ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

世界が愛した料理人

2018-09-22 22:33:50 | さ行

 

すきやばし次郎さん、て

ホントに世界のレジェンドなんだなあと。

 

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「世界が愛した料理人」68点★★★☆

 

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スペイン史上最年少の三ツ星シェフ、エネコ・アチャ氏(40)と、

すきやばし次郎の小野二郎氏(92)。

二人の料理人を描くドキュメンタリー。

 

まず、緑豊かな自然のなか、

総ガラス張りのおしゃれレストランを運営する、

エネコ氏の仕事ぶりが紹介される。

 

スペインはバスク地方といえば、独立志向もあったりするほど

独自の料理やワインを持つ場所で

そんな土地の誇りを料理で表現する、若きシェフ、エネコ氏はカッコイイのです。

 

そして、一転。ニッポンはトーキョー、銀座。

ビル地下の小さな寿司店「すきやばし次郎」の小野二郎氏の仕事ぶりが紹介される。

 

この地下の店と

バスク地方の自然のなかのレストラン、

その環境、ロケーションの違いが

まず、めちゃくちゃ強烈(笑)。

 

でも

海外の料理人にとって、日本は本当に「宝庫」のようで

本作も基本はエネコ氏が、リスペクトする日本と次郎さんを訪ねて――という趣旨だと思う。

 

彼らにとって、なぜそこまで日本の料理が魅力的なのか?

その点は、いち日本人として、やっぱり嬉しいし

急逝に驚いたあのロブション氏も登場して、「日本愛」を語ってくれている。

 

なんですが、ドキュメンタリーとしては

対象への正面からのインタビューと、厨房の様子の繰り返しで

ドラマや映画的興奮には欠ける・・・んですよ。

 

それに、やっぱりどのレストランも料亭も

ワシにとっては「生涯、行く機会はないであろう」場所なんだよね。

それを超えても「見て楽しい」とまではちょっといかなかった。

 

いま料理界もファッション界も、一流を追うドキュメンタリー映画がとても多いんですが

自分がそれを手にできるかは別にして

「一流」のすごさを、映画として堪能できればそれはそれで楽しめるんですよ。

でも、そこまでいかないと

「自分には縁のない世界だなー」になってしまう。

 

そのさじ加減の難しさを思うのでありました。

 

それでも
エネコ氏が、バスクの海に沈めている

海中ワインセラーのチャコリには興味津々でしたけどね。

うー、飲んでみたい!!

 

★9/22(土)からYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開。

「世界が愛した料理人」公式サイト

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バッド・ジーニアス 危険な天才たち

2018-09-19 01:28:12 | は行

 

おもしろい!

確かに高校生版「オーシャンズ11」いや、よりハラハラかも。

 

「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」78点★★★★

 

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タイ・バンコク。

 

頭脳明晰でマジメな天才女子高生リン(チュティモン・ジョンジャルーンスックジン)は

貧しい家に生まれたものの

国内有数の進学校に、特待生として転校する。

 

転校初日、リンは天真爛漫なグレース(イッサヤー・ホースワン)と友達になり

彼女に勉強を教えることに。

 

だが、中間テスト当日。まったくダメなグレースを見かねたリンは

古典的なカンニング法で、グレースを助ける。

 

そのテクと天才ぶりが、学内で密かな評判となり

リンはアルバイトとしてより高度なカンニング法を生み出し、

同級生たちを助けることになる。

 

だが、そこには思わぬ落とし穴があった――。

 

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タイの高校生による、国際的な試験でのカンニング事件を描いた

スリリングな犯罪エンタテイメント。

 

中国で実際に起きた、集団不正入試事件をモチーフにしてるそうで

知能犯の天才女子高校生の作戦と、ハラハラの展開に

タイの格差社会の事情がちょっとあざといくらいに絡むんですね。

しかしそのあざとさが、逆に毒となり、いい感じ(笑)

 

 

冒頭、取調室のシーンからはじまる展開&構成にも、かなり仕掛けアリだし、

ラスト28分のカンニングシーンはマジで心臓バクバク!

 

さらに

ヒールなキャラであるヒロインと、

善人キャラなもう一人の天才君の間に、微妙な恋愛感情が――え?しかし?

と、最後まで読めないっす。うまいっす。

 

 

 

もちろん、彼女たちのやってること=カンニングは悪いコトなんですよ。なんですが

ひっつめ髪もキリリと

頭脳で凛と立つ、ヒロインはさながら戦士のようで

ついつい感情移入してしまう。

演じるチュティモン・ジョンジャルーンスックジンは

15歳から9頭身(!)ルックスを生かしてモデルとして世界的に活躍しているのだそう。すげー!

 

それに「カンニング」と一口に言ったって

消しゴムに書いたり、極小の巻物作ったり・・・・・・とか

低次元のレベルではないんですよ(ドキッ、え?やってないすよ??)

 

これだけの苦労をしてやったんだからさ、許してあげようよ、て

つい思ってしまうところが、またクセモノでした(苦笑)

 

★9/22(土)から新宿武蔵野館ほか全国順次公開。

「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」公式サイト

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モアナ 南海の歓喜

2018-09-14 11:52:13 | ま行

 

ドキュメンタリー、という言葉を生んだ作品。

てか、モアナって男の人の名前なのか!(知らなかった!)

 

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「モアナ 南海の歓喜」69点★★★★

 

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ロバート・フラハティと、妻フランシス・フラハティによる

1926年公開のドキュメンタリー映画。

 

この映画の批評文で、初めて

「ドキュメンタリー」という言葉が使われたそうで

 噂では知っていたけれど、観たことはなかったんです。

 

南太平洋のサモア諸島で暮らす青年モアナと家族の暮らしを追ったもので

もともと公開時には音がついておらず、

その後、当時3歳だった彼らの娘モニカ・フラハティが

50年を経て、現地で聴いた記憶を頼りに音や会話、民謡を録音し

両親の映画に音をつけて再公開した――そうな。

 

 

確かに、これは音があったほうが断然いい。

島の唄、風、海の音、鳥の声――

このサウンドがあってこそ、より

自然とともに生きる、島での暮らしに共振できる。

 

内容も成り立ちも

とても興味深い映画、なんですが

 

しかし、プレス資料にあった金子遊さん(映像作家、批評家)の寄稿を読んで衝撃。

実はフラハティ一家がやってきた1925年ごろのサモア諸島はすでに欧米の手が入り、

「未開の地」ではなかったそう。

(このへん、「ゴーギャン タヒチ、楽園への旅」(18年)を思い返して、なーる!と思った)

で、金子氏は

「フラハティー氏は、キャスティングした現地の人々を使って、

昔ながらのサモアを再現して、本作を撮影した、と理解するのが妥当だろう」と書いている。

 

――ってことは

え、これってもともと厳密に"ドキュメンタリー”じゃないの?

いわば再現映像?

 

ドキュメンタリーの言葉のもとになった、と有名なのに・・・・・・!と衝撃を受けたんですが

それはまた

「ドキュメンタリーの定義とはなんぞや」という問題にもなっていき

おもしろいっちゃ、おもしろいんですよね(笑)

 

日本に置き換えてみても

その土地の風習や工芸品の作り方、暮らしぶりは

完全に失われていたものではなく、失われつつあったもの、なのでしょう。

現に、娘モニカがサモアを再訪し、音を録音したのは1975年。

歌も違和感ないし、風の音も波の音も、変わっていないのだと思う。

 

それらをこういうかたちで残したことには、意味があり、貴重だなと感じるのです。

 

★9/15(土)から岩波ホールで公開。ほか全国順次公開。

「モアナ 南海の歓喜」公式サイト

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ホスティル

2018-09-12 23:43:01 | は行

 

わあ、こういうことだったのか・・・・・・!

 

「ホスティル」70点★★★★

 

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近未来。

ある出来事から、わずか2~3千人ほどの人類だけが生き残った地球。

 

夜になると未知のクリーチャーが現れ、人間狩りをするなか

人類は息を潜めて隠れ、生きるしかなかった。

 

そんな世界を生き残った女性ジュリエット(ブリタニー・アッシュワース)は

残った水や食料を探して、荒涼とした砂漠に車を走らせている。

 

だが、彼女の車が横転し

ひとり、荒野に取り残されてしまう。

 

そして夜、彼女は暗闇のなかで

"その"気配を感じた――!!

 

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フランス発。

終末世界で生き残った女性と異形の生物の愛――

宣伝テイストもそういう感じの、本作。

 

で、観ると

まったく異形とのラブなんぞにゆく気配なく(笑)

 

ままある"終末世界”の定型なんですね。

異形の生物(=宇宙人?侵略者?)の存在と、それと敵対する人類――という構図。

 

で、そこに

世界がこうなる前までのヒロインと、

彼女の夫との出会いから、愛を育むまでが挟まる。

 

そっちの話のほうが、なんだかミステリアスでw

終末世界に入るまでの前振りにしては長すぎるし、

う~ん?これは一体?――って思っていると

 

「あいやー!そういうことかいな!」となります。

 

でも、この顛末は

決してガックシ、ではないんです。

 

 

サバイバル・ホラーの定型要素を、

完全に語りの工夫で輝かせている。

 

 

要素は普通でも、物語るその方法の工夫で、

また新しいものが生まれる、という

よきお手本かなと思いました。

 

 

それにしても、意外に知らない単語

ホスティル、ってどういう意味だろう?と調べたら

「敵意のある」だって。なーるほどね。

 

★9/15(土)からシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。

「ホスティル」公式サイト

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顔たち、ところどころ

2018-09-11 12:15:27 | か行

 

思えば、このブログのはじまりは

「アニエスの浜辺」(09年)だったのだ!

 

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「顔たち、ところどころ」79点★★★★

 

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88歳のアニエス・ヴェルダ監督が

33歳の写真家JRと一緒に、フランスの田舎を旅し、

作品を作っていくというロードムービースタイルのドキュメンタリー。

 

 

あゝなぜこんなにも伸びやかに、心が解放されていくのだろう!って思います。

 

アニエス・ヴェルダ監督はヌーヴェルヴァーグの母、とも言われる

女性映画監督の先駆け。

「アニエスの浜辺」もそうなんですが

彼女の映画は、何がいい、と言うのが難しいんだけど

「なにかが、いい」(笑)。

 

いつも気負いなく、観る人を

伸び伸びとした気持ちに解放してくれるんですよね。

 

 

今回は、彼女がJRという若い写真家に出会う。

彼は一般の人のポートレートを撮り、それを巨大に引き延ばして

街の壁などに貼るアーティスト。

 

で、二人はフォト製造機となるJRのオリジナルバスで田舎町に行き、

人々の写真を撮り、その場で巨大に引き伸ばし、村の壁面に貼ることになるんです。

 

まあこの制作過程もおもしろいんですが

そこで出会う人々との会話や、その土地の状況が

監督の目を通して、映画に写る。

 

それはまさに、出会いと笑いの人生讃歌。

小柄な映画作家の目は、

同じ目線で大地に生きる人々の豊かさを切り取り、

それが同時に鳥瞰図のように、世界を、人生を、鳥の目線で広く見渡させる。

 

そういうのを見ていると

「人生はもっともっと豊かでいい!と

ポン、と背中を叩かれたようで

閉塞な毎日から、ヒョイと羽ばたきたくなるような、感じがするんですよ。

 

 

で、旅の相手となるJR。

おばあちゃん子で年上キラーらしい(笑)この青年との掛け合いが、

編集のテンポと相まってリズムよく、楽しいんですよね。

 

家に帰るといる、アニエスの猫も可愛らしいし!

 

そして、映画の終盤に用意されたドキドキ。

監督が、あの偏屈な盟友ゴダールに久々に会いに行く――という展開が待っている。

彼女の緊張が伝わってくる、このクライマックスに、こちらもハラハラなんですが

 

でも、ゴダールのなんたるかを知る彼女、

これは、あのオチのために、用意されたしかけなのかもしれない――

なんてね(笑)。

 

★9/15(土)からシネスイッチ銀座、新宿シネマカリテ、アップリンク渋谷ほか全国順次公開。

「顔たち、ところどころ」公式サイト

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