ドバイ免税テニス選手権 ロジャー・フェデラー総括-2


 準々決勝 対 ハゲ・アゲイン ニコライ・ダヴィデンコ(ロシア)

   6-2、6-2

  まず言いたい。フェデラーの公式サイトに掲載されている、フェデラーの試合開始予定時刻は間違ってることが多い。しかも絶対に遅く間違ってる

  去年、そのせいでフェデラーの試合を最初から観られなかったことがあった。以降、フェデラーの公式サイトに対しては「信じません あなたのことは絶対に」を標語とし、大会のネット中継の放映予定時刻のほうを信じることにしている。

  今日の試合だって、フェデラーの公式サイトでは「午後9時」となっていた。が、同じ轍は踏まぬ。ネット中継の放映開始予定時刻である「午後8時30分」のほうが正しいに違いないと思い、日本時間1日午前1時30分(ドバイとの時差は-5時間)に接続してみたら、

  ほーら、やっぱりそうじゃん。もう練習してる。試合は8時40分(日本時間午前1時40分)ごろに始まった。  

  試合は54分で終わった。あっけなかった。鋼鉄というほどじゃなかったけど、鉄フェデラーだった。

  ダヴィデンコはてんで歯が立たなかった。フェデラーが「ギアを上げた」とかいえばカッコいいんだろうが、時間が遅かったので、フェデラーもただ単に早く終わらせたかっただけではないか。

  フェデラーにはこんなときがある。取り付く島がないというか、門前払い的に相手をたたきのめすようなプレーである。強いには違いないんだけど、観ていてあまり気分が良いものではない。あれはどの大会だっけ?去年の対スタニスラス・ワウリンカ戦第3セットでのフェデラーを思い出した。あのときも確か時間が押してたような覚えがある。

  試合は「スパーン!」「バシーン!」「ゲーム、フェデラー」というパターンで超速進行し、あれよあれよという間に終わってしまったので、あんまり記憶に残ってない。けど、フェデラーの後ろ向きバックハンドのボレーがカッコよかった。それと、「ぽちっとな」という感じで、ラケットの先でボールを軽くすくい上げて返していたのが面白かった。

  ところで、実況中継によると、フェデラーの今シーズンの試合数は少ないんだってね。いくつかの大きな大会に出ないので、現在第3位のアンディ・マレーにランキングを抜かれる可能性が高いみたい。それと、フェデラーは背中の故障と闘っているとか言ってたように聞こえた。

  フィギュア・スケートの浅田真央選手を思い出す。浅田選手も、1シーズンという長い時間をかけて、自分のスケーティングを矯正したという。その間のマスコミの報道は私も覚えている。「真央不調」とか「スランプ」とか散々言っていた。

  フェデラーは、今シーズンをランクアップとか優勝数とかではなく、自分のテニスの矯正、修正、強化、そして故障の悪化予防と治療に充当するつもりなんじゃないか。マスコミに何と言われようと、長期的に自分のキャリアの計画を立てているように思える。この人はそもそも、他の選手たちとはいろんな面が違いすぎているから、他の選手たちと同じ基準で計ることはできない気がする。

  また言うけど、フェデラーはシルヴィ・ギエムみたいに、身体が常人とは違う特異な人間だろう。今のうちに、フェデラーを科学的に調べたほうがいいと思う。身体の構造と機能、体質、感覚、脳や神経の機能など。絶対に興味深い結果が出ると思うんだけどな~。


 準決勝 対 トマーシュ・ベルディハ(チェコ)

   6-3、6(8)-7、4-6

  準々決勝とあまりにレベルが違いすぎない?この大会は上から3番目のランクのATP500なのに、準々決勝に残ったのは、ノヴァク・ジョコヴィッチ(1位)、ロジャー・フェデラー(2位)、トマーシュ・ベルディハ(6位)、ファン・マルティン・デル・ポトロ(7位)と、グランド・スラムの準決勝でもおかしくない顔ぶれ。

  フェデラーは負けちゃった。まず最初に負け惜しみを書いとこう。ボロ負けしたわけじゃないからいいんじゃない?プレーの内容は拮抗してて、最後まで接戦だった。試合内容の統計を見てもほとんど差がない。最後はベルディハがパワーで押し切った感じ。

  フェデラーの対ベルディハ作戦もいいと思う。ベルディハの激速ファースト・サーブを打ち返して圧力をかけ、フォールトを誘発すること、ベルディハのセカンド・サーブでポイントを取り、更にサーブ時に圧力をかけること、ラリー戦で打ち勝つこと、ネット・プレーで決めることなど。

  ベルディハはほとんどネットに出ず、出てもネット・プレーではフェデラーにまったく敵わなかった。ベルディハのフェデラー対策はとにかくパワーで押さえ込むことなので、フェデラーにパワー系の技を封じられるともう引き出しがない。フェデラーのこの作戦はかなり功を奏していた。

  第2セットのタイ・ブレークでは、フェデラーにマッチ・ポイントが複数回あった。ここで決められなかったのは残念だけど、1ポイントしか差がなかったのだから仕方がない。また、マッチ・ポイントを握っても逆転されるのは、トップ選手同士の試合ではよくあることである。

  フェデラーのベルディハに対する苦手意識と、ベルディハのフェデラーに対する自信がよく取りざたされる。見ていると、ベルディハの自信は若さ特有の怖いもの知らずのそれ。このような「"恐れ"を知る前のジークフリート」的自信は脆いもので、長続きはしない。

  (追記:しかも、フェデラー限定の自信など自信とはいえない。2日のジョコヴィッチとの決勝戦、ベルディハは完全に萎縮してしまっており、ストレートで敗れた。)

  一方、フェデラーはすでに「"恐れ"を知った後のジークフリート」だから、苦手意識を克服できる真の強さは充分に持っている。

  この試合の主審にはちょっと問題があったようで、フェデラーもベルディハも抗議してた。ともに誤審じゃないかということ。

  まずフェデラーは、ファースト・サーブに対して主審が「レット(ボールがネットをかすめた)」とコールしたことに抗議していた。このコートのネットには、レットを自動で察知するセンサー(ボールがネットに触れると、「ピー」という機械音が鳴る)が設置されていないようで、レットは主審の目視で行なわれている。

  フェデラーはレットではなかった、と抗議していたようだった。もっとも、どちらの言い分が正しいのかは水掛け論で判定不可能。ドバイは金持ち国家なんだから、センサーぐらい設置すればいいのに。

  ベルディハの場合は、あれは誤審の可能性が高いと思う。フェデラーの返球がアウトだったのにインの判定になり、ベルディハは激昂して主審に食ってかかっていた。ホーク・アイ(複数のカメラで撮影した映像から、ボールの着地点をCGで表示するシステム)の画像でもアウトだった。ただしこれも、ホーク・アイの精度そのものにまだ疑問が呈されているのが現状のためか、結局うやむやになった。

  ちなみに、もう一つの準決勝、ジョコヴィッチとデル・ポトロの試合でも一波乱あったようで、あの温厚なデル・ポトロが大荒れだったらしい。もちろん主審は違う人だけれど、デル・ポトロはサーブを打つのが遅すぎるということで警告を受けたか、ペナルティを科されたようで、ブチ切れて主審に猛抗議していた。あと、デル・ポトロがラケットをコートに叩きつけようとして、かろうじて堪えた映像も流れていた。

  つまりは、準決勝に残ったのはみなトップ選手で、もちろんプレーの質も上がり、厳しい試合になる。そうなると、たった1回のファースト・サーブのやり直しやアウトが試合結果を左右しかねない。まして、それが誤審だったらたまったもんではない。そのことをよく分かっているからこそ、選手たちもつい熱くなる、ということなんだろう。

  1回戦の対ジャズィリ戦を観て、これだとフェデラーは2回戦あたりで負けるかもしれないな、と思ったくらいだったから、フェデラーがたった数日で、ここまでプレーの質を上げられたことが驚きだ、というのが正直なところ。  

  負け惜しみの次は、この準決勝、フェデラーが死力を尽くして勝ったとしても、報われないだろうってことである。だって、明日(2日)にもう決勝なんだって。決勝に進んだのはジョコヴィッチ。今のジョコヴィッチには誰も勝てない。たぶん、彼のキャリアで最高潮に達してる状態だから。

  ベルディハに疲弊しきって勝ってジョコヴィッチに負けることと、ベルディハに負けてさっさと次の大会にフォーカスする(ついでにベルディハとジョコヴィッチに共食いをしてもらう)こととを天秤にかけたら、私ならベルディハに負けたほうがまだマシだと考えると思う。

  実際、来週(3月4日)にはもうBNP Paribas Open Indian Wellsが始まる。これはグランドスラムの次に大きいATP1000(マスターズ)に属する大会で、フェデラーは出場予定。こっちで勝つほうがもちろん重要である。

  去年の楽天オープンとパリ・マスターズで漠然と分かったんだけど、トップ選手たちというのは「負け抜け」をやることがある。次に控えているもっと大事な大会(上の例でいうと上海マスターズとツアー・ファイナルズ)に集中するために、今の大会はほどほどに切り上げてしまう、つまり適当なところで負けてしまうのである。

  フェデラーは責任感が強いようで、ランクの低い大会であっても、出場したらちゃんと優勝するか、準決勝くらいまでは勝つ。その大会に出ることは次の大会に差し支えると判断したら、ポイントで損をしても最初から出場しない主義らしい。潔い。でも、目論見が露骨な選手たちもいて、甚だしい場合だと1回戦や2回戦で負けてしまうということをやってのける。

  私はこのことに気づいたとき、正直言って複雑な気分になったし幻滅もした。でも私たち一般人だって、仕事をするときには優先順位をつけて行なうし、真面目にやるときは真面目にやるけれど、時にはほどほどに手を抜きもする。それと同じことなのである。

  フェデラーに話を戻すと、他のトップ選手たちの目標は、とにかく勝ってランキングを上げること、優勝実績を積み重ねることにあるだろう。しかし、フェデラーはそんな目標はとうに達成してしまっている。じゃあ何がフェデラーの次の目標なのかは知らないが、今季を何らかの調整期間にしているのは確かな気がする。いずれまた、フェデラーが優勝カップを持って笑っている姿を見られることだろう。


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