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流出雑記 

2015/10/12

2015年10月13日 | Weblog
祖父母、母、妹1、甥のぴよ(1歳ちょっと)、妹2と雄琴温泉。雄琴は昔関西随一の歓楽温泉街で、普通の温泉客は足を踏み入れられないようなところだったらしい。城崎のような雰囲気のあるところじゃないけれど、今は年配の旅行客や家族連れが来れる温泉街としてイメージアップされている。
祖父母はどちらも認知症が徐々に進行していて、これが最後の旅行になるだろうと言われていた。
普段離れて暮らしているので、今祖父母がどんな状況なのかよくわかっていなかったのだけれど、宿に着き、温泉に入った祖父はものの5分で風呂を出てまったく知らない人の下着とパジャマを着て出てくるという事件が起こり、そうか、と思う。
そして30分おきくらいにトイレに立ち10分くらい出てこない。宿のなかの料理屋の個室から出てトイレの場所がわからないし自力で帰ってこれないのでひとり付き添いが必要。
祖母はそんな祖父にあたる。昔祖父の金銭的な失敗で夜逃げし、祖母は相当苦労した。さらにわりと街中で育った祖母が閉鎖的な田舎の村の祖父のところに嫁ぎ、そこでの生活は異文化というくらい勝手の違うことが多くあって姑にはこれやから街から来た嫁は、と散々いびられ使用人のような扱いを受けてきたのに一度たりとも祖父は祖母をかばったり手助けをすることがなかったと積年の恨みつらみを煮詰めたものを夕食の席でループし、祖父は延々それを聞こえないふりをして、一度だけお前はちょっとうるさいと怒った。そんな中で私と妹1、2は祖母の止まらない回想を適当に順番に浴びせられる役を引き受けつつ土瓶蒸しをすすったりしていた。さらにひと時もじっとしていられないぴよがそこを走り回っては食器や床の間の花や障子に手をかけようとするのを阻止しなければならない。固形燃料の上で近江牛が煮える。
祖母が喋り出すとやっかいなのはかなり前からで、認知症が出始めてから拍車がかかり、言葉の荒い祖母はいよいよ祖父の人としての尊厳を踏みにじる勢いだったので、見兼ねた母は介護付きの高齢者住宅を見つけて来てそこに祖父を住まわせた。祖母はそれまでふたりで暮らしていた府営住宅に残った。それで祖父母は数ヶ月前から別居している。祖母は目の前から苛立つ要素がなくなり、祖父は3度の食事付きの新築の個室に守られ心安らかに暮らしている。
母は態度には出さないようにしているけれど祖父母に疲労している。温泉に浸かって癒えるような疲労じゃなく心底の疲れが時々表情に垣間見える。けれど旅行に連れて来たかった母の思いを汲んで娘たちは円満な旅行にしてみせる努力をする。
ただ祖母の話しはおもしろいところがあるので、聞き甲斐もあってそういう部分を拡張するようにさらに聞き出す。聞いてられない祖父への罵倒は聞き流す。そしておいしいものを美味しいと言いながらことさら味わって食べた。

宿は普通だけれど温泉は良かった。
やっぱり肌がすべすべする。露天に妹2と浸かりながら、これがほんとに最後の旅行だろうなと話していた。来年の今頃祖父母は生きているような気がする。きっと。でも今より認知症は進んで体は弱っているだろうと想像し、死んでいくことは大変だと口に出してしまって、それを聞いた妹2は、人間も死んでいくときは水分が抜けて枯れて死ぬ、川島なお美の痩せ細って死んでいった姿は自然な治療の末だったという話しをした。妹2は教員をしている。露天のふちに腰掛けていた私と妹2のふとももはまだ水分をたたえて張っている。膝から下の湯に沈んでゆらゆらしているのを見ていた。

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