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勝海舟が「明治人」?

2011-06-17 00:25:09 | マスコミ
 朝日新聞が毎週土曜日に発行している別刷り「be」には赤と青があり、青のbeには様々なテーマでアンケートをとった「beランキング」が掲載されている。
 5月28日付けのbeランキングのテーマは「いま、心をひかれる「明治人」」だった。
 紙面を見て私はひっくり返った。
 勝海舟が1位だったからだ(こちらのブログに紙面の写真が掲載されている)。

 勝海舟って、「明治人」か?

 そりゃあ亡くなったのが明治の後半だから、明治を生きたという点では明治人と言えるかもしれない。
 しかし、勝が活躍したのは、幕臣としてだろう。明治以降の勝に目立った業績はない。
 単に明治を生きただけで「明治人」なら、徳川慶喜(大正2年没)や松平容保(明治26年没)、天璋院篤姫(明治16年没)やジョン万次郎(明治31年没)だって「明治人」と言えるのではないか。

 ランキングは次のようになっている。

 1位 勝海舟 564票
 2位 夏目漱石 542票
 3位 野口英世 468票
 4位 伊藤博文 338票
 5位 福沢諭吉 334票

 6位以下は、岩崎弥太郎、津田梅子、与謝野晶子、渋沢栄一、田中正造、板垣退助、森鴎外、秋山真之、正岡子規、樋口一葉、大隈重信、東郷平八郎、小村寿太郎、秋山好古、幸徳秋水と続く。

 記事本文のリードはこう。

 近くて遠い印象の明治時代がいま、脚光を浴びているようです。最近のテレビドラマや映画では明治時代に活躍した人が続々と採り上げられています。しかも、そろいもそろって骨太で個性的。みなさんが心をひかれる「明治人」は誰ですか――。


 さらにこう続く。

 やっとドラマ化された司馬遼太郎の「坂の上の雲」。明治期に専修大学を創設した4人を描いた映画「学校をつくろう」。日米で活躍した化学者・高峰譲吉の生涯を映画化した「TAKAMINE」……。最近、「明治」に焦点を当てた話題作が続く。近代史に詳しい作家の半藤一利さんは言う。
「明治の人々が優れていたというより、国家も文化もひっくり返った『維新』という断絶を乗り越えるべく必死で取り組み、よい仕事を残したということでしょう」


 しかしそのトップが江戸時代の幕引きをした勝海舟とは、ずいぶんと締まらない話ではないか。


 さらに疑問に思うことがあった。
 ランキング欄の勝の写真と得票数の下には次のような説明文がある。

幕末の英雄となった元幕臣。明治政府の要職を歴任しながら日清戦争に反対するなど、ご意見番的存在であった。


 明治政府の要職を歴任しながら日清戦争に反対?

 記事本文には次のようにある。

 ランキングでは、お札でおなじみの顔ぶれがずらりと並ぶ中、維新の英雄・勝海舟が1位だった。


 維新の英雄?

 半藤さんは「先を見通す力を持ち、現場での判断をほとんど誤らなかった政治家。今いてくれたら、と思う人も多いはずです」。
 明治政府の中枢にいながら、日清戦争には「万が一日本が勝っても外国の干渉が入り、必ず損をする。貧乏国に戻る気か」と反対。その予言は当たった。「あれほど先を見通せる政治家はいません」
 江戸開城もそうだが、危機になるほど、現場に乗り込んで状況を判断。てきぱき指揮して、さっさと処理する。「おそらく、現在の東日本大震災後の危機も、彼ならあっさり片付けていたのでは」


 明治政府の中枢にいながら?

 勝海舟は、日清戦争のころには明治政府の中枢になどいない。
 明治初期の一時期には海軍卿(海軍大臣に相当)や参議を務めたが、すぐに辞任し、以後は野に在った。明治21年に設けられた枢密院を構成する枢密顧問官の1人に任ぜられているが、これは過去の功労者を処遇する意味合いであって、政府の中枢とは言えないだろう。
 この記事を書いた魚住ゆかりという記者は、どうも勝の経歴をよく理解していないように思える。勝が大久保や木戸や岩倉や伊藤や山県らとともに明治政府を主導したとでも考えているのではないか。

 日清戦争に反対したという点も朝日的にはポイントなのかもしれないが、コトバンクで勝海舟を検索すると表示される朝日日本歴史人物事典の松浦玲による解説によれば、「明治政府の欧米寄りを批判し続けて清国との提携を説き,日清戦争には反対だった」とある。
 「明治政府の欧米寄り」は果たして批判されるべきことだったのか、また「清国との提携」は果たして可能だったのだろうか。
 朝日の記事が「その予言は当たった」としているのは、おそらくは三国干渉のことを指しているのだろうが、別にわが国は貧乏国に戻ったりはしていないし、のちに日露戦争で三国干渉の一国、ロシアを下してもいる。魚住記者、あるいは半藤かもしれないが、何をもって予言が当たったとしているのか理解しがたい。
 日清戦争に勝利することでわが国が列強の仲間入りを果たすことができたのは事実だろう。半藤はどのように勝が「先を見通」していたというのか。
 「東日本大震災後の危機も、彼ならあっさり片付けていたのでは」には笑うしかない。勝の最大の業績であろう江戸城無血開城は、昨今の首相がお得意の投げ出しに他ならないからだ。


 ところで、このランキング調査は、次のような方法で行われたという。

朝日新聞の無料会員サービス「アスパラクラブ」のウェブサイトでアンケートを実施。明治時代に各界で活躍した著名人を編集部で約50人に絞り、その中から1人に5人まで選んでもらった。回答者数は1777人。


 思うに、勝がランキング入りしたのは、昨年の大河ドラマ「龍馬伝」や、3年前の「篤姫」の影響が大きいのではないのだろうか(6位に岩崎弥太郎が入っているのも「龍馬伝」の影響のように思う)。
 もともと人気の高い人物だったということもあるだろうが。
 あらかじめ編集部が絞るのではなく、自由回答形式だったら、そもそも勝は「明治人」として想起されただろうか。

 これも、人気ブログランキングで投票を作ってみようかな。
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