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沖縄→東京→竹野と流転する、bozzoの日々。

【谷崎潤一郎】陰翳礼賛

2011-11-01 | BOOKS&MOVIES
西洋人が日本座敷を見てその簡素なのに驚き、ただ灰色の壁があるばかりで何の装飾もないと云う風に感じるのは、
彼らとしてはいかさま尤もであるけれども、それは陰翳の謎を解してないからである。
われわれは、それでなくても太陽の光線の這入りにくい座敷の外側へ、土庇を出したり縁側を附けたりして一層日光を遠のける。
そして室内へは、庭からの反射が障子を透してほの明るく忍び込むようにする。
われわれの座敷の美の要素は、この間接の鈍い光線に他ならない。われわれは、この力のない、わびしい、果敢ない光線が、
しんみり落ち着いて座敷の壁へ沁み込むように、わざと調子の弱い砂壁を塗る。土蔵とか、厨とか、廊下のようなところへ塗るには
照りをつけるが、座敷の壁は殆ど砂壁で、めったに光らせない。
もし光らせたら、その乏しい光線の、柔らかい弱い味が消える。われ等は何処までも、見るからにおぼつかなげな外光が、
黄昏色の壁の面に取り着いて辛くも余命を保っている、あの繊細な明るさを愉しむ。
我等に取ってはこの壁の上の明るさ或いはほのぐらさが何物の装飾にも優るのであり、しみじみと見飽きがしないのである。

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