ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ペギー・グッゲンハイム アートに恋した大富豪

2018-09-08 02:56:48 | は行

 

ぶっ飛んでて、おもしろい女性だったんだなあ!

 

******************************

 

「ペギー・グッゲンハイム アートに恋した大富豪」69点★★★★

 

******************************

 

あの、ジャクソン・ポロックらを見出した、

当代随一の現代美術コレクター、

ペギー・グッゲンハイム(1898~1979)の人生を追うドキュメンタリー。

 

自伝も出してる本人の肉声インタビューと、周辺の人の証言で構成されていて、

まだまだ女性の権利なんて未開な時代に

グイグイ、ずんずん我が道を行った

おもしろい女性だったんだなあ!とびっくりします。

なんたって、13歳のときに、お父さんがタイタニック沈没で亡くなってるんですから!

その”時代”に想いをはせずにいられない。

 

そんなお父さんを持つ、ニューヨークの富裕層に生まれた彼女は

娘時代から一族の厄介者だったらしい(苦笑)

 

でも、彼女は芸術家たちを見出すことで、

歴史にその名を刻んだのです。

 

美を見る目の突出ぶりは疑いもないけど、

その人生はやっぱりトンガっていて

名だたる芸術家たちとすぐに”ヤッてしまう”ことでも有名だったらしい(笑)。

 

 

実際、映画中でインタビューに応える男性たちからも

性差別や、女性への蔑視を感じ取ったりもするんですよ。

 

でも、そんな針のむしろな時代のなかで

 

「なんか、文句ある?」な女傑の生き様が、立ち現れてくる。

 

 

そのしぶとさ、嫌いじゃないやと

プッと笑ってしまうのでした。

 

それにしても

一族、彼女の身内と、あまりの不幸続きなのは気の毒。

これはやはり、富の代償なのだろうか。

 

★9/8(土)からシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。

「ペギー・グッゲンハイム アートに恋した大富豪」公式サイト

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

いのちの深呼吸

2018-09-07 23:43:34 | あ行

 

参加者に「死」を体験させる

自殺志願者へのワークショップ、けっこう目から鱗になった。

 

***************************************

 

「いのちの深呼吸」71点★★★★

 

***************************************

 

岐阜県関市の住職で、自殺防止活動家である

根本一徹氏(46)。

彼のことを『ニューヨーカー誌』の記事で知ったアメリカ人監督が

彼を撮ったドキュメンタリーです。

 

まず、

夜のクラブシーンから始まるイントロに、意表をつかれました。

え?この題材で、クラブ?

いやいや、しかし、その人物像がわかってくると納得。

 

彼はもともと不良で、かなりの夜遊び上等、だったらしいw

そんな彼が、あるきっかけで僧侶になり、

自殺願望を持つ人たちを、助けるようになるんですね。

 

毎日、彼のもとには「もう、死にます」というような、膨大なメールや電話がかかってくる。

住職の仕事をしつつ、それに応える彼は

夜中に岐阜から東京までバイクを飛ばし、その人のもとに駆けつけることもざらだ。

 

 

また

彼が行っている自殺願望を持つ人たちへのワークショップが、実に興味深いんです。

 

彼は参加者たちにまず「大切なもの」を9つ、ポストイットに書かせ、

それを3つずつ、捨てさせる。

そして最後の最後に残ったものを、一番最後に「捨ててください」という。

「すべてを捨てること。それこそが死、なのだ」と、彼は教えるんですね。

 

観ながら自分も、その状況を体験し、

参加者たちの無言の苦しみと、身を切るような葛藤に同調してしまう。

 

そして、思うんです。

「いつ死んでもいいや、なんて思ってたけど、

やっぱり、大切なものを捨てられるかな。死ねるかな」――って。

 

そうやって、彼は多くの人を助けてきたんだなあと。

いまがつらい人、悩んでいる人、いろんな人に、

この感覚、ぜひ観て、感じてほしいなあと思いました。

 

しかし、そうやって全身全霊で人々を助ける彼は、

自身もボロボロになっていく。

 

その様子は見ていて辛いほどだけど、

決して聖人君子ではない彼の成り立ちが、

もがく人々の話に耳を傾け、同じ目線で相手を助ける、スキルの一助になっていることは、間違いないでしょう。

 

彼は、彼にしかできないことをやっているんだろうな。

 

ラナ・ウィルソン監督による、静かで抑制された筆致が

逆に多くを物語っているところも、いいなあと感じました。

 

★9/8(土)からポレポレ東中野で公開。ほか全国順次公開。

「いのちの深呼吸」公式サイト

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ブレス しあわせの呼吸

2018-09-06 23:38:03 | は行

 

これが実話って、いいなあ!

 

「ブレス しあわせの呼吸」70点★★★★

 

***********************************

 

1957年、イギリス。

青年ロビン(アンドリュー・ガーフィールド)は

並み居るライバルを押しのけ、美しいダイアナ(クレア・フォイ)を射止め、結婚する。

 

アフリカ・ケニアで茶葉の買い付け業を始めたロビンは

ダイアナとともに現地で新婚生活を謳歌。

めでたく、ダイアナが懐妊したことがわかる。

 

が、そんな幸せの絶頂で、彼に異変が起こる。

身体が動かなくなり、倒れてしまったのだ。

 

診断結果はポリオ。

 

治療の術もなく、首から下は麻痺したままのロビンは

「余命数ヶ月」と告げられる。

 

人工呼吸器につながれ、

「死にたい」と口にするロビン。

 

そのとき、ダイアナが取った行動とは――?!

 

***********************************

 

「ブリジット・ジョーンズの日記」などで知られるプロデューサー、

ジョナサン・カヴェンディッシュ氏の

ご両親の実話が基。

 

本当にこんなご両親だったんだろうなあ

あったかいなあ、と素直に観ることができました。

 

1950年代に28歳でポリオを患い、首から下が完全に麻痺し、

人工呼吸器につながれ、「余命数ヶ月」と言われた父ロビン。

そのとき、母のお腹にいたジョナサン氏。

 

絶望し、「いっそ殺してくれ!」と言う父が

いかにして、予想を覆すまで生き抜くことができたのか。

 

その理由は

前向きで明るい妻と、サポートする仲間の存在にある。

 

死を待つだけの病院から夫を連れ出し、

「なんとかなるわよ!」と自宅介護を始めちゃう妻。

 

人工呼吸器付きの車椅子を開発し、

彼を移動可能にしてあげる友人。

 

そんな周囲の支えで、

ロビン氏は生きるガッツを取り戻す。

そんなロビン氏のがんばりと、その心の持ちように

観ているこちらが、励まされるんです。

 

なにより

シリアスにしかなり得ないような状況に、

プッと笑いが起こる妙。

 

スペイン旅行に行った彼らに(まあ、行ったこと自体、スゴイけど)

起こったトラブルのエピソード、よかったなあ!

 

さぞかし、この夫婦、ユーモアセンスもマッチしたんだろうなーと

釣られて笑ってしまいました(笑)

 

映画com.さんの映画評にも書かせていただいたのですが、

ワシ、この映画で傑作ドキュメンタリー

「ギフト 僕がきみに残せるもの」(17年)

を思い出した。

 

来日時に取材させていただいた、彼の奥さんが言ってたこと。

「いまの状況に絶望して『もういやだ!』って、ベッドに転がったままじゃどうしようもない。

だから私たちは、『起き上がって、やるしか、ないんじゃない?』っていうのよ」

 

まさに、この夫婦の絆もそんな感じ。

ホント、ガッツもらえました(泣)。

 

★9/7(金)から角川シネマ有楽町ほか全国順次公開。

「ブレス しあわせの呼吸」公式サイト

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

500ページの夢の束

2018-09-05 23:20:22 | か行

 

予想以上におもしろい!

だけど、この邦題、魅力に欠けるよねえ…(苦笑)

 

「500ページの夢の束」71点★★★★

 

*********************************

 

自閉症のウェンディ(ダコタ・ファニング)は

自立支援ホームで暮らしている。

 

ソーシャルワーカーのスコッティ(トニ・コレット)の指導を受けながら

日々を順調にこなし、

シナボンでバイトするまでになった。

 

さらに大好きな「スター・トレック」の脚本コンテストに応募すべく、物語を書いていた。

 

だが、ある出来事から、郵送での〆切りに間に合わなくなってしまう。

 

一度は絶望したものの、諦めきれないウェンディは

〆切りに間に合うように、直接、脚本を持ち込むことに!

 

500ページの大長編を抱えて

彼女の冒険が始まった!

 

*********************************

 

「JUNO/ジュノ」製作者×ダコタ・ファニング主演。

 

ダコタ・ファニング、なんか久しぶりだし!(笑)

しかも主人公が困難を抱えており、支援ホームに暮らしてるとは!と、

けっこう意外で、なかなか惹き込まれました。

 

 

スター・トレックヲタで自閉症、

決まったルール内でのみ平常心を保てる主人公が

 

脚本コンテストに応募するため

オークランドから、ロスにあるパラマウントピクチャーズを目指して、

単身(チワワ付き)、旅に出る。

 

彼女にとっては大冒険。

 

しかも「行く先々でいい人に出会い・・・・・・」なんて安易な予想を裏切り

その道のりはまったく甘くない!

 

ハラハラするけど、その困難さがピリ辛風味となって

いい味を残すんですねえ。

 

最後の最後、スタートレック好きの警官の機転と

交流に笑いました。

 

スターを主演に、この題材。

とっても意味があるし、予想以上にいい映画。

 

邦題がパッとしないのが残念ですが(ごめん!苦笑)。

 

ダマされたと思って観ると

拾いモノだと思います!

 

★9/7(金)から新宿ピカデリーほか、全国で公開。

「500ページの夢の束」公式サイト

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

泣き虫しょったんの奇跡

2018-09-03 22:56:18 | な行

 

これも実話て(驚)。共感できない人、いますかね。

 

「泣き虫しょったんの奇跡」73点★★★★

 

****************************************

 

しょったんこと、瀬川晶司は

小5のとき「プロ棋士」という職業を知る。

 

そして隣家の同級生・鈴木と将棋道場に通い、

工藤(イッセー尾形)の指導を受け、めきめきと上達。

中3で奨励会の試験に合格した。

 

だが、奨励会には掟がある。

26歳の誕生日までに四段になれなければ、退会となってしまうのだ。

 

22歳で三段に昇段したしょったん(松田龍平)は、

なかなか四段に昇段できず、

現実から目をそらすように遊びまわってしまう。

 

そして、ついに26歳のそのときがやってきた――。

 

 

****************************************

 

 

プロ棋士へのタイムリミット「26歳の壁」を破れなかった

実在の棋士・瀬川晶司五段の物語。

 

いや~知りませんでした。驚きました。

しかも神奈川県出身、70年生まれ・・・って、もろ同学年じゃん!

 

 

彼は、プロ棋士の年齢制限「26歳の壁」の

死に匹敵するほどのプレッシャーに勝てず、自分に勝てず、

ちょっと斜に構えて、のろのろ過ごしているうちに、チャンスを逃してしまう。

 

将棋をやめ、就職してから、彼は思う。

「なぜ、あのとき、もっと全力でがんばれなかったんだろう・・・・・・!」

 

この気持ちに共感できない人って、いるんだろうか。いないでしょうよ。

高校受験、大学受験、就職試験、資格試験・・・・・・そのときどきの自分を

いやでも振り返ってしまうと思うですよね。

 

そこに後悔がない人なんて、ほんの一握りでしょう。

 

誰もが羽生名人や藤井七段じゃないんです。

人間は弱い。だからこそ、リターンマッチがあったっていい。

そこから奇跡を起こす、しょったんを応援せずにいられない。

 

演じる松田龍平氏ももちろんいいのですが、

少年時代の描写が分厚いのも効いていて、

 

彼はその人柄や、気持ちの良い将棋の指し方、将棋に向き合う姿勢から、

多くの人に助けられ、支えられ、道を切り開くことができたんだなあと思う。

 

その生き様は、超人や天才が見せてくれる驚きや感動とはまた違う、

清々しい勇気を、観る人に与えてくれると思います。

 

★9/7(金)から全国で公開。

「泣き虫しょったんの奇跡」公式サイト

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする