英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

藤井四段の29連勝に思う その3「対 増田四段戦②」

2017-07-06 15:18:53 | 将棋
(『藤井四段の29連勝に思う』 その1「要因」その2「対 増田四段戦①」の続きです)


 図は△2七角に対し3六の飛を3九に引いて、飛車金両取りを受けたところ。
 ここで、角を切って飛車を召し上げる手が見える(△4九角成▲同飛△3八金)。
 いわゆる俗手で、先に角金交換の駒損をするので、金で飛車を取っても、実質は飛車角交換である。しかも、その結果、先手は角と金を手駒に加わることになるので、感触はよくない。
 実際、角を切らずに△2六歩と力を溜め、次に△4九角成▲同飛に△2七歩成を目指した方が良かったという感想がある。

 ただ、ここまでの手の流れ(一旦、角を4二に引いたあと、8六で角交換を果たし、その足で飛車を8五に引いて銀取りで先手を取り角を打ちこむ)からすると、角切りに手が動くところだろう。
 ともあれ、△4九角成▲同飛△3八金▲5九飛△4八金と飛車を詰める。


 第6図、確かに上述の感触の悪さはあるが、飛車を排除することで斬り込んできた2四の銀は後押しを失い、脅威を感じない(5一の玉からも距離がある)。また、先手の持ち駒の2枚の角も有効な使い道がなさそうだ。
 対して、後手は飛車を打ち込めば先手の桂香を拾えそう。それに、いつでも好きな時に飛車を取ることができる。また、8五飛の潜在能力も期待できる(二段目に飛車の利きが通っているときに、△8七飛成が決め手となれば理想)。
 控室では「互角」「意外に先手も指せる」「後手が指せそう」と判断が分かれていたが、総じてやや「後手を持ちたい」棋士が多かったようだ。


 第6図より、▲2二歩△同金を利かして、▲7七桂と飛車取りに跳ねたのが第7図。
 8九に飛車の打たれるマイナスがあるが、プロ的には8九に飛車を打ちこむのはイモ筋らしい。8九は現在8筋にいる飛車が進む場所であるべきというのだ。

 それはともかく、△8二飛に▲6五桂で、第6図よりほぼ1手で8九の桂が6五に跳ねたことになる(8二に引いた飛車が後手玉の守りに働く可能性もあるが)。
 第7図になってみると、▲3一角の手段が生じており、5三の地点の薄みが露わになってきた。
 そこで、△6二銀と薄みをカバーするが、▲7五角と打たれてみると、5三を狙いつつ▲3一角成を見られて、なんだか雲行きがおかしい。
 幸い5三に打ち込むのに適した駒がない(角しかない)ので、▲3一角成を防いで△3二金と寄ったが……再度の▲2二歩!


 △2二同金は▲3一角成とされてしまうし、3二に戻したばかりの金を再び2二に追いやられるのは悔しい。
 そこで、△3三桂と逃げたが、こうなってみると、「2一にと金ができそう」「取り残されそうだった2四の銀が少なくとも桂と交換できる」というプラスの見通しが増えてきた。

 藤井四段は▲3三銀成△同金を決めてから▲1五角を放つ。

 ▲1五角は3三と4八の金の両取り。後手は好きな時に飛車を取れば良いはずだったが、強制的に取らされてしまった感がある。頭の丸い駒しかなかった先手だったが、手順に金を持駒に加えることができた。
 さらに、3三の金取りが残っているので、△3二銀と手を戻さなければならず、手番は藤井四段に。第6図以降、ずっと藤井四段だけが好きな手を指している。さらに▲5三桂打と畳み掛ける。


 打ち込んだ駒が桂なので、一見、緩く思われたが、▲3三角成△同銀▲4一金の詰めろ。
 玉の可動範囲を広げ、角切りに備えて3三の地点をフォローした△4三金上と受けたが、玉の近衛兵として守っていた5二の金が4三に離れていくのは正調とは思えない。
 ▲2一歩成!…△4三金を横目に見ながら、2二の歩が“と金”に昇格。


 第11図。先手は2枚の角と2枚の桂と歩(と金)で後手玉を包囲。角と桂と歩だけでは玉を寄せるのは難しいはずなのだが………しかも、持駒に金を保有している。
 増田四段も≪こんなはずでは……?≫と思っていたのではないだろうか?(感想戦では、△4九角成では△2六歩、最初の▲2二歩に対しては△3三桂、2度目の▲2二歩に対しては△6四歩と指した方がよかったとされた)

 以下、第12図の△6八歩など惑わす手を繰り出すが、藤井四段は正確に指し続け、着実にリードを広げていった。




 この将棋、おそらく中盤では増田四段がリードをしていたはずだ。
 そこからの藤井四段の指し回しが素晴らしく、あれよあれよと思う間に並びかけ、抜き去さってしまった。
 古い話になるが、『ビートたけしのスポーツ大将』のカール君が、挑戦者を抜き去った後、一気に置き去りにしたシーンを思い出してしまった。
 強い!
【終】
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4 コメント

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ひふみん歓喜!「藤井四段は私の継承者」 (Stanley)
2017-07-09 17:00:54
英さん、今日は。

先日のコメント訂正、大変にありがとうございました。(笑)

29連勝目の対局、63手目▲5三桂に、加藤九段がTV解説していましたので、シェアーします。この手で先手「必勝局面」「(この将棋は)藤井四段の圧勝」との解説でした。
https://www.youtube.com/watch?v=e_KLlrSR2Is
正直言いますと ()
2017-07-09 22:08:11
Stanleyさん、こんばんは。

 実は、正直に言います。私は加藤九段のことを良く思っていません。本当に、申し訳ありません。
 中原名人から名人位を奪取した時代から、あまり、良いイメージを持っていませんでした。
 実績は確かに凄いのですが、最近は自分の都合の良い記憶しか残っていないような気がします。
 ちやほやされて、有頂天になっているように思います(マスコミや周囲の棋士も悪い)

 今回、リンクされた映像を拝見しましたが、調子に乗り過ぎではないかと。
 実績はともかく、現在の加藤九段の棋力には大きな疑問符が付く最近の成績です。
 加藤九段のキャラは愛すべきものだと思いますが、加藤九段の思い込みが入ったコメントで、将棋界の気質、しきたり等が世間に局解されてしまうのが悲しいです。

>63手目▲5三桂に、加藤九段がTV解説していましたので、シェアーします。この手で先手「必勝局面」「(この将棋は)藤井四段の圧勝」との解説でした。

 少なくとも「(先手が)必勝局面」ではないと考えます。
 Stanleyさんのコメントに、ほぼ100%否定してしまうレスになってしまい、本当にごめんなさい。

 
 
コンピューターソフトの評価値の推移 (Stanley)
2017-07-10 13:50:44
英さん、コメントありがとうございます。英さんのように反論していただけると、大変面白くなります。感謝!感謝。

私が最も興味があったのは、加藤九段の解説より、ビデオの最初に紹介されていたコンピューターソフトの評価値グラフでした。下のリンクは技巧の棋譜解析のビデオです。Ponanza の棋譜解析のビデオはネットにアップされていません。
https://www.youtube.com/watch?v=TaUPOmzt1xQ

技巧によると、59手目▲1五角で-452で後手有利。△5九金(-559)▲同金(--625)次の△3二銀が悪手で-367となり、63手目▲5三桂打で+230で互角。これは+597アップの好手でした。65手目▲2一歩成で+570それからは、先手有利のままだんだん評価値が上がっていき、91手目▲3八飛で+3465となり投了。ビデオでは投了後、評価値の棒線グラフが出てきます。だいたいTVのビデオで紹介されたグラフと同じような推移となっています。まとめますと、後手が飛車を取ったあたりまでは、後手が有利だったのですが、63手目▲5三桂打で先手が逆転し、あとは藤井四段が押し切ったということになると思います。

なおこのコメントをまとめる前に、ニコ生の谷川九段の解説を興味深く再度視聴しました。加藤九段の解説と比較して、谷川九段の解説はクールというか、全然違います。個人的には谷川先生の解説の方が奥が深いと思いました。ただ谷川先生も、やはり▲5三桂打が「以外に受けにくい」と語られ、以降先手持ちの解説だったという感想です。最後の▲3八飛に「なるほど。辛いですね」との解説でした。まとめでは、「角桂の攻めが見事」「28連勝のなかでも終盤の構想力が卓越していた」とのことでした。

増田四段も最後まで粘ったと思うのですが、藤井四段の終盤力に屈してしまいました。今後両者はライバルとして素晴らしい対局を見せてくれると期待しています。最後にニコ生を見ていない人のために、午後から終局までのビデオのリンクを貼っておきます。英さんの記事の補足参考になればと思いコメントを投稿します。
https://www.youtube.com/watch?v=njHQFlTHnJo
参考になります ()
2017-07-11 00:04:29
Stanleyさん、こんばんは。

 Stanleyさんのシェアの意図は、加藤九段を評価したわけでなく、▲5三桂打周辺の分析だったんですね。Stanleyさんの普段のコメントを考えると、当然そう考えるべきでしたのに……悩んで、損した(笑)

 まず、△3二銀ですが、リアルタイムで観た時、違和感を感じました。3二銀・3三金が逆形で、特に3二の銀の働きが悪いです。
 谷川九段は△3二銀ではなく、△3二歩が第一感だったようですが、検討してみると、4三の地点を開けておく方が、後手玉の耐久力があると補足していました。
 観戦時、私は△3二銀では△2四銀と強く指すべきと思いましたが、冷静に角を引かれると、打った銀がぼけますし、▲2四同角△同金となっても金が遊びそうで、勇気と読みが要ります。
 技巧は△3二銀では攻防の飛車打ちの△3九飛を示していましたね。攻防の手は働きの良い手(駒)ですが、その駒にプレッシャーを掛けられ、態度を決めさせられる危険が伴います。
 △3九飛の場合、▲5六歩で7五の角で飛車取りを見せられると、攻守のどちらかの選択を迫られます(取られる一手分の間隙を抜いて、先手玉を寄せるのが理想ですが)。
 ▲5六歩に△2九飛成と桂を取りつつ先手玉への飛車利きを残しておきたいのですが、▲3三角成の方が一手の価値がありそうなので、△3五飛成と守りを優先しなくてはならないのが辛いです。それでも、一応、6五の桂取りにはなっているので、やはり、△3九飛が最善なのかもしれません。

>59手目▲1五角で-452で後手有利。△5九金(-559)▲同金(--625)次の△3二銀が悪手で-367となり、63手目▲5三桂打で+230で互角。これは+597アップの好手でした。

 技巧の読みが正しいとすると、△3二銀が悪手で、有利度がかなり減りました。でも、まだ、後手有利と技巧は判断しています。
 しかし、▲5三桂打で形勢が逆転したと判断しています。
 もちろん、▲5三桂打は好手だと思います。しかし、将棋というゲームの性質は、逆転の好手は理論上ないと考えられています。(好手でで差を拡げたり、差を縮めたりすることはありますが)
 なので、△3二銀の局面では既に先手が有利だったと考えるべきかもしれません。
 このことは、藤井四段の▲5三桂打は技巧の読みをも上回っていたことになります。
 この▲5三桂打ですが、たぶん、プロ棋士なら一応、候補手として見えると思います。でも、寄せる確信を持てるかは微妙で、▲5三桂打を寄せの中核として寄せを組み立てるのは、難しいように思います。
 ▲5三桂打に対して、増田四段は△4三金上と受けましたが、△2四銀や△4二玉もありそうとのことで、読み切るのは大変(△7一銀と捻った受け方もあるかも)。藤井四段が確信をどのくらい持っていたか、興味があります。
 本局は大記録達成の一局なので、『将棋世界』誌で、両対局者の自戦記で詳しく分析してほしいですね。

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