福井 学の低温研便り

北海道大学 低温科学研究所 微生物生態学分野
大学院:環境科学院 生物圏科学専攻 分子生物学コース

論文を書くと言うこと

2008-02-20 08:40:50 | 大学院時代をどう過ごすか

研究環境と言う観点からすると、北海道大学低温科学研究所は日本の中でもかなり恵まれている(と思う)。

そうであるからこそ、考えてみたいことがある。研究環境が整っていない場所や時代で研究活動をいかに行うか?

発生生物学者の白上謙一氏は、戦前、戦中そして戦後と四半世紀にわたり地方の教員養成系の学部で発生細胞学の研究と生物学の教育に携わり、後に京大動物学教室教授となった方である。その四半世紀の間で培われた研究法(白上謙一著『生物学と方法』河出書房新社、1971)は、今でも新鮮であるし、低温研で研究している私にも刺激的。その書の中で、彼は、「なにを探求すべきか」という自分自身の目的を持つことの重要性を教示している。

さらに、巻末の付録『研究法雑則』は、私の学部生だった頃からの座右の銘としている。少しだけその内容を紹介しよう。

一○五、研究を全部おわってから論文や報告書を書きはじめるよりも、初心者の場合は研究をはじめた日からでも論文を書きはじめることをすすめる。論文を早く書き上げることが目的ではなく、これによって研究の計画が定まり、データの不充分さや不備が早くから検出される可能性がある。

さらに、こんなことも。

一○六、学会に出席せよ。そこで諸君は新しい知見を学び、尊敬すべき多くの先輩、てごわいライバルたちをみつけるだろう。

どんな状況に陥っても、研究をやり遂げる力を身につけて欲しい。


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6 コメント

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>どんな状況に陥っても、研究をやり遂げる力を身... (Yasbee)
2008-02-20 20:37:11
>どんな状況に陥っても、研究をやり遂げる力を身につけて欲しい。

この言葉を忘れないで、
来年度から研究者として、生きていこと思います。
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Yasbeeさま (福井)
2008-02-21 12:17:45
Yasbeeさま

いよいよ、船出ですね。
どんな嵐にあっても、乗り越えてくださいね。
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福井さんへのシンパシー. (みかん坊ちゃん)
2008-02-23 17:12:14
福井さんへのシンパシー.
1,研究を始める時には論文の構想ができている:
これ,当然のことで,私も毎年何回も何回も繰り返し学生達に言います.でも,なぜかできません.私は不思議でしょうがない.想像力がないんだと思います.「想像力」は学者に最も重要な素質で,努力ではいかんともしがたいものだと思います.(中にはちゃんとできる人もいるので世の中はちゃんと動いているのです)
2,学会へ行こう:
私は学部4年のときから自費で国際学会を聞きに行ってました.院にいくと旅費の一部を出してくれてたいへん嬉しかったものです.私には初対面でもすぐにネットワークを作れる能力があったようで,それが後の私の研究とポジション取りにどれほど役にたったか知れません.ポスドクの時も,将来のポジションの不安などまったくありませんでした.若い時の自己投資をケチっていたら,晩年まで井戸から出れないカエルになります.
3,どんな境遇でもできること:
私がH大の助手になったとき,研究室にはガスクロ1台だけでした.ガラス管とレンガの粉でカラム作りから始めました.E大へ移ったときは,机も実験台も電話もありませんでした.空っぽの部屋だけです.古道具屋で自分と学生の机を自費で買い,前任大学から実験台を半分もらってノコギリで切って赤帽トラックで運びました.毎日ゴミ捨て場あさりをしてました.研究なんてフラスコとシャーレがあれば何かでき,論文が書けます.そしたら,グラントを出せます.「何もないからできない」という人は自分ではなにもできない人です.人に頼らずに自分の頭と体で生き抜く術を身につけて欲しいものです.T大や K大でも全然研究できない人もいれば,女子短大でもちゃんと立派な研究をしてる人もいます.研究も教育も場所やお金でないことは明白です.
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みかん坊さんへ (福井)
2008-02-25 05:51:32
みかん坊さんへ

返事が遅れてすみません。また、先日の熱いメールへの返事の一部がこのエントリーです。

みかん坊さんの研究法も新鮮ですし、今の大学院生にとっても座右銘となります。

今度、札幌で伝授をお願いいたします。
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はじめまして、sensと申します。ブログいつも拝見... (sens)
2008-03-01 09:53:52
はじめまして、sensと申します。ブログいつも拝見させていただいておりましたが、この度はじめてコメントさせていただきます。『研究法雑則』、思ってはいてもなかなか実行できずにいる自分にとって良い励みとなりました。また、追記を別の機会にでもご紹介いただければ嬉しいです。
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sensさま (福井)
2008-03-02 08:03:52
sensさま

コメントありがとうございます。

以前紹介した「鈴木メソッド」も参考になります。また、白上氏の研究法雑則は、このほかにも含蓄のある指針が含まれていますので、今度ご紹介いたしましょう。

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