11月2日に、『もっとしっかり指して欲しい』という記事を書きました。タイトル戦で2年連続、内容がよくないのはお粗末ではないかという思いからです。さらに、「昨年よりは形勢の揺れの回数は減ったように思えるが、その振幅は大きい」と書きましたが、それについて、yutanpo23さんより「今年より昨年のほうが形勢の揺れの回数が多いことに驚いています。これ以上だったのかと」というコメントを頂いたので、SNSで書いた昨年の日記を振り返ってみます。
【以下は、07年10月の日記です(何回かに分けて書いています)】
まずは見出しをお読みください。
【裏1面】
「まずは石橋」(大見出し)
「いかなる思いに縛られたか」(中見出し)
「疑問手連発の殴り合い」(小見出し)
【裏2面】
「最後は思い入れか」(中の大見出し)
「女流王位の悪手に悪手で返す挑戦者」(小見出し)
「清水に焦り?腰を落とさず攻め急いだか」(小見出し)
「勝つことへの意志の強さが試される」(小見出し)
穏やかじゃない表現ですね。タイトルを決める一局ですから、レベルの高い将棋を求められるのは当然だと思いますが。
本文も
「ともに悪手・疑問手が出て形勢は二転三転した。二人とも早く相手にパンチを当てなきゃと、勝ち急いだ感は否めない。結果、腰を落とせば有利になる順を互いに逃がした」
「清水にとんでもない手が飛び出す。控え室では「投了以上の悪手」という声も上がった。ところがである。石橋も勝ちを意識してか、その手をとがめ切れない。悪手転じて好手―と思いきや、清水もまた間違える…」
いや手厳しいですね。まあ、内容的には対局者にとっても不本意な一局といって良いでしょう。でも、記事を読んでみて、私にはモヤモヤッとしたものが残りました。
で、私なりにこの一局を考えてみることにしました。まず、序盤ですが、後手の石橋女流四段がご機嫌中飛車の出だしから、なかなか態度を決めず工夫を凝らしましたが、矢倉戦に落ち着きました。
しかし、角を3三→4二と移動させたことが響いて、通常の矢倉より一手損になってしまいました。清水女流王位が石橋女流四段の揺さぶりに動ぜず巧みだったとも考えられますが、石橋女流が失敗したと考えるべきでしょう。タイトルを争う一戦としては不満を感じます。清水女流王位の得意の右四間飛車を避けたとの説もありますが、その結果歩損になったとしたら、やはり不満を感じます。
初期値よりポイントを失ったとはいえ、もちろん勝敗が決するほどではありません。清水女流王位の動きに石橋女流四段が反発します。
後手の石橋女流四段が△6四歩と打ち▲同歩△同角と動いた第1図。
△6四歩は突いた歩ではなく打った歩なのがポイント。突いた歩なら歩の交換を果たしたということで角を引く手も考えられるが、打った歩と言うことは、ここで引いてしまっては意味がない。▲6五歩なら角を切りますよという手なのである。
先手の清水女流王位はやってきなさいと▲6五歩。以下△3七角成▲同桂△3六歩▲3八歩(第2図)と進む。
『週刊将棋』には「成否は微妙で、感想戦でも石橋は「どうだったか」。清水は「びっくりした」。清水は、これで悪くなるはずはないと思っただろう」と書かれている。
実際はどうなのだろう?週刊将棋はニュアンス的には後手良しだがはっきり言及していない。
一般的には、角歩対銀桂は銀桂の方が得とされている(と思う)。ちなみに、将棋SNSの私の以前の日記(07年6月6日)で駒の評価値を取り上げていて、それによると、YSSでは990対1090、ボナンザでは723対732、そのときの私の評価値では925対960で、いずれも後手に分があることになる。
本局の場合は、後手玉が4一にいてむき出し、歩切れではない、4筋、6筋にそれぞれ勢力を張っている、などがポイントだが、正直よく分からない。玉が不安定なうえ角を持たれている後手のほうが、指し方が難しいか?
実戦の進行は、2図以下△3一玉▲6四歩△6二飛▲4五桂△同歩▲3五角△4四歩と進む。
実はこの進行も微妙だ。普通に△3七歩成▲同歩の桂を取った場合と本譜とどちらが得か?本譜の場合は3八の歩が飛車の横効きを遮断しているマイナス。後手は4四の銀を4五に引っ張り出されてしまったマイナス。どちらのマイナスが大きいのか微妙。
訂正です。以下の緑色の部分は削除してください。△6四飛と歩を払うと、▲7五角と準王手飛車が掛かります。《携帯で見ると、色が分からないかもしれません。次の一段落分のことです》
また、▲4五桂△同歩▲3五角に少々もったいないが、△4四銀打と張り込んで角が引けば△6四飛と歩を払ってしまう手もありそうだ。しかし、直後に8二や7二に角打ちが生じている。ほんと、よくわからない。
それはさておき、2図以下△3一玉▲6四歩△6二飛▲4五桂△同歩▲3五角△4四歩に問題の▲6三角(第3図)が指された。
「清水にとんでもない手が飛び出す。控え室では「投了以上の悪手」という声も上がった」と週刊将棋で表現された手だ。また「桂取りなので普通に△8二飛車と受けたが、打ったばかりの角に数通りの詰めろがかかってしまい、適当な打開策もない。「うっかりした。大反省」」とも。
この手では、▲6三歩成△同飛▲7二角と指すべきで、清水女流王位なら一目であろう。なぜ、この手を選ばなかったのか?
これは私の推測だが、▲7二角以下△6七飛成▲同金△8六歩▲同銀(▲同歩なら△8七歩)△6六歩▲同金△7四桂が映ったのではないか。無理っぽいが、振りほどくのは意外と難しい。下手をすると4五の銀が5六に出る手も生じてくる。
優勢を意識している女流王位としては、そんな危険を冒さずとも、一旦6四の歩を確保しつつ桂取りも見た▲6三角が馬鹿に良い手に見えたのではないだろうか。
【以下は、07年10月の日記です(何回かに分けて書いています)】
まずは見出しをお読みください。
【裏1面】
「まずは石橋」(大見出し)
「いかなる思いに縛られたか」(中見出し)
「疑問手連発の殴り合い」(小見出し)
【裏2面】
「最後は思い入れか」(中の大見出し)
「女流王位の悪手に悪手で返す挑戦者」(小見出し)
「清水に焦り?腰を落とさず攻め急いだか」(小見出し)
「勝つことへの意志の強さが試される」(小見出し)
穏やかじゃない表現ですね。タイトルを決める一局ですから、レベルの高い将棋を求められるのは当然だと思いますが。
本文も
「ともに悪手・疑問手が出て形勢は二転三転した。二人とも早く相手にパンチを当てなきゃと、勝ち急いだ感は否めない。結果、腰を落とせば有利になる順を互いに逃がした」
「清水にとんでもない手が飛び出す。控え室では「投了以上の悪手」という声も上がった。ところがである。石橋も勝ちを意識してか、その手をとがめ切れない。悪手転じて好手―と思いきや、清水もまた間違える…」
いや手厳しいですね。まあ、内容的には対局者にとっても不本意な一局といって良いでしょう。でも、記事を読んでみて、私にはモヤモヤッとしたものが残りました。
で、私なりにこの一局を考えてみることにしました。まず、序盤ですが、後手の石橋女流四段がご機嫌中飛車の出だしから、なかなか態度を決めず工夫を凝らしましたが、矢倉戦に落ち着きました。
しかし、角を3三→4二と移動させたことが響いて、通常の矢倉より一手損になってしまいました。清水女流王位が石橋女流四段の揺さぶりに動ぜず巧みだったとも考えられますが、石橋女流が失敗したと考えるべきでしょう。タイトルを争う一戦としては不満を感じます。清水女流王位の得意の右四間飛車を避けたとの説もありますが、その結果歩損になったとしたら、やはり不満を感じます。
初期値よりポイントを失ったとはいえ、もちろん勝敗が決するほどではありません。清水女流王位の動きに石橋女流四段が反発します。
後手の石橋女流四段が△6四歩と打ち▲同歩△同角と動いた第1図。
△6四歩は突いた歩ではなく打った歩なのがポイント。突いた歩なら歩の交換を果たしたということで角を引く手も考えられるが、打った歩と言うことは、ここで引いてしまっては意味がない。▲6五歩なら角を切りますよという手なのである。
先手の清水女流王位はやってきなさいと▲6五歩。以下△3七角成▲同桂△3六歩▲3八歩(第2図)と進む。
『週刊将棋』には「成否は微妙で、感想戦でも石橋は「どうだったか」。清水は「びっくりした」。清水は、これで悪くなるはずはないと思っただろう」と書かれている。
実際はどうなのだろう?週刊将棋はニュアンス的には後手良しだがはっきり言及していない。
一般的には、角歩対銀桂は銀桂の方が得とされている(と思う)。ちなみに、将棋SNSの私の以前の日記(07年6月6日)で駒の評価値を取り上げていて、それによると、YSSでは990対1090、ボナンザでは723対732、そのときの私の評価値では925対960で、いずれも後手に分があることになる。
本局の場合は、後手玉が4一にいてむき出し、歩切れではない、4筋、6筋にそれぞれ勢力を張っている、などがポイントだが、正直よく分からない。玉が不安定なうえ角を持たれている後手のほうが、指し方が難しいか?
実戦の進行は、2図以下△3一玉▲6四歩△6二飛▲4五桂△同歩▲3五角△4四歩と進む。
実はこの進行も微妙だ。普通に△3七歩成▲同歩の桂を取った場合と本譜とどちらが得か?本譜の場合は3八の歩が飛車の横効きを遮断しているマイナス。後手は4四の銀を4五に引っ張り出されてしまったマイナス。どちらのマイナスが大きいのか微妙。
訂正です。以下の緑色の部分は削除してください。△6四飛と歩を払うと、▲7五角と準王手飛車が掛かります。《携帯で見ると、色が分からないかもしれません。次の一段落分のことです》
また、▲4五桂△同歩▲3五角に少々もったいないが、△4四銀打と張り込んで角が引けば△6四飛と歩を払ってしまう手もありそうだ。しかし、直後に8二や7二に角打ちが生じている。ほんと、よくわからない。
それはさておき、2図以下△3一玉▲6四歩△6二飛▲4五桂△同歩▲3五角△4四歩に問題の▲6三角(第3図)が指された。
「清水にとんでもない手が飛び出す。控え室では「投了以上の悪手」という声も上がった」と週刊将棋で表現された手だ。また「桂取りなので普通に△8二飛車と受けたが、打ったばかりの角に数通りの詰めろがかかってしまい、適当な打開策もない。「うっかりした。大反省」」とも。
この手では、▲6三歩成△同飛▲7二角と指すべきで、清水女流王位なら一目であろう。なぜ、この手を選ばなかったのか?
これは私の推測だが、▲7二角以下△6七飛成▲同金△8六歩▲同銀(▲同歩なら△8七歩)△6六歩▲同金△7四桂が映ったのではないか。無理っぽいが、振りほどくのは意外と難しい。下手をすると4五の銀が5六に出る手も生じてくる。
優勢を意識している女流王位としては、そんな危険を冒さずとも、一旦6四の歩を確保しつつ桂取りも見た▲6三角が馬鹿に良い手に見えたのではないだろうか。
前回のご丁寧なレス、ありがとうございます。リンク先から昨年の女流王位戦の棋譜を並べて見ました。
並べて見て、「今年も大荒れの将棋ですが、一本筋が通っていているような気がします。不満は不満ですが。」に納得しました。個人的には第4局の51手目▲同桂馬が印象的です。
5局通じても第1局はインパクトがあり、よく石橋さん勝ち切ったな・・という思いです。時間切迫の中の終盤のミスはともかく、時間もしっかり残っているはずの第3図近辺のミスは厳しく書かれても仕方ない気がしました。週刊将棋の書き方は過激とは思いますが^^;
丁寧なレスというより、私には「簡潔にまとめる」という能力が欠如しているようで、ダラダラ長くなってしまうだけなのです。おつき合い頂きありがとうございます。
>個人的には第4局の51手目▲同桂馬が印象的です。
昨年の第四局の▲3七同桂ですよね。桂損が避けられなさそうなので、アマチュア初段以上ならまず指さない手ですね。
何が何でも▲5五銀から中央突破を目指すという妥協を許さない指し手ですが、13手後には角損、しかもと金付きと必敗形に陥ってしまいました。
勝負のプロとしては失格の一手だと思います。ただ、強い意志を示した手で、将棋のプロの一手として評価できます。
しかし、タイトル戦として考えた場合、角損に陥ってしまっては、商品価値を非常に低いものにしてしまった一手だと思います。