アリーナ・コジョカル「ドリーム・プロジェクト」Bプロ(7月26日)-2


 『ドン・キホーテ』よりグラン・パ・ド・ドゥ(振付:アレクセイ・ラトマンスキー、原振付:マリウス・プティパ、音楽:レオン・ミンクス)

   ユルギータ・ドロニナ、イサック・エルナンデス

  どのへんがラトマンスキーの新しい振付だったんですか?私には分かりませんでした。ドロニナの美しい長い手足と柔軟な肢体が繰り出す動きがすばらしかったです。それからバランス・キープが長くて安定していました。「無理やり頑張ってます」的なガクガクブルブルや引きつった笑顔がなく、とても自然でした。

  ドロニナの足の甲の形も魅力的でした。三日月みたいに曲がっていてね。だからポワント・ワークがなおさら美しさを増して、うっとりと見とれてしまいました。爪先を床に突き立てるポーズでも、膝から下の脚の線が、弓道の弓のようにしなりながら真っ直ぐ突き立っていて、カッコよかったです。

  エルナンデスも良かったです。片手頭上リフトもしゃちほこ落としもバッチリ決めてました。動きに南米感(グニャグニャした感じ)があまりなく、線のきれいな踊りをします。特に目新しいものではありませんでしたが、回転で凄技をやってました。片足を徐々に下ろしながらゆっくりと静止、みたいなやつです。

  32回転、今日の公演ですでに3回目です。ドロニナは扇を持ったまま、回りながら扇を胸のあたりであおいでました。ちょっと無理してる感じがあったかなー。でもドロニナはほんとに美人で体もきれい。今回の出演者中ではいちばんの美女だと思います。


 「瀕死の白鳥」(振付:ミハイル・フォーキン、音楽:カミーユ・サン=サーンス)

   ヤーナ・サレンコ

  両腕の動きが非常に細緻で、波がきらきらとゆらめくように美しかったです。それにプラスして、この作品で自分なりの何かを表現できるようになったら、もっと良いよね。これからも精進していって下さい。


 『真夏の夜の夢』より「結婚式のパ・ド・ドゥ」(振付:ジョン・ノイマイヤー、音楽:フェリックス・メンデルスゾーン)

   アリーナ・コジョカル、ダヴィッド・チェンツェミエック

  ハーミアとライサンダーの踊りでしょうか?分かりません。コジョカルは頭上にティアラ、白いチュニック・ドレスを着て白い長手袋をはめ、チェンツェミエックは白いタキシード風の上衣にタイツ。

  確かにきれいだけど、ただきれいなだけの振付と踊りという印象でした。ウィーン・フィルのニューイヤー・コンサート用の無難な振付の作品でも、もっと「ノイマイヤー色」があったように思います。ちょっとは面白かったところといえば、二人で左右対称になる動きが多かったことかなあ?二人並んで、各自が両腕で頭上に輪っか作ったりとか。なんかそれしか記憶にないです。


 『レディオとジュリエット』(振付:エドワード・クルグ、音楽:レディオヘッド)

   アリーナ・コジョカル
   ダヴィッド・チェンツェミエック、ロベルト・エナシェ、堀内尚平、オヴィデュー・マテイ・ヤンク
   クリスティアン・プレダ、ルーカス・キャンベル

  上演時間は1時間弱。振付者のエドワード・クルグ(Edward Clug)は、ルーマニア出身のコンテンポラリー・バレエの振付家だそうです。現在はフリーの振付家兼マリボル・バレエ(スロヴェニア)の芸術監督を務めているようです。クルグの履歴は こちら(ウィキペディア) です。この『レディオとジュリエット』で国際的な高い評価を受けたそうです。

  今回、アリーナ・コジョカルとヨハン・コボーの知遇を得て、この作品を日本で上演できたことはとても幸運です。東欧から世界に進出するには、西側で人気のあるダンサーと結びつくことが非常に有効だからです。

  この作品は、もしもジュリエットがロミオの後を追って死ななかったら、という仮定にもとづくストーリーなんだそうです、でも、そうした知識はまったく必要ありません。作品内容やジュリエットの人間像について、プログラムの作品解説にはいろいろと書いてありますが、解説に書いてあることと、実際に展開される踊りとをすり合わせるのはまず無理です。一つのコンテンポラリー・バレエ作品として、前知識なしに観ても全然かまいません。

  今回の公演に一幕物の作品を入れたいという、コジョカル側の要望に沿った上演だったのでしょうが、コジョカルのソロ、もしくはパ・ド・ドゥを一つだけ抜き出して上演したほうがよかったと思います。

  コンテンポラリーで1時間もかかる作品、しかもストーリー性が実質的にない作品というのは、優れた振付家でも作るのに勇気がいるでしょう。この作品にはストーリーがあるそうですが、それは実際に踊られたものからはまったく分かりませんでした。

  コジョカルは白のビスチェに白いショート・パンツ、途中からはボルドーのビスチェに黒いショート・パンツという衣装で、男性陣は黒いジャケットにズボン、ジャケットの下は裸、途中からなぜか白いマスクをはめていました。

  振付は、たぶん全然つまらなかったと思います。ところが、コジョカルはさすがで、このつまらない振付を自身の力で凌駕してしまいました。コジョカルの動きは驚異的なすばらしさでした。コジョカルのソロだけを抜き出して上演すればよかったのに、と思うのはこういう理由からです。

  コジョカルの踊りは、ロボットの動きを3倍速再生したような感じでした。コロッケがやる「ロボット五木ひろし」とそっくりです。

  男性陣の踊りは見ごたえがなく、これで振付がつまらないと感じたわけです(男性陣の能力の問題かもしれませんが)。衣装も良くありませんでした。だぶだぶした黒いジャケットとズボンは、男性ダンサーたちの身体や踊りの線を隠してしまいます。

  この作品は、冒頭と最後でのかなり長い映像の映写(←これがまた超退屈)、間にコジョカルのソロ、男性陣のソロ、コジョカルと男性ダンサーたちとの踊り、男性陣による群舞が交互に展開されていくという構成です。男性陣が踊っている間、コジョカルが早く出てきて踊らないかなあ、とそればかり思っていました。周囲の観客も、後ろのおっさんはぐうぐうと寝息を立て、隣の子どもは椅子の上で落ち着きなく動き、ああ、見る目がないのは私だけじゃないのね、と安心(?)しました。

  「ドリーム・プロジェクト」の3回目があるのなら、こういう作品は勘弁してほしいです。私みたいな凡人俗物にも分かるような作品をお願いします。コジョカルとコボーは去年の6月に英国ロイヤル・バレエ団を退団しましたが、その影響が今回の公演の内容とレベルに如実に反映されてしまったと思います。

  コジョカルは作品を選ぶことをせず、とにかく役に没入しすぎるきらいがあります。それがどんな作品であれ、どんな役であれ、振付もキャラクターも完全に自分のものにしてしまう能力は本当にすばらしいです。でも、やはり「選ぶ眼」は持ってほしいと思います。これからは特に。

  終演後、帰ろうとして、会場でシルヴィ・ギエムとラッセル・マリファントのDVDを販売しているのを見かけました。収録内容はサドラーズ・ウェルズ劇場で上演された"Solo"(ギエム)、"Shift"(マリファント)、"Two"(ギエム)、"Push"(ギエム、マリファント)です。無意識のうちに口直しをしたかったみたいで、つい買ってしまいました。

  "Two"は、映像に収録するのは到底無理じゃないかと思っていましたが、やはり人間の肉眼での見え方と、カメラでの見え方や記録能力は大きく違うようです。"Two"での照明による視覚効果が、ほとんど映っていませんでした。でも"Two"の音楽がカッコよくて私は好きなので、このDVDが出てよかったです。

  
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