6枚目のオリジナル・アルバムBang Bang Boom Boomから2曲続く。13曲目はThere in Your Heart、14曲目はBaddest Bluesである。
まずこのアルバムについて少し触れておきたい。2007年の37Daysから2011年のMy Californiaにかけて、なぜかブルースから遠ざかるような感じが見えていたときに発表された、このBang Bang Boom Boomはブルースへの回帰として位置づけられるアルバムである。
アルバムBang Bang Boom Boom
そればかりでなくこのアルバムには、彼女の代表作として残っていくだろう作品が満載で、彼女の作曲能力を裏付けるものとして、最も完成度の高いアルバムだと思う。
前にも取り上げたCaught Out in the Rainもこのアルバムに入っている曲だし、彼女の曲の中では最もコマーシャルな(実際に企業のCMソングとして使われたことがあるらしい)曲、Bang Bang Boom Boomはこのアルバムのタイトル曲である。コマーシャルだからと言って決して悪い曲でもつまらない曲でもない、不思議な魅力のある曲である。
そして彼女の曲の中では最も清澄感のあるThru the Window of My Mindも、彼女が唯一レゲエに挑戦したThe Ugliest House on the Blockもこのアルバムの曲なのだ。
必ずしも全曲ブルースというわけではなく、ジャズっぽい曲もあれば、バラード調の曲もあるが、ベースが重厚なブルースにあることは、1曲目のBaddest Bluesと4曲目のCaught Out in the Rainを聴けば分かる。
私は彼女のこのブルースへの回帰は、ジョー・ボナマッサとブルースのスタンダードのカバー曲を収録した、2011年のDon't Explainでの体験によってもたらされたのではないかと思っている。
Don't Explainがカバーしているのは、トム・ウェイツであり、ビリー・ホリデイであり、エタ・ジェイムズであり、アレサ・フランクリンでありといった、錚々たるシンガー達であるからだ。
デビュー・アルバムImmortalのAm I the One以来、ヘビーなブルースから遠ざかっていた彼女は、ボナマッサとの共演でブルースのスタンダードを学び(あるいは学び直し)、このアルバムのCaught Out in the RainやBaddest Bluesのようなブルースの名曲を残すに至ったと考えている。
There in Your HeartはThru the Window of My Mindと同じように清澄感のある曲で、彼女がライブで多く取り上げるのはこちらの方である。Thru the Window of My Mindは難曲で、ヴォーカルのハードルが高すぎてライブだと失敗の恐れがあるからかな。
いずれにせよThere in Your HeartはThru the Window of My Mindほどの難曲ではないし、かなり単純な曲とも言える。しかし単純な曲ほど彼女のヴォーカルのヴァリエーションが聞けるので、馬鹿にしてはいけない。
それにしてもこの曲の清澄感はどこから来るのだろう。Thru the Window of My Mindには宗教的なイメージもある。There in Your Heartにもそんな感じを受けないでもない。歌詞はあるが、隠喩が多くて本当に言いたいところを判読できない。
14曲目のBaddest Bluesはブルースの定番である、愛の苦しさを歌ったものである。There in Your Heartの清澄さに比べてなんという暗さだろう。この曲とCaught Out in the Rain、Fire on the FloorのLove is a LieとFire on the Floorの4曲が最も暗くて重い曲である。
ベスはあるインタビューに答えて、Baddest Bluesについて次のように言っている。
The Lyrics was inspired by my mother, inspired by Billie Holliday and inspired by a pain from love, but a pain you choose to go into, but a pain you choose to get up out of.
やはりこの曲も母親のことを歌っていたのか。母親の辛い過去をテーマに歌って重苦しいベスの歌も、現在の母親に対しては、美しく、清澄な歌となる。その例が次の曲だ。