トラッシュボックス

日々の思いをたまに綴るブログ。

自民党の大敗を受けて

2007-07-31 23:35:09 | 現代日本政治
 昨日の夕刊を各紙比べてみると、『毎日新聞』の記事がなかなか読み応えがあった(以下、いずれも引用はウェブ魚拓から)。

’07参院選:津島派、全員落選 青木氏の政治力低下--1人区
(紙面での見出しは「自民津島派 大打撃 青木氏の影響力衰退必至」)

《自民党惨敗で大きな打撃を受けた派閥が津島派だ。改選前に35人の参院最大勢力だった津島派では21人が改選期にあたり、引退した6人を除く現職15人が挑んだが、当選者はわずか2人。非改選議員は14人で、新人の加入があっても20人程度にとどまる見通しだ。

 参院津島派は1人区をはじめとする地方と、業界団体を足場にした議員が多く、「自民党をぶっ壊す」と叫んだ小泉純一郎前首相の改革の波にのまれたところに、党への逆風も襲いかかった。選挙区で出馬した10人のうち1人区で戦った9人は、片山虎之助参院幹事長ら全員が落選。当選したのは2人区の長野から出た吉田博美氏のみ。比例の5人も当選したのは日本遺族会の支援を受ける尾辻秀久元厚生労働相1人にとどまり、日本医師会に支えられた武見敬三副厚労相も落選した。

 改選前の津島派は参院自民党の3分の1を占め、青木幹雄参院議員会長の力の源泉ともなっていた。参院自民党の「青木王国」化は、92年の旧竹下派分裂の際、青木氏が竹下登元首相の意を受け、参院竹下派の大部分を小渕恵三元首相支持にまとめたことに起因する。青木氏は参院幹事長、官房長官(小渕、森内閣)、参院議員会長と歴任するにつれ、参院自民党を掌中におさめた。小泉氏でさえ首相時代、組閣の際には参院からの人事推薦については青木氏に委ねたほどの勢威を振るったが、安倍晋三首相になって、参院選の候補選定などを巡り首相と青木氏はしばしば対立した。青木氏も「首相の周囲がよくない。参院選に閣僚のエラーが直撃した」と首相の責任を口にすることも多かった。

 しかし今回、青木氏が重用していた片山氏と同じく津島派で島根出身の景山俊太郎参院筆頭副幹事長らも落選した。

 一方、首相の出身派閥の町村派が21人と参院第1派閥にのし上がり、青木氏の政治力減退は確定的な状況となっている。青木氏は「私のあとの議員会長は片山君がついでくれると思っていたんだが」と肩を落とした。

 衆参合わせた新勢力は、最大派閥の町村派が82人、第2派閥の津島派62人で、両派の差は改選前の8人から20人に拡大した。その他の派閥は古賀派46人、山崎派35人、伊吹派25人、高村派、麻生派16人、谷垣派、二階派が15人。【田中成之】

==============

 ◇自民党各派閥の参院新勢力

     改選前議員数 今回の当選者 新たな議員数

町村派  28(13)      8     21

津島派  35(14)      2     16

古賀派  14( 5)      3      8

山崎派   5( 3)      0      3

伊吹派  13( 5)      1      6

高村派   2( 0)      2      2

谷垣派   4( 2)      1      3

二階派   2( 2)      0      2

麻生派   2( 1)      2      3

無派閥   4( 1)     18     19

合計  109(46)     37     83

(注)改選前議員数のカッコ内は非改選の議員数。前議長は除く。今回当選者の無派閥議員には所属先未定を含む 》


 参院自民党を牛耳っていた津島派の減少により、安倍総裁は参院自民党をむしろコントロールしやすくなったと言えるだろう。
 また、派閥別の当落を見ると、町村派の一人勝ちと言える状態だ。こうした傾向を見ると、今回の選挙結果は、必ずしも安倍首相に対する不信任とは言い切れないように思う。

’07参院選:公明に自民票回らず 選挙区絞り込み手法に壁
(紙面での見出しは「公明の戦略 行き詰まり 3人区 自、民とのすみ分け崩れ」)

《選挙区選挙では、1人区で自民党が惨敗したことに加え、選挙区を絞り込んで確実に議席を確保してきた公明党の手法が壁にぶつかったことが注目される。

 公明党は5選挙区に公認候補を立てたが、いずれも3人区(改選数3)の埼玉、神奈川、愛知3選挙区で前職が落選する苦杯をなめた。公明党候補が選挙区で落選したのは89年以来18年ぶり。

 3選挙区とも6年前の参院選では自民、民主、公明が1議席ずつ分け合った。しかし、今回は民主党が2候補を擁立。自民党への批判票を全面的に取り込むことに成功、01年に比べ得票数を3選挙区とも100万前後も増やした。この結果、民主党候補はいずれも2人当選、公明党候補を当選圏外に押し出した。

 与党の戦略は、自民支持層の票の一部を公明党候補に回し、民主党を1人落選させるというものだった。しかし、毎日新聞の出口調査で自民支持層の4分の1が民主党候補に流れたことが示すように、自民党は自らの陣営を引き締めるのに精いっぱいで、公明党に票を回す余裕はなかった。

 公明党の3選挙区の得票数自体は、逆風下にもかかわらず01年の「小泉ブーム」の際よりも数万票上積みしており、強固な組織力が健在であることは示した。ただ、無党派層への広がりがあまり期待できない同党にとって、ひとたび「自民、公明、民主のすみ分け」が崩れた際のもろさが露呈したといえ、今後の戦略の再構築が求められそうだ。【坂井隆之、林哲平】》


 なるほどなあ。
 2人区で自民と民主が分け合い、3人区で自民、民主が2対1もしくは1対2で議席を獲得すれば、公明党の入る余地はなくなる。
 2大政党化が進行すれば、公明党は議席を減らさざるを得ない。
 もっとも、2大政党が拮抗すれば、キャスティングボートを握る機会もあるだろうが、それでも議席が減れば、その力も低下するだろう。

 保阪正康の参院選評も興味深いものだった。

《自民党はなぜ、歴史的な敗北を喫したのか。確かに今回は、年金問題をはじめ閣僚の失言や不祥事疑惑が相次いだ。一般的にはこれらを敗因と見るのだろうが、私は、より本質的な問題こそが敗因だったと考えたい。それは、安倍首相自身の政治姿勢、そして歴史認識である。

 安倍政治を象徴するのが「美しい国」だ。「美しい」は形容詞だが、安倍首相はその内容について抽象的な説明に終始し、国民に分かるように説明しない。このことは、権力が「美しい」という言葉の意味を勝手に定義し、国民はそれに従えと言っているに等しい。まるで戦前の「すめらぎの国」のようであり、森喜朗元首相の「神の国」発言に匹敵する無神経さだ。

 また、安倍首相は「戦後レジームからの脱却」と言う。しかし、戦後レジームとは本来、戦前のファシズムの負の遺産を清算し、過去を克服するために作られたものだ。脱却すると言うならばまず、戦後レジームをきちんと評価した上で、今の時代に合わせて変えていくという前向きな発言があるべきだった。「戦後レジームからの脱却」と繰り返すだけでは「戦前レジーム」への回帰を望んでいるようにしか聞こえない。

 安倍氏の首相就任後、日本社会は何かレベルダウンしてしまった感がある。「美しい国」「戦後レジーム脱却」「憲法改正は3年後」などの言葉だけが先行し、実体は何一つ見えない。今回ばかりは国民も「おいおい、これはとんでもない首相だぞ」と気付き、それが選挙結果につながったのではないか。

 安倍首相は敗因を年金問題や閣僚の失言、野党の攻撃と考えているかもしれない。しかし、それだけが敗因なら自民党はここまで大敗しなかっただろう。政策では修正しえない、安倍首相自身の政治家としての資質や歴史認識が問われた選挙だったからこそ、ここまで負けたのだと、安倍首相も自民党も自覚すべきだ。》


 私も、選挙前に自民党の劣勢が伝えられる中、敗因は年金問題や閣僚の失言、不祥事にあるのであって、安倍内閣の施策自体が国民に信任されていないわけではないと見ていた。
 私自身、安倍内閣が進めた教育基本法改正や国民投票法の成立、防衛庁の省への昇格、そして安倍が志向する改憲に賛成で、小泉内閣以来の構造改革路線にも基本的に賛成だから、そういう点で、ひいき目で見ていた部分はあるかもしれない。
 しかし保阪によると、そうではなく、「安倍首相自身の政治姿勢、そして歴史認識」を国民が拒否したのだという。
 保阪は、日本の近現代史に関する著作が多いノンフィクション作家。「軍部が日本を戦争に引きずり込んだ」式の安易な戦前観に拠らず、具体的に誰が何を考え、どう行動したのかを示すため、当事者の取材を積極的に行った。その著作から私も多くのものを得ている。
 首相の靖国参拝には批判的で、小泉前首相の政治手法をヒトラー的であると評したのにはちょっとついていけない思いがしたが。
 保阪の主張にかかわらず、私はやはり年金や閣僚の失言や不祥事が今回の選挙結果に大きく影響していると考える。ただ、安倍内閣が国民に対して十分な説明を果たしていないという点は重視すべき指摘だと思う。
 安倍内閣以後、「日本社会は何かレベルダウンしてしまった感がある。」とまでは私は思わないが、近年、政治家が与野党ともにレベルダウンしているようには感じる。


《この参院選は、いわば市民社会の「リトマス試験紙」だ。有権者は今回、投票で次のことを示した。すなわち、政治家の利益誘導や飾り立てた言葉、脅迫まがいの訴えなどはもはや通用しないこと。「美しい国」ではなく、具体的にどんな国を造っていくのか、論理的に説明しない限り、有権者は評価しないということ。そして、ファシズムや軍国主義には踏み出さない、という決意だ。自民党の今回の大敗で、我々の社会は本当の意味で市民社会になりえた、とすら私は思う。

〔中略〕

 私はずっと小泉純一郎前首相を批判してきたが、国民の中には今なお彼へのノスタルジーがあるように見える。小泉前首相は暴言も多かったが、その言葉には我々の心に食い込んでくる何かがあった。しかし、安倍首相の言葉には、何もない。

 国民から「首相として不適格だ」という判断を受けた安倍首相が、首相の座に居座り続けることは、自分の責任問題への鈍感さや政治感覚のなさを自ら立証することに他ならない。民意を反映しない内閣は国民にとって悲劇としかいいようがない。》


 参院選は政権選択選挙ではないし、安倍内閣はまだ発足後1年に満たない。私が先に述べたように安倍内閣を基本的に支持しているせいもあるが、直ちに退陣すべきだとは思わない。
 政権が、世論調査に示されるような表面的な民意を常に反映しなければならないのなら、消費税は導入すべきではなかったし、日米安保は改定すべきではなかった。世論に迎合するのが政治ではない。
 しかし、わが国の政体が民主制であり、政権の正統性の根拠が国民にある以上、政治指導者は政策の必要性や将来の国家のビジョンを語り、理解を求めなければならない。安倍政権にはたしかにこれまでそういった面が欠けていたと思う。
 それは安倍に始まった話ではなく、前任の小泉の手法からしてそうだった。何故小泉なら許されて、安倍は許されないのか。それは個人の資質の問題かもしれないし、小泉流にもはや国民が飽きたということかもしれない。
 岸信介はたしかに安保改定を成し遂げたが、その際に大混乱を招いたため、その後の自民党指導者は、改憲を棚上げするのみならず、安全保障の面で及び腰であり続けてきた。安倍は、祖父の二の舞を演じてはならない。

 小沢一郎の手法から言って、自民党の津島派や山崎、加藤らと組んで、さらに前回の衆院選で初当選した無派閥議員らも加えて、ごっそり集団離党させて、衆議院でも多数派を形成し、民主党政権を打ち立ててくれないものだろうか。
 そして、前原などの集団的自衛権容認派がそれに反発して離党し、安倍らと合流してくれないものだろうか。
 そういう政界再編がなされれば、田中派的なものと福田派的なものという対立軸で、かなりすっきりするのだが。
 今のままでは、衆院と参院の議席に差がありすぎて、政治がどうにも行き詰まってしまいそうなのが心配だ。
 参議院があまりに強すぎるのが問題だと思うなあ。