玄文社主人の書斎

玄文社主人日々の雑感もしくは読後ノート

海から春が

2007年03月27日 | 日記
 友人が早春の海から採れたてのアオサを届けてくれた。十七日・十八日に西山町大崎の雪割草の里で開かれた「雪割草まつり」の会場から、わざわざ持ってきてくれたアオサは、春の色と春の香りを運んでくれた。
 アオサは味噌汁の具にするのがよい。磯の香りが立ち上がり、そのあざやかな緑色が目を楽しませてくれるからだ。浜辺に行けば岩場や波打ち際で一年中アオサは波にゆらいでいる。しかし、アオサが一番おいしいのはまちがいなく早春のこの時期だ。
 そのことを知ったのは、「雪割草まつり」の会場であった。まだ肌寒いこの時期に、「雪割草まつり」で無料でふるまわれるアオサ汁に、心身ともに暖まる“春の息吹”を感じたのが最初だった。素朴でありふれた海草を、その時ほどおいしいと思ったことはなかった。
 フキノトウはその鮮烈な香りとエグ味で山里から春の訪れを口に運んでくるが、アオサもまた春の訪れを海から知らせてくれるのである。友人が届けてくれたアオサをさっそく味噌汁にしていただいた。おいしかった。他の具は一切入れず、アオサだけにしなければいけない。やさしい磯の春を味わうのだから……。
 他にも調理法はあると思うが、少し乾燥させてから、電子レンジでカリカリにしてほぐせば、いわゆる“青のり”になる。お好み焼きにかけて食すあれである。新鮮なアオサは磯の香りをさらに増して、美味極まりない。ごはんに掛けるもよし、ビールのつまみにするもよし。海辺の近くに住んでいないから、なかなかこの時期、浜に出る機会はないのだが、早春の浜辺に行けばこんな宝物がいくらでも手に入るのである。

越後タイムス3月23日「週末点描」より)


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江戸時代観

2007年03月17日 | 日記
 なんとか九日の講演会までに、田中優子教授の『江戸の創造力』を読み終えることができた。だから講演の内容もよく理解することができた。『江戸の創造力』は二十年前の著書で、芸術選奨文部大臣新人賞受賞作である。名著だと思う。
 江戸時代に対する日本人の認識は、このところ大きく変化してきている。かつてマルクス主義全盛時代には、江戸時代は封建主義の時代で、圧政と収奪が蔓延する闇黒の時代と解釈されてきた。
 そうした歴史観の典型を、白土三平の劇画『カムイ伝』に見ることができる。『カムイ伝』では江戸時代を、藩主の暴政と農民の抵抗という階級闘争的な史観で描いているが、今日ではそんな一面的な歴史観はほとんど受け入れられないだろう。
 環境的な視点から見れば、田中教授も講演で話していたように、江戸の町は完璧な循環型社会だった。古着や紙屑はおろか、“灰”まで売買された。もちろん下肥も農民がつくる野菜などと交換された。
 そうした視点からの再評価の他に、別の視点もある。熊本の渡辺京二氏の『逝きし世の面影』(平凡社)という本は、幕末に日本を訪れた多くの外交官らの手記を通して、彼等がいかに日本の風土の美しさ、そして日本人の美質を賞讃していたかを解明してくれる。
 ほとんど江戸時代にユートピアを見るような本だが、当時の外国人が絶讃し、現代の日本人が忘れ去った美しい精神性がそこにあったのなら、江戸の時代はそんなに悪い時代でもなかったのであろう。
 田中優子教授の『江戸の創造力』(ちくま学芸文庫)は、読んでものすごく元気の出てくる本である。江戸と地方との格差は、現代の東京と地方の格差より、はるかに大きかっただろうし、江戸のまちの話が、そのまま柏崎のまちづくりに役立つとは考えられないが、講演よりずっと内容が濃いので、一読をおすすめしたい。

越後タイムス3月16日「週末点描」より)


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ひたる会

2007年03月17日 | 日記
 今週は紙面の都合で、「水野竜生を上海に観る」の最終回を掲載できなかった。そのかわりに、三月三日に産文会館で開かれた「上海の余韻にひたる会」のことを書いておきたい。一カ月前の水野竜生氏個展激励ツアーのいわゆる“はばきぬぎ”である。
 上海に滞在中から、「いつはばきぬぎをやるんだ」という話が出ていた。単なる観光旅行ではなく、共通の目的を持っての団体旅行であったせいか、旅の間中異様な盛り上がりがあり、参加者は、ある種の連帯感で結ばれていったような気がする。帰ったらすぐにでもまた集まって飲みたくてたまらなかったのである。
 お雛さまの日で、日が良すぎたせいか、参加者は三十七人に止まったが、欠席の返信葉書には“残念”の言葉が溢れていた。三十七人の中には、十日町の人もいれば魚沼の人も、なんと佐渡の人までいた。遠くから駆け付けてもらって、心から感謝している。
 上海では連日宴会を繰り返していたのに、この日も盛り上がってしまった。皆で写真を交換し合ったり、上海の思い出を語り合ったり、話題が尽きることはなく、二次会ではさらに盛り上がりをみせた。水野氏本人も翌々日は上海というのに、東京から駆け付け、中国での今後の展開を力強く約束してくれた。
 今回の個展が水野氏の大きな飛躍の一歩となったことは間違いない。今後の展開も確実なものと思われる。激励ツアーの参加者を核に、後援会をつくろうという話も現実味を帯びてきた。“上海の余韻”は、まだまだ続いていきそうである。

越後タイムス3月9日「週末点描」より)


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段ボールひと箱の本

2007年03月03日 | 日記
 時間が足りない。いろいろと読まなければならない本があるのだが、一月、二月というのは新年会が続くわ、雑用が重なるわで、なかなか時間がとれない。六年目に入った読書会「文楽の会」の今月のテーマになっていた津島佑子の『黙市』(だんまりいち)というのを、会の三十分前にかろうじて読み終えるという始末だった。まともに批評などできるわけがない。
 今月九日には、まちづくりセミナーで田中優子法政大学教授の講演があるので、それまでに教授の本を一冊だけでも読んでおこうと思って、『江戸の想像力 18世紀のメディアと表徴』という本を買ってある。しかし、じっくり読んでいられない。この本には、大好きな上田秋成の『春雨物語』を取り上げた部分があるので、九日までに絶対読もうと思っている。が、この先生連想の飛躍がすごくて、ついていけないものがある。
 と思っていると、『共産主義黒書〈コミンテルン・アジア篇〉』という、発刊を四年間待っていた本が書店から届いた。〈ソ連篇〉を四年前に読んで、衝撃を受けていたもので、ずっと翻訳刊行を待っていたのだった。少しずつ読んでいるのだが、二段組で四百頁もあるので、遅々として進まない。
 ところが、他にも読まなければいけない本が二十冊もある。日本自費出版文化賞の第一次選考をやっている関係で、毎年この時期になると、ダンボール一箱分の自費出版書がドーンと送られてくるのだ。届いてからすでに半月が経っているが、ついこの間ダンボールを開けたばかり。意気沮喪してしまって、まだ一冊も読んでいない。
 締め切りは今月二十四日。果たして間に合うのだろうか。とうてい全部は読めないが、きちんと評価だけはしなければならない。遊んでいる暇はないのに、三日には「上海の余韻にひたる会」というのがあり、また痛飲してしまいそうである。

越後タイムス3月2日「週末点描」より)


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常識問題?

2007年03月03日 | 日記
 来春大学等を卒業する学生の就職戦線がすでに始まっている。新潟工科大でも企業による説明会が行われたし、三月二日には、市民プラザで就職ガイダンスも行われることになっている。企業の好況を背景に、今年は売り手市場の展開となりそうだ。
 採用試験では、一般常識が問われることが多いようで、『時事問題&一般常識』(朝日新聞社)などの本がよく売れているようだ。本を見ると、政治、経済から環境、医療、文化、スポーツまで幅広くドリル問題が並んでいる。一般常識も、社会、国語、英語、数学、理科、文化、スポーツと幅広い。
 たとえば医療では、「高齢者の生活が不活発になることによって、体や頭、心の機能が衰えていくことを何というか」などという問題がある。これに「廃用症候群」と答えられる人が何人いるだろうか。英文略語の問題もむずかしい。EU(欧州連合)がEuropean Unionというのはまだしも、ADSLがasymmetric digital subscriber lineなどというのは、ほとんど解答不能だ。日本語では、“非対称デジタル加入者線”というのだそうだが、日本語でも答えられない。
 スポーツの問題もマニアックなものがあり、二〇一〇年に、サッカーの第十九回W杯が開催される国はどこか」とか、「国際テニス連盟が、二〇〇六年の全米オープンから採用するビデオ判定システムは何か」などという問題に答えられるわけがない。
 もちろん簡単な問題もあるが「本当にこれが一般常識か」と思うような問題が多い。一般常識というより、ほとんど専門知識である。しかし、ほとんどの用語が、新聞を読んでいれば出てくるものばかりであることに気付くのはたやすい。今の学生は新聞を読まないから(昔の学生もそうだったが)大変だろう。「もっと新聞を読みなさい」ということで、新聞社がこの手の本を出版するのだろうな。

越後タイムス2月23日「週末点描」より)


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