英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

藤井四段の29連勝に思う その2「対 増田四段戦①」

2017-07-03 14:37:24 | 将棋
『藤井四段の29連勝に思う その1「要因」』の続きです)
 世間であれだけ騒がれると、それに乗せられないように、連勝風景を横目で“チラ観”するに留めていた。忙しかったこともあるが、天邪鬼なのである。それでも、さすがに記録更新の一局は“ガン観”であった。
 前局・28戦目の澤田六段、本局の増田四段、そして、次局の佐々木五段と難敵が続く。

 増田四段は藤井四段が誕生するまでは最年少棋士(現在、10代棋士は両対局者のみ)。
 独自の棋理による主張を基に、固定概念や形に囚われない。読みが深く、“強い将棋”という印象がある。非公式戦ではあるが、「炎の7番勝負」で対局し、敗れている。本局には期するものがあるようだ。
 昨年度の新人王優勝。通算成績は82勝34敗(勝率0.707)。昨年度成績は34勝16敗(0.680)。本年度成績は8勝3敗(0.727)。


 角換わり腰掛け銀の出だしから、後手の増田四段が角道を止め、角交換を拒否。
 これに対し先手の藤井四段は、3七銀と早繰り銀を選択し、▲3五歩と突っ掛け戦端を開く。
 増田四段の陣立ても独特。「矢倉は戦法としては終わっている」というような発言をしていたらしいが、その言葉通り銀を4三に配し、雁木で迎え撃つ。雁木の定義は割と曖昧で、4三銀・5三銀・3二金・5二金型が基本形だが、5三の銀がいない形でも雁木と呼ばれる。私は、この基本形の雁木に美しさを感じる。居角のままで角も攻撃に参加でき、柔軟かつ破壊力も備えているので、よく採用する。しかし、5三の銀は攻め駒で、場合によっては5二の金も出撃。つまり、戦いが進むにつれどんどん薄くなり、玉も4一に居るため反撃を食らいやすい。
 その上、ゆっくりしていると、薄い2筋を突破されてしまう……………けっこう辛い思い出が多いように思う。

 それはともかく、△6二銀より△5二金右を優先させたのは、先手からの急攻を意識しており(6二銀型は壁形)、第1図は想定した局面と思われる。棋譜中継解説には、先後の違い(先手番で後手の陣形なので端歩を突いた1四歩型、5二金に代えて6二銀となった将棋を経験しているとのこと。
 ▲3五歩△同歩▲4六銀に、△3六歩とすれ違いの手筋で応じる。
 以下▲2六飛△4二角に▲2四歩△同歩▲3五銀と進んだのが第2図。この辺りは他にも指し方があるらしい。例えば△4二角では△4五歩と真っ向から迎え撃つ手も有力だったようだ。

 本譜の△4二角は△8六歩と飛車先の歩や角交換を見た手ではあるが、その先には、先手の早繰銀に対する側面攻撃を目論んでいた。
 第2図以下、△8六歩▲同歩△同角▲同角△同飛▲8七歩に△8五飛と引く(第3図)。

 第3図の△8五飛では、△8二飛や△7六飛なども有力だった。△8五飛は先手の3五の銀取りだが、▲2四銀を促しておいて△2五歩と飛車の横利きで△2五歩と先手の飛車を押さえるのが真の狙い。

 さらに増田四段は、▲3六飛に△2七角と打ち込む。(第4図)

 先手の早繰銀からの攻勢に対し、側面から反撃。手順を尽くしたカウンターだ。
 △2七角は飛車銀両取りだが、▲3九飛(第5図)で一応受かっている。

 第5図、攻め好きな人は、ある攻め筋が頭に浮かぶのではないだろうか?

「その3」に続く
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藤井四段の29連勝に思う その1「要因」

2017-07-03 00:18:47 | 将棋
(“今さら”という気もしますが、ssayさんから圧力がかかり、いえ、後押しされて、書き始めた次第です)

 凄いことになっている。
 もちろん、29連勝、しかも、デビュー以来無敗というのは、とてつもない記録である。
 しかし、それよりも凄いのは、世間のフィーバーぶりだ。対局の日には、一日中、話題に取り上げられ、クリアファイルなどのグッズも瞬く間に完売。将棋教室も希望者が増え、盤駒の売れ行きも激増らしい。かく言う私も、しょっちゅう、「藤井くんって、すごいね」と話し掛けられる。

 藤井四段のグッズを買い求めている映像を見たが、とても将棋に興味があるとは思えない中年女性だった。マスコミが作った社会現象の性質が強く、“熱くなりやすく、冷め易い”世間の風潮を考えると、藤井四段が敗れた後は潮が引くように冷めていく気がしないでもない。
 しかし、今回のフィーバーで、将棋に関心を持たれたことは嬉しいし将棋界にとってもプラスである。また、将棋を始めた人(子ども)も多いようで、未来につながる大きな財産である。


 ところで、デビュー以来の連勝を11に伸ばして、これまでの記録を更新した時、ここまで記録を伸ばすとは全く予想していなかった。(羽生三冠や渡辺竜王のデビュー連勝は「6」)
 もちろん、注目はしていた。詰将棋選手権では、小学6年生の時から3連覇、四段昇段も史上最年少記録。しかも、三段に昇段したのが10月だったため、およそ半年間の足踏みがあっての記録だった。
 それでも、「そのうち負けるだろう」と思っていた。その理由は、三段リーグの13勝5敗という成績。立派な成績と言えるが、傑出した記録ではない。
 とにかく、三段相手に5回も負けているのだ。それが四段以上相手に勝ち続けるなんて考えられない(段位が棋力に比例していないのは、重々承知している)。

 …………どういうことなのだろうか?
 その要因は?(……と、ここまで書いていたら、藤井四段の敗色が色濃くなってきた)

Ⅰ.対局環境
 四段昇段で棋士となり、100%プロという立場で対局に臨める。この精神的充実が好影響を与えている。それに、プロの対局なので、対局環境(スペースなど)も奨励会の時に比べ、格段と良くなった。

Ⅱ.持ち時間
 NHK杯戦など早指しの対局もあるが、多くは奨励会の時より持ち時間が長い。
 詰将棋選手権3連覇のスペックは、持ち時間が短い方がより有利に働くようにも思われるが、読みのスピードだけでなく読みの量や正確さも兼ね備えているので、持ち時間が長い方が実力を安定して発揮できると考える。

Ⅲ.成長
 14歳の頭脳は、まだまだ、発展途上。対局を積み重ね、頭脳をフル回転させることが、脳力アップにつながる。
 精神的にも強くなり、経験値も増え、更に強くなった。(『炎の7番勝負』の経験も大きかった)

Ⅳ.将棋ソフトの活用
 スパーリング的使用をしているとしたら、それにより、基本的棋力(スポーツで言う筋力)がアップ。
 さらに、これまでの概念にとらわれない将棋の指し手や考え方を吸収した。

 定跡の研究や指し手の検証にも役立ち、戦型や局面の整理も容易になった。

Ⅴ.対局相手
 三段陣と公式戦の相手の棋力も検証しなければならない。

 『将棋連盟 棋士別成績一覧』というサイトがある。
 「棋士ランキング」のページを見ると、7月2日現在、
1 佐藤天彦名人 1883
2 豊島将之八段 1865
3 羽生善治三冠 1861
4 稲葉陽八段  1846
5 菅井竜也七段 1836
6 久保利明王将 1834
7 渡辺明竜王  1832
8 斎藤慎太郎七段 1815
9 永瀬拓矢六段 1811
10 糸谷哲郎八段 1796
となっている。
 羽生三冠の最高点は2003点(2014年7月5日、棋聖戦第3局で森内竜王を下し、3-0で防衛を決めた。これより少し前、森内名人を4-0で破り、名人位を奪取している)。ちなみに、2015年度終了時点では1912点(この後、佐藤天八段(当時)に敗れて名人位失冠し、大スランプに陥った。スランプではなく、棋力が衰えたという見方もある)。2016年度終了時点では1851点。

 このランキングには、「奨励会員」「アマ棋士」「女流棋士」も参考資料として算出している。すべての奨励会員(三段とは限らない)を一人の棋士として見なし、公式棋戦での棋士(四段以上)の対局を対象にして、奨励会員のレーティングを算出している。(同様に、アマ棋士、女流棋士のレーティングを算出)
 それによると、奨励会員は1547点で、83位伊奈祐介六段(1550点)と84位の真田圭一八段(1545点)の間に位置している。
 最下位が160位の1264点で、奨励会員より下位に位置する棋士が77人いることになる(48%)。ちなみに、アマ棋士は1400点で137位と138位の間、女流棋士は最下位より89点低い1175点。
 藤井四段の7月2日時点でのレーティングは1694点で34位。1500点からスタートし、194点も増やしている。本日(7月2日)、佐々木勇気五段に敗れ、1700点から6点マイナス。

 では、実際の対局相手を検証してみよう。レーティングは対局当時

1.12月24日 対 加藤九段1236(竜王戦6組)  
2.01月26日 対 豊川七段1436(棋王戦予選)
3.02月09日 対 浦野八段1344(竜王戦6組)
4.02月23日 対 浦野八段1340(NHK杯予選)
5.02月23日 対 北浜八段1661(NHK杯予選)
6.02月23日 対 竹内四段1544(NHK杯予選)
7.03月01日 対 有森七段1417(王将戦1次予選)
8.03月10日 対 大橋四段1555(新人王戦)
9.03月16日 対 所司七段1336(竜王戦6組)
10.03月23日 対 大橋四段1547(棋王戦予選)
11.04月04日 対 小林七段1594(王将戦1次予選)
12.04月13日 対 星野四段1527(竜王戦6組)
13.04月17日 対 千田六段1792(NHK杯1回戦)
14.04月26日 対 平藤七段1503(棋王戦予選)
15.05月01日 対 金井六段1508(竜王戦6組)
16.05月04日 対 横山アマ1442(新人王戦)
17.05月12日 対 西川六段1591(王将戦1次予選)
18.05月18日 対 竹内四段1536(加古川青流戦)
19.05月25日 対 近藤五段1705(竜王戦6組決勝)
20.06月02日 対 澤田六段1773(棋王戦予選決勝)
21.06月07日 対 都成四段1609(チャレンジ杯)
22.06月07日 対 阪口五段1505(チャレンジ杯)
23.06月07日 対 宮本五段1612(チャレンジ杯)
24.06月10日 対 梶浦四段1585(叡王戦予選)
25.06月10日 対 都成四段1608(叡王戦予選)
26.06月15日 対 瀬川五段1571(順位戦C級2組)
27.06月17日 対 藤岡アマ1419(朝日杯1回戦)
28.06月21日 対 澤田六段1762(王将戦1次予選)
29.06月26日 対 増田四段1712(竜王戦決勝トーナメント)

30.07月02日 対 佐々木五段1779(竜王戦決勝トーナメント)

 四段昇段後は、予選の一番下層から始まるので、当然、棋力が低い棋士と当たることが多く、奨励会員より下位の赤字の棋士の割合が多い。最初の12局では、北浜八段がやや手強い程度。
 各棋戦一年単位だが、予選スタートの時期が違うので、今後も予選の下層の対局もあるが、ここ最近は竜王戦予選決勝や決勝トーナメントなど、かなり手強い相手と当たるようになってきている。
 対局相手の内訳は、奨励会員より下位の棋士が29人中14人。極言すると15連勝と言える。
 手強い相手は千田六段、近藤五段、澤田六段(2局)、増田四段ぐらいだった。

 とは言え、29戦全勝。無敗というのは凄い。
 現行の学校は1クラス25人か30人かは分からないが、隣のクラス全員をやっつけてしまったことになる。
 まるで、仮面ライダーがショッカー隊員を次々に叩きのめしているようだ(失礼な例えで申し訳ありません)。


 残念ながら30連勝はならなかったが、長く続いたフィーバーから解放されて良かったような気がする。30年来の連勝記録の更新も出来たことだし。
 敗れた直後、各局の番組で速報テロップが流れたようだ。NHKの選挙速報でもテロップが流れ、その後、選挙速報を中断して、武田アナウンサーが記事を読み上げていた。やはり、社会現象(お祭り騒動)だなあ。

 願わくば、竜王戦以外の対局で敗れて、竜王位挑戦者決定トーナメントは落ち着いた状況で戦わせたかった。
 阿久津八段(1組5位)、久保王将(1組4位)、松尾八段(1組優勝)をなぎ倒して、挑戦者決定三番勝負を羽生三冠と戦うことになったら、無茶苦茶、盛り上がっただろうに……


【参考】羽生善治三冠の22連勝の記録(1992年)
1.04月10日 対 西川慶二六段 竜王戦2組ランキング戦
2.04月14日 対 森下卓六段 全日本プロトーナメント決勝五番勝負
3.04月27日 対 森下卓六段 全日本プロトーナメント決勝五番勝負
4.05月01日 対 児玉孝一六段 王座戦本戦
5.05月29日 対 中村修七段 竜王戦2組ランキング戦
6.06月05日 対 内藤國雄九段 順位戦B級1組
7.06月12日 対 脇謙二七段 天王戦七段戦
8.06月17日 対 青野照市八段 王座戦本戦
9.07月03日 対 大内延介九段 順位戦B級1組
10.07月10日 対 佐藤康光六段 竜王戦2組ランキング戦
11.07月17日 対 桐山清澄九段 王座戦本戦
12.07月28日 対 郷田真隆四段 王将戦2次予選
13.07月31日 対 桐山清澄九段 順位戦B級1組
14.08月01日 対 安恵照剛七段 早指し戦本戦
15.08月03日 対 中原誠名人 竜王戦決勝トーナメント
16.08月13日 対 米長邦雄九段 王座戦挑戦者決定戦
17.08月20日 対 神崎健二五段 王将戦2次予選
18.08月24日 対 村山聖六段 竜王戦決勝トーナメント
19.08月28日 対 富岡英作七段 順位戦B級1組
20.08月30日 対 大山康晴九段 JT将棋日本シリーズ 
21.09月01日 対 福崎文吾王座 王座戦五番勝負
22.09月03日 対 瀬戸博晴五段 全日本プロトーナメント

× 09月05日 対 桐山清澄九段 棋聖戦決勝トーナメント

【その2】「対増田四段戦①」に続く
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