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最相葉月『星新一 一〇〇一話をつくった人』(新潮社、2007)

2007-05-23 07:18:58 | その他の本・雑誌の感想
 ショートショートの第一人者とされた星新一(1926-1997)のおそらく初の本格的な評伝。

 著者は、『絶対音感』などで知られるノンフィクションライター。
 「あとがき」でこう述べている。

《私は、生前の星新一に会ったことはない。中学生だった七〇年代に熱中した数多の読者のうちのひとりにすぎない。
 〔中略〕
 ところが不思議なことに、図書館にあったシリーズを全部読み終えてしまうと、ぱたりと関心を失った。あれほど熱中したのに、まるで憑き物が落ちたように読まなくなり、星新一から離れていった。》

 私もそうだった。
 私は中学の時に、父親の本棚にあった『ボッコちゃん』から入り、ハマった。
 なけなしの小遣いでいくつかの短編集を買うとともに、市立図書館にあった作品集を読みあさった。一部の長編を除いては、当時図書館で読めたほとんどの作品を読破したと思う。
 そこからさらに小松左京や筒井康隆、眉村卓、光瀬龍といったSF作家に手を伸ばしていったが、一方、その後は星新一の作品にはあまり興味を持たなくなっていった。
 やがてSF小説も読まなくなり、しばらくして日本の近現代史に興味を持ち始めたころ、星の『人民は弱し 官吏は強し』(父、星一(ほしはじめ)と官僚との闘いを描いた伝奇小説)や『明治の人物誌』(後藤新平、新渡戸稲造など星一と親交ないし関連のあった人物を描いたノンフィクション)を読んだ。これらは面白く読めたものの、どうも物足りない感じが残った。あまりにきれいごとで済ませている感じがしたのだ。

 著者は、星新一の、否定的な面も含めた全人像を明らかにしようとしており、評伝としては逸品だと思う。
 上記の物足りなさを感じていた人にも、得るところは大きい。
 かつて星の熱心な読者であり、現在も忘れがたい思いを抱いている人には、是非一読をお勧めしたい。
 また、日本SF創世記の証言集としても、貴重な作品になると思う。

 読了後、本屋で『ボッコちゃん』を立ち読みした。
 ああ、こんな話があったなあ。
 しかし、正直、また買って読んでみたいとは思わなかった。
 私が未読の、シュールな作風と言われる末期の作品群ならまた別かもしれないが。

 そういえば、昔誰かが、マシュマロのように口当たりが良すぎる、あまりに簡単に読めてしまうと評していた。
 確かに、星の作品にはそうした傾向があると思う。
 しかし私は、星の作品が好きだったし、彼によって小説を読むことの面白さ、そしてSFや歴史について導いてもらったとの思いが強い。そういう点で忘れがたい作家であり、私は本書により星の人物像に触れることができて良かったと思っている。


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2 コメント

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誠に失礼ながら (ooi)
2007-05-23 08:16:23
>星の『人民は弱し 官吏は強し』(父、星一(ほしはじめ)と官僚との闘いを描いた伝奇小説)

 どんな一大スペクタクル浪漫かと思いました(^^;
 星一が官僚とこう殴り合いでも始めるんじゃないかとか(爆)
返信する
ああっと! (深沢明人)
2007-05-23 12:21:00
やっちゃいました(^^)v
ご指摘ありがとうございます。
オモシロイのと、戒めのために、このままにしておきます(^^)v
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