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『週刊現代』の安倍晋三「脱税疑惑」記事への疑問

2007-09-17 23:27:42 | マスコミ
 安倍首相が辞意を表明した12日、『毎日新聞』が、『週刊現代』が首相の脱税疑惑を追及する予定だったと報じた。
 タイミングの良さから、この同誌の取材活動が辞意表明の原因ではないかと一部で観測された。

 今月15日に発売された『週刊現代』9月29日号は、この脱税疑惑記事を「本誌が追い詰めた安倍晋三「相続税3億円脱税」疑惑」と題してトップに載せている。見出しには、「このスクープで総理は職を投げ出した!」ともある。

 同記事によると、


《その同日、首相の辞任を知らせる毎日新聞夕刊は、その辞任理由を「今週末発売の一部週刊誌が安倍首相に関連するスキャンダルを報じる予定だったとの情報もある」と1面で報じた。
 一部週刊誌とはいささか失礼な表現ではあるが、社会面にははっきり『週刊現代』と名前が出ている。
 そう、安倍首相を辞任に追い込んだスキャンダルとは、本誌が9月12日中に回答するように安倍事務所に質問をつきつけた「相続税3億円脱税疑惑」のことなのである。政治団体をつかった悪質な税金逃れの手口を詳細に突きつけられて首相は観念したというわけだ。》


と、さも同誌の取材により安倍が辞意を表明したかのように書いている。

 毎日は、本当に安倍の辞任理由を『週刊現代』によるものと報じたのだろうか。
 夕刊1面の記事とは、これ(ウェブ魚拓)のことだろう。



《首相は7月29日に投開票された参院選で年金問題などの影響で自民党が惨敗したにもかかわらず、続投を決意。8月27日に内閣改造を行い、政権の立て直しを図ったが、遠藤武彦前農相が補助金の不正受給問題で辞任に追い込まれ、大きくつまずいた。加えて、参院で与野党が逆転した今国会ではインド洋に海上自衛隊を派遣するテロ対策特措法の期限が11月1日に切れることに伴う延長問題で、民主党が反対姿勢を崩しておらず、法案成立が危ぶまれる事態に。政府・与党は新法制定で事態打開を目指したが、首相はアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議のため訪れたシドニーで9日記者会見した際、給油活動継続について「職を賭す」と表明。活動継続できなかった場合は退陣する意向を示していた。首相の辞任をめぐっては、今週末発売の一部週刊誌が安倍首相に関連するスキャンダルを報じる予定だったとの情報もある。》


 また、社会面の記事とは、これ(ウェブ魚拓)のことだろう。


《突然辞意を表明した安倍首相については、「週刊現代」が首相自身の政治団体を利用した「脱税疑惑」を追及する取材を進めていた。

 同編集部によると、父晋太郎氏が生前に個人資産を自分の政治団体に寄付。安倍首相はこの政治団体を引き継ぎ、相続税を免れた疑いがあるという。晋太郎氏は91年5月に死亡し、遺産総額は25億円に上るとされていた。編集部は安倍首相サイドに質問状を送付し、12日午後2時が回答期限としており、15日発売号で掲載する予定だったという。》


 いずれも、『週刊現代』が脱税疑惑を報じようとしていたという事実を述べているだけで、その報道が辞意表明につながったと述べているわけではない。
 端的に言って、虚報である。いかにも『週刊現代』的ではある。

 さて、その3億円脱税疑惑の内容はといえば、要するに、安倍晋太郎は自らの政治団体に巨額の個人献金をしており、その政治団体がそのまま安倍晋三に引き継がれた、これは相続税逃れではないか、というものだ。


《本誌は、当時の関係者の証言をもとに、全国の収支報告書を集め、連結収支報告書を作り、分析した。その結果、多数の政治団体を使った驚くべき資産相続の実態が明らかになった。
 故安倍晋太郎氏は、晋三氏を外相秘書官にした'82年から病没する'91年までの10年間に、自らの政治団体である「晋太郎会」に2億5985万円、「晋和会」に2億5897万円、「夏冬会」に1億1940万円、3団体合計で6億3823万円もの巨額の個人献金をしていた。
 3つの団体はいずれも「指定団体」である。指定団体とは当時の政治資金規正法に則って届け出をした政治団体のことで、政治家はこの指定団体に寄付すると、その額に応じて所得控除を受けることができた。しかも控除額は青天井だったのである。
 晋太郎氏は、政治家にしか使えないこの所得控除制度をフルに活用していたのだ。これだけの巨額の個人献金をする一方で、自らの申告所得額は極端に少なかった。同じ10年間で1000万円以上の高額納税者名簿に掲載されたのは、病気療養中の790年の納税額3524万円、わずか一度だけだった。その間に6億3000万円以上も献金しているのに、である。
 そして問題なのは、この政治団体がそのまま息子の晋三に引き継がれ、相続税逃れに使われたことだ。》


 で、晋三が継承したのが仮に6億円とすれば、当時の税制では最高税率50%が適用されて、相続税額が3億円になるという。これが「3億円脱税」の数字の根拠だ。

 2つ疑問がある。
 まず、政治団体を継承する際に、その資産に個人献金が含まれていれば、それは相続税の対象になるのか?
 『週刊現代』が取材した「財務省主税局の相続税担当の幹部」は、次のように述べているという。


《「政治団体に個人献金した資金が使われずに相続されれば、それは相続税法上の課税対象資産に該当します。政治団体がいくつもある場合は、合算した資産残高のうち献金された分が課税対象になります。」》


 そうなのだろうか。
 この幹部は、『週刊現代』が作成した連結収支報告書を見て、


《きっぱり言った。「この通りなら、これは脱税ですね」》


という。
 しかし、その連結収支報告書なるものは、記事中に示されていない。分量が多すぎるからかもしれないが、その概要さえ示されていないのだ。その点、不審に思う。

 次に、6億3823万円というのは、晋太郎による10年間の献金の合計額だ。それが丸々晋三の政治団体に継承されたとみなすことができるのか。晋太郎の生前に使われている分もあるのではないか。
 記事によると、


《安倍晋太郎氏の生前に作られた「安倍系団体」と呼ぶべき団体は、タニマチ的なものも含めて、66団体にものぼった。さらに調べると、晋太郎氏は'91年に亡くなっているが、その直前の'90年末時点で、それらの団体には合計で6億6896万円もの巨額の繰越金があった。
 安倍首相は父親の死後、政治団体を引き継ぐのと同時にそれら巨額の繰越金をもそっくり引き継いだのである。》


と、90年末時点での晋太郎の団体の繰越金が6億6896万円あったと示すことで、あたかも晋三が晋太郎による6億円の献金分を継承したかのように述べられている。
 しかし、ここに言う66団体とは、タニマチ的なものも含めた「安倍系団体」であり、晋太郎が個人献金をした団体だけではない。
 先に引用したように、晋太郎が6億円の個人献金をしたとされているのは、「晋太郎会」「晋和会」「夏冬会」の3団体だ。それ以外の団体を含めた66団体の90年末時点での繰越金の合計が6億6896万円であったからといって、それは、晋三が晋太郎の献金分である6億をそっくり継承したということの証明にはならない。

 また、この記事には「安倍首相の政治遺産継承」と題して、90年末時点での晋太郎の団体の残高と、91年末時点での晋三の団体の残高とを比較する図が付してあるが、その90年末時点の方に挙げられている諸団体のうち、晋太郎が個人献金をした3団体の一つの「夏冬会」の名がない(あとの2団体はある)。何故だろう。もしかすると、90年末には夏冬会は存在しなかったのではないだろうか。

 私には、政治資金の流れといったことに関する詳しい知識はない。
 政治家が、相続税逃れに政治団体への献金を利用するということも行われているのかも知れない。
 だとしても、この記事を読む限り、3億円脱税説というのは、ずいぶん眉唾物ではないかとの印象は否めなかった。


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