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蓮舫議員の二重国籍疑惑はネットデマでは?

2016-09-07 12:00:05 | 珍妙な人々
 蓮舫参議院議員の民進党代表選への立候補に絡んで、同議員の二重国籍疑惑を指摘するツイートやブログを昨日までにいくつか見た。

 確かに、先週読んだ産経新聞のインタビュー

 --出身の台湾と日本との「二重国籍」でないかとの報道がある。帰化していると思うが…

 「帰化じゃなくて国籍取得です」

 --過去の国籍を放棄し忘れているのではないかという指摘だ

 「ごめんなさい、それ分かんない。それを読んでいないから」

 --国籍法が改正されて、22歳までは日本国籍があるけども、そこで選択を迫られ、残った国籍は速やかに放棄しなければいけないという規定がある。それをしているかどうかという記事が出ている。首相を目指すのであれば、仮に台湾籍があるならば、ネックになると思うが

 「質問の意味が分からないけど、私は日本人です」

 --台湾籍はないということでいいのか

 「すいません、質問の意味が分かりません」


とあるのを読んだときには、意味がわからないこともないだろうに、何故きちんと説明しないのか、確認できないならできないと述べるべきではないのかと不審に思った。

 しかし、そういう私自身、外国人が日本国籍を取得する場合、どういう手続きになっているのか、詳しくは知らなかった。

 昨日、BLOGOSで宇佐美典也氏の「このまま蓮舫氏を代表にしたら民進党はもう終わり」というタイトルの記事を読んだ。

 この問題がそこまでのものとは私は思わないし、この記事の内容についても特に述べることはないのだが、その冒頭に

民進党代表選を前に蓮舫氏に関してアゴラを中心に二重国籍疑惑が騒がれ始めている。


とあった(太字は引用者による。以下同じ)ので、この問題はアゴラが発端なのかなと思い、アゴラを覗いてみた。

 すると、アゴラに9月3日付の池田信夫氏による「「二重国籍」問題についての整理」という記事が載っていたので読んでみた。
 池田氏はこう述べている。

蓮舫氏の国籍問題についての八幡和郎さんの一連の記事が反響を呼んで、いろいろな話が乱れ飛んでいるので簡単に整理しておこう。

一般論としては、法務省のホームページに書かれている通り、日本は国籍法で二重国籍を禁じており、「外国の国籍と日本の国籍を有する人は,22歳に達するまでにどちらかの国籍を選択する必要があります。選択しない場合は,日本の国籍を失うことがあります」。

1967年生まれの蓮舫氏は「日本国民である母と父系血統主義を採る国の国籍を有する父との間に生まれた子」にあたり、父系主義の旧国籍法では自動的に父親の国籍(中華民国)になったはずだ。したがって彼女が上の番組で「生まれたときから日本人です」と言ったのは、事実に反する。

しかし1972年に日本は中華民国と国交断絶したので、彼女の国籍は便宜的に「中国台湾省」となった(はずだ)。この「中国籍」というのは中華人民共和国と台湾を含む奇妙な国籍だが、法務省が一種の緊急避難として採用し、今日まで使われている。旅券などには混同を避けるために「台湾」と表記されるが、正式の国籍は「中国」である。

国籍法が改正されて1985年から国籍選択ができるようになったので、蓮舫氏は母親の日本国籍を選択した。しかしこのとき、中国籍を離脱しないと二重国籍になる。彼女は番組で「籍抜いてます。高校3年の18歳で日本人を選びましたので」と答えているが、国籍離脱の手続きをしたとは答えていない。

日本国籍を選択すると、戸籍には「日本」という国籍だけが記載されるので、本人も二重国籍に気づかないことがある。役所も外国でどう登録されているかはわからないので、放置することが多いという。蓮舫氏が「質問の意味が分からない」と答えていることから推定すると、彼女もこのケースではないか。

だとするとこれは単なる事務的ミスだが、結果的には違法状態だ。


 一見、なるほどなと思わせられる。

 しかし、この記事で池田氏がリンクを張っている「法務省のホームページ」を見ると、そこにはこうある。

2.国籍の選択の方法

国籍を選択するには,自己の意志に基づき,次のいずれかの方法により選択してください。

(1) 日本の国籍を選択する場合
ア 外国の国籍を離脱する方法
 当該外国の法令により,その国の国籍を離脱した場合は,その離脱を証明する書面を添付して市区町村役場または大使館・領事館に 外国国籍喪失届をしてください。離脱の手続については,当該外国の政府またはその国の大使館・領事館に相談してください。
イ 日本の国籍の選択の宣言をする方法
 市区町村役場または大使館・領事館に「日本の国籍を選択し,外国の国籍を放棄する」旨の国籍選択届をしてください。


(2) 外国の国籍を選択する場合
ア 日本の国籍を離脱する方法
 住所地を管轄する法務局・地方法務局または大使館・領事館に戸籍謄本,住所を証明する書面, 外国国籍を有することを証明する書面を添付して,国籍離脱届をしてください。
イ 外国の国籍を選択する方法
 当該外国の法令に定める方法により,その国の国籍を選択したときは,外国国籍を選択したことを 証明する書面を添付の上,市区町村役場または大使館・領事館に国籍喪失届をしてください。


 重国籍者が日本の国籍を選択する方法には、外国の国籍をその国の法令により離脱する方法のほか、「日本の国籍を選択し、外国の国籍を放棄する」旨届け出るという方法もあるとしている。

 念のため、国籍法を確認してみると、やはり

(国籍の選択)
第十四条 外国の国籍を有する日本国民は、外国及び日本の国籍を有することとなつた時が二十歳に達する以前であるときは二十二歳に達するまでに、その時が二十歳に達した後であるときはその時から二年以内に、いずれかの国籍を選択しなければならない。
2 日本の国籍の選択は、外国の国籍を離脱することによるほかは、戸籍法の定めるところにより、日本の国籍を選択し、かつ、外国の国籍を放棄する旨の宣言(以下「選択の宣言」という。)をすることによつてする。


とある。

 ならば、蓮舫議員が、池田氏の記事にあるように「籍抜いてます。高校3年の18歳で日本人を選びましたので」と答えているのが、ここでいう「選択の宣言」であるとすれば、それで問題ないのではないか。
 「国籍離脱の手続きをし」していなくとも、「結果的には違法状態だ」とは言えないのではないか。

 だとすれば、蓮舫議員が、先に挙げた産経のインタビューで「質問の意味が分かりません」と述べたのも、理解できなくもない。
 インタビュアーの言う、「残った国籍は速やかに放棄しなければいけないという規定」はないのだから。

 もっとも、国籍法には

第十六条 選択の宣言をした日本国民は、外国の国籍の離脱に努めなければならない。
2 法務大臣は、選択の宣言をした日本国民で外国の国籍を失つていないものが自己の志望によりその外国の公務員の職(その国の国籍を有しない者であつても就任することができる職を除く。)に就任した場合において、その就任が日本の国籍を選択した趣旨に著しく反すると認めるときは、その者に対し日本の国籍の喪失の宣告をすることができる。
3 前項の宣告に係る聴聞の期日における審理は、公開により行わなければならない。
4 第二項の宣告は、官報に告示してしなければならない。
5 第二項の宣告を受けた者は、前項の告示の日に日本の国籍を失う。


ともあるから、蓮舫議員が「外国の国籍の離脱に努め」てきたのかという問題は残る。
 しかしこれはいわゆる努力義務規定であり、罰則もない。
 そして、国籍の離脱に努めなかった結果、日本国籍の取得が問題視されるのは、第16条第2項にあるように、「その外国の公務員の職に就任」した場合であって、その場合ですら、「その就任が日本の国籍を選択した趣旨に著しく反すると認めるとき」でなければ、「その者に対し日本の国籍の喪失の宣告をする」ことはできない。
 したがって、蓮舫議員の国籍については、法的には現状で何の問題もないと考えられる。

 ところが、池田氏は、このようなリンクを張っておきながら、記事中で

蓮舫氏は母親の日本国籍を選択した。しかしこのとき、中国籍を離脱しないと二重国籍になる


と述べ、

これは単なる事務的ミスだが、結果的には違法状態だ。罰則はないが、二重国籍を長く続けていると日本国籍を失うこともある。国会議員の二重国籍を禁じる規定はないが、「外国の国籍を有する者」は外交官になれないので、外交を指揮する首相にもなれないと考えるのが自然だ。

事実関係については蓮舫事務所や台湾総領事館(台北駐日経済文化代表処)に照会しているが、今のところ回答がない。ただ蓮舫氏が今も中国籍をもっているとすると、民進党は首相に不適格な人物を代表に選ぶ可能性がある。これは彼女個人の問題ではなく民進党の信頼性にかかわるので、執行部は15日の投票までに事実を確認して情報を公開してほしい。


と述べている。
 これはおかしい。
 蓮舫議員がわが国の国籍を選択したのなら、国籍法上はそれで足りるのであり、「結果的には違法状態」でも何でもないのだから。

 リンク先の記述が理解できないほど池田氏が愚かとは思えない。
 これはネットデマではないのか。
 池田氏は、確信犯的にそれをやっているのではないか。

 池田氏が記事で挙げている、この問題で先鞭をつけたらしい八幡和郎氏も、先に挙げた産経のインタビューを受けて書かれた「蓮舫さんが国籍問題を語ったものの謎は深まる」という記事で、

蓮舫さんは生まれたときは中華民国籍だった。17歳のときに法律が変わって日本国籍も与えられて二重国籍となったが、22歳までに日本国籍を選択宣言した。しかし、そのあと、日本の法律で要求されている中華民国籍の離脱手続きをして二重国籍を解消したかどうかは、日本側では分からない(実際にはしない人がかなり多い)。蓮舫さんが自身で説明し証明するしかなく、ぜひ、お願いしたいというのが本問題だ。


と述べているが、先に述べたように日本の国籍法はそんなことを要求してはいない。

 そもそも、中華民国の国籍離脱手続を取れといったって、わが国はその中華民国を国家として承認していないのである。そんなものに何の効力があるのだろうか。
 では、わが国が承認している中華人民共和国政府が国籍離脱を許可すべきなのだろうか。しかし、1967年生まれの蓮舫氏の国籍が中華人民共和国にあるとも思えない。
 そして、わが国における蓮舫議員の国籍選択は既に完了しており、わが国の当局が蓮舫議員に国籍離脱の証明を要求しているわけではないのである。そんなことに何の意味があるというのか。
 これは一種の人民裁判ではないか。

 昨日そんなことを思っていたら、今日、蓮舫議員が台湾籍を放棄する手続をとったとの報道を読んだ。

蓮舫氏、台湾籍放棄手続き 二重国籍の指摘受け

 民進党代表選(15日投開票)に立候補している蓮舫代表代行(48)は6日、台湾籍を放棄する書類を、東京都内にある台北駐日経済文化代表処に提出した。高松市内での代表選候補者の共同記者会見で「台湾籍を放棄する手続きをとった」と明らかにした。

 蓮舫氏は日本国籍を取得しているが、父(故人)が台湾出身で、台湾との「二重国籍」の可能性が一部報道で指摘されていた。

 蓮舫氏は会見で、17歳だった1985年、「父と一緒に東京にある台湾の代表処に行って、台湾籍放棄の手続きをしている」と説明した。

 ただ、「(代表処での)やりとりが台湾語だったので、どういう作業が行われていたかわからなかった。私は台湾籍の放棄をしたと思っている。父を信じて今に至っている」とも述べた。

 蓮舫氏は続けて「台湾に確認を求めているが、まだ確認が取れていない。少し時間がかかるかもしれない。(このため)台湾の代表処に対して台湾籍を放棄する書類を提出した」と明らかにした。

 蓮舫氏は3日の読売テレビの番組でも二重国籍の可能性を指摘され、「(台湾)籍を抜いています。高校3年の18歳で日本人を選びましたので」と語っていた。

 台湾の法律では、親が台湾籍を喪失すれば、未成年者も台湾籍を喪失できる。東京の代表処でも届け出を受け付けることができ、台湾内政部に許可を求める。ただ、蓮舫氏が説明した台湾籍喪失の手続きの時点で、父も手続きをしていたかどうかは明らかになっていない。


 この朝日新聞デジタルの記事も、蓮舫議員が国籍法上解消すべき二重国籍の状態でも何でもないことに触れていない、誤解を招くものであり、残念に思う。

 八幡氏や池田氏らはこの蓮舫議員の対応を自分たちのネット言論の勝利だと考えるのかもしれないが、私には、先のビジネスジャーナルの虚報にも似た、ネットメディアの信頼性を失わせる実に愚劣な騒動だったと思える。

(以下2016.11.1追記)
 その後、この問題は、国籍法第16条の外国国籍離脱の努力義務違反ではなく、そもそも蓮舫氏は第14条の日本国籍選択の宣言をしていないのではないかと指摘されるようになった。
 蓮舫氏はこの点についてしばらく明らかにしなかったが、10月15日の記者会見でようやく、このたび日本国籍選択の宣言をしたと説明するに至った。
 したがって、結果的には蓮舫氏は二重国籍状態であったわけで、その点についてはデマではなかったことになる。

 しかし、日本国籍選択後に台湾籍を離脱する義務があり、離脱しなければ「違法」だという池田氏と八幡和郎氏の主張はデマだった。
 そして、その後問題にした第14条違反についても、まだデマを述べ続けている。
 だから、この記事のタイトルも本文も訂正する必要はないと私は考える。
 詳しくは、別記事「国籍法14条違反判明を受けて――蓮舫氏の二重国籍騒動に思う(2)」を参照されたい。





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2 コメント

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Unknown (ななし)
2016-09-15 17:03:35
国籍離脱の制度が無い場合は(イ)ですが、台湾にしろ中国にしろ制度はあるのではないですか?
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji78.html#01
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Re:Unknown (深沢明人)
2016-09-15 22:55:30
 ご指摘ありがとうございます。

 たしかに、お示しのリンク先の法務省のホームページの図「2 「日本」の国籍を選択される方」には、外国の国籍を離脱する方法は「当該外国に国籍離脱の制度が採用されている場合に可能」、国籍選択届の提出は「当該外国に国籍離脱の制度がないこと等によって外国国籍を離脱できないときに行う。」と書かれていますね。

 しかし、そのような条件は、私が引用した法務省のホームページの文章による説明にも、国籍法そのものにもありません。
 したがって、法律上は、当該外国に国籍離脱の制度があろうがなかろうが、国籍選択届の提出による日本国籍の選択が可能です。

 おそらく、法務省としては、実務上、当該外国に国籍離脱の制度が採用されているのなら、その制度の利用を推奨しているということではないかと思われます。

 で、国籍選択届の提出の方は、「当該外国に国籍離脱の制度がないこと『等』によって外国国籍を離脱できないときに行う。」と「等」が入っていますから、国籍離脱の制度がない場合だけでなく、その他の理由も含めて「外国国籍を離脱できないとき」に採られるということになります。

 では、今回の蓮舫氏の場合、台湾にしろ中国にしろ国籍離脱の制度はありそうなのに、何故こちらの方法を採ったのか。
 私は国籍法の専門家ではないので、正直よくわかりません。
 ただ、これは単なる推測ですが、私が記事中で述べた、わが国が中華民国を承認していないことが影響しているのではないかと思われます。
 わが国が中華民国を承認していない以上、中華民国が蓮舫氏の国籍離脱証明書を発行したとしても、それをわが国が有効な外国籍の離脱として承認することはできない。かといって、わが国が承認している中華人民共和国が蓮舫氏の国籍離脱を証明できるわけもない。そこで「日本の国籍を選択し、かつ、外国の国籍を放棄する旨の宣言」をすることになったのではないでしょうか。
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