衛”なんてつけられたら、たまったものではない。
名前もすごい。近頃では、北原保雄先生によると、綺麗綺麗ネームと言われるものがあって、七音(どれみ)だとか、美奈子(びーなす)とかいうものがあるらしいが、実はこうした名前は昔からあった。本は明治時代の珍妙な名前を列挙していて、中には暗素人(くらいすと)や、異魔人(いまじん)、於菟(おと)など、明らかにヨーロッパ語からとった名前がある。
於菟は文豪・森鴎外が長男につけた名前で、ドイツ語のOttoから来ている。鴎外の長女は茉莉(まり)、次女は杏奴(あんぬ)、次男は不律(ふりつ)、三男は類(るい)で、全員ヨーロッパ語の名前による。
鴎外の子供達は名前で苦労しなかったのだろうか。よく知らないが、それにしてもこんな西欧かぶれを絵に描いたような名前をつけることもあるまいに。
世の中には珍妙な名字がたくさんあって、そんなものをテーマにした本を読んだので、少し紹介したい。常識では考えられない奇怪な名字がある。名無(ななし)だの、悪霊(あくりょう)だの、馬鹿(ばか)だの、腰巻(こしまき)だのものすごい。
日本人の名字は三十万種あるとも言われていて、韓国の約二百五十、中国の約五百に比べ、桁違いに多い。ほとんど何でもありなのだ。以前「色摩」と書かれた名刺をもらってビックリしたことがあった。その人の姓は“しきま”ではなく“しかま”と読むのであったが……。
こんな奇怪な名字は明治の「苗字必称令」によってつくられたものに違いないが、結婚して改姓でもしないかぎり、一生おかしな名字につき合わなければならない人は気の毒だ。“名無権兵衛”なんてつけられたら、たまったものではない。
名前もすごい。近頃では、北原保雄先生によると、綺麗綺麗ネームと言われるものがあって、七音(どれみ)だとか、美奈子(びーなす)とかいうものがあるらしいが、実はこうした名前は昔からあった。本は明治時代の珍妙な名前を列挙していて、中には暗素人(くらいすと)や、異魔人(いまじん)、於菟(おと)など、明らかにヨーロッパ語からとった名前がある。
於菟は文豪・森鴎外が長男につけた名前で、ドイツ語のOttoから来ている。鴎外の長女は茉莉(まり)、次女は杏奴(あんぬ)、次男は不律(ふりつ)、三男は類(るい)で、全員ヨーロッパ語の名前による。
鴎外の子供達は名前で苦労しなかったのだろうか。よく知らないが、それにしてもこんな西欧かぶれを絵に描いたような名前をつけることもあるまいに。
(越後タイムス6月10日「週末点描」より)