まさに劇的だった。
今期の王将リーグが始まる直前(予選勝ち上がり者の三人目を決める佐藤天九段×三浦九段戦が行われる前)に、「最強の王将戦・挑戦者決定リーグ」という記事を書いたが、その最強リーグも一昨日が最終日。
その記事は、リーグのメンバーが如何に最強かを力説するのがメインで挑戦権争いはあまり言及しなかった。何しろ、最強メンバーなので、誰が挑戦者になっても不思議ではない。まあ、そうではあるが、「豊島名人が本命」としていた。
ちなみに、広瀬竜王は「有力候補」、藤井七段は「台風の目」としており、大外れではなかった。(と言っても、“有力”とか“台風の目”とか“挑戦者になっても不思議ではない”とか表現を変えての“保険的予想"ではあるが)
それはともかく、最終局前の状況は、広瀬竜王と藤井七段が4勝1敗でトップ。
このふたりが最終局で対局するので、4勝2敗の豊島名人(7人リーグなので空き番が生じ、最終局の空き番の豊島名人は、一足早く日程を終了していた)と、3勝2敗の羽生九段には挑戦権の目はない。
最年少タイトル挑戦、最年少タイトル獲得の記録更新の期待が掛かる藤井七段が、棋界最高位の広瀬竜王と挑戦権を懸けて最終局で激突する最高の展開。(私としては、最終局が藤井-羽生戦か、羽生と藤井が同率で並び、プレーオフが望ましかったが…)
将棋は意表の相矢倉。先手の藤井七段が▲5六歩を保留しているのがやや異色(第1図)。その後、互いに棒銀模様に進めたが、3、7筋の歩を交換し、互いに4六と6四に角を移動させた(第2図)。“脇システム”風の構えだが、脇システムは歩の交換をせずに角が対峙していたように思うが、矢倉には疎いのでよく分からない。
その後、藤井七段が歩を駆使して馬とと金を作り、主導権を握ったが(第3図)、
そのと金で香を取りに行ったのが方向を誤ってしまったようで、広瀬竜王の猛攻を浴びてしまった。
第5図では、互いの玉の安全度が段違い。その上、時間切迫の藤井七段に対し、広瀬竜王は一時間以上残していたので、広瀬竜王の挑戦権獲得は揺るぎないものと見られていたようだ。
ところが、藤井七段が▲2四歩~▲4一銀以降の揺さぶりに対し、丁寧に応接せずに攻め急いだために怪しげな雰囲気に。
特に、中合いの△7二歩が問題だったようだ。この中合いは▲7二同飛と取れば先手の玉頭を守っている飛車の利きが逸れ、▲7二馬なら飛車の横利きが遮断されるという巧手に見えるが、△4二金打と堅く指した方が良かったようだ。
△7二歩に▲5四銀△4二金▲4三金と肉薄されては、形勢は不明か?
さらに▲4三金に△2二玉とかわしたのも良くなかった(△4三同金と長くなるのを覚悟して指すべきだった)。
玉をかわすと▲4二金と金をタダで取られるが、詰めろではないので先手玉に詰めろ詰めろで迫れば後手勝ちになるはず……しかし、先手玉は意外と耐久力があった。
△6六馬(先に△8七歩成の方が優る)▲7七金△8七歩成▲同玉△8六歩▲同飛成と進み△8五香と進む。
手順に先手の飛車を自陣に引かせ、△8五香が非常に厳しく見え、“後手良し”にさえ思えてしまうが、以下▲6六金△8六香▲7六玉で玉が広くなった。
ただし、△6四歩がしつこくて、素人目には先手玉は危なそうに見える。後手は飛、金2枚、銀、歩2枚と持駒も豊富だ。
ここで藤井七段は▲3一角△1二玉▲3二金と詰めろを掛ける。秒を読まれているが、自玉の詰めなしを読み切っているのだろう(と思った)。
▲3二金以下、△7九飛▲6七玉△6九飛成。……ここが運命の分かれ道だった。
指し手の候補は、▲6八歩と▲5七玉。
どちらも危なそうに見え、大丈夫そうにも思える。ただ、個人的な感覚だが、図の直前、△7九飛の王手に対して▲6七玉とかわしており、さらに△6九飛成の王手に対し、再度(▲5七玉)かわすのは何となく抵抗を感じる(▲5七玉に△5九龍と追いかけられると、“追い詰められた感”が強い)。また、視覚的にも▲5七玉に△5九龍とされた局面は“圧迫感”が強い。私見ではあるが、秒読みならば▲6八歩を選択する人が多いような気がする。
………藤井七段の指し手は▲6八歩だった。
直後の△7六金が詰将棋のような妙手で、頓死となった。
△7六金以下、▲同金△5六金▲7七玉△8七香成▲同玉△8九龍▲8八香△7八銀▲7七玉△8五桂打▲同金△同桂▲7六玉△7七桂成(投了図)▲8五玉(▲7七同玉には△8八龍や△6六金打で詰み)△8八龍▲8六歩△同龍▲同玉△8五香以下詰み。(分岐点図より△7六金▲同金に△5六金では△7八銀の方が簡明)
………《藤井くんでも、頓死するんだ》
王将位挑戦者は広瀬竜王。
今期上半期は対局が少なくて目立たず、現在は竜王戦で豊島名人に3連敗と追い込まれているので、強いイメージはないが、A級順位戦は4勝1敗と挑戦権争いの2番手、将棋日本シリーズも準優勝、棋王戦準決勝進出、今期の成績も16勝7敗と7割弱。かなりの好成績だ。現在最強の渡辺三冠(棋王・王将・棋聖)と抗することのできる数少ない棋士の一人であることには間違いない。
竜王戦は窮地に追い込まれていて、最高位の竜王位として、渡辺三冠との頂上決戦とはいかないかもしれないが、実に面白いタイトル戦になりそうだ。
とは言え、渡辺三冠×藤井七段のタイトル戦が先延ばしになったのは残念。
羽生ファンとしては、最終局で挑戦権争いとは無関係になってしまったのは残念。広瀬、藤井に敗れたのだから仕方がない。できればどちらかには勝ってほしかった。
でも、このメンバーでの4勝2敗の勝ち越しを今後の復活の足掛かりにしたいものだ。
今期の王将リーグが始まる直前(予選勝ち上がり者の三人目を決める佐藤天九段×三浦九段戦が行われる前)に、「最強の王将戦・挑戦者決定リーグ」という記事を書いたが、その最強リーグも一昨日が最終日。
その記事は、リーグのメンバーが如何に最強かを力説するのがメインで挑戦権争いはあまり言及しなかった。何しろ、最強メンバーなので、誰が挑戦者になっても不思議ではない。まあ、そうではあるが、「豊島名人が本命」としていた。
ちなみに、広瀬竜王は「有力候補」、藤井七段は「台風の目」としており、大外れではなかった。(と言っても、“有力”とか“台風の目”とか“挑戦者になっても不思議ではない”とか表現を変えての“保険的予想"ではあるが)
それはともかく、最終局前の状況は、広瀬竜王と藤井七段が4勝1敗でトップ。
このふたりが最終局で対局するので、4勝2敗の豊島名人(7人リーグなので空き番が生じ、最終局の空き番の豊島名人は、一足早く日程を終了していた)と、3勝2敗の羽生九段には挑戦権の目はない。
最年少タイトル挑戦、最年少タイトル獲得の記録更新の期待が掛かる藤井七段が、棋界最高位の広瀬竜王と挑戦権を懸けて最終局で激突する最高の展開。(私としては、最終局が藤井-羽生戦か、羽生と藤井が同率で並び、プレーオフが望ましかったが…)
将棋は意表の相矢倉。先手の藤井七段が▲5六歩を保留しているのがやや異色(第1図)。その後、互いに棒銀模様に進めたが、3、7筋の歩を交換し、互いに4六と6四に角を移動させた(第2図)。“脇システム”風の構えだが、脇システムは歩の交換をせずに角が対峙していたように思うが、矢倉には疎いのでよく分からない。
その後、藤井七段が歩を駆使して馬とと金を作り、主導権を握ったが(第3図)、
そのと金で香を取りに行ったのが方向を誤ってしまったようで、広瀬竜王の猛攻を浴びてしまった。
第5図では、互いの玉の安全度が段違い。その上、時間切迫の藤井七段に対し、広瀬竜王は一時間以上残していたので、広瀬竜王の挑戦権獲得は揺るぎないものと見られていたようだ。
ところが、藤井七段が▲2四歩~▲4一銀以降の揺さぶりに対し、丁寧に応接せずに攻め急いだために怪しげな雰囲気に。
特に、中合いの△7二歩が問題だったようだ。この中合いは▲7二同飛と取れば先手の玉頭を守っている飛車の利きが逸れ、▲7二馬なら飛車の横利きが遮断されるという巧手に見えるが、△4二金打と堅く指した方が良かったようだ。
△7二歩に▲5四銀△4二金▲4三金と肉薄されては、形勢は不明か?
さらに▲4三金に△2二玉とかわしたのも良くなかった(△4三同金と長くなるのを覚悟して指すべきだった)。
玉をかわすと▲4二金と金をタダで取られるが、詰めろではないので先手玉に詰めろ詰めろで迫れば後手勝ちになるはず……しかし、先手玉は意外と耐久力があった。
△6六馬(先に△8七歩成の方が優る)▲7七金△8七歩成▲同玉△8六歩▲同飛成と進み△8五香と進む。
手順に先手の飛車を自陣に引かせ、△8五香が非常に厳しく見え、“後手良し”にさえ思えてしまうが、以下▲6六金△8六香▲7六玉で玉が広くなった。
ただし、△6四歩がしつこくて、素人目には先手玉は危なそうに見える。後手は飛、金2枚、銀、歩2枚と持駒も豊富だ。
ここで藤井七段は▲3一角△1二玉▲3二金と詰めろを掛ける。秒を読まれているが、自玉の詰めなしを読み切っているのだろう(と思った)。
▲3二金以下、△7九飛▲6七玉△6九飛成。……ここが運命の分かれ道だった。
指し手の候補は、▲6八歩と▲5七玉。
どちらも危なそうに見え、大丈夫そうにも思える。ただ、個人的な感覚だが、図の直前、△7九飛の王手に対して▲6七玉とかわしており、さらに△6九飛成の王手に対し、再度(▲5七玉)かわすのは何となく抵抗を感じる(▲5七玉に△5九龍と追いかけられると、“追い詰められた感”が強い)。また、視覚的にも▲5七玉に△5九龍とされた局面は“圧迫感”が強い。私見ではあるが、秒読みならば▲6八歩を選択する人が多いような気がする。
………藤井七段の指し手は▲6八歩だった。
直後の△7六金が詰将棋のような妙手で、頓死となった。
△7六金以下、▲同金△5六金▲7七玉△8七香成▲同玉△8九龍▲8八香△7八銀▲7七玉△8五桂打▲同金△同桂▲7六玉△7七桂成(投了図)▲8五玉(▲7七同玉には△8八龍や△6六金打で詰み)△8八龍▲8六歩△同龍▲同玉△8五香以下詰み。(分岐点図より△7六金▲同金に△5六金では△7八銀の方が簡明)
………《藤井くんでも、頓死するんだ》
王将位挑戦者は広瀬竜王。
今期上半期は対局が少なくて目立たず、現在は竜王戦で豊島名人に3連敗と追い込まれているので、強いイメージはないが、A級順位戦は4勝1敗と挑戦権争いの2番手、将棋日本シリーズも準優勝、棋王戦準決勝進出、今期の成績も16勝7敗と7割弱。かなりの好成績だ。現在最強の渡辺三冠(棋王・王将・棋聖)と抗することのできる数少ない棋士の一人であることには間違いない。
竜王戦は窮地に追い込まれていて、最高位の竜王位として、渡辺三冠との頂上決戦とはいかないかもしれないが、実に面白いタイトル戦になりそうだ。
とは言え、渡辺三冠×藤井七段のタイトル戦が先延ばしになったのは残念。
羽生ファンとしては、最終局で挑戦権争いとは無関係になってしまったのは残念。広瀬、藤井に敗れたのだから仕方がない。できればどちらかには勝ってほしかった。
でも、このメンバーでの4勝2敗の勝ち越しを今後の復活の足掛かりにしたいものだ。
>このメンバーが最強とは思えない。
おっしゃる通り、本当に“最強メンバー”なのかと問われると、「はい」とは言えませんね。
弁明させていただくと、「最強の王将戦・挑戦者決定リーグ」の記事で書いたように、王将リーグには毎回、粒ぞろいのメンバーが揃っていて、その都度、“最強だな”(厳密にいうと最強に近いメンバー)と感じており、今回のメンバーは、その中でも強力だと思ったわけです。
特に、記事を書いた時点で、佐藤天前名人の参入もあり得たものですから。
>第1、20代の実力者がはいっていないもの。少なくとも永瀬2冠は最強メンバーの一人でしょう。
確かに、永瀬二冠がいないと“最強”とは言えませんね。
20代の実力者と言うと、他には、菅井七段、斎藤七段(前王座)、千田七段あたりでしょうか。
確かに三者とも強いですが、菅井、斎藤は失冠しています。
私は菅井七段を低段の頃から注目しており、羽生九段から王位を奪取した時は、恐るべしという強烈なインパクトを受けました。失冠してもすぐひのき舞台に立つと思いましたが、タイトル挑戦もA級昇級も果たしていないのは期待はずれです。将棋にムラがあるというか、雑というか…
千田七段も面白い存在ですが、まだ実績不足ですね。
>そして藤井7段に全く歯が立たない糸谷8段の竜王実績はまぐれかと思いたいぐらいです。
わはは。
確かに、“ていたらく状態”ですね。
ただし、王将リーグ4期連続残留というのは評価できます(今期は陥落しましたが)
あと、最強メンバーに加えるべき存在としては、木村王位ですね。
改めて、最強メンバーを考えるとしたら、渡辺三冠は挑戦を受ける立場で抜くとして、豊島、永瀬、広瀬、木村、羽生、藤井、佐藤天でしょうか。王将リーグの定員は7名ですが、菅井も加えてバトルロイヤルしていただきたいです。
あと、以前、リクエストいただいた豊島論ですが
10月11日に書き始めてはいました。でも、下書きを見てみると(以下の部分)
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「その2」から随分、間が空いてしまいました。
当初の予定では、その3に「豊島名人Part.1」を予定していて、棋聖、王位を連続奪取し、一気に突き抜けた頃を取り上げ、名人奪取とそれ以後の経過を観て、「豊島名人Part.2」を記すつもりでした。で、「棋士雑感 その3」は広瀬竜王を予定していましたが、「その2」から4か月経つうちに、棋界情勢が大きく変化してしまいました………
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で終わっていました。本当に冒頭だけでした(笑)。書きたいのですが、現在、書きたい記事が10ほどあって、どうしようかと、途方に暮れています。
もう少しお待ちください。