上海マスターズを観に行く-6


  もうネタが古くなっちゃったから、さっさと片づけてしまいます。

  ロジャー・フェデラー対ガエル・モンフィスの試合の次は、ノヴァク・ジョコヴィッチ対ファビオ・フォニーニの試合でした。この日の最終試合はラファエル・ナダル対カルロス・ベロック。

  フェデラーは負けたんだけど、前の記事にも書いたように全然悲しくなかったんですね。もちろん残念ではありましたが。中国人観客のお気楽で明るい雰囲気のおかげです。それよりも、生ジョコヴィッチを観られることでワクワクしていました。

  さて、選手たちの登場です。これからがナイト・セッションということで、演出も派手。

 
  
  「全米オープンとヨーロッパのマスターズ大会の演出を真似してる感」がハンパないです(笑)。あと、客席の入りが見えます。まばらにしかいませんが、これはフェデラーの試合が終わった後、大勢の観客が帰ってしまったからです。このときは確か6時を過ぎていたと思います。

  ジョコヴィッチは、もちろん高身長で体格が良い人のせいもあるでしょうが、妙に大きく目立って見えました。ジョコヴィッチの姿だけがくっきりと浮き出て鮮明に見えるのです。これがトップ選手ならではの「オーラ」、「存在感」というものなんだろうと思いました。

  そして試合開始。最初はワクワクして観ていました。でも、最初の2ゲームが終わった時点で、第1セットが終わったらもう帰ろう、と決めました。理由は、試合がつまんなかったからです。

  第1ゲームと第2ゲームだけで10分もかかりました。特に「緊迫した試合展開」になったわけではありません。ジョコヴィッチもフォニーニもラリー中心のプレー・スタイルで、1ポイントが決まるまでにやたらと時間がかかるんです。

  長々と続くラリーを観ていたら、まるでメトロノームの音を聴いているような感覚になってきて、ひどい疲労と睡魔が襲ってきました。この日は午前5時に家を出て、午前7時に成田に行って、飛行機に3時間ほど乗って、現地時間午後12時頃に上海に着いて、地下鉄にちんたら1時間も乗って市中心に出て、ホテルにチェックインして、そしてタクシーで1時間かけてこの会場に来ました。前夜の睡眠時間は2時間でした。

  フェデラー対モンフィスの試合を観ているときには、興奮していて感じなかった疲労と睡眠不足が、ジョコヴィッチとフォニーニの試合の退屈さをきっかけに一気に出てきたものと思われます。

  おまけに、フォニーニがジョコヴィッチとのラリー戦に持ちこたえていたのは最初の2ゲームだけで、あとはジョコヴィッチが圧倒的優位に立って試合を進めていきました。第3ゲーム以降はさくさくと試合が進行していったのが救いでした。ジョコヴィッチが勝つことは第1セットの序盤でもう分かりました。

  この後のナダル対ベロックの試合も、ベロックのあのプレー(全米オープンでの対フェデラー戦)を思い出すと、ナダルが勝つに決まってます。

  ジョコヴィッチとフォニーニ、ナダルとベロック、全員がベースラインからの強打主体のプレー、試合はやたらと時間のかかるラリー戦、しかも勝敗の結果はもう分かりきってる、こうなると、このまま退屈な試合を夜遅くまで観戦し続けるよりも、さっさとホテルに帰って早く寝たほうがいいです。夜の南京東路をぶらついて、なんかおいしいものも食べたいし。

  なお、ベースラインからの強打主体のラリー戦が悪い、ということではありません。翌日の準々決勝4試合を観て思ったことには、ラリー戦っていうのは、高いレベルの選手同士が行うものでないと見ごたえがないのです。

  第1セットはジョコヴィッチが取って終わりました。そこで私は帰りました。

  会場に着いたときにはダフ屋が群がってきました。会場の門から出たら、今度は白タクが群がってきました。だーかーらー、いかにも違法の白タクです的な超うさんくさい風体で、「どこ行くんだ?」とか小声でボソボソ聞くなっつーの!

  会場がある地域はド郊外(閔行区のド外れ)で、周りには何もありません。道路と街路樹が立派なので、ここはそれなりに開けているのかな、と思ってしまうのですが、中国はまず異様に広い道路と異様に整然とした街路樹を作ってから、それからやっとビルだのマンションだのを建設していきます。そのくせ街路灯は少なく真っ暗で、人通りもほとんどなく、いるのはダフ屋と白タクのオヤジばかりで怖いです。

  それでもなんとか正規のタクシーを拾うことができました。運転手は20~30代の若い人で、タクシー運転手にしては珍しく(ごめんなさい)とても感じの良い人でした。

  いつものように話しかけて、上海マスターズを観てきたんだけど、こんな遠くにあんな立派なテニス・センターがあるのには驚いたとか、フェデラーが負けて残念だとか、チケットはほとんど残ってないか完売のくせに、観客が異様に少ないのは奇妙だとか、ダフ屋や白タクが寄ってきてしつこくて参ったとか、いろいろまくしたてました。

  会場があるような郊外には、正規のタクシーはほとんど寄り付きません(大会期間中、その日の全試合が終了した直後を除く)。市中心を流すほうが、客をしょっちゅう拾えて稼げるわけだから。だから郊外を流しているタクシーは、その地域に居住している運転手が多いようです。

  この日、私が帰るときに拾ったタクシーの運転手も、会場がある閔行区に住んでいるということでした。それだけに、上海マスターズのこともよく知っていました。

  彼はタクシー運転手にしては珍しく(ごめんってば)、ニコニコ笑いながら穏やかな口調で話します。しばらく話していたら、彼は静かだけど少し面白そうな口調になって教えてくれました。

  まずダフ屋について。この運転手も以前に上海マスターズのチケットを購入したものの、仕事の都合で行けなくなったことがあるそうです。チケット販売窓口に行って相談したけど、払い戻しはできなかった。そこで仕方なくダフ屋に売った。なんと、正規価格の3割の値段で買い叩かれたそうです。

  次に、チケットの売れ行きはすごく良いようなのに、観客の入りが極端に少ないことについて。上海マスターズが開催される前月の9月19日は中秋節(十五夜)、開催直前の10月1日は国慶節(建国記念日)でした。この二つの祝日に合わせて、中国では月餅を贈り合う習慣があります。その際、「中身(月餅)だけでは意味がない」(運転手談)ので、金券を添えるんだそうです。

  金券を添えるのは、もっぱら政府関係機関と企業間で行われていることで、上司、上層部、上級幹部、最高幹部、党の有力者、重要な取引先などに対して、贈り先の本人分だけでなく、その家族の分も含めて添えます。

  上海の場合、上海マスターズのチケットの大部分は、贈り物の月餅に添える金券として用いられているようなのです(要はちょっとした賄賂)。もちろん、贈り主が個人的にチケットを購入して贈るのではなく、一般販売分とは別に、おそらくタダか格安の値段で、贈答用として各企業、各機関へまとめて配布されているようです。

  しかし、チケットを贈られた側が、必ずしもテニスに興味があるとは限りません。チケットを贈るのは、あくまで金券を添えて贈り主の気持ちを示す(笑)という意味合いしかなく、贈り先の人々がテニスが好きかどうかは関係ないのです。

  結果どうなるか。チケットを贈られても放置して観に来ない。ダフ屋に二束三文で売っぱらう、でも一般の観客はみな警戒してダフ屋なんぞからチケットは買わない。だから大部分のチケットが無駄になる。一方、一般販売分のチケットは数量が少ない。

  これが、上海マスターズの客の入りが非常に寂しい主な原因らしいです。

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