ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

嘘はフィクサーのはじまり

2018-10-27 22:56:08 | あ行

 

まさに世情にジャストな“忖度”ストーリー。

それがちゃんと批判されるんだから、まともだ!どこかの国と違って。

 

 

「嘘はフィクサーのはじまり」70点★★★★

 

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世界金融の中心地、ニューヨーク。

その一端を、ユダヤ人の上流社会が牛耳っている。

 

ノーマン(リチャード・ギア)はそんな社会で

“フィクサー”として仕事をしている。

 

フィクサーとはいわば、人と人をつなげる仕事。

ノーマンはしょぼくれた風情と低姿勢で、相手に近づき

ちょっとした嘘もつきつつ、投資話を持ちかけては、その利益を少々いただくのだ。

 

ある日、ノーマンはNYにやってきた

イスラエルの若手政治家ミカ(リオル・アシュケナージ)に目をつけ、

彼に接近し、自腹を切って、ある贈り物をする。

 

そして、3年後。

 

なんとミカがイスラエルの首相に就任!

しがないノーマンにも、ようやく潮目がやってきたのか――?!

 

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人脈作りが仕事な男ノーマン(リチャード・ギア)が、

晴れて首相のお友達に。

 

忖度してもらって、いい目を見るけど、そんな状況、長くは続かず――?

という

まさに世情ジャストなストーリー。

 

ただ、ネタは面白いけど、

なかなか辛抱強さを求められるつくりではあるんですよね。

 

監督は1968年にニューヨークに生まれ、6歳でイスラエルに移住し、

イスラエルで映画を撮り続けてきたヨセフ・シダー。

彼のバックグラウンドにもおそらく関係するのであろう

「ニューヨークのイスラエル(ユダヤ人社会)」を

やや「知ってるよね?」的な感覚と、辛辣さを込めて描いているので

 

外部の人間には

主人公リチャード・ギアが何をする人物なのかが、まずわかりにくいし、

それを全く親切におもんばかって描こうとしない。

まあ“忖度ナシ”の作りなんですよね(笑)。

 

で、リチャード・ギア演じる“フィクサー”とは

とにかく人脈を作り、人と人をつなげ、

それで儲けを生み出したりするお仕事なんですね。

 

で、

映画は大きく3幕に分かれていて

1幕めで、主人公ノーマンは、一人のイスラエル人の将来を見込んで「ある投資」をする。

 

2幕めで、なんとその人物が首相になる!

超・アタリ馬券を引いたノーマンは

「首相のお友達」として、優遇されたり、忖度され

さらに人脈を広げ、仕事を広げていく。

 

しかし、当の首相はそのことから収賄容疑にかけられ――?!

 

という。

 

ちょっと複雑な話なのですが

この映画の一番のツボは

嘘八百で世の中を渡っているはずの主人公ノーマンが

決してオラオラやキラキラな男でなく、

しょぼくれて、みじめで、負け感漂いまくりなところ。

 

リチャード・ギア、若いころより

最近、枯れてからがすごくいいんですが

そのなかでも

こんなにしおしおなリチャード・ギアは見たことがない、という感じ。

 

彼自身が語る「ノーマン像」がとてもわかりやすくてよかったので

ここにさわりをご紹介。

「ノーマンは、自分が誰かに何かを提供しなければ、相手にしてもらえないことを知っている。

自分がそういう人間だと知っているのは、悲しいことだ」(プレス資料のインタビューより)

 

――うーん、これを聞くと

あのラストがまた、余韻を持って感じられてくるのでありました。

 

★10/27(土)からシネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開。

「嘘はフィクサーのはじまり」公式サイト

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