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みんなの心にも投資 … ソーシャルインベスター(社会投資家)への道

個人投資家の”いとすぎ ”が為替・株式投資を通じた社会貢献に挑戦します。すべてのステークホルダーに良い成果を!

2024年/社会経済書ベスト10『金利を考える』『中国不動産バブル』『分断国家アメリカ『未婚と少子化

2024-12-31 | こんな本を読んでいます
今年も恒例、2024年のベスト10冊を選びました。
経済・社会に関する新刊の中で価値の高いものです。
研究者や編集者と違い、新味や学術的価値ではなく政策における有用性を重視しています。

直近のダイヤモンドや東洋経済の合併号のリストとは相当違います。
日本社会の喫緊の課題に正面から向き合っているかどうか、という見地です。

「今年も案の定、日本経済は着実に衰退して先進国で最悪水準の低成長、
 今年の新刊で、安倍や菅だけでなく与党やヒラメ官僚、そして多くの識者も
 海外の政策や事例から謙虚に学ぶ能力も意欲も欠けている事実が鮮明になってしまいました。。」

と2020年に書いたのですが、今も依然として低成長の現実は変わらず。

昨年は「日本政治は保守の自滅が鮮明になってきて妙なポピュリズムが流行り
と書きましたが2024年は更にそれが酷くなり都知事選でも兵庫知事選でも国政選挙でも
ポピュリスト候補やポピュリスト政党が近視眼なB層の低リテラシー票を集める始末。
良書の必要性は益々、高まっています。


 ↓ これまでのベスト10

2023年/社会経済書ベスト10『日銀の責任』『ジェンダー格差』『不倫』『国家は巨大ITに勝てるのか
http://blog.goo.ne.jp/fleury1929/e/7486e68abff17b9c47c8a6871b7e387f

2022年/社会経済書ベスト10『どうすれば日本人の賃金は上がるのか』『ウクライナ戦争』『統一教会』
http://blog.goo.ne.jp/fleury1929/e/1098cc3ad3ecc471e8f0173aae806e96

2021年/社会経済書ベスト10-『勤勉革命』『日本経済の長期停滞』『大下流国家』『低度外国人材』等
http://blog.goo.ne.jp/fleury1929/e/e35b9ce85e47ae9ce50681bd919fffa1

2020年/社会経済書ベスト10-『デジタル化する新興国』『移民の経済学』『韓国社会の現在』etc
http://blog.goo.ne.jp/fleury1929/e/68eddd3d8095ab47d749e358fff26d47

2019年/社会経済書ベスト10-『人口で語る世界史』『貧困専業主婦』『年金「最終警告」』etc
http://blog.goo.ne.jp/fleury1929/e/7ac26986c0785b472ac1fdb463e8a1ee

2018年/社会経済書ベスト10-『新・生産性立国論』『新・日本の階級社会』『知ってはいけない2』他
http://blog.goo.ne.jp/fleury1929/e/896bb23d60c4c76e0757567ab5b70150

2017年/社会経済書ベスト10-『デジタルエコノミーは…』『子育て支援と経済…』『トランプ王国』他
http://blog.goo.ne.jp/fleury1929/e/9cab7d1ddc3a8f2d3acbd9fa08c8fcde

2016年/社会・経済書ベスト10 -『グローバリズム以後』『子育て支援が日本を救う』『教育超格差大国』他
http://blog.goo.ne.jp/fleury1929/e/0a2d0b434eed9677d1697b4a732267d8

2015年/社会・経済書ベスト10 -『奇跡の村』『日本国債暴落』『新・観光立国論』他
http://blog.goo.ne.jp/fleury1929/e/60231fb53c5f0c34481596636d9b8f89

2014年/社会・経済書ベスト10 -『日銀、「出口」なし!』『米軍と人民解放軍』『社会保障亡国論』他
http://blog.goo.ne.jp/fleury1929/e/15fdce254ff70decccdc1cae539cd752


さて、それでは2024年のトップ10です。


第1位 『金利を考える』

『金利を考える』(翁邦雄,筑摩書房)


 → 円安は家計部門を貧しくし輸出企業に富を移転するという
   まさに今起きている現実を鋭く衝いている良書。
   しかも人材流出を招く弊害が大きいという重要な指摘も。

▽ 最近売れているこちらは主張ごもっともだが、アベノミクス失敗を断罪した類書は何冊も出ている

『異次元緩和の罪と罰』(山本謙三,講談社)


▽ これは東洋経済が取り上げた、経済統計から見てアベノミクス失敗とする至極当然の結論だが類書多い。。

『日本経済の故障箇所』(脇田成,日本評論社)



第2位 『分断国家アメリカ 多様性の果てに』

『分断国家アメリカ 多様性の果てに』 (読売新聞アメリカ総局,中央公論新社)


 → 下手な評論家や作家より遥かに優れたレポートで、
   人種や移民、人権問題を巡って保守とリベラルが激しく対立する
   米国社会の深刻な現実を如実に描き出している。

   特に、不法移民が増える一方で米国市民に不満が高まり
   トランプ再選の下地をつくったという事実は重要。
   (日本にとってもこの米国社会の歪みは他人事でない)
   トランプ再選と移民抑制によって米国経済の成長率低下は間違いない。

▽ 寧ろ、研究者の方が欧米社会の現実を直視せず難民受け入れに固執するという状況

『なぜ難民を受け入れるのか──人道と国益の交差点』(橋本直子,岩波書店)


▽ アファーマティブアクションの廃止・退潮についても、研究者より上の読売記者のレポートの方が的確

『アファーマティブ・アクション-平等への切り札か、逆差別か』(南川文里,中央公論新社)



第3位 『未婚と少子化』

『未婚と少子化 この国で子どもを産みにくい理由』(筒井淳也,PHP研究所)


 → 家庭庁の「こどもまんなか」は少子化対策とは無関係であること、
   寧ろ国民は自分の子を惨めにしないために子供数を抑制していること、
   そして婚姻率の低下こそが少子化の真因であること、
   非婚は経済面でのミスマッチが主因であること、理路整然と論じる良書。
   (但し効果的な対策の提案が皆無に等しいのが残念)

▽ 少子化対策には高齢者三経費の削減が必要、とするのが本来は正論かつ効果的である(昨年に当ウェブログで掲載)

『教養としての財政問題』(島澤諭,株式会社ウェッジ)


▽ だが高所得層はこの通り、日本の少子化問題より我が家の財布と我が子の利益が優先

『世帯年収1000万円―「勝ち組」家庭の残酷な真実―』(加藤梨里,新潮社)



第4位 『検証 大阪維新の会 ――「財政ポピュリズム」の正体』

『検証 大阪維新の会 ――「財政ポピュリズム」の正体』(吉弘憲介,筑摩書房)


 → 維新が自治体を牛耳るようになっても大阪の経済低迷は変わってない、
   所詮は財政ポピュリズムである、と維新の会の実態を鋭く批判した一冊。
   (因に、当書では触れていないが大阪は低出生率も一向に改善していない)
   猶、維新の財政ポピュリズムはトランプの経済政策とかなり近く両者とも失敗必至である。

▽ 下掲書もそうだが、維新のように少子化対策失敗しても持論が正しいかのように開き直る論者が多過ぎ

『縮んで勝つ ~人口減少日本の活路~』(河雅司,小学館)




第5位 『アメリカはなぜ日本より豊かなのか?』

『アメリカはなぜ日本より豊かなのか?』(野口悠紀雄,幻冬舎)


 → 野口氏の主張は常に、杜撰なリフレ派より遥かに正しい。
   ただアメリカ経済に対してはオーバーバリューが顕著で
   現役世代1人当たりGDP成長で見ると大したことない。
   その強さが人口増加に支えられているのは明白である。


第6位 『教養としての国際政治』

『日本人にどうしても伝えたい 教養としての国際政治 戦争というリスクを見通す力をつける』(豊島晋作,KADOKAWA)


 → テレ東でお馴染みの豊島氏、内容は本格派でパレスチナやウクライナ関連など
   はっきり言って元外交官あたりの解説よりかなり優れており参考になる。
   (例えば池上氏と組んで番組を持っても良い位の水準である)
   あの小泉悠氏が賞賛しているのも当然であろう。


第7位 『日ソ戦争 日本最後の戦い』

『日ソ戦争 日本最後の戦い』(麻田雅文,中央公論新社)


 → 兵站と兵器を重視したソ連(現ロシア)に旧日本軍は惨敗した。
   当時の日本人は現在のウクライナやガザより残虐な暴行や略奪を受け
   「憎しみしかない」との証言すらある。
   (しかも政府と軍の上層部から多くの日本人が見捨てられている)
   これこそ元外務省の親ロシア派達が今も口を噤む歴史的事実である。


第8位 『中国不動産バブル』

『中国不動産バブル』(柯隆,文藝春秋)


 → 著者は優秀なエコノミストであり
   中国経済分析において信頼できる数少ない専門家の一人。
   経済誌等で非常に的確な中国経済分析を行っており、
   凡俗な中国経済崩壊論とは比較にならない本格派の内容。

▽ 対中関係においてはこちらの方が良いが、経済分析でないので今回の選に漏れた。。

『戦狼中国の対日工作』(安田峰俊,文藝春秋)


▽ こちらも経済分析ではないが、台湾有事を想定した米側のシビアな予測を紹介しており貴重

『日本企業のための経済安全保障』(布施哲,PHP研究所)




第9位 『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』

『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』(坂本貴志,講談社)


 → 日本では一人当たり労働時間が減っているとの認識は正しいが、
   労働投入の梃入れを諦めてしまい処方箋が良くないのが残念。
   「年収の壁」打破によって北欧型の経済への転換、
   デジタル化のためインド・ベトナム・東欧の高度人材受け入れが必要な筈である。


第10位 『弱者男性1500万人時代』

『弱者男性1500万人時代』(トイアンナ,扶桑社)


 → 日本の男性は女性より不幸でかつ短命・孤独・発達障害が多く
   状況が深刻という悲しい現実を初めて指摘した貴重な一冊。
   この事実を女性側から認めた功績は大きい、高学歴女性による
   上から目線の「男性は降りろ」論より感覚がまともである。

▽ 一般国民と乖離した恵まれた出自で高学歴な著者だと、露骨にジェンダーバイアスが入る。。

『なぜ地方女子は東大を目指さないのか』 (江森百花,光文社)


▽ 上掲書には皮肉なことに、日本の女性の階層意識は夫の所得や階層から強い影響を受ける

『女性の階級』(橋本健二,PHP研究所)



次点 『就職氷河期世代 データで読み解く所得・家族形成・格差』

『就職氷河期世代 データで読み解く所得・家族形成・格差』(近藤絢子,中央公論新社)


 → 就職氷河期世代の苦境についての本格研究として評価でき、
   女性の就業・正規雇用率の世代差が数年で解消されたことや
   出生率への影響が限定的など驚きの事実の数々が明らかになっている。
   ただ残念なことに提唱されている処方箋は非力であり
   北欧型のフレキシキュリティによる格差是正しか道がない筈だが。。


次点 『ロシアから見える世界 なぜプーチンを止められないのか』

『ロシアから見える世界 なぜプーチンを止められないのか』(駒木明義,朝日新聞出版)


 → 北方領土交渉が最初から失敗必至だったことと、「プーチンは既に敗北」は正しい。
   但し後者は著者の言うようなウクライナの抵抗によるのではなく旧ソ連のアフガン侵攻と同様に
   戦略の誤りによる戦争長期化で国力を損耗し内部から自壊するためと考えるのが至当だろう。
   ウクライナ侵攻へのロシア内部での支持が高いのは多くのロシア人に「他人事」であるだけでなく
   ウクライナ人への差別があるのではという著者の観察は興味深い。
   (確かに、プーチンのロシアに迎合的な鈴木宗男などの論者の傾向を言い当てているようだ)


次点 『美味しいサンマはなぜ消えたのか?』

『美味しいサンマはなぜ消えたのか?』(川本 大吾,文藝春秋)


 → 中国漁船の乱獲のような一要因だけに偏らないバランスの取れた良書、
   ノルウェー漁業や漁獲枠に言及しているのも的確で評価できる。
   ただ温暖化の影響については今後研究で判明してゆく新事実もあろう。


次点 『ジャパニーズウイスキー入門』

『ジャパニーズウイスキー入門 現場から見た熱狂の舞台裏』 (稲垣貴彦,KADOKAWA)


 → こちらは本当に良い内容。「クラフト蒸留所」というネーミングも絶妙、
   近年の日本経済で最も付加価値を高めた分野であると言って良く
   この本格派の入門書でジャパニーズウィスキーの洋々たる未来も見えてくる!


番外編1:『天空の庭』

『天空の庭』(KAGAYA,河出書房新社)


 → 日本には優れた人材は大勢いる。
   (経済が不振なのは人口動態老化と政策の失敗によるのだ)
   最初はCGにしか見えない珠玉の作品集。


番外編2:『フランス 26の街の物語』

『フランス 26の街の物語』(池上英洋,光文社)


 → フランスの地方の景観は本当に素晴らしい。
   インバウンドの上客を地方に誘客したければ
   景観はフランスやイタリア、スペインを参考にすべきなのだ。

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秋の新刊 -『就職氷河期世代』『ロシアから見える世界』『分断国家アメリカ』『アジア・ファースト』等

2024-11-02 | こんな本を読んでいます
連休なのでいつもの新刊紹介です。
本格研究もあり、ドグマの強い新刊もあり、テーマは幅広くなってきました。

もう目前となっている米大統領選については非常に良いレポートが出ており
(有象無象の評論家の関連本は思惑やバイアスが強過ぎて寧ろ有害なノイズ)
良書を選ぶことの重要性が改めて確認できます。


『アジア・ファースト 新・アメリカの軍事戦略』(エルブリッジ・A・コルビー,文藝春秋)


 → 日本の防衛力強化はほぼ完全にアメリカ側からの要請によることがよく分かる一冊、
   ただ人口過密でありかつ米軍の装備を導入した強力な軍事力を持つ韓国や日本を
   中共が狙ってくるという発想は歴史的にも戦略的にも大間違いであろうに。。
   (中国の経済力に対して弱腰な、アセアンが狙われる可能性の方が大きい)。


『就職氷河期世代 データで読み解く所得・家族形成・格差』(近藤絢子,中央公論新社)


 → 就職氷河期世代の苦境について恐らく初めての本格研究、
   女性の就業・正規雇用率の世代差が数年で解消されたことや
   出生率への影響が明確でないことなど驚きの事実が数々明らかになっている。

   他方で氷河期世代で賃金は低下しニートは増加しており
   これから政治無策のツケが顕在化してくるという点は概ね想定通りだろう。


『なぜ地方女子は東大を目指さないのか』 (江森百花,光文社)


 → これはイデオロギー色が強く、批判的検討が必要な新刊。
   一般国民と乖離した恵まれた出自で高学歴な著者らのジェンダーバイアスが露骨、
   外語・芸術・薬学・看護系学部に女子が過度に集中する構造を無視して
   自分たちのドグマを押し通す上から目線に対し余りに無自覚。

   大卒層ですら実社会に出てから勤労や婚姻、家族ケアにおいてOECD加盟国とは異なる
   ジェンダーバイアスを示す日本の実態を明らかにした実証研究から謙虚に学ぶべき。


『分断国家アメリカ 多様性の果てに』 (読売新聞アメリカ総局,中央公論新社)


 → トランプを支える所謂「MAGA」支持層において、
   白人の被害者意識が人種差別と結び付いているという苦いアメリカ社会の現実。
   読売新聞記者による優秀でバランスンの良いレポートである。
   米大統領選関連の新刊では最もお勧めできる一冊。


『ロシアから見える世界 なぜプーチンを止められないのか』(駒木明義,朝日新聞出版)


 → 北方領土交渉が最初から呉越同舟で失敗必至だったことと「プーチンは既に敗北」は正しいが、
   後者は著者の言うようなウクライナの抵抗によるものではなく旧ソ連のアフガン侵攻と同様に
   戦略の誤りによる戦争長期化で国力を損耗し内部から自壊するためと考えるのが至当だろう。


『象徴天皇の実像 「昭和天皇拝謁記」を読む』(原武史,岩波書店)


 → ソ連と中共は侵略主義と見抜いていた英明な昭和天皇、
   戦前の軍部の青年将校には「私の真意を理解しない」とバッサリ。
   (自由党より社会党右派を評価していたなど興味深い話が次々と出てくる)


『なぜヒトは心を病むようになったのか?』(小松正,文藝春秋)


 → 後半の諸研究の紹介は良いが、タイトルはミスリードで
   理系なのにエヴィデンスに乏しい主観的見解が多いのに注意。


『中学受験のリアル』(宮本さおり,集英社インターナショナル)


 → クリームスキミングで営業色丸出しの合格話とは大違い、
   偶然に左右され個々によって大違いとなる中学受験の暗部も紹介した貴重なレポートである。


『始皇帝の戦争と将軍たち 秦の中華統一を支えた近臣軍団』(鶴間和幸,朝日新聞出版)


 → これは夏の段階で既に出ていた。
   当該分野の泰斗による執筆だが、キングダムの内容がかなりの部分が脚色(捏造に近い)で
   史実と大幅に異なっている事実は注意深くオブラートに包んでいるのが興味深い。


『ジャパニーズウイスキー入門 現場から見た熱狂の舞台裏』 (稲垣貴彦,KADOKAWA)


 → 最後にこちら。「クラフト蒸留所」というのは言い得て妙、
   日本経済で最も付加価値を高めた分野であると言って良く
   この本格派の入門書でジャパニーズウィスキーの洋々たる未来も見える。

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初秋の新刊-『アメリカはなぜ日本より豊かなのか?』『М9地震に備えよ』『原爆裁判』『観光消滅』等

2024-09-23 | こんな本を読んでいます
連休なのでいつもの新刊紹介です。

経済関連ではアベノミクスがなぜゼロ成長続きでで失敗に終わったのか
理路整然と論じる野口悠紀雄氏の新刊が出たのが注目ですね。

他はインバウンドの隆盛、と言うよりオーバーツーリズムの弊害が酷くて
社会問題化しているのを受けてか観光関連の新刊が増えてきています。

他方、米大統領選や中東、ウクライナ関連は減り気味で
一国平和主義的な日本社会の内向き志向が見えるようでもあります。。


『アメリカはなぜ日本より豊かなのか?』(野口悠紀雄,幻冬舎)


 → 主張としては杜撰なリフレ派より遥かに正しい、
   但し現役世代1人当たりGDPで見ると大したことない米経済の強さが
   人口増加に支えられているのは明白である。


『M9地震に備えよ 南海トラフ・九州・北海道』(鎌田浩毅,PHP研究所)


 → 地震の巣である日本における大震災のリスクを理路整然と説いた新刊、
   首都圏についても相当のページを割いて分析している。
   (米国だったらこのようなハイリスク地域での原発は法で禁止するであろう)


『日本人にどうしても伝えたい 教養としての国際政治 戦争というリスクを見通す力をつける』(豊島晋作,KADOKAWA)


 → タイトルは大袈裟だが内容は本格派で、パレスチナやウクライナ関連など
   元外交官あたりの解説よりかなり優れており吃驚。
   (例えば池上氏と組んで番組を持ったらかなり反響を呼ぶのでは)
   あの小泉悠氏が賞賛しているのも当然であろう。


『脱炭素化は地球を救うか』(池田信夫,新潮社)


 → 福島原発事故後すっかり本が売れなくなった著者、
   科学とみせかけた原子力推進イデオロギーに過ぎず
   結果的に原発大増設中の中ロを擁護する内容になってしまっているのが実に皮肉。

   同じ原子力擁護でも『グリーン・ジャイアント』の方が科学的で
   経済面での「負の外部性」にも言及しており遥かにマシであろう。


『介護格差』(結城康博,岩波書店)


 → 裕福な高齢層ほどお金にシビアという証言がある、
   今のバラ撒き高齢者予算はそういうところから生まれたのだろう。


『原爆裁判 アメリカの大罪を裁いた三淵嘉子』(山我浩,毎日ワンズ)


 → NHK朝の連続テレビドラマ『虎に翼』で一躍有名になった、
   あの女性の関わった画期的な原爆裁判。


『心理的虐待 ~子どもの心を殺す親たち~』(姫野桂,扶桑社)


 → この難しい分野での特筆すべきレポート、
   特に発達障害との関係に言及した部分は重要。


『日本のなかの中国』(中島恵,日経BP)


 → さほど豊かではなくなっても日本に惹かれてやって来る中国人、
   かつては『三国志』など中国古典に関する日本人の教養に驚いていたが
   ファンタジーに過ぎない『キングダム』しか知らない若年層を見ると
   それも長くは続くまい、と思えてくる。


『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(三宅香帆,集英社)


 → よく売れているらしい。ただ思想史的に見れば、
   奴隷制に支えられた古代ギリシャ以来の労働を苦役と捉える西洋思想か、
   もしくは俗世からの隠遁を理想とする中国伝統の文人志向の影響に見えてしまう。。


『観光消滅-観光立国の実像と虚像』(佐滝剛弘,中央公論新社)


 → 安倍政権以来の自国安売りインバウンドは問題だらけ。
   しかも権威主義的で「世界遺産」の四文字に弱い日本人、
   観光客の急増・急減の一因になる悪しき通弊も問題である。


『日本人が知らない世界遺産』(林菜央,朝日新聞出版)


 → 最後にこちら。FRBの利下げ転換で円高確実だから次の旅行先を考えるのも楽しい。
   ただ海外の世界遺産でも日本の権威主義的・ブランド志向が窺えるような。。

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盛夏の新刊-『ハマスの実像』『縮んで勝つ』『検証 大阪維新の会』『アファーマティブ・アクション』等

2024-08-12 | こんな本を読んでいます
連休には恒例ながら新刊紹介です。

米国ではトランプ銃撃事件でほぼトラ確定かと思われましたが
トランプの相変わらずの失言連発でカマラ・ハリスが支持率急上昇、
新刊は事態の変転に追いつけておらず出遅れている状況です。

他方、日本では自民の裏金問題に隠れてはいますが
維新の会に失態続出で迷走、与野党とも悪しき混沌が続く。。

さて前回は「女性研究者や女性著者のバイアスの強さが気になった今日この頃」
と書きましたが、今回は男性ジャーナリストや男性識者のバイアスも目立ち。
宜しくない意味で男女平等な新刊が多くなったかなと。。


『ハマスの実像』(川上泰徳,集英社)


 → ハマスについて現時点で最も詳細で良質なレポート、
   腐敗したファタハよりも人権上の問題が大きいハマスが西岸地区でも強く支持されているのが現実である。

   但しガザ地区の未成年が自ら殉教を志願するという絶望的なガザの状況に対して
   楽観的な著者の認識は大いに疑問であり、ハマスもイスラエルも
   手段を選ばず徹底的に戦う点で原理的によく似ていると考えるのが妥当だ。
   ハインゾーンの冷徹なジェノサイド研究を参照すべき。


『アファーマティブ・アクション-平等への切り札か、逆差別か』(南川文里,中央公論新社)


 → ごく一部のエリート校を除いて既に平等に近付いておりアメリカ人の多くが関心を失った差別是正措置、
   庶民から遊離する差別是正派の「敗北宣言」に近い内容である。
   (差別と格差の違いは何かという根本的な論点からも逃げている)


『縮んで勝つ ~人口減少日本の活路~』(河雅司,小学館)


 → タイトルに偽りあり、提言されている処方箋は「勝つ」どころか縮小均衡による敗北そのものである。
   巨額の資産を持つ高齢層への過大な公的給付を現役世代の現物給付に移転するのが
   少子化対策として効果最大であることは既に研究で判明しており、バブル世代の著者は責任重大の筈。


『検証 大阪維新の会 ――「財政ポピュリズム」の正体』(吉弘憲介,筑摩書房)


 → 維新が自治体を牛耳るようになっても大阪の経済低迷は変わらず
   所詮は財政ポピュリズムでしかない、という維新の会の実態を鋭く衝いた。
   (因に、当書では触れていないが大阪は低出生率も一向に改善していない)


『日本企業のための経済安全保障』(布施哲,PHP研究所)


 → 布施哲氏の待望の新刊で強くお薦めできる、
   米国が日本の代わりに中国企業を排除してくれているが
   「デジタル小作人」たる日本が上納金を払わされて
   赤字を増やしている等々、鋭い分析が流石である。


『トランプ人気の深層』(池上彰,宝島社)


 → これが出た直後にカマラ・ハリスの支持率上昇が伝えられた間の悪い一冊、
   池上や前嶋、中林らは概ね妥当な見解なのだが
   識者の中で最も多弁な佐藤の見解は精度が低く
   中国よりイスラムが重要などとしてしまっている。
   (安全保障では米国がより重要になり、経済面で最重要になるのがインドなのは学生レベルでも分かる筈)


『日本人の知らないベトナムの真実』(川島博之,扶桑社)


 → 投資はしてくれても韓国は嫌い、ベトナム戦争での忌まわしい記憶は根深い。
   よく知られているように腐敗が深刻な一党独裁社会ではあるが、
   親日国なのに直接投資が少ない日本企業の奮起を求めたい。


『海の城 海軍少年兵の手記』(渡辺清,KADOKAWA)


 → 貴重な復刊、旧日本軍の悪しき文化を知らない自称保守やネトウヨは
   この剥き出しの真実をその一端なりとも知るべきである。

追記:知覧に行きたいと発言した早田選手も、「国のため」という言葉が
   当時どのような意味を持っていたか理解するため読んで欲しい一冊である。
   『日本軍兵士』や『沖縄スパイ戦史』、『レイテ戦記』等はショッキングだろうから。


『あなたと家族を守る がんと診断されたら最初に読む本』(勝俣範之,KADOKAWA)


 → これは今年初めに出ていた本、
   誠実な著者の人柄が窺える実用性な良書。


『フランス 26の街の物語』(池上英洋,光文社)


 → 最後に連休に相応しいこちら。
   とにかく写真が美しく、素晴らしい景観であることが一目で分かる。

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初夏の新刊-『女性の階級』『誰も書かなかった統一教会』『弱者男性1500万人』『学校行きたくない』等

2024-07-15 | こんな本を読んでいます
連休ですので恒例の新刊紹介です。

トランプ元大統領が狙撃されるという世界に影響を及ぼす大事件が起きましたが
丁度、安倍元首相が狙撃される原因となった旧統一教会問題について新刊が出ています。
もしトラでなくほぼトラに向け加速しそうな米国とは対照的に
自民党安倍派と特定宗教団体との癒着の闇が追及されるようになった日本。
日米の相違の大きさを益々痛感させられる週末となりました。

さて他には、何故かジェンダー関連の新刊が多かったのが不思議、
女性研究者や女性著者のバイアスの強さが気になった今日この頃でもあります。


『誰も書かなかった統一教会』(有田芳生,集英社)


 → フレイザー委員会の報告や世界日報での内紛なども掘り下げ、
   旧統一教会の異様な実態を明らかにしたレポート。
   このような団体と深く関わっていた安倍派の苦境は自業自得である。


『オーバーツーリズム解決論 - 日本の現状と改善戦略』(田中俊徳,ワニブックス)


 → 登山者を厳しく制限する台湾の玉山(かつての新高山)に
   環境対策で大きく劣っている日本の富士山の残念な実態を明らかにした。

   但しこの本は大衆インバウンドが中心で
   日本において課題のハイエンド観光には全く触れていないのが残念。
   マーケティングよりはユネスコの遺産・文化保護の視点である。


『なぜ難民を受け入れるのか──人道と国益の交差点』(橋本直子,岩波書店)


 → これは批判的考察が必要な新刊。
   高邁な理想に固執し過ぎているのが一目瞭然で、
   難民受け入れがドイツはじめ欧米各国で問題化しており
   欧州では極右政党が勢力伸長している現実を無視している、
   (ノルウェーを言い訳のように取り上げているのが如何にも苦しい)
   国内であればクルド系難民の実態を調べた研究者の実地調査などから謙虚に学ぶべきでは。


『弱者男性1500万人時代』(トイアンナ,扶桑社)


 → 日本の男性は女性より不幸でかつ短命・孤独・発達障害が遥かに多く
   深刻という悲しい現実を初めて指摘した貴重な一冊。
   この事実を女性側から認めたのは珍しい、高学歴女性による
   上から目線の「男性は降りろ」論より感覚がまともである。


『女性の階級』(橋本健二,PHP研究所)


 → 女性間の格差は男性より大きく、
   階層意識は夫の所得や階層から強い影響を受けている事実が判明。

   尚この本の「再分配」の定義は「豊かな人から貧しい人へ」という欺瞞的なもので、
   平等に高負担な仏・北欧の再分配とは全然違うのに注意したい。


『ルポ 若者流出』(朝日新聞「わたしが日本を出た理由」取材班,朝日新聞出版)


 → 韓国に比べれば規模はかなり小さいものの、
   一般に認識されにくい日本社会の裏面を捉えた一冊。

   但しジェンダー差の大きさを理由に海外に出る層は僅かである筈で、
   日本女性の幸福度が男性より高く、かつ他先進国の女性とは逆に
   上昇傾向にあることから容易に推測できる。


『不登校の9割は親が解決できる 3週間で再登校に導く5つのルール(小川涼太郎,PHP研究所)


 → 業者の宣伝のように見えるのだが、
   不登校の原因分析や具体的な対策が説得的で非常に興味深い。
   (まだ事例が少ないのが欠点で今後の実証研究が重要になるだろう)


『学校 行きたくない: 不登校とどう向き合うか』(榎本博明,平凡社)


 → 親はとかく学校批判・社会批判に傾きがちになる不登校問題だが、
   感情論を排して子供自身の要因や家庭環境要因をも冷静に指摘したのは
   的確であり実効的な対策に必要な視点である。


『不適切保育はなぜ起こるのか──子どもが育つ場はいま』(普光院亜紀,岩波書店)


 → 女性が弱者だと決め付け過ぎる通弊があり、
   保育士の劣悪待遇の根源に家庭が適正な料金を負担していない問題があり
   欧州に近い重税か高負担が必要なことを何故理解できないのかが不思議。
   (社福幹部の補助金絡みの不正や不祥事にもかなり甘い)


『天空の庭』(KAGAYA,河出書房新社)


 → 最後に連休に相応しいこちら。
   初めて見たら誰もが驚く、何も知らなければ
   CGと思ってしまう珠玉の作品集。

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